上 下
5 / 10

5

しおりを挟む
「みんなのおかげ」
サーラはニコニコ笑った。
「サーラ、笑顔」
「かわいいー」
「僕もうれしい」
キラキラの塊が、サーラを取り囲んでいた。
妖精たちは、サーラに必要な食べ物や洋服などを屋敷の中から、用意してくれるのだ。本当はこっそり持ち出してきているので、見つかったら、怒られるだろう。だが、誰もサーラに近寄らないから、その心配はいらない。

サーラはまだ幼いし、ともかく物を知らないので、食事や服の出どころなんて考えるわけがなかった。
しかし、妖精たちがいなければ、サーラはすぐに餓死していたかもしれない。

妖精たちは、自分たちの愛子が、ちゃんとした世話を受けていないことにとても怒っていた。だけど、サーラが自分たちに向ける幸せな顔を見ていると、本格的な復讐はしない方が良さそうだと思った。

サーラは何にも知らない。
両親がいて、見捨てられていることも、
妖精に愛されるがゆえの特殊な外見についても。知らないのだ。
知らない方が幸せなこともある。
また、まだ幼すぎるサーラにつらい現実を知らせるのは躊躇われた。

「サーラ、遊ぼうー」
「サーラ、お庭の花を見に行こうー」
妖精たちは愛し子の周りを飛び回りながら、かわいい声で誘った。
サーラはうれしくて、
「サーラ、行く!」
元気に答えた。お庭は誰にも見つからないひっそりとした庭で、花も野の花だった。誰かが面倒を見ているわけではない。

「サーラ、花を見たい?」
「サーラが助けてくれたら、花を咲かせるよー」
妖精たちがニコニコしながら、告げた。
サーラはきょとんとしたまま、
「サーラが花を咲かせるの?」
聞いてみた。
「サーラの魔法!」
「まだ知らないの?」
「植物が育つよー」
「手をかざして、念じて」
言われるままに、サーラは手を出してみた。
お花が咲きますように。
すると、風が吹き、花びらが散った。
その後すぐに、庭中が花だらけになった。季節無関係に花が開いた。

小さな庭はこの世の天国みたいな空間になった。サーラは見惚れていた、こんなにきれいな景色は見たことがなかった。
しおりを挟む

処理中です...