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「……重い。……このツルハシという鉄の塊、どうしてこんなに重いんだ! 誰か、僕の代わりにこれを振るえ! 王命だぞ!」
北の果て、極寒の鉱山。かつての第一王子ジュリアンは、泥にまみれた作業着姿で叫んでいました。
しかし、周囲にいるのは彼を敬う騎士ではなく、彼に予算を削られた恨みを持つ屈強な看守たちだけです。
「おい、囚人四番。無駄口を叩く暇があるなら手を動かせ。今日のノルマが終わらなければ、夕食はパンの耳だけだぞ」
「パンの耳だと!? この僕を誰だと思っている! ……あ、痛い! マメが潰れた! ダリアぁ、早く来て僕の手当てを……ひぎゃああ!」
看守の容赦ない鞭(の音)に、王子は情けなく飛び上がりました。
一方、王都から遠く離れた修道院では、メアリがシーツ洗いに精を出していました。
「ひどいですぅ……。石鹸が安物すぎて、メアリの真っ白なお肌がガサガサになっちゃいますぅ……。せめて保湿クリームだけでも差し入れてくださいなぁ……!」
「黙って洗いなさい、泥棒猫。ここでは祈りと労働こそがすべて。……あ、そのシーツ、洗い直しね」
「そんなぁぁぁ!」
かつての「真実の愛」の主役たちは、こうして着実に社会の厳しさを学んでいる最中でした。
そんな喜劇的な報告書を読み終え、私は執務室で優雅に肩をすくめました。
「お掃除」が完璧に終わった後の爽快感は、何物にも代えがたいですわね。
しかし、私の平穏を破るように、城の地下から地響きのような音が聞こえてきました。
……いいえ、地響きではありません。豪華な馬車が、物凄い速度で城門をくぐった音です。
「お、お嬢様! 旦那様ぁぁ! 『真打ち』の登場でございますぞ!」
ボリスが、これまでにないほど正装をビシッと決めて、震えながら叫びました。
ついに来ましたわね。
私が広間へ降りていくと、そこには漆黒のコートを羽織り、周囲の空気を物理的に押し潰すような威圧感を放つ男が立っていました。
我が父、アルトハイム公爵閣下です。
「…………っ!!」
私の隣で、アルスター様が今までに見たことがないほど直立不動になり、顔面を蒼白にさせて固まっていました。
「氷の死神」が、完全に「蛇に睨まれた蛙」……いえ、「猛獣に狙われた仔犬」になっています。
「……ダリア。久しぶりだな。……辺境の空気は、王都の腐った匂いよりは幾分マシなようだが……この男が、お前の言っていた『死神』か?」
父の鋭い眼光が、アルスター様を射抜きました。
アルスター様はガタガタと震え、消え入りそうな声で口を開きました。
「…………あ、あるすたー……・くろむ、うぇる……で、あります……。……むすめ、さんを……その……」
「………………」
父は無言のまま、アルスター様を上から下まで、さらには魂の奥底まで覗き込むように凝視しました。
沈黙が、重い。
ボリスはすでに、あまりのプレッシャーに耐えきれず、隅っこで祈りを捧げています。
「……父上。あまりアルスター様をいじめないでくださる? あの方、こう見えて非常に繊細なんですのよ。今にも気絶してしまいそうですわ」
「黙っていろ、ダリア。……男の価値を見定めるのは、父親の仕事だ。……おい、辺境伯。貴様、私の娘を幸せにする自信はあるのか?」
「………………!」
アルスター様は、一瞬だけ恐怖に目を泳がせましたが、すぐに何かを決意したように、私の前に一歩踏み出しました。
「…………おれは、しゃべるのが……にがてだ。……うまく、いえない。……でも……だりあの、どくぜつなら……いっしょう、きいていられる」
「……ほう?」
「…………だりあを、かなしませる……奴がいたら、おれが……せかいじゅうを、てきにまわして……きる。……だから、おねがいだ……だりあを、おれに……」
アルスター様は、膝をついて父に深々と頭を下げました。
その誠実すぎる(そして少しズレた)訴えに、父はしばらく沈黙を守っていましたが……。
「……ふん。口の減らない娘に、これほど黙って尽くしそうな男は、世界中探しても貴様くらいだろうな」
父はフッと、冷徹な笑みを崩しました。
「よかろう。……合格だ。……ただし、娘が一度でも『退屈だ』と言い出したら、その時は私が貴様の領地ごと王都の藻屑にしてやるから覚悟しておけ」
「………………っ。……はい、おじょうさまの、おとうさま!」
「お父様でいいわよ、アルスター様」
私が笑いながら肩を叩くと、アルスター様はようやく安堵のあまり、その場に崩れ落ちました。
「……さて。対面も終わったことですし、お父様。アルスター様が丹精込めて育てた(実は私が指示した)最高級の羊肉を召し上がれ。……お話は、それからにしましょうか」
