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目論見
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「あいつら、焼かれてないだろうな」
四人も炎の前に立ちすくんでいた。
あまりの破壊力に恐怖を感じ、思わず後ずさる。かなり距離をとってから、ハルカがやっと口を開いたのだった。耳には届いたが、誰も何も応えなかった。シュウトの人間離れした能力を知っていながらも、火にも耐えられるのか想像が出来なかった。ユウは、状況を真剣に考察していた。
「これが自然現象でないのは明らかです。ほぼ間違いなく我々を狙ったものでしょう。森一つ捨ててまでも、本気ということでしょう。全員を抹殺したいのか、誰かを捉えたいのかは分かりませんが、とにかく逃げましょう。一刻も早く森を出るべきです」
三人はすぐに納得し、それを確認したユウは空を見上げ逃げる方向を定めた。走りかけたその時だった。炎の轟音と共に、何人もの足音が聞こえてきたのだった。それほど遠くはなかった。目を凝らせば、木々の間にその姿が見えてきそうなほどだった。姫達には堪えた。まだこの間の傷が癒えたわけではなかった。命を狙われるということ、自分以外も失ってしまうかもしれない怖さ。勝手に体が震えてくるのが分かった。ハルカはそんな彼女達を励ました。
「ユウも俺もいる。奴らには指一本触れさせないから、安心してくれ」
彼も不安なはずなのに、朗らかに笑ってみせた。根拠など一切ないのに、信じてしまいたくなる。アンリとアマネは深く頷いた。恐怖が消えたわけではなかったが、わずかな希望が生まれたのだった。「行こう」ハルカは三人を促して、一気に駆け出した。自然とユウが前に、ハルカが後ろについた。まだ敵は姿を現さなかったが、おそらく先程襲ってきた者達と同じだろう。
どこまで持ち堪えられるか、ハルカは苦い顔で自分の体の傷を眺めた。シュウトばかりを頼ってきた自分が情けなく思える。ただ、どうしても守らなければならないものがあった。まだ森の出口は見えてこず、姫二人を挟みながらでは余計に、逃げ切られるとは思わなかった。覚悟を決めなければいけなかった。追ってくる足音の数はどんどん増え、振り返れば既に彼らの姿があった。炎を背に受けて、黒い影達はぼんやりと輪郭を浮かび上がらせていた。情の欠片もない、ただ目的を成す為だけに遣わされた者達。
走るのを緩めてはおらずとも、体力の限界もあり、徐々に追手との距離が縮まっていた。ユウはあくまでも四人で逃げ続けるつもりのようだった。数から考えても、立ち止まって戦って勝てるわけがなく、姫だけ逃がしても、どうせ追いつかれてしまう。それは分かっていながらも、ハルカは急に足を止めて追手と向かい合った。
「ユウ!姫さんらを頼む!」
少しでも時間を稼ぐなら、姫の命を優先するなら、これが最善策だと踏んだのだった。幸い開けた場所でないため、木々の間を抜けてくる敵を一人ずつ倒していけば良かった。
ユウは驚いて思わず足を止めそうだった。彼の思いは分かっていた。姫を助けるための行動だろう。ただ、代わりにハルカを見捨てる事になってしまう。ユウにはすぐに決断を下す事が出来なかった。
「アマネを連れて行ってください」
ハルカの目論見に気付いたアンリは、驚いた事に彼に加勢しに行ったのだった。「お姉さま!」泣き出しそうな妹の声を背中で聞いた。
「ユウと逃げなさい!」
厳しい口調だった。アンリも剣を抜いて追手と対峙した。
「アンリちゃん…」
ハルカはがっかりしたように姉姫を見た。そんなために覚悟を決めたわけではなかった。アンリは驚いた事にくすっと笑った。
「私はどうしても、ハルカを置いては行けません。シュウトに合わせる顔がありませんもの。あなたはちゃんと生きなくては」
アンリを巻き込んでしまった申し訳なさを感じながらも、こんな状況なのに嬉しいと思ってしまった。自分を必要としてくれたのと、シュウトを認めてくれていた事が分かったからだった。
「一緒に生きて帰ろう」
ハルカは調子よく言った。姫に傷をつけようとしない追手達は、ハルカには容赦なく襲いかかってきた。アンリは彼をかばうように隣で剣を振るった。意外な事に慣れており、ハルカよりも上手く相手を躱して急所を突いた。
ユウとアマネは、しばらくどうしたらいいか分からずに彼ら二人を遠くから眺めた。二人は口を揃えて逃げろと言う。彼らの願いだったとしても、すぐに背を向けて走り出せるほど、割り切れるものではなかった。これだけの追手の大軍を相手にすれば、ほぼ間違いなく命を落とすだろう。かと言って、ユウがアマネを置いて助けに行く事は難しい。どうすればいいのか、ユウは始終頭を悩ましていた。
黒い影が左右に分かれたかと思うと、奥から真っ直ぐ人がやって来た。その人物も同じように全身黒づくめだったが、体格が抜きん出ていた。見るからに巨体で、ぎらりと光る目と、威圧感が凄まじかった。重たそうな長剣を肩にかけている。きっと彼らを統一する将軍だろう。ハルカとアンリは、後退するしかなかった。彼が素早い動作で剣を振ると、二人の剣はあっという間に手から離れて飛んでいった。今までとは力が比べ物にならなかった。
「逃げるんだアンリちゃん」
将軍は他の追手と違い、姫に剣を振りあげたのだった。ハルカはとっさにアンリを後ろへ突き飛ばし、一太刀から彼女を守った。だが、黒い巨人は実に身軽に、なんのためらいもなく、鮮やかにもう一度剣を振り下ろしたのだった。
