【完結】深く青く消えゆく

ここ

文字の大きさ
5 / 7

5.ミッシェルは

しおりを挟む
ミッシェルはいつでも自分は自分だと思っている。毎日の暮らしの中で、男か女か自分でもわからなくなる。だから、自分は自分だと思うことにした。父親の夢を叶えたい気持ちと他の女のように着飾ってレオとデートしてみたい気持ちが、自分の中で行ったり来たりした。
「まぁ、中間でいいか」
そう決めて、お休みの日にレオを誘った。
武器を見に行こうと。服装は、普通の男らしく、髪を結うリボンの色をレオの瞳の色にした。気づかないと思って。

「ミッシェル、そのリボン」
待ち合わせ場所でのレオの第一声だ。絶対気づかないと思っていたミッシェルは急に恥ずかしくなった。やめようと思ったら、レオがやたらにうれしそうだから、もう気にしないことにした。プロポーズされた仲なのだから、これくらいは当然なのだ。ミッシェルは変な汗をかいていた。まるで自分らしくない。たかがリボンのことで。レオのことは昔から親友として大好きだった。それが、婚約することになって、大好きはもっと増えた気がする。

「ミッシェル、その杖、魔法補助にいいんじゃない?」
レオの穏やかな声で我に帰ったミッシェルは、苦し紛れに持って見ていた杖を改めてじっくり見直した。値段にしてはかなりのよい出来だ。
「買おうかな」
「じゃあ、俺がプレゼントするよ。記念に」
「いいよ、記念ってなんだよ?」
レオをにらみつけてみるが、へらへら笑ってこう言う。
「もちろん初デート記念だよ」
その考えだと何でも記念になってしまう。破産する気か?とミッシェルは思ったが、もらえるものはもらっておこうと方向を変え、杖を買ってもらった。

「試したいな」
「そう言うと思った。鍛錬場に行く?」
「いや、そこの森で大丈夫だ」
森は国中を囲んでいる。危険な生き物が多いため、好んで入る人はいない。
「ミッシェル、森は危ないよ」
いつものミッシェルなら、言うことを聞いて鍛錬場に行っただろう。浮かれていたのだ。常識を失っていた。
「森で試す」
レオは急ぎ足のミッシェルに追いつくと、警戒しながら、一緒に森に入った。最初はよかった。杖の力がじゅうぶんに働いて魔物たちを順調に倒して行った。だが、森にはたくさんの魔物たちがいる。倒しても倒しても湧き出てくる。
「ミッシェル、もう危ないよ、逃げよう」
ミッシェルも我に帰って、逃げ道を探して絶望した。せめて巻き込んだレオだけでも助けたい。

ミッシェルは命を込めて魔法を打った。ミッシェルは無事では済まないだろうが、レオを逃す時間は稼げる。レオが助かりますようにと祈った。ミッシェルの意識はそこで途絶えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

やめてください、お姉様

桜井正宗
恋愛
 伯爵令嬢アリサ・ヴァン・エルフリートは不幸に見舞われていた。  何度お付き合いをしても婚約破棄されてしまう。  何度も何度も捨てられ、離れていく。  ふとアリサは自分の不幸な運命に疑問を抱く。  なぜ自分はこんなにも相手にされないのだろう、と。  メイドの協力を得て調査をはじめる。  すると、姉のミーシュの酷い嫌がらせが判明した。

この恋を忘れたとしても

喜楽直人
恋愛
卒業式の前日。寮の部屋を片付けていた私は、作り付けの机の引き出しの奥に見覚えのない小箱を見つける。 ベルベットのその小箱の中には綺麗な紅玉石のペンダントが入っていた。

【完結】『私に譲って?』と言っていたら、幸せになりましたわ。{『私に譲って?』…の姉が主人公です。}

まりぃべる
恋愛
『私に譲って?』 そう私は、いつも妹に言うの。だって、私は病弱なんだもの。 活発な妹を見ていると苛つくのよ。 そう言っていたら、私、いろいろあったけれど、幸せになりましたわ。 ☆★ 『私に譲って?』そう言うお姉様はそれで幸せなのかしら?譲って差し上げてたら、私は幸せになったので良いですけれど!の作品で出てきた姉がおもな主人公です。 作品のカラーが上の作品と全く違うので、別作品にしました。 多分これだけでも話は分かると思います。 有難い事に読者様のご要望が思いがけずありましたので、短いですが書いてみました。急いで書き上げたので、上手く書けているかどうか…。 期待は…多分裏切ってしまって申し訳ないですけれど。 全7話です。出来てますので随時更新していきます。 読んで下さると嬉しいです。

王子様の花嫁選抜

ひづき
恋愛
王妃の意向で花嫁の選抜会を開くことになった。 花嫁候補の一人に選ばれた他国の王女フェリシアは、王太子を見て一年前の邂逅を思い出す。 花嫁に選ばれたくないな、と、フェリシアは思った。

【完結】救ってくれたのはあなたでした

ベル
恋愛
伯爵令嬢であるアリアは、父に告げられて女癖が悪いことで有名な侯爵家へと嫁ぐことになった。いわゆる政略結婚だ。 アリアの両親は愛らしい妹ばかりを可愛がり、アリアは除け者のように扱われていた。 ようやくこの家から解放されるのね。 良い噂は聞かない方だけれど、ここから出られるだけ感謝しなければ。 そして結婚式当日、そこで待っていたのは予想もしないお方だった。

冷徹公に嫁いだ可哀想なお姫様

さくたろう
恋愛
 役立たずだと家族から虐げられている半身不随の姫アンジェリカ。味方になってくれるのは従兄弟のノースだけだった。  ある日、姉のジュリエッタの代わりに大陸の覇者、冷徹公の異名を持つ王マイロ・カースに嫁ぐことになる。  恐ろしくて震えるアンジェリカだが、マイロは想像よりもはるかに優しい人だった。アンジェリカはマイロに心を開いていき、マイロもまた、心が美しいアンジェリカに癒されていく。 ※小説家になろう様にも掲載しています いつか設定を少し変えて、長編にしたいなぁと思っているお話ですが、ひとまず短編のまま投稿しました。

メリンダは見ている [完]

風龍佳乃
恋愛
侯爵令嬢のメリンダは 冷静沈着という言葉が似合う女性だ。 メリンダが見つめているのは 元婚約者であるアレンだ。 婚約関係にありながらも 愛された記憶はなかった メリンダ自身もアレンを愛していたか? と問われれば答えはNoだろう。 けれど元婚約者として アレンの幸せを 願っている。

【完結】今日こそ言ってやりましょう

ここ
恋愛
公爵令嬢ソアラーヌは第二王子の婚約者。結婚が嫌なわけじゃないけど、ミリエルト王子の愛は重たくて。

処理中です...