39 / 62
敵将
しおりを挟む
ハルカは、大きな一太刀で真正面から切られたのだった。
鮮血が飛び、崩れ落ちる。
アンリはただ愕然とし、座り込んだまま、倒れたハルカから目を逸らせなかった。大将は既にアンリに狙いを定め、剣を振り上げていた。ユウはすぐさま駆け出すが、間に合う距離ではなかった。アンリは逃げる事も身を守る事もせず、目を瞑っただけだった。
ふと、ふわりとした風を感じる。痛みが襲ってこないのを不思議に思ってそっと目を開けると、目の前にはシュウトがいた。彼が将軍の剣を受けていた。鞘にひびが入りそうなくらい、重たい長剣だった。
「レイ!ハルカを助けてくれ」
彼の必死の叫びだった。いつの間にかレイも横に居て、すぐにハルカを仰向けにし、状態を見た。血でびっしょり濡れていた。意識はなかったが、わずかに息はあるようだった。駆け寄ってきたユウに、緊迫した声を掛けた。
「まだ助かるかもしれません。急いでここを離れて治療しましょう」
追手からこれ以上傷を受けるわけにはいかなかった。ユウはハルカを抱えて、レイの駆け出す後に続いた。
「アンリ様、アマネ様も行きましょう」
レイは青ざめている姫二人にも声を掛けた。彼女達は泣き出しそうになるのを必死に堪えて、黙って後に続いた。追手が何人か抜けてきて追いかけようとしたが、シュウトがすぐさま遮って一撃で意識を失わせた。将軍も彼の異常な強さを理解したようで、後ろに控えていた追手に指示を送った。彼らはざっと広がって、シュウトを遠巻きに囲んだ。あくまでも、将軍はシュウトと正々堂々闘うつもりらしかった。逃げる道を絶っただけだった。
今すぐにでも駆け出したい気持ちはもちろんあった。遠くでハルカが倒れた様が、目に焼きついて離れなかった。あと一歩早く着いていたらと、後悔だけがシュウトの中で溢れていた。このままハルカを失ってしまうのではないかという恐怖と向き合う勇気がなかった。ただレイの言葉を信じるしかなかった。ハルカを助けられるのなら、彼しかいない。そして、相棒が命を掛けてまでも守りたかったものを、守りたかった。決して後は追わせない。そう思って、シュウトは握った剣に力を込めた。
すらりとした長身のシュウトでさえも、見劣りするくらいの巨体だった。墓を荒らした盗賊とはわけが違う、選ばれし強者だった。負けないつもりだったが、果たしてこの鞘がどれだけ耐えてくれるかが心配だった。大将はしばらくシュウトを吟味していたが、ついに剣を構えて「来い」と一言発したのだった。
周りの追手では目で追えない速さで、シュウトは駆けて大将と剣を交えた。剣が触れ合う時には、衝撃波がはしったようで、森がざわと震えた。大将はやっとのことで受け止めたようだった。力はほぼ互角で、これ以上お互いに押す事はできなかった。大将は剣をはじき、もう一度大きく振るった。
身のこなしは格段にシュウトの方が上だった。軽やかに飛んで躱したと思うと、次の瞬間には目の前にいて一撃を食らわせた。普通の人間ならば、それで気を失って終わりだった。だが大将は、苦痛の表情を浮かべたものの、しっかりと二本の足で立っていたのだった。シュウトは半ば感心しながらも、次の一手に動いていた。息をつく間もないほどに、剣で急所を叩いた。隙を見せれば殺られると感じたからだった。あの長剣で一太刀浴びれば、さすがの怪物じみたシュウトでも死ぬかもしれなかった。ハルカの後を追えるなら、それでもよかった。だが、彼がまだこの地に残るのに、一人先に逝くわけにはいかなかった。今はこの場を早く切り抜けて、彼の元に行くべきだった。
大将はいよいよ、巨体を地面に横たえた。少し地が揺れたようだった。シュウトはすぐに離れてもよかったのだが、彼がまだ僅かに意識を残しているため、様子を窺った。彼は荒い息の中で、途切れ途切れに言った。
「なぜ剣を抜かぬ」
不服そうに訊ねた。そんな事を言っている場合ではないはずだった。命の危険はないとしても、かなりの痛手を負っているはずだった。鞘にしまわれたままの剣で攻撃を受けたため、出血は少ないにしても、骨はいくらか折れているはずだった。部下達の前で無様に負けてしまい、示しもつかないだろう。早くシュウトを捕えるように命じるべきだった。気にせず背を向けてもよかったのだが、精一杯声を振り絞った大将に冷たくする事ができなかった。ハルカを切った張本人なのに、悪人だと思えなかった。お互いの正義のために、守るべき物を守っただけなのだ。
「早く治療しろ」
シュウトはそれだけ言うと走り出して、風のような速さで突っ切っていった。一切振り返らず、森の出口だけを目指した。通った跡には追手が倒れて道ができていた。ハルカのために何もできないと分かってはいても、一目無事である事を確かめたかった。
鮮血が飛び、崩れ落ちる。
