太陽の猫と戦いの神

中安子

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敵将

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 ハルカは、大きな一太刀で真正面から切られたのだった。
 鮮血が飛び、崩れ落ちる。
 アンリはただ愕然とし、座り込んだまま、倒れたハルカから目を逸らせなかった。大将は既にアンリに狙いを定め、剣を振り上げていた。ユウはすぐさま駆け出すが、間に合う距離ではなかった。アンリは逃げる事も身を守る事もせず、目を瞑っただけだった。
 ふと、ふわりとした風を感じる。痛みが襲ってこないのを不思議に思ってそっと目を開けると、目の前にはシュウトがいた。彼が将軍の剣を受けていた。鞘にひびが入りそうなくらい、重たい長剣だった。
「レイ!ハルカを助けてくれ」
 彼の必死の叫びだった。いつの間にかレイも横に居て、すぐにハルカを仰向けにし、状態を見た。血でびっしょり濡れていた。意識はなかったが、わずかに息はあるようだった。駆け寄ってきたユウに、緊迫した声を掛けた。
「まだ助かるかもしれません。急いでここを離れて治療しましょう」
 追手からこれ以上傷を受けるわけにはいかなかった。ユウはハルカを抱えて、レイの駆け出す後に続いた。
「アンリ様、アマネ様も行きましょう」
 レイは青ざめている姫二人にも声を掛けた。彼女達は泣き出しそうになるのを必死に堪えて、黙って後に続いた。追手が何人か抜けてきて追いかけようとしたが、シュウトがすぐさま遮って一撃で意識を失わせた。将軍も彼の異常な強さを理解したようで、後ろに控えていた追手に指示を送った。彼らはざっと広がって、シュウトを遠巻きに囲んだ。あくまでも、将軍はシュウトと正々堂々闘うつもりらしかった。逃げる道を絶っただけだった。
 今すぐにでも駆け出したい気持ちはもちろんあった。遠くでハルカが倒れた様が、目に焼きついて離れなかった。あと一歩早く着いていたらと、後悔だけがシュウトの中で溢れていた。このままハルカを失ってしまうのではないかという恐怖と向き合う勇気がなかった。ただレイの言葉を信じるしかなかった。ハルカを助けられるのなら、彼しかいない。そして、相棒が命を掛けてまでも守りたかったものを、守りたかった。決して後は追わせない。そう思って、シュウトは握った剣に力を込めた。
 すらりとした長身のシュウトでさえも、見劣りするくらいの巨体だった。墓を荒らした盗賊とはわけが違う、選ばれし強者だった。負けないつもりだったが、果たしてこの鞘がどれだけ耐えてくれるかが心配だった。大将はしばらくシュウトを吟味していたが、ついに剣を構えて「来い」と一言発したのだった。
 周りの追手では目で追えない速さで、シュウトは駆けて大将と剣を交えた。剣が触れ合う時には、衝撃波がはしったようで、森がざわと震えた。大将はやっとのことで受け止めたようだった。力はほぼ互角で、これ以上お互いに押す事はできなかった。大将は剣をはじき、もう一度大きく振るった。
 身のこなしは格段にシュウトの方が上だった。軽やかに飛んで躱したと思うと、次の瞬間には目の前にいて一撃を食らわせた。普通の人間ならば、それで気を失って終わりだった。だが大将は、苦痛の表情を浮かべたものの、しっかりと二本の足で立っていたのだった。シュウトは半ば感心しながらも、次の一手に動いていた。息をつく間もないほどに、剣で急所を叩いた。隙を見せれば殺られると感じたからだった。あの長剣で一太刀浴びれば、さすがの怪物じみたシュウトでも死ぬかもしれなかった。ハルカの後を追えるなら、それでもよかった。だが、彼がまだこの地に残るのに、一人先に逝くわけにはいかなかった。今はこの場を早く切り抜けて、彼の元に行くべきだった。
 大将はいよいよ、巨体を地面に横たえた。少し地が揺れたようだった。シュウトはすぐに離れてもよかったのだが、彼がまだ僅かに意識を残しているため、様子を窺った。彼は荒い息の中で、途切れ途切れに言った。
「なぜ剣を抜かぬ」
 不服そうに訊ねた。そんな事を言っている場合ではないはずだった。命の危険はないとしても、かなりの痛手を負っているはずだった。鞘にしまわれたままの剣で攻撃を受けたため、出血は少ないにしても、骨はいくらか折れているはずだった。部下達の前で無様に負けてしまい、示しもつかないだろう。早くシュウトを捕えるように命じるべきだった。気にせず背を向けてもよかったのだが、精一杯声を振り絞った大将に冷たくする事ができなかった。ハルカを切った張本人なのに、悪人だと思えなかった。お互いの正義のために、守るべき物を守っただけなのだ。
「早く治療しろ」
 シュウトはそれだけ言うと走り出して、風のような速さで突っ切っていった。一切振り返らず、森の出口だけを目指した。通った跡には追手が倒れて道ができていた。ハルカのために何もできないと分かってはいても、一目無事である事を確かめたかった。
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