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内乱
ウーゾイル共和国内乱 五
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民家の離れの小屋に軟禁状態にされたアンセルムとカンタンのもとに、訪問者がやって来た。戦いを終えたばかりのツチラトだ。
「水浴びしてきたら冷えるわ」そう言いながらも、生まれながらの戦士の肌からは、いくら水でながしても拭えない血の臭いがしていた。
遠くから感じられた、殺し合いの気配に圧されて黙る青年たちに気まぐれな戦士は意外なひとことを放った。
「お前ら逃げたいだろ」
それは、この計画のどす黒い部分を知ってしまった青年ふたりの本心を言い当てた。
「そうなんです。こんなおおごとになるとは思いませんでしたよ」
アンセルムは思わず心を開く。
「そうだろう?青年たちは待ってくれている人はいるのかな」
アンセルムたちからしたら、このツチラトと言う人物はわるい人間には思えなかった。たとえ殺戮者の顔を隠していても、ふたりからしたら気さくな男に見えた。
ツチラトはふたりの言葉にしない気持ちを読んだ。剣を抜けば殺人鬼に変身するくせに、相手の気持ちを読む共感能力には、あんがい長けていた。いや、彼にしてみたら戦士としてのかずかずの戦果はその能力があればこそだというだろう。
「逃げたい気持ちもあるが、なにかを惜しんでいる。そう、おまえらは報酬をもらっていない。できるならばタダでは帰りたくない。俊巡しておるのだな」
その通りです、と言わんばかりのふたりの眼前に、ツチラトは袋からいくつかの貴金属を取り出してみせた。宝石のついた指輪やネックレス、時計に方位磁石もあった。
「それはいったい?」
カンタンは貴金属のかがやきに目を見張った。
「かつて女たちから貢いでもらったものだが、君たちにやるよ。その日暮らしの剣士には荷物になってしまうからな」
ツチラトは、その貴金属を金にするもよし、財産にするもよし、これを報酬かわりにして、心置きなく脱走しろと告げた。そして自分の計画を優先してふたりを閉じ込めて気遣いもないボドワンたちを罵った。
「ったく、あいつらときたら狂信者もいいとこだぜ。死んだ皇帝の権威を復活させて新しい政治体制をつくるだとよ」
「よく考えたら、この国は新しい技術開発を急ぎ近代化の礎を築こうとしています。逆コースを歩む必要なんてないのに…」
アンセルムはふいに、事情を俯瞰的に理解した。
しかし、ツチラトは舌打ちをしてこう言った。
「ところがどっこい、この国の技術開発ってのも怪しいもんだぜ?こないだ開発中の飛行船が大事故を起こしただろう?」
「はい。たしかモカケ社でしたね?」
カンタンが、はっと思い出す。ごみ箱から拾った新聞にそんな記事があった気がしたのだ。
「あの会社の社長が政府の偉いやつらと知り合いでさ、それで責任を免れたらしい。死者も出ているのになんてこった」
ツチラトは大袈裟に両腕を広げあきれたような仕草をしてみせた。
「そのモカケ社も、実績なしの即席会社で、政府関係者のお友だちにに利益を分配するためだけに作られたようなものだと聞きました。そう考えると、不公正きわまりない話ですね」
若者らしく、アンセルムは政治の話を意識にのぼらせたことがなかったが、はじめて市民意識のようなものを自分のなかに意識した。そしてそれはカンタンもおなじだった。
「ふん、政府の連中が国民を無視してなにが民主主義か。軍人のゴーチエなどは、腐った政府のやり方に従う気をなくして、わざと狂信者どもの味方をしていると言っておったぞ!」
ツチラトは彼の長髪をかき上げつつ、嘲笑した。ひととおり話し終えるとツチラトは、こっそりとふたりを小屋の外に出して、逃がした。
「水浴びしてきたら冷えるわ」そう言いながらも、生まれながらの戦士の肌からは、いくら水でながしても拭えない血の臭いがしていた。
遠くから感じられた、殺し合いの気配に圧されて黙る青年たちに気まぐれな戦士は意外なひとことを放った。
「お前ら逃げたいだろ」
それは、この計画のどす黒い部分を知ってしまった青年ふたりの本心を言い当てた。
「そうなんです。こんなおおごとになるとは思いませんでしたよ」
アンセルムは思わず心を開く。
「そうだろう?青年たちは待ってくれている人はいるのかな」
アンセルムたちからしたら、このツチラトと言う人物はわるい人間には思えなかった。たとえ殺戮者の顔を隠していても、ふたりからしたら気さくな男に見えた。
ツチラトはふたりの言葉にしない気持ちを読んだ。剣を抜けば殺人鬼に変身するくせに、相手の気持ちを読む共感能力には、あんがい長けていた。いや、彼にしてみたら戦士としてのかずかずの戦果はその能力があればこそだというだろう。
「逃げたい気持ちもあるが、なにかを惜しんでいる。そう、おまえらは報酬をもらっていない。できるならばタダでは帰りたくない。俊巡しておるのだな」
その通りです、と言わんばかりのふたりの眼前に、ツチラトは袋からいくつかの貴金属を取り出してみせた。宝石のついた指輪やネックレス、時計に方位磁石もあった。
「それはいったい?」
カンタンは貴金属のかがやきに目を見張った。
「かつて女たちから貢いでもらったものだが、君たちにやるよ。その日暮らしの剣士には荷物になってしまうからな」
ツチラトは、その貴金属を金にするもよし、財産にするもよし、これを報酬かわりにして、心置きなく脱走しろと告げた。そして自分の計画を優先してふたりを閉じ込めて気遣いもないボドワンたちを罵った。
「ったく、あいつらときたら狂信者もいいとこだぜ。死んだ皇帝の権威を復活させて新しい政治体制をつくるだとよ」
「よく考えたら、この国は新しい技術開発を急ぎ近代化の礎を築こうとしています。逆コースを歩む必要なんてないのに…」
アンセルムはふいに、事情を俯瞰的に理解した。
しかし、ツチラトは舌打ちをしてこう言った。
「ところがどっこい、この国の技術開発ってのも怪しいもんだぜ?こないだ開発中の飛行船が大事故を起こしただろう?」
「はい。たしかモカケ社でしたね?」
カンタンが、はっと思い出す。ごみ箱から拾った新聞にそんな記事があった気がしたのだ。
「あの会社の社長が政府の偉いやつらと知り合いでさ、それで責任を免れたらしい。死者も出ているのになんてこった」
ツチラトは大袈裟に両腕を広げあきれたような仕草をしてみせた。
「そのモカケ社も、実績なしの即席会社で、政府関係者のお友だちにに利益を分配するためだけに作られたようなものだと聞きました。そう考えると、不公正きわまりない話ですね」
若者らしく、アンセルムは政治の話を意識にのぼらせたことがなかったが、はじめて市民意識のようなものを自分のなかに意識した。そしてそれはカンタンもおなじだった。
「ふん、政府の連中が国民を無視してなにが民主主義か。軍人のゴーチエなどは、腐った政府のやり方に従う気をなくして、わざと狂信者どもの味方をしていると言っておったぞ!」
ツチラトは彼の長髪をかき上げつつ、嘲笑した。ひととおり話し終えるとツチラトは、こっそりとふたりを小屋の外に出して、逃がした。
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