アンリはただ愕然とし、座り込んだまま、倒れたハルカから目を逸らせなかった。大将は既にアンリに狙いを定め、剣を振り上げていた。ユウはすぐさま駆け出すが、間に合う距離ではなかった。アンリは逃げる事も身を守る事もせず、目を瞑っただけだった。
ふと、ふわりとした風を感じる。痛みが襲ってこないのを不思議に思ってそっと目を開けると、目の前にはシュウトがいた。彼が将軍の剣を受けていた。鞘にひびが入りそうなくらい、重たい長剣だった。
「レイ!ハルカを助けてくれ」
彼の必死の叫びだった。いつの間にかレイも横に居て、すぐにハルカを仰向けにし、状態を見た。血でびっしょり濡れていた。意識はなかったが、わずかに息はあるようだった。駆け寄ってきたユウに、緊迫した声を掛けた。
「まだ助かるかもしれません。急いでここを離れて治療しましょう」
追手からこれ以上傷を受けるわけにはいかなかった。ユウはハルカを抱えて、レイの駆け出す後に続いた。
「アンリ様、アマネ様も行きましょう」
レイは青ざめている姫二人にも声を掛けた。彼女達は泣き出しそうになるのを必死に堪えて、黙って後に続いた。追手が何人か抜けてきて追いかけようとしたが、シュウトがすぐさま遮って一撃で意識を失わせた。将軍も彼の異常な強さを理解したようで、後ろに控えていた追手に指示を送った。彼らはざっと広がって、シュウトを遠巻きに囲んだ。あくまでも、将軍はシュウトと正々堂々闘うつもりらしかった。逃げる道を絶っただけだった。
今すぐにでも駆け出したい気持ちはもちろんあった。遠くでハルカが倒れた様が、目に焼きついて離れなかった。あと一歩早く着いていたらと、後悔だけがシュウトの中で溢れていた。このままハルカを失ってしまうのではないかという恐怖と向き合う勇気がなかった。ただレイの言葉を信じるしかなかった。ハルカを助けられるのなら、彼しかいない。そして、相棒が命を掛けてまでも守りたかったものを、守りたかった。決して後は追わせない。そう思って、シュウトは握った剣に力を込めた。
すらりとした長身のシュウトでさえも、見劣りするくらいの巨体だった。墓を荒らした盗賊とはわけが違う、選ばれし強者だった。負けないつもりだったが、果たしてこの鞘がどれだけ耐えてくれるかが心配だった。大将はしばらくシュウトを吟味していたが、ついに剣を構えて「来い」と一言発したのだった。
周りの追手では目で追えない速さで、シュウトは駆けて大将と剣を交えた。剣が触れ合う時には、衝撃波がはしったようで、森がざわと震えた。大将はやっとのことで受け止めたようだった。力はほぼ互角で、これ以上お互いに押す事はできなかった。大将は剣をはじき、もう一度大きく振るった。
身のこなしは格段にシュウトの方が上だった。軽やかに飛んで躱したと思うと、次の瞬間には目の前にいて一撃を食らわせた。普通の人間ならば、それで気を失って終わりだった。だが大将は、苦痛の表情を浮かべたものの、しっかりと二本の足で立っていたのだった。シュウトは半ば感心しながらも、次の一手に動いていた。息をつく間もないほどに、剣で急所を叩いた。隙を見せれば殺られると感じたからだった。あの長剣で一太刀浴びれば、さすがの怪物じみたシュウトでも死ぬかもしれなかった。ハルカの後を追えるなら、それでもよかった。だが、彼がまだこの地に残るのに、一人先に逝くわけにはいかなかった。今はこの場を早く切り抜けて、彼の元に行くべきだった。
大将はいよいよ、巨体を地面に横たえた。少し地が揺れたようだった。シュウトはすぐに離れてもよかったのだが、彼がまだ僅かに意識を残しているため、様子を窺った。彼は荒い息の中で、途切れ途切れに言った。
「なぜ剣を抜かぬ」
不服そうに訊ねた。そんな事を言っている場合ではないはずだった。命の危険はないとしても、かなりの痛手を負っているはずだった。鞘にしまわれたままの剣で攻撃を受けたため、出血は少ないにしても、骨はいくらか折れているはずだった。部下達の前で無様に負けてしまい、示しもつかないだろう。早くシュウトを捕えるように命じるべきだった。気にせず背を向けてもよかったのだが、精一杯声を振り絞った大将に冷たくする事ができなかった。ハルカを切った張本人なのに、悪人だと思えなかった。お互いの正義のために、守るべき物を守っただけなのだ。
「早く治療しろ」
シュウトはそれだけ言うと走り出して、風のような速さで突っ切っていった。一切振り返らず、森の出口だけを目指した。通った跡には追手が倒れて道ができていた。ハルカのために何もできないと分かってはいても、一目無事である事を確かめたかった。
0
あなたにおすすめの小説
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる