侮辱されて、婚約破棄で煽りスキル発動!?

八雲

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「……さて。会場の空気も少しは浄化されたようですわね。公爵、いつまで私の腰を掴んでいるのです? あなたの手の熱で、ドレスの生地が変質してしまったらどう責任を取ってくださるのかしら?」


私は、レオナルド王子とシャロン様が逃げ去った出口を見送りながら、隣の「大型犬」に釘を刺しました。
アルスター公爵は、叱られた子犬のような……いえ、獲物を仕留めて褒められた猟犬のような、満足げな顔をして私を見つめています。


「変質したなら、また新しいものを贈るまでだ。次は君の肌をより美しく見せる、南方の真珠を織り込んだ布を選ぼう。……それにしてもナナシー、君の『ゴミを見る目』は今日も冴え渡っていたな」


「褒め言葉として受け取っておきますわ。……あら?」


その時、会場の奥にある重厚な扉が再び開かれました。
今度は逃げ出す者ではなく、この国の頂点に立つ者が現れたのです。


「国王陛下、ならびに王妃殿下のご入来である!」


儀仗兵の号令とともに、威厳に満ちた初老の男性——レオナルド王子の父である国王陛下が歩み寄ってきました。
会場中の貴族たちが一斉に跪きます。
私も、そしてアルスター公爵も、最低限の敬意を持って礼を尽くしました。


「……ブランドン公爵、そしてナナシー嬢。この度は、我が愚息が多大なる非礼を働いたこと、心より詫びる」


国王陛下は、多くの貴族が見守る中で、深々と頭を下げました。
王が臣下に頭を下げる。これは尋常ではない事態です。
しかし、陛下はそれほどまでに、レオナルド王子の仕打ちが国を揺るがす不祥事であると理解しておられたのでしょう。


「陛下。頭をお上げください。……あのおバカ……いえ、殿下の愚行は、今に始まったことではありませんわ。ただ、今回の件で私の貴重な時間が奪われ、精神的苦痛と事務処理の増大を招いたことは、事実でございます」


私は扇子を閉じ、国王に対しても一切怯むことなく、その「責任」を突きつけました。


「……ナナシー、お前は相変わらずだな。レオナルドの横にいた時よりも、ずっと目が輝いている」


「当然ですわ。重しが取れて、視界が良好になりましたもの」


「ふっ……。レオナルド!」


国王が鋭い声を上げると、会場の端で近衛兵に拘束されていたレオナルド王子が、引きずられるようにして連れてこられました。
彼の顔はもはや涙と鼻水でぐちゃぐちゃで、王族の面影など微塵もありません。


「父上! 助けてください、ナナシーが、アルスター公爵が私を……!」


「黙れ! 貴様の言い分は既に調査済みだ。……ナナシー嬢の有能さを利用し、公務を丸投げした挙句、彼女に冤罪を被せて婚約破棄を突きつける。……これほどまでに無能で卑劣な男を、我が国の王太子に据え置くわけにはいかん」


国王の宣言に、会場が凍りついたように静まり返りました。


「レオナルド・フォン・アルカディア。本日この時を以て、貴様の王位継承権を剥奪し、廃嫡とする。今後、貴様は王宮を去り、北方の修道院にて一生、自らの罪を悔い改めよ」


「な、ななな……廃嫡!? 父上、冗談でしょう!? 私がいないと、この国は……!」


「貴様がいない方が、この国は健全に回る。……ナナシー嬢、そしてブランドン公爵。これが私にできる最大限の誠意だ。受け取っていただけるか?」


国王の問いに、私はちらりとアルスター公爵を見ました。
彼は不敵な笑みを浮かべ、私の肩に手を回しました。


「陛下。廃嫡だけでは、ナナシーの『知能への侮辱』に対する代償としては少し物足りませんわね。……ですが、あの方が二度と私の視界に入らないのであれば、一つの区切りとして受け入れて差し上げてもよろしくてよ」


「……ありがとう、ナナシー。君のような才媛を失ったことは、我が王室にとって最大の後悔となるだろう」


「後悔なさる暇があるなら、王子の教育カリキュラムを幼稚園レベルから作り直すことをお勧めしますわ。……あ、それから陛下。シャロン様のご実家の男爵家についても、適切な『教育』をお願いしますわね」


「……心得ている」


国王陛下は苦笑いしながら頷きました。
レオナルド王子は、絶望の叫びを上げながら、今度こそ完全に会場から連れ去られていきました。


「……ふふ。これでようやく、粗大ゴミの処理が終わりましたわね。公爵、喉が渇きましたわ。勝利の美酒を、私のグラスに注いでくださる?」


「ああ。君の冷徹な勝利に、乾杯しよう」


アルスター公爵が、私のグラスに最高級のシャンパンを注ぎました。
私はそれを一気に飲み干し、煌びやかなシャンデリアを見上げました。
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