アンデッド・ロイヤル

千田 陽斗(せんだ はると)

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内乱

ウーゾイル共和国内乱 六

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「やあ、ツチラトくん、元気かね」
 青年たちを逃がした直後に、ツチラトを訪ねてきたのは毒舌家のガナムだった。ガナムの白髪混じりの頭には回転の早い脳みそが詰まっていて、良家の三男坊のククパスの人脈を利用しながら、影ながらこの反逆を支援している。
 ツチラトは、あのふたりを逃がしたことが早くも老獪な男に嗅ぎ付けられたのかと疑い、鎌をかけてみたがどうやら違っていた。
「そんな青年もいたかもしらんが、わしの与り知ることではない」
「では何か用でもあるのか」
「ツチラトよ。北の凍れる大地で生まれし戦士であるお主と政治談義がしたいのじゃ」 
 ツチラトは、ウーゾイル共和国よりも北に位置する凍れる大地の国カプランメの生まれだった。ちなみに彼の信仰する宗教は、普遍宗教のコマ教と、カプランメ地方に伝わる自然神信仰が合わさったもので、現世にある一切は最高神コマネチのもとから生まれ、ふたたびそこに帰るための生まれ変わりの旅をしていると考えるものである。
「政治談義ねえ。おれ古里を離れいろんな国で近代民主主義の闇ってやつを見てきたよ」 
 ガナムは熱い茶を淹れながら、重くつぶやく。
「闇か」
「そう。俺の稼業は傭兵、まあ殺し屋みたいな部分もある。内実は権力が己を保持するための暴力装置だ」
「わかるぞ。わしは新聞に民主主義批判を書いた。民主主義とはきれいごとだけでは成立せん。その闇の部分を書いたら仕事がなくなった」
「狂信者の味方をする以外の仕事が、だろ」
 ツチラトがきついジョークを言うと、ガナムも苦笑いをする。
「古代の民主主義はポリスに参加する者が武器をとり自衛して営むものだった」
 ツチラトが教養をひけらかすと、ガナムも競うように言を重ねた。
「いまも似たような考えはある。人民の人民による人民のための政治。これが成立するためには四の五の言わず国防だろうがなんだろうが公的な営みに参加するものがいなければならん。でなければ自由をも守れんじゃろうて」
 民主主義の逆説的な弱点について敏感でありながら、国家主義的自由主義者とでも言うべき複雑なガナムの議論は、王政時代を全否定しながら、大衆化してゆくウーゾイル共和国民に伝わらなくなっていた。ガナムは大衆化する民を軽蔑し、いっそ王政復古主義の味方のふりをしながら、この共和国の行く末を傍観してやろうと言う気になっていた。
 人民の人民のによる人民のための政治。ガナムが引用したこのフレーズをツチラトは改変した。
「俺に言わせれば、剣士おとこ剣士おとこによる剣士おとこのための政治。これが理想なんだがな」
 苦い茶をすすりながら、ツチラトは未だ見ぬ理想の国を思い描いた。
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