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王都、王立宮殿の謁見の間。
そこには、重苦しい沈黙と、吐き気をもよおすような絶望が漂っていました。
「……アルトハイム公爵。……この度は、愚息が多大なる迷惑をかけた。……謝罪の言葉もない」
玉座に座る国王陛下は、数日で十歳は老け込んだような顔で力なく語りかけました。
その目の前には、完璧な礼装に身を包み、氷のような無表情で立つ私の父、アルトハイム公爵の姿があります。
「陛下。……謝罪などは、紙屑ほどの役にも立ちませぬ。……我が娘、ダリアは十年にわたり、第一王子の影として、この国の事務、外交、財政の綻びをすべて縫い合わせて参りました。……それを『婚約破棄』という形で踏みにじったのは、王家の方々です」
父の声は静かでしたが、それが逆に宮殿の壁を震わせるほどの威圧感を持っていました。
「……ジュリアンは廃嫡し、北の鉱山での強制労働を命じた。……メアリ男爵令嬢も、家財をすべて没収した上で修道院送りだ。……これで、納得はしてくれぬか?」
「納得? ……いいえ、まだ足りませぬな。……ここに、ダリアが残していった『最終報告書』がございます」
父が懐から取り出したのは、厚さ五センチはあろうかという膨大な書類の束でした。
国王が恐る恐るそれを手に取ると、そこには驚愕の事実が記されていました。
「……これは、何だ? ……王宮の魔法障壁の維持、騎士団の糧食供給ルートの確保、果ては隣国との極秘の関税交渉……。……これらすべてを、ダリア一人が『私的な手伝い』としてこなしていたというのか!?」
「左様です。……それらすべての業務委託費を、相場で換算した請求書がこちらになります。……あ、お支払いは金貨でも構いませんが、公爵領の完全なる『独立自治権』でも代えさせていただきますわ」
父が冷酷に告げた金額は、王室の貯蓄を三回ほど空にしなければ払えない額でした。
国王はガタガタと震え、ついにペンを握る力も失いました。
「……ま、待て。公爵領が独立するなど……。そうなれば、この国の物流は止まってしまう!」
「止まればよろしいのでは? ……娘をゴミのように捨てた国がどうなろうと、私には関係ございません。……私はこれから、娘のいる北の辺境へ向かいます。……彼女が『死神』と幸せに暮らしているという報告を受けておりますのでな」
父は最後の一瞥を国王に投げると、踵を返しました。
「……さらばです、陛下。……事務能力のない王家が、いつまでその玉座に座っていられるか……見物ですな」
父が謁見の間を去る背中には、一切の迷いはありませんでした。
公爵家の「絶縁状」。それは、長年この国を支えてきた真の知性が、無能な権力を見捨てた瞬間でした。
一方、その頃。北の辺境伯城。
「……あら、お父様からお手紙ですわ。……『王宮を破産させてきたから、近いうちに遊びに行く。スペアリブを用意しておけ』……だそうですわよ、アルスター様」
私は窓辺で手紙を読み上げ、クスクスと笑いました。
「…………こうしゃく、閣下が……くるのか?」
アルスター様が、まるで巨大な天災でも予見したかのように、ガタガタと震え始めました。
どうやら彼にとって、王子の軍勢よりも、私の父(ラスボス)の方が恐ろしいようです。
「ご安心なさいな。お父様は『娘に毒を吐く自由を与えてくれた男』に興味があるだけですわ。……不器用なあなたを見れば、きっと気に入ってくださいますわよ」
「…………だりあの、ちちは……こわい。……おれ、また、なにも……しゃべれなく、なる」
「ふふ、私が隣で翻訳して差し上げますってば。……『俺、娘さんを愛しています』くらいは、ご自分で言えるように練習しておいてくださいませ?」
「…………っ!!」
アルスター様は顔を真っ赤にして、逃げるように執務室の奥へと引っ込んでしまいました。
その背中を見送りながら、私は深呼吸をしました。
王都のゴタゴタは、これですべて片付きました。
王室は財政破綻し、王子は消え、公爵家は自由を手に入れた。
そして私は、冷たい雪に包まれたこの温かな城で、最高に不器用な愛を手に入れたのです。
「……さて。お父様が来る前に、新しい客間の予算案を完成させなくては。……ボリス、新しいペンを持ってきてちょうだい!」
私のリベンジロードは、いつの間にか、幸せな家族計画へと繋がっていたのでした。
