婚約破棄?望むところですわ!悪役令嬢の爆走?

ハチワレ

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「はっはっは! 今日も実に見事な太陽の輝きだ。まさに僕の門出を祝っているかのようじゃないか!」

王立学院を卒業し、正式に執務を開始した第一王子ジュリアンは、豪華な執務室で優雅にコーヒーを啜っていました。
彼の隣には、ふわふわしたピンク色のドレスを纏ったメアリが、可愛らしく首を傾げて座っています。

「本当ですわ、ジュリアン様。あの冷たいダリア様がいなくなって、ようやく王宮に春が来たみたいですぅ」

「まったくだ。あんな可愛げのない、事務処理機のような女がいなくなって、ようやく僕の真の才能が発揮できるというものさ。メアリ、これからは君が僕の隣で、この国を美しく彩ってくれるんだろう?」

「はいっ! メアリ、頑張っちゃいます!」

二人が甘い空気を醸し出していた、その時でした。

バァァァン!!

と、執務室の扉が壊れんばかりの勢いで開かれました。
飛び込んできたのは、普段は冷静沈着なことで知られる宰相のハミルトン侯爵です。
彼の顔は土気色を通り越して、今にも倒れそうなほど真っ白でした。

「殿下ぁぁ! 遊んでいる場合ではございませんぞ! 例の『魔法騎士団の遠征計画書』はどこにありますか!?」

「なんだい、宰相。そんなに大きな声を出さなくても聞こえているよ。計画書? そんなもの、ダリアの机の中にでも放り込んであるんじゃないのかい?」

ジュリアンは面倒くさそうに手を振りました。
宰相はさらに声を荒らげます。

「それが空っぽなのです! ダリア様が管理されていた重要書類、すべてが彼女の持ち出し、あるいは破棄されているようでして……! まさか殿下、彼女がいなくなっても、実務の引き継ぎすらされていないのですか!?」

「引き継ぎ? 何を馬鹿なことを。あんなもの、僕が本気を出せば数分で終わるような作業ばかりだろう? メアリ、君、ちょっとやってみてくれないか」

「えぇっ? メアリがですかぁ? ……うーん、えいっ!」

メアリは手渡された複雑な予算表をチラリと見ると、ペンを持って可愛らしく「はーと」と書き込みました。

「できましたぁ! 数字がいっぱいあると可愛くないので、全部ピンクのインクで塗り潰してみましたぁ!」

「…………」

宰相の眼鏡が、パキリと音を立てて割れました。

「殿下。……この遠征計画が本日中に提出されなければ、隣国の国境警備が手薄になり、最悪の場合、宣戦布告と見なされる恐れがあります。さらに、来月の戴冠式典の予算案も、ダリア様以外は誰も把握しておりません」

「な……なんだと? あ、あんなもの、適当に金をばら撒けば済む話じゃないか」

「その『金の出所』を細かく管理し、各領主との調整を一手に行っていたのがダリア様なのです! 彼女はただの婚約者ではありませんでした! この王国の『心臓部』だったのですよ!」

宰相の怒号に、ジュリアンはようやく事の重大さを理解し始めました。
彼は慌ててダリアが使っていた古いデスクを漁りましたが、そこには彼女が普段使っていた「毒舌が炸裂するメモ書き」一枚すら残っていませんでした。

「……ま、待て。落ち着け。ダリアがいなくても、僕には優秀な官僚たちが……」

「その官僚たちが、今、全員ストライキを起こしております! 『ダリア様の指示がないと、何を優先すべきかわからない』『あの厳しいチェックがないと怖くて書類が出せない』と、執務室に引きこもって泣いているのですぞ!」

「なんだそれは! 教育がなっとらん!」

ジュリアンは机を叩きましたが、誰も助けには来ません。
そこへ、さらに追い打ちをかけるように財務卿が駆け込んできました。

「殿下! 大変です! アルトハイム公爵家から『婚約破棄による業務委託契約の解除』および『過去十年にわたるダリア様の労働賃金の請求書』が届きました!」

「……賃金? 婚約者が手伝うのは当然だろう!」

「それが、公爵家側は『ダリア様がこなしていた業務は、明らかに王族の義務を超えた専門職の領域である』と主張しておりまして……。その額、なんと国国家予算の一割に相当します!」

「い、一割ぃぃ!?」

ジュリアンの叫び声が、王宮中に響き渡りました。
メアリは「ひぇぇ、数字がいっぱいですぅ」と言いながら、隅っこで震えています。

(ゴミだと思って捨てた婚約者が、実は国を支える純度百パーセントのダイヤモンドだった……?)

そんな考えが、ようやくジュリアンの脳裏を掠めました。
しかし、時すでに遅し。
ダリアはもう、ここから数百キロ離れた雪の地で、新しい「忠実な(?)僕」を手に入れているのですから。

「ど、どうすればいい……。そうだ、ダリアを呼び戻せ! 『今回の件は特別に許してやるから、今すぐ戻ってきて仕事をしろ』と命令するんだ!」

「……殿下、それは不可能です。彼女は現在、あの『氷の死神』アルスター・クロムウェル辺境伯の元に身を寄せております。あそこは王室の直接介入が難しい特別区域……。無理に連れ戻そうとすれば、辺境伯軍が黙っていないでしょうな」

宰相の冷ややかな言葉に、ジュリアンは椅子から転げ落ちました。

一方その頃、北の辺境では。
ダリアがアルスターに「美味しい紅茶の淹れ方」をスパルタ教育しており、王都の混乱など微塵も気にしていないのでした。
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