こうして、私の自由と愛は、最強のバックアップを得て盤石なものとなったのでした。
北の果て、極寒の鉱山。かつての第一王子ジュリアンは、泥にまみれた作業着姿で叫んでいました。
しかし、周囲にいるのは彼を敬う騎士ではなく、彼に予算を削られた恨みを持つ屈強な看守たちだけです。
「おい、囚人四番。無駄口を叩く暇があるなら手を動かせ。今日のノルマが終わらなければ、夕食はパンの耳だけだぞ」
「パンの耳だと!? この僕を誰だと思っている! ……あ、痛い! マメが潰れた! ダリアぁ、早く来て僕の手当てを……ひぎゃああ!」
看守の容赦ない鞭(の音)に、王子は情けなく飛び上がりました。
一方、王都から遠く離れた修道院では、メアリがシーツ洗いに精を出していました。
「ひどいですぅ……。石鹸が安物すぎて、メアリの真っ白なお肌がガサガサになっちゃいますぅ……。せめて保湿クリームだけでも差し入れてくださいなぁ……!」
「黙って洗いなさい、泥棒猫。ここでは祈りと労働こそがすべて。……あ、そのシーツ、洗い直しね」
「そんなぁぁぁ!」
かつての「真実の愛」の主役たちは、こうして着実に社会の厳しさを学んでいる最中でした。
そんな喜劇的な報告書を読み終え、私は執務室で優雅に肩をすくめました。
「お掃除」が完璧に終わった後の爽快感は、何物にも代えがたいですわね。
しかし、私の平穏を破るように、城の地下から地響きのような音が聞こえてきました。
……いいえ、地響きではありません。豪華な馬車が、物凄い速度で城門をくぐった音です。
「お、お嬢様! 旦那様ぁぁ! 『真打ち』の登場でございますぞ!」
ボリスが、これまでにないほど正装をビシッと決めて、震えながら叫びました。
ついに来ましたわね。
私が広間へ降りていくと、そこには漆黒のコートを羽織り、周囲の空気を物理的に押し潰すような威圧感を放つ男が立っていました。
我が父、アルトハイム公爵閣下です。
「…………っ!!」
私の隣で、アルスター様が今までに見たことがないほど直立不動になり、顔面を蒼白にさせて固まっていました。
「氷の死神」が、完全に「蛇に睨まれた蛙」……いえ、「猛獣に狙われた仔犬」になっています。
「……ダリア。久しぶりだな。……辺境の空気は、王都の腐った匂いよりは幾分マシなようだが……この男が、お前の言っていた『死神』か?」
父の鋭い眼光が、アルスター様を射抜きました。
アルスター様はガタガタと震え、消え入りそうな声で口を開きました。
「…………あ、あるすたー……・くろむ、うぇる……で、あります……。……むすめ、さんを……その……」
「………………」
父は無言のまま、アルスター様を上から下まで、さらには魂の奥底まで覗き込むように凝視しました。
沈黙が、重い。
ボリスはすでに、あまりのプレッシャーに耐えきれず、隅っこで祈りを捧げています。
「……父上。あまりアルスター様をいじめないでくださる? あの方、こう見えて非常に繊細なんですのよ。今にも気絶してしまいそうですわ」
「黙っていろ、ダリア。……男の価値を見定めるのは、父親の仕事だ。……おい、辺境伯。貴様、私の娘を幸せにする自信はあるのか?」
「………………!」
アルスター様は、一瞬だけ恐怖に目を泳がせましたが、すぐに何かを決意したように、私の前に一歩踏み出しました。
「…………おれは、しゃべるのが……にがてだ。……うまく、いえない。……でも……だりあの、どくぜつなら……いっしょう、きいていられる」
「……ほう?」
「…………だりあを、かなしませる……奴がいたら、おれが……せかいじゅうを、てきにまわして……きる。……だから、おねがいだ……だりあを、おれに……」
アルスター様は、膝をついて父に深々と頭を下げました。
その誠実すぎる(そして少しズレた)訴えに、父はしばらく沈黙を守っていましたが……。
「……ふん。口の減らない娘に、これほど黙って尽くしそうな男は、世界中探しても貴様くらいだろうな」
父はフッと、冷徹な笑みを崩しました。
「よかろう。……合格だ。……ただし、娘が一度でも『退屈だ』と言い出したら、その時は私が貴様の領地ごと王都の藻屑にしてやるから覚悟しておけ」
「………………っ。……はい、おじょうさまの、おとうさま!」
「お父様でいいわよ、アルスター様」
私が笑いながら肩を叩くと、アルスター様はようやく安堵のあまり、その場に崩れ落ちました。
「……さて。対面も終わったことですし、お父様。アルスター様が丹精込めて育てた(実は私が指示した)最高級の羊肉を召し上がれ。……お話は、それからにしましょうか」
こうして、私の自由と愛は、最強のバックアップを得て盤石なものとなったのでした。
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