「ハルカー!」
ユウは声を上げずにはいられなかった。
四人も炎の前に立ちすくんでいた。
あまりの破壊力に恐怖を感じ、思わず後ずさる。かなり距離をとってから、ハルカがやっと口を開いたのだった。耳には届いたが、誰も何も応えなかった。シュウトの人間離れした能力を知っていながらも、火にも耐えられるのか想像が出来なかった。ユウは、状況を真剣に考察していた。
「これが自然現象でないのは明らかです。ほぼ間違いなく我々を狙ったものでしょう。森一つ捨ててまでも、本気ということでしょう。全員を抹殺したいのか、誰かを捉えたいのかは分かりませんが、とにかく逃げましょう。一刻も早く森を出るべきです」
三人はすぐに納得し、それを確認したユウは空を見上げ逃げる方向を定めた。走りかけたその時だった。炎の轟音と共に、何人もの足音が聞こえてきたのだった。それほど遠くはなかった。目を凝らせば、木々の間にその姿が見えてきそうなほどだった。姫達には堪えた。まだこの間の傷が癒えたわけではなかった。命を狙われるということ、自分以外も失ってしまうかもしれない怖さ。勝手に体が震えてくるのが分かった。ハルカはそんな彼女達を励ました。
「ユウも俺もいる。奴らには指一本触れさせないから、安心してくれ」
彼も不安なはずなのに、朗らかに笑ってみせた。根拠など一切ないのに、信じてしまいたくなる。アンリとアマネは深く頷いた。恐怖が消えたわけではなかったが、わずかな希望が生まれたのだった。「行こう」ハルカは三人を促して、一気に駆け出した。自然とユウが前に、ハルカが後ろについた。まだ敵は姿を現さなかったが、おそらく先程襲ってきた者達と同じだろう。
どこまで持ち堪えられるか、ハルカは苦い顔で自分の体の傷を眺めた。シュウトばかりを頼ってきた自分が情けなく思える。ただ、どうしても守らなければならないものがあった。まだ森の出口は見えてこず、姫二人を挟みながらでは余計に、逃げ切られるとは思わなかった。覚悟を決めなければいけなかった。追ってくる足音の数はどんどん増え、振り返れば既に彼らの姿があった。炎を背に受けて、黒い影達はぼんやりと輪郭を浮かび上がらせていた。情の欠片もない、ただ目的を成す為だけに遣わされた者達。
走るのを緩めてはおらずとも、体力の限界もあり、徐々に追手との距離が縮まっていた。ユウはあくまでも四人で逃げ続けるつもりのようだった。数から考えても、立ち止まって戦って勝てるわけがなく、姫だけ逃がしても、どうせ追いつかれてしまう。それは分かっていながらも、ハルカは急に足を止めて追手と向かい合った。
「ユウ!姫さんらを頼む!」
少しでも時間を稼ぐなら、姫の命を優先するなら、これが最善策だと踏んだのだった。幸い開けた場所でないため、木々の間を抜けてくる敵を一人ずつ倒していけば良かった。
ユウは驚いて思わず足を止めそうだった。彼の思いは分かっていた。姫を助けるための行動だろう。ただ、代わりにハルカを見捨てる事になってしまう。ユウにはすぐに決断を下す事が出来なかった。
「アマネを連れて行ってください」
ハルカの目論見に気付いたアンリは、驚いた事に彼に加勢しに行ったのだった。「お姉さま!」泣き出しそうな妹の声を背中で聞いた。
「ユウと逃げなさい!」
厳しい口調だった。アンリも剣を抜いて追手と対峙した。
「アンリちゃん…」
ハルカはがっかりしたように姉姫を見た。そんなために覚悟を決めたわけではなかった。アンリは驚いた事にくすっと笑った。
「私はどうしても、ハルカを置いては行けません。シュウトに合わせる顔がありませんもの。あなたはちゃんと生きなくては」
アンリを巻き込んでしまった申し訳なさを感じながらも、こんな状況なのに嬉しいと思ってしまった。自分を必要としてくれたのと、シュウトを認めてくれていた事が分かったからだった。
「一緒に生きて帰ろう」
ハルカは調子よく言った。姫に傷をつけようとしない追手達は、ハルカには容赦なく襲いかかってきた。アンリは彼をかばうように隣で剣を振るった。意外な事に慣れており、ハルカよりも上手く相手を躱して急所を突いた。
ユウとアマネは、しばらくどうしたらいいか分からずに彼ら二人を遠くから眺めた。二人は口を揃えて逃げろと言う。彼らの願いだったとしても、すぐに背を向けて走り出せるほど、割り切れるものではなかった。これだけの追手の大軍を相手にすれば、ほぼ間違いなく命を落とすだろう。かと言って、ユウがアマネを置いて助けに行く事は難しい。どうすればいいのか、ユウは始終頭を悩ましていた。
黒い影が左右に分かれたかと思うと、奥から真っ直ぐ人がやって来た。その人物も同じように全身黒づくめだったが、体格が抜きん出ていた。見るからに巨体で、ぎらりと光る目と、威圧感が凄まじかった。重たそうな長剣を肩にかけている。きっと彼らを統一する将軍だろう。ハルカとアンリは、後退するしかなかった。彼が素早い動作で剣を振ると、二人の剣はあっという間に手から離れて飛んでいった。今までとは力が比べ物にならなかった。
「逃げるんだアンリちゃん」
将軍は他の追手と違い、姫に剣を振りあげたのだった。ハルカはとっさにアンリを後ろへ突き飛ばし、一太刀から彼女を守った。だが、黒い巨人は実に身軽に、なんのためらいもなく、鮮やかにもう一度剣を振り下ろしたのだった。
「ハルカー!」
ユウは声を上げずにはいられなかった。
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