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コンビニ転生はあるのか?

チートの人生だと?

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 町の一角に建てられたその四角のコンビニの建物には、規則的な人の出入りが見られ、滞りなく日常をまわしていた。
 
 平成の初期なら、コンビニの前でたむろするやんちゃな若者の姿も見受けられ、ちょっとした遊び場だったが、今ではすっかり老若男女が通う安心安全な場所になっている。

 アメはコンビニ専用のアプリを起動した。
「クーポンでかぼちゃプリンがお得。これ買おう」
「買い物ついでにイナゴくんに声かけちゃおう」
 
  イナゴはまだ新人らしく、胸には「新人」と書かれた札が貼られていて、先輩のネパール人から仕事を教わっていた。

 アメは余計な買い物をしてしまうたちだ。かぼちゃプリンの他にスナック菓子も手に取った。
 ハレは、毎月買ってる雑誌だけを手に取る。

「二八三円になります」 

 イナゴは、不馴れな手つきでかぼちゃプリンとスナック菓子のバーコードをスキャンし、袋に入れ、お会計を受けとる。
 
「は、ハロー。イナゴくんだよね?うちらも若林高校の者どすが…?あれ?」
「アメちゃん、なにその言い方。あ、イナゴくん、はじめまして。いろいろと聞きたいことがあるんだけどいいカナ?」

 イナゴはちょっと顔を赤らめた。まさかこんなとこで同じ高校の女子ふたりから声をかけられようとは。
 
「と、とつぜんなんすか?仕事終わったら時間はとれますけど……」

 イナゴの仕事が終わった。ふたりは帰路を歩きながら
イナゴに事情を話した。

「い、いやあ、おれ最近入ったばかりで、よくわかんないんだよね。前の店長のこととか」

「イナゴくん!でもさ、知りたくない?その店長が異世界で転生してたら?理由とか」

「譲原さん?おれも転生ものの小説とか読むけど、それって現実なの?なんか怪しいと思うけどな」

「わたし譲原アメは信じます!店長さんは異世界に転生して幸せに暮らしてるって」

「そう、さいきん、そんなウワサが多いのよ。絶対にないなんて言い切れないと思うわ」

 三人の間を夏のぬるい風が通り抜けた。
 ハレは祖父がよく言っていた話を思い出す。
「ぬるい風を感じるときは幽霊が通りすぎた証拠じゃ」

 イナゴはあきれた顔を浮かべた。
「さっきから聞いてれば転生、転生ってさ。譲原さんと真田さんはそんなに現実逃避したいの?おれは大学に入るために、ちょっとでもお金を貯めて、勉強して、現実しか見る余裕ないんだけど」

 アメは唇を尖らせる。
「大学行ってどうすんの?その先は?イナゴくんさ、うちらは今しかないんだよ。だからうちらは異世界転生の謎を解き明かすっていう青春に賭けてるんだけど」

「ばかげてる!賭けるんだったらもっと堅実な賭けしろよ。大学入ったら?決まってんだろ。大卒のほうが人生いろいろと有利、それだけだよ!」
「ふーん、大学に行ったところで、しょせんチートの人生歩みたいだけなんだー」
「アメちゃんもさ、言い過ぎだよ……」

けっきょくアメとイナゴの言い合いだけで、その日は終わってしまった。
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