ダークエース 国籍なき英雄

千田 陽斗(せんだ はると)

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南国に異変あり

スシ・デート

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「ハロー、待った?」
 天然パーマ頭に帽子を乗せた若い女性が待ち合わせ場所のモダン広場に到着した。
「今来たばかりだよ、行こうか」
 シドとマイコは二人の休暇の日が重なる日を狙って、未体験の「スシ」を味わうべく計画を立てていたのだ。
「レインツリーの葉が丸まってる、早くお店にはいらなきゃ」広場の中央に生える大きなレインツリー、その葉は降雨前に丸く閉じるのだ。二人の足を、雨を避けたい気持ちと新しい食体験への期待が早めた。
 開店したばかりのスシ屋は空いていた。
「静かなランチタイムだわ」
 マイコが呟く。自動ドアが開くとすかさずカッポーギ姿の店員がカウンター席に案内してくれた。木でできた壁、木でできたテーブル、二人には珍しいものとして映る。
「それでは、ご注文は目の前のタイショー・ロボにお申し付けください」
 タイショー・ロボと呼ばれる人の形を模したそれは、シドとマイコの眼前、カウンター越しに直立しており、カッポーギを着込み注文にそなえている。よくいる中年男性風の顔つき、どうやら注文に応じて様々なスシを製造してくれるようだ。
「こ、これはAIが搭載されてるんだよね?注文を聞けるなら会話もできるのかな」
 タイショー・ロボに俄然、興味を示し浮き足立つマイコを横目にシドはメニュー表を眺める。一〇〇種は下らない豊富な品揃え。
 シドはその中から、サンマ、タマゴ、そしてマイコが希望したアマエビを注文する。タイショー・ロボはスムーズに注文を復唱しスシの製造を開始した。流れるようなタイショー・ロボの仕事振りに二人は眼を奪われた。
「こんな繊細な仕事が出来るなら、AIロボは医療の現場にも進出すべきだ。やはり僕なんかが医者にならなくてよかった。未来のAIドクターロボに道を譲ってやったようなものだ」
 シドが自らの過去を弁解し終えるとスシが完成した。
 シャリの上に乗ったサンマ、タマゴ、アマエビ。小さな可愛らしいアクセサリーのようで胸は踊る。
「アマエビか、スウィーツのような甘さを期待したけど甘さは感じないよ。スシの本場であるアメリカの人はこれの甘さが判るの?タイショー・ロボ」
「ハイ、アメリカは太平時代に食文化の成熟を迎えました。これにより食をじっくり味わえるようになり味覚が繊細になったと言われています。ちなみにアマエビの甘さは幾つかのアミノ酸によるものです」
 タイショー・ロボは人間のアナウンサーのようにすらすらと解答を述べた。サイバー・ウーマンのマイコは中年顔のAIロボの性能の高さを認めた。しかし彼女はコンピュータに性能の高さだけを求めてはいない。
「タイショー・ロボはアマエビは好き?」マイコはコンピュータ相手にするには、いささか個人的パーソナルな質問をした。例えば好みに関する質問は、生きた人間なら十人十色の解答がある。コンピュータなら情報を出力するのは得意だが、そこに人格の要素はない、本来は。
「私は、スシ・ロボットです。スシは全て好きです」
 タイショー・ロボはマニュアル的な答えを出力した。とうぜんロボットなのだからスシの味も知りようがなかった。
 マイコは出会ってみたかった。人格を持ち、人間と対等に付き合えるAIロボを、待っていても出会えないなら、いっそこの手で。そんなことすら考えていた。
「ふーん、もうすぐ選挙か」
 マイコがタイショー・ロボとの会話に夢中になるあまり、置き去りの気分をスシとともに味わうシドがテレビ・ニュースを観ながらこぼす。
「選挙なんて外国人の私たちには関係ないわよ。市民権もないし」
 マイコはまったく政治に関心を持たなかった。政治による変革のインパクトより技術による変革のそれのほうが大きいとも考えていた。
「選挙…」そう発音しながらシドは鼻を抑えた。スシネタに隠れたワサビの独特な辛味が鼻先を刺激したのだ。
 シドが彼の鼻を刺すワサビの辛さにうずくまるのをみてマイコは微笑した。
「シドは子供っぽいからね。スシでもワサビでも経験していかなきゃね」
「ちぇっ」
 マイコがからかうのを受け流しながら、シドは頭の中で幾つかのシミュレーションをしていた。選挙の成り行き次第では動き方が変わってくる。友人と二人で始めた政治活動のことだ。今度こそ本気でやるぞ。
 バイトをして、息抜きにスシを食べるような気楽な生活も彼にしてみたら仮初めのものでしかないのだ。
 二人がスシを楽しんでいる間に、外では雨が降ったようだ。道路に水溜まりが出来ていた。
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