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死ねない男
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人々が暮らす東の地、死者が暮らす西の地。
二つを遮る大きな川は、乾いた大地に命を与え続けている。太陽はいつも強く激しく照りつけ、草と水を枯らす。神の乗った船は、止まることなく東から西へと進み、地平線で月の船へと乗り換える。人々を見守り続ける、唯一無二の神であった。
神がするどい光を放ちながら、西の彼方へと姿を隠した。空は大地を四方から包み、金粉を撒き散らすように星を浮かべる。ひんやりとした風が吹き始め、谷を抜けて細い唸り声をあげる。切り立った肌色の岩場を背にして、月がかすかに影を落とす。
どこからか笛の音が聞こえてきて、この一帯に悲しげに響き渡る。魂を沈め、静かに眠りなさいと。ここは川の西側。王たちの眠る土地。そして、人間から離れてしまった男が一人暮らす土地。名をシュウトという。彼は日が沈むたびに壁に線を刻み続けていたが、その数は十万を超えていた。赤く染まる空がまぶたを通り越して、彼を目覚めさせる。そして、毎日のように思うのだった。今日も死ねなかったと。王たちに捧げられた供え物を貪り、かわりに繊細な音色で死者たちの眠りを誘う。濁った川のようなマントと、体には麻の布を巻きつけている。腰の右には横笛、左には長剣を下げ、風が吹いたら雑に乱れる黒髪、色白な肌。手足はすらりと伸びていたが、それに似合わない全てを信じない目をしていた。彼はいつも月を大地を睨んでいた。そして常人では決して聞かない声を聞いた。死者の声だった。代々の王や王妃たちは、それぞれの部屋で深い眠りについていた。きらびやかな黄金の装飾で溢れた、夢のような世界だ。それを脅かす者たちの訪れを、お告げのようにシュウトに知らせるのだった。左の長剣はそのためのものだった。たとえ何十人の盗賊と戦おうとも、彼が負けることはなかった。人間の五感を超越しているのに加えて、年月が彼を戦いの神に近づけさせていた。ただ、崇めるようなものではなく、同情の余地なく、ただひたすらに叩きのめすだけだった。しかし、彼にも理念があった。どんなに危険なときでも、鞘を一切抜かなかったのだ。自分自身を殺せない臆病者に、他人を殺せる資格はない。死を決められるのは、生を授けた神のみである、と。彼はいつも、気絶させた者たちを川へ流した。岸にあげるか沈めるかは川の主の天秤に任せた。
彼はこの世の全てを恨んでいたが、それに反する思いもあった。幼い頃一人の王に命を救われ、王宮で育ててもらったのだ。彼が亡くなると、王宮を追われこの王たちの墓に辿りついたのだった。ここを守るのは、一つの恩返しなのかもしれなかった。シュウトはこの土地の生まれではなかった。北の方から来た移民だった。九歳の時に、この国の猛襲にあった。移民の王族たちは、シュウトを囮にして逃げ延びたのだった。彼は王の息子であり、いずれは頂点に立つはずの立場だった。襲撃をかけたイフ王は取り残された少年を哀れみ、周りの反対を押し切り王宮へ連れ帰ったのだった。
殺してくれた方がよかったのかもしれない。イフ王の墓を眺めながら、シュウトはつぶやいた。生きることは地獄にいるということだ。人々はすぐ天の迎えの船に乗っていくのに、どうして自分には来ないのか。毎日毎日、同じ時間を過ごすだけなのに。しかし、何かを求めてここを旅立つ気は起きなかった。少なからず眠っている王たちは自分のことを必要としていると感じるからだった。この世でたった一つのシュウトの居場所だった。しかし、時代が動こうとしていた。王朝が交代し、唯一の神が替わろうとしていた。シュウトの運命が大きく動き出すのだった。
二つを遮る大きな川は、乾いた大地に命を与え続けている。太陽はいつも強く激しく照りつけ、草と水を枯らす。神の乗った船は、止まることなく東から西へと進み、地平線で月の船へと乗り換える。人々を見守り続ける、唯一無二の神であった。
神がするどい光を放ちながら、西の彼方へと姿を隠した。空は大地を四方から包み、金粉を撒き散らすように星を浮かべる。ひんやりとした風が吹き始め、谷を抜けて細い唸り声をあげる。切り立った肌色の岩場を背にして、月がかすかに影を落とす。
どこからか笛の音が聞こえてきて、この一帯に悲しげに響き渡る。魂を沈め、静かに眠りなさいと。ここは川の西側。王たちの眠る土地。そして、人間から離れてしまった男が一人暮らす土地。名をシュウトという。彼は日が沈むたびに壁に線を刻み続けていたが、その数は十万を超えていた。赤く染まる空がまぶたを通り越して、彼を目覚めさせる。そして、毎日のように思うのだった。今日も死ねなかったと。王たちに捧げられた供え物を貪り、かわりに繊細な音色で死者たちの眠りを誘う。濁った川のようなマントと、体には麻の布を巻きつけている。腰の右には横笛、左には長剣を下げ、風が吹いたら雑に乱れる黒髪、色白な肌。手足はすらりと伸びていたが、それに似合わない全てを信じない目をしていた。彼はいつも月を大地を睨んでいた。そして常人では決して聞かない声を聞いた。死者の声だった。代々の王や王妃たちは、それぞれの部屋で深い眠りについていた。きらびやかな黄金の装飾で溢れた、夢のような世界だ。それを脅かす者たちの訪れを、お告げのようにシュウトに知らせるのだった。左の長剣はそのためのものだった。たとえ何十人の盗賊と戦おうとも、彼が負けることはなかった。人間の五感を超越しているのに加えて、年月が彼を戦いの神に近づけさせていた。ただ、崇めるようなものではなく、同情の余地なく、ただひたすらに叩きのめすだけだった。しかし、彼にも理念があった。どんなに危険なときでも、鞘を一切抜かなかったのだ。自分自身を殺せない臆病者に、他人を殺せる資格はない。死を決められるのは、生を授けた神のみである、と。彼はいつも、気絶させた者たちを川へ流した。岸にあげるか沈めるかは川の主の天秤に任せた。
彼はこの世の全てを恨んでいたが、それに反する思いもあった。幼い頃一人の王に命を救われ、王宮で育ててもらったのだ。彼が亡くなると、王宮を追われこの王たちの墓に辿りついたのだった。ここを守るのは、一つの恩返しなのかもしれなかった。シュウトはこの土地の生まれではなかった。北の方から来た移民だった。九歳の時に、この国の猛襲にあった。移民の王族たちは、シュウトを囮にして逃げ延びたのだった。彼は王の息子であり、いずれは頂点に立つはずの立場だった。襲撃をかけたイフ王は取り残された少年を哀れみ、周りの反対を押し切り王宮へ連れ帰ったのだった。
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