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第七話
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その朝、シュゼットは妙な感じがして、ソワソワしていた。
猫ではなく、人でいるのも久しぶりだ。
今日は人間で過ごそうと思った。鏡を見なければいい。邸にいる限り、同情の視線を浴びることはない。
昼頃だった。
あの不思議な霧が、マリナー伯爵邸を包んだ。
そして、シュゼットを傷つけた竜が、現れた。前より大きくなっている。
恐怖に陥ったシュゼットは、身動きできなかった。マリが走ってきて、シュゼットの前に立つ。
「マリ!ダメよ!」
「迎えに来た」
竜の声は前のような悪魔の声ではなかった。優しさに満ちていた。
「迎えに来たって、どういうこと?」
竜はシュゼットの額に手を当てた。
シューっと小さな音がする。
「お嬢様、傷がどんどん消えています」
マリの声に、シュゼットは目を瞬いた。
「いったい、どういうこと?」
その場が安全であるように思って、マリは叫んだ。
「誰か、手鏡を!」
勇気のある侍女が、手鏡をマリに渡した。
手が震えている。竜なんて見たことがないのだ。
「お嬢様、どうぞ」
手鏡の中にはまったく傷のない16歳のシュゼットがいた。
シュゼットの目から涙がこぼれた。
「すまない。ひどい手段を取ってしまった」
「どういうこと?」
泣きながらも、毅然として、シュゼットは竜と話す。
すると、竜は霧を吸収した。
あたりが元に戻ると、そこには竜ではなく人がいた。
「悪かった。まだ俺は小さくて、ただただマーキングしたかった。君が他の人と結婚するなんてダメだとしか考えてなかった」
キラキラ輝く竜人は、女性のように美しいが、しっかりした体躯は鍛えられた男性だった。
「君を傷つけてごめん」
「簡単には許せないわ。私も父も苦しんだのだから」
「これから、のチャンスをくれ。きっと挽回してみせるから」
猫獣人のシュゼットには竜人の婚約者ができるのかもしれない。でも、まだ許せないからわからない。
竜人が実は王子様だとわかったり、婚約者のいない二人の王子があきらめ悪くからんでくるのも、全部これからの話。
猫ではなく、人でいるのも久しぶりだ。
今日は人間で過ごそうと思った。鏡を見なければいい。邸にいる限り、同情の視線を浴びることはない。
昼頃だった。
あの不思議な霧が、マリナー伯爵邸を包んだ。
そして、シュゼットを傷つけた竜が、現れた。前より大きくなっている。
恐怖に陥ったシュゼットは、身動きできなかった。マリが走ってきて、シュゼットの前に立つ。
「マリ!ダメよ!」
「迎えに来た」
竜の声は前のような悪魔の声ではなかった。優しさに満ちていた。
「迎えに来たって、どういうこと?」
竜はシュゼットの額に手を当てた。
シューっと小さな音がする。
「お嬢様、傷がどんどん消えています」
マリの声に、シュゼットは目を瞬いた。
「いったい、どういうこと?」
その場が安全であるように思って、マリは叫んだ。
「誰か、手鏡を!」
勇気のある侍女が、手鏡をマリに渡した。
手が震えている。竜なんて見たことがないのだ。
「お嬢様、どうぞ」
手鏡の中にはまったく傷のない16歳のシュゼットがいた。
シュゼットの目から涙がこぼれた。
「すまない。ひどい手段を取ってしまった」
「どういうこと?」
泣きながらも、毅然として、シュゼットは竜と話す。
すると、竜は霧を吸収した。
あたりが元に戻ると、そこには竜ではなく人がいた。
「悪かった。まだ俺は小さくて、ただただマーキングしたかった。君が他の人と結婚するなんてダメだとしか考えてなかった」
キラキラ輝く竜人は、女性のように美しいが、しっかりした体躯は鍛えられた男性だった。
「君を傷つけてごめん」
「簡単には許せないわ。私も父も苦しんだのだから」
「これから、のチャンスをくれ。きっと挽回してみせるから」
猫獣人のシュゼットには竜人の婚約者ができるのかもしれない。でも、まだ許せないからわからない。
竜人が実は王子様だとわかったり、婚約者のいない二人の王子があきらめ悪くからんでくるのも、全部これからの話。
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