そこには、重苦しい沈黙と、吐き気をもよおすような絶望が漂っていました。
「……アルトハイム公爵。……この度は、愚息が多大なる迷惑をかけた。……謝罪の言葉もない」
玉座に座る国王陛下は、数日で十歳は老け込んだような顔で力なく語りかけました。
その目の前には、完璧な礼装に身を包み、氷のような無表情で立つ私の父、アルトハイム公爵の姿があります。
「陛下。……謝罪などは、紙屑ほどの役にも立ちませぬ。……我が娘、ダリアは十年にわたり、第一王子の影として、この国の事務、外交、財政の綻びをすべて縫い合わせて参りました。……それを『婚約破棄』という形で踏みにじったのは、王家の方々です」
父の声は静かでしたが、それが逆に宮殿の壁を震わせるほどの威圧感を持っていました。
「……ジュリアンは廃嫡し、北の鉱山での強制労働を命じた。……メアリ男爵令嬢も、家財をすべて没収した上で修道院送りだ。……これで、納得はしてくれぬか?」
「納得? ……いいえ、まだ足りませぬな。……ここに、ダリアが残していった『最終報告書』がございます」
父が懐から取り出したのは、厚さ五センチはあろうかという膨大な書類の束でした。
国王が恐る恐るそれを手に取ると、そこには驚愕の事実が記されていました。
「……これは、何だ? ……王宮の魔法障壁の維持、騎士団の糧食供給ルートの確保、果ては隣国との極秘の関税交渉……。……これらすべてを、ダリア一人が『私的な手伝い』としてこなしていたというのか!?」
「左様です。……それらすべての業務委託費を、相場で換算した請求書がこちらになります。……あ、お支払いは金貨でも構いませんが、公爵領の完全なる『独立自治権』でも代えさせていただきますわ」
父が冷酷に告げた金額は、王室の貯蓄を三回ほど空にしなければ払えない額でした。
国王はガタガタと震え、ついにペンを握る力も失いました。
「……ま、待て。公爵領が独立するなど……。そうなれば、この国の物流は止まってしまう!」
「止まればよろしいのでは? ……娘をゴミのように捨てた国がどうなろうと、私には関係ございません。……私はこれから、娘のいる北の辺境へ向かいます。……彼女が『死神』と幸せに暮らしているという報告を受けておりますのでな」
父は最後の一瞥を国王に投げると、踵を返しました。
「……さらばです、陛下。……事務能力のない王家が、いつまでその玉座に座っていられるか……見物ですな」
父が謁見の間を去る背中には、一切の迷いはありませんでした。
公爵家の「絶縁状」。それは、長年この国を支えてきた真の知性が、無能な権力を見捨てた瞬間でした。
一方、その頃。北の辺境伯城。
「……あら、お父様からお手紙ですわ。……『王宮を破産させてきたから、近いうちに遊びに行く。スペアリブを用意しておけ』……だそうですわよ、アルスター様」
私は窓辺で手紙を読み上げ、クスクスと笑いました。
「…………こうしゃく、閣下が……くるのか?」
アルスター様が、まるで巨大な天災でも予見したかのように、ガタガタと震え始めました。
どうやら彼にとって、王子の軍勢よりも、私の父(ラスボス)の方が恐ろしいようです。
「ご安心なさいな。お父様は『娘に毒を吐く自由を与えてくれた男』に興味があるだけですわ。……不器用なあなたを見れば、きっと気に入ってくださいますわよ」
「…………だりあの、ちちは……こわい。……おれ、また、なにも……しゃべれなく、なる」
「ふふ、私が隣で翻訳して差し上げますってば。……『俺、娘さんを愛しています』くらいは、ご自分で言えるように練習しておいてくださいませ?」
「…………っ!!」
アルスター様は顔を真っ赤にして、逃げるように執務室の奥へと引っ込んでしまいました。
その背中を見送りながら、私は深呼吸をしました。
王都のゴタゴタは、これですべて片付きました。
王室は財政破綻し、王子は消え、公爵家は自由を手に入れた。
そして私は、冷たい雪に包まれたこの温かな城で、最高に不器用な愛を手に入れたのです。
「……さて。お父様が来る前に、新しい客間の予算案を完成させなくては。……ボリス、新しいペンを持ってきてちょうだい!」
私のリベンジロードは、いつの間にか、幸せな家族計画へと繋がっていたのでした。
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