ダークエース 国籍なき英雄

千田 陽斗(せんだ はると)

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南国に異変あり

南国・はぐれ者・二人

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 シドが倒れた。生まれつき抱えていた病気の発作で、仕事中に意識をなくしてしまったのだ。ちなみにトゥワイオここに来てからははじめてのことであった。
 シドは救急車で病院に運ばれ、処置を受けた。幸い命に別条はなく、しばらく安静ののち帰宅してもよしと判断された。
 バイト仲間のナンシーから事情を聞かされたマイコは、大慌てで見舞いに向かった。
「あのはシドの恋人なの?まったく妬けるわね」ナンシーがマイコの背中を見送りながら言った。

「心配したわよ」二〇分ほどしてマイコは病院に到着した。シドは点滴をされた状態でベッドに横たわっていた。目は覚めていて意識ははっきりとしているようだ。
「店からピザを持ってきたけど、食べれそう?」病人を見舞うための食べ物としては、脂っ気の多いそれは不向きではないかとマイコはあとになって思い直したが、いち早く病に倒れた彼に何か回復に役立ちそうなものを届けたかったのだ。
「ありがとう。あとで食べるよ。それより…」
 シドは、その細い腕に点滴針が刺さっていることにも気付かずに、起き上がろうとしてて、よろめいた。そして派手に転倒した。腕から点滴針が
はずれ、血が滲み出した。
 マイコはあわててナース・コールのボタンを押した。駆け付けた医師が手早くシドをベッドに戻し、点滴針をその腕に刺して固定し直した。
 シドは悔しそうに言った。
「みんなのために頑張りたいと思って、ちょっと徹夜しただけでこのザマだ。ちくしょう」
「シド、事情はよく分からないけど、焦らないで」
 なだめるマイコ。シドは呼吸を少し荒くしながら返す。 
「焦らるな、なんて無理だよ。僕は生まれつき身体が弱かった…!医者の勉強をしながら悟ったよ。自分の身体がどれぐらいもつのか…!僕は長くは生きられないよ…!だから…」
 シドは医者の家庭に生まれ、医者を継ぐことを決められていた。彼が虚弱体質であることを知りながら彼の父はシドが医者になり家業を継ぐことだけを願った。長くはない人生を親の決めた通りに生きるくらいならと家を飛び出し、国をも飛び出した。シドは自分の生涯を捧げるべきものを、トゥワイオこの国で見いだしつつあった。

国を飛び出し、何かを探してさ迷うのはマイコとて同じであった。本国では人工知能の研究者として知られていた彼女だったが、シンギュラリティを歓迎し人工知能を人間と対等に扱うべしと言うその主張は、慎重派や宗教保守から大反発を食らったのだ。
「私はコンピュータ・オタクだから友達があまりいないのよ。シド、あなたは数少ない私の人間の友達。無理しないで」
「友達か。友達以上になってくれって言ったら?」
 弱々しく差し出され手を、もうひとつの手が握り返した。
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