アンデッド・ロイヤル

千田 陽斗(せんだ はると)

文字の大きさ
11 / 21
内乱

ウーゾイル共和国内乱 五

しおりを挟む
 民家の離れの小屋に軟禁状態にされたアンセルムとカンタンのもとに、訪問者がやって来た。戦いを終えたばかりのツチラトだ。
「水浴びしてきたら冷えるわ」そう言いながらも、生まれながらの戦士の肌からは、いくら水でながしても拭えない血の臭いがしていた。
 遠くから感じられた、殺し合いの気配に圧されて黙る青年たちに気まぐれな戦士は意外なひとことを放った。
「お前ら逃げたいだろ」
 それは、この計画のどす黒い部分を知ってしまった青年ふたりの本心を言い当てた。
「そうなんです。こんなおおごとになるとは思いませんでしたよ」
 アンセルムは思わず心を開く。
「そうだろう?青年たちは待ってくれている人はいるのかな」
 アンセルムたちからしたら、このツチラトと言う人物はわるい人間には思えなかった。たとえ殺戮者の顔を隠していても、ふたりからしたら気さくな男に見えた。
 ツチラトはふたりの言葉にしない気持ちを読んだ。剣を抜けば殺人鬼に変身するくせに、相手の気持ちを読む共感能力には、あんがい長けていた。いや、彼にしてみたら戦士としてのかずかずの戦果はその能力があればこそだというだろう。
「逃げたい気持ちもあるが、なにかを惜しんでいる。そう、おまえらは報酬をもらっていない。できるならばタダでは帰りたくない。俊巡しておるのだな」
 その通りです、と言わんばかりのふたりの眼前に、ツチラトは袋からいくつかの貴金属を取り出してみせた。宝石のついた指輪やネックレス、時計に方位磁石もあった。
「それはいったい?」
 カンタンは貴金属のかがやきに目を見張った。
「かつて女たちから貢いでもらったものだが、君たちにやるよ。その日暮らしの剣士おとこには荷物になってしまうからな」
 ツチラトは、その貴金属を金にするもよし、財産にするもよし、これを報酬かわりにして、心置きなく脱走しろと告げた。そして自分の計画を優先してふたりを閉じ込めて気遣いもないボドワンたちを罵った。
「ったく、あいつらときたら狂信者もいいとこだぜ。死んだ皇帝の権威を復活させて新しい政治体制をつくるだとよ」
「よく考えたら、この国は新しい技術開発を急ぎ近代化の礎を築こうとしています。逆コースを歩む必要なんてないのに…」
 アンセルムはふいに、事情を俯瞰的に理解した。
 しかし、ツチラトは舌打ちをしてこう言った。 
「ところがどっこい、この国の技術開発ってのも怪しいもんだぜ?こないだ開発中の飛行船が大事故を起こしただろう?」
「はい。たしかモカケ社でしたね?」
 カンタンが、はっと思い出す。ごみ箱から拾った新聞にそんな記事があった気がしたのだ。
「あの会社の社長が政府の偉いやつらと知り合いでさ、それで責任を免れたらしい。死者も出ているのになんてこった」
 ツチラトは大袈裟に両腕を広げあきれたような仕草をしてみせた。
「そのモカケ社も、実績なしの即席会社で、政府関係者のお友だちにに利益を分配するためだけに作られたようなものだと聞きました。そう考えると、不公正きわまりない話ですね」
 若者らしく、アンセルムは政治の話を意識にのぼらせたことがなかったが、はじめて市民意識のようなものを自分のなかに意識した。そしてそれはカンタンもおなじだった。
「ふん、政府の連中が国民を無視してなにが民主主義か。軍人のゴーチエなどは、腐った政府のやり方に従う気をなくして、わざと狂信者どもの味方をしていると言っておったぞ!」
 ツチラトは彼の長髪をかき上げつつ、嘲笑した。ひととおり話し終えるとツチラトは、こっそりとふたりを小屋の外に出して、逃がした。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...