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サーラは父にも母にも似ていない。髪の色も瞳の色もちがう。サーラが生まれたとき、両親は母が浮気したのではないか、と大喧嘩したらしい。

父は黒髪に緑色の瞳、母は金髪に青い瞳。
サーラは、真っ白な髪に虹色の目をしていた。父方にも母方にも似ていなかった。白い髪は老人のようで、虹色の瞳は他の人でも見たことがない。
なんだか不気味な赤子だった。
サーラは名前だけはもらえたものの、乳母に押しつけられて、両親には放置された。

「気持ち悪い赤子だわ」
乳母も不気味な外見のサーラを心から可愛がることはできなかった。自分の子どもと一緒に育てていることもあり、たびたびそちらを優先した。
サーラの両親は見に来ないのだ。
同じ女の子だったこともあり、こっそり
サーラのものを我が子に与えた。
我が子用の安い方をサーラに使ったりした。

誰も気づかないとわかると、乳母はどんどん増長した。3歳になるまでは、乳母の子の方が公爵令嬢に見えた。サーラはまるで使用人の子のようだった。

サーラが3歳になったときには、そろそろ人目につく可能性があり、まずいだろうと乳母も物を交換するのはやめた。愛情はなかったから、事務的に必要なことだけをして、自分の子どもはうんと可愛がった。

サーラは外に出たことがなかった。両親というものがいることも知らなかった。自分の両親というだけでなく、この世に両親がいるという事実を知らなかったのだ。ふたりは一度も様子見にさえ来なかった。そばいる乳母は最低限の世話をするだけだ。

愛情というものを知らずに育ち、外にも行く機会がない。他の家族を見たことがなかった。だから、サーラは自分が見捨てられていること自体を知らなかった。
外見で偏見を持たれることも理解してなかった。
乳母以外の使用人は、不気味な外見のサーラに近寄って来ない。

サーラは悲しんだり寂しがったりしたことがなかった。自分の置かれた立場をわかっていなかったからだ。冷たい乳母だけが、サーラの世界の人間だった。だから、こんなものなのだと思っていた。

自分のお誕生日を知らないサーラは、
今自分が何歳かなんて知らない。
その上、冷たくとも、最低限の世話はしてくれていた乳母が急にいなくなった。さすがのサーラもあわてた。どうやって食べ物を手に入れたらいいか、に始まり、何もかもわからない。
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