婚約破棄?望むところですわ!悪役令嬢の爆走?

ハチワレ

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「……皆様、本日もお集まりいただき、誠に遺憾に存じますわ」

クロムウェル城の応接室。私は冷え切った紅茶のカップを置き、目の前に並んだ「頭痛の種」たちを眺めました。

正面には、相変わらず自信だけは一人前のジュリアン王子。
その隣で、しおれた花のように「はわわ」と震えてみせるメアリさん。
そして私の隣には、重装甲の鎧を着ているかのようにガチガチに緊張した、我らが「死神」アルスター様。

「ダリア……。君のその態度はなんだ。僕たちは和解のために、わざわざ貴重な時間を割いてやってきたんだぞ」

ジュリアンが偉そうに足を組みましたが、膝がガクガクと震えているのを私は見逃しません。

「和解? 笑わせないでくださいませ。私にとっては、あなた方の顔を見るのは、期限切れの生魚を直視するのと同じくらい苦行なのですけれど。……それで、メアリさん。私に刺客まで送っておいて、どの面を下げてここへいらしたのかしら?」

私が微笑むと、メアリは顔を覆って泣き真似を始めました。

「ひどいですぅ、お姉様ぁ! メアリ、お姉様に会いたくて、道案内の人を雇っただけですぅ! 暗殺なんて、そんな物騒なこと……メアリの清らかな心が痛みますぅ!」

「…………うそ、だ」

私の後ろに控えていた影が、音もなく一歩前に出ました。
元暗殺者、現・事務員見習いのシドウです。

「メアリ様。あなたは私に『ダリアの首を獲れば、辺境伯を色気で落として、その財産を二人で山分けしよう』と仰いましたよね。ここに契約書……あ、いえ、あなたが書いた『妄想計画書(直筆)』があります」

シドウが懐から、ハートマークが大量に描かれたピンク色の紙を取り出しました。
メアリの顔が、一瞬で土気色に変わります。

「なっ、何よその怪しい男は! 殿下、信じちゃダメですぅ! こんなの偽物ですぅ!」

「…………だまれ、どろぼうねこ」

地響きのような声が部屋を震わせました。
アルスター様が、鋭い眼光でメアリを射抜いています。
実際は「知らない男(シドウ)が部屋にいて緊張する」という顔なのですが、周囲には「不敬な女を今すぐ八つ裂きにしたい殺意」にしか見えません。

「ひ、ひいぃっ……! じゅ、ジュリアン様ぁ!」

「辺境伯! 貴公は王室に対して無礼が過ぎるぞ! ……いいか、ダリア。メアリが多少のミス(暗殺未遂)をしたとしても、それは君への愛ゆえだ。……それよりもだ。王宮の予算が、君が辞めたせいでマイナス三億ゴールドを記録した。これをどうにかしろ!」

「三億? ……ふふ、一ヶ月でそこまで溶かすなんて、ある種の手腕ですわね」

私は扇で口元を隠し、冷ややかに笑いました。

「ジュリアン様。私はもう、あなたの『便利屋』ではありません。ましてや、あなたの浮気相手が作った借金を、私の汗と涙(と毒舌)で稼いだ領地の財産で払うなど、断じてあり得ませんわ」

「な……なら、どうすればいいんだ! このままだと、僕は父上に廃嫡されてしまう!」

「簡単ですわ。……働きなさいな。その無駄に長い脚で領内を走り回り、その無駄に整った顔で人々の苦情を聞き、その無駄に高いプライドを捨てて泥を啜るのです。……私が十年間、あなたの後ろでやってきたようにね」

「そんな、平民のような真似ができるか!」

「なら、廃嫡されて野垂れ死ぬのがお似合いですわ」

私がピシャリと言い放つと、ジュリアンは言葉を失って椅子に沈み込みました。

「お姉様……。メアリ、やっぱり辺境伯様の方がいいですぅ。殿下ってば、最近はお金の話ばかりでちっとも王子様らしくないんですものぉ」

メアリが懲りずにアルスター様へすり寄ろうとしましたが、アルスター様は反射的に私の腰を力一杯抱き寄せました。

「…………だりあは、おれの……。……きさまたち、かえれ。……おれが、はなすと……くびが、とぶぞ」

(……アルスター様、言い方は最悪ですけれど、ナイスサポートですわ!)

「聞こえましたかしら? 私たちの主(あるじ)は、非常に気が短いのです。……さあ、シドウさん。この『ゴミ』たちを城門の外までご案内して。……あ、メアリさんのドレス、途中の泥沼に落としても構いませんわよ。お掃除の練習になりますもの」

「ははっ! 喜んで!」

シドウが不気味な笑みを浮かべて二人の背後に立ちました。
「ぎゃああ!」「離せぇ!」という悲鳴と共に、部屋から汚物が、いえ、招かれざる客が消えていきました。

静まり返った室内。
アルスター様はようやく腕の力を緩めましたが、私の腰から手を離そうとはしませんでした。

「…………だりあ。……おれ、ちゃんと言えたか」

「ええ。……特に『首が飛ぶぞ』のところ、説得力がありすぎて私が惚れ直すところでしたわ」

「………………うむ。……おれ、だりあを守るためなら、おうじもきる」

「ダメですわよ、処刑台の掃除が面倒ですもの。……さて、アルスター様。お邪魔虫がいなくなったところで、中断していた『新しい牛舎の建設費』の精査を続けましょうか」

「………………はい、おじょうさま」

私はアルスター様の大きな手に自分の手を重ね、新しい書類へとペンを走らせました。
毒を吐き、悪役を演じ、そして自分を愛してくれる「死神」を育てる。
私の新生活は、王都のバラ園より一億倍、刺激的で美しいのでした。
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