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第二章 旅立ち
8.白い花
村を立ってから早三日、バルザックは整備なんてされてもいないあぜ道のような道をのんびりと歩いていた。
タルポ村の付近はこれと言って名所は無い。
畑が続き、所々にささやかな果樹園がある程度であり三日も歩けばそれも無くなる。
爽やかな春風が吹けば路肩の花や木々が騒めき、エールを送るようにバルザックの背中を押す。
特筆すべきも無い、平凡で実に普通な平原を歩くモノ好きはバルザックだけだ。
最寄りの町まで徒歩五日といった所だが、それを実行する者は誰もいない。
タルポ村の者達も、町に用事があれば週に一度訪れる行商人に手間賃を払い、荷馬車の一角を借りて移動するのが常だ。
道を歩いていても、唐突に襲ってくるような獰猛なモンスターはあまりいない。
出たとしても低級のモンスターくらいなので対処は容易い。
タルポ村に出入りする行商人も元は冒険者であり、護衛を雇う必要がないくらいの実力は持ち合わせていた。
だからこそタルポ村の住人も、安心して荷馬車に乗って移動出来るのである。
「のどかだな」
バルザックは倒木に腰を下ろし、大きな背負い袋を地面に下ろした。
腰に下げていた水袋に口をつけ一口飲んで喉を潤す。
「前も後ろも左も右も、何も無い平原。フッ、まるで今の俺のようだな」
目的はあるにしろ、鋼の剣一本のみを携えて右も左も分からない王都へ行く。
その事と周囲の情景を重ね、バルザックはニヤリとほくそ笑む。
村は平原に楔を打ち、小屋を建て、道を作る。そこに人が集まり建物が増え段々と発展していく。
人は知識を得て経験を積み、仲間を集め実力を付けて成長していく。
そこに概念の差はあれど工程にあまり差異はない。
バルザックはそう思っていた。
「いつか俺にもパーティや家族のような存在が出来るのだろうか。あまり自信がないな」
バルザックは、目の前で可愛らしく揺れる小さな白い花を見ながら軽くため息を吐いた。
実の所彼は自分の感情を表に出すのが苦手だった。
それゆえ村の者達からはいつでも沈着冷静で、歳不相応な落ち着きがある、とよく言われたものだった。
歳の近い女子からアプローチされたとて、対応が分からずとりあえず微笑んでいれば、向こうが勝手に解釈してきゃいきゃいと黄色い声が上がる。
バルザックとて思春期真っ盛りな歳であり、内々に秘めた思いや悩みもそれなりにあった。
家族の中は悪くなかったし、反抗期という概念すら彼の中には存在していない。
だがバルザックの不器用さを理解している者はおらず、深く関わろうとしてくる事もないので気付く事もない。
それが彼に少しだけもの寂しさを感じさせていた。
ただ何となくではあるが、このままでは駄目だ、という妙な焦燥感を覚えていた。
村を出た要因の一つにそれが無いと言えば嘘になるだろう。
過去に何度も村を離れることを想像したことがあったが、現実となった今の心細さは想像以上だった。
そよ風と戯れる白い花を見下ろしながら、自分が本当に求めていたものは何だったのかを考え込む。
誰かと繋がりたいという気持ちが、内心のどこかにずっと存在していたのだろうか? と。
バルザックは村を出た瞬間から、心の奥底に僅かな寂しさが芽生えているのを感じていた。
これまで見たこともない景色、知らない鳥の鳴き声、風の匂いも違う。
バルザックは歩きながら、これまでの自分の殻を破ることこそが、本当の意味での「成長」なのかもしれないと考えていた。
村の者達は彼の静かさや冷静さを好意的に捉えてくれていたが、それはあくまで表面を見てのこと。
自分が本当は何を求めているのか――それを知るためには、自分自身と向き合わなければならない。
「行くか」
腰を上げ軽く伸びをした後に昼下がりの陽の元、干し肉を齧りつつ歩き始める。
近くを流れる小川の水の流れる音に耳を傾けながら、のんびりと道を行くのだ。
タルポ村の付近はこれと言って名所は無い。
畑が続き、所々にささやかな果樹園がある程度であり三日も歩けばそれも無くなる。
爽やかな春風が吹けば路肩の花や木々が騒めき、エールを送るようにバルザックの背中を押す。
特筆すべきも無い、平凡で実に普通な平原を歩くモノ好きはバルザックだけだ。
最寄りの町まで徒歩五日といった所だが、それを実行する者は誰もいない。
タルポ村の者達も、町に用事があれば週に一度訪れる行商人に手間賃を払い、荷馬車の一角を借りて移動するのが常だ。
道を歩いていても、唐突に襲ってくるような獰猛なモンスターはあまりいない。
出たとしても低級のモンスターくらいなので対処は容易い。
タルポ村に出入りする行商人も元は冒険者であり、護衛を雇う必要がないくらいの実力は持ち合わせていた。
だからこそタルポ村の住人も、安心して荷馬車に乗って移動出来るのである。
「のどかだな」
バルザックは倒木に腰を下ろし、大きな背負い袋を地面に下ろした。
腰に下げていた水袋に口をつけ一口飲んで喉を潤す。
「前も後ろも左も右も、何も無い平原。フッ、まるで今の俺のようだな」
目的はあるにしろ、鋼の剣一本のみを携えて右も左も分からない王都へ行く。
その事と周囲の情景を重ね、バルザックはニヤリとほくそ笑む。
村は平原に楔を打ち、小屋を建て、道を作る。そこに人が集まり建物が増え段々と発展していく。
人は知識を得て経験を積み、仲間を集め実力を付けて成長していく。
そこに概念の差はあれど工程にあまり差異はない。
バルザックはそう思っていた。
「いつか俺にもパーティや家族のような存在が出来るのだろうか。あまり自信がないな」
バルザックは、目の前で可愛らしく揺れる小さな白い花を見ながら軽くため息を吐いた。
実の所彼は自分の感情を表に出すのが苦手だった。
それゆえ村の者達からはいつでも沈着冷静で、歳不相応な落ち着きがある、とよく言われたものだった。
歳の近い女子からアプローチされたとて、対応が分からずとりあえず微笑んでいれば、向こうが勝手に解釈してきゃいきゃいと黄色い声が上がる。
バルザックとて思春期真っ盛りな歳であり、内々に秘めた思いや悩みもそれなりにあった。
家族の中は悪くなかったし、反抗期という概念すら彼の中には存在していない。
だがバルザックの不器用さを理解している者はおらず、深く関わろうとしてくる事もないので気付く事もない。
それが彼に少しだけもの寂しさを感じさせていた。
ただ何となくではあるが、このままでは駄目だ、という妙な焦燥感を覚えていた。
村を出た要因の一つにそれが無いと言えば嘘になるだろう。
過去に何度も村を離れることを想像したことがあったが、現実となった今の心細さは想像以上だった。
そよ風と戯れる白い花を見下ろしながら、自分が本当に求めていたものは何だったのかを考え込む。
誰かと繋がりたいという気持ちが、内心のどこかにずっと存在していたのだろうか? と。
バルザックは村を出た瞬間から、心の奥底に僅かな寂しさが芽生えているのを感じていた。
これまで見たこともない景色、知らない鳥の鳴き声、風の匂いも違う。
バルザックは歩きながら、これまでの自分の殻を破ることこそが、本当の意味での「成長」なのかもしれないと考えていた。
村の者達は彼の静かさや冷静さを好意的に捉えてくれていたが、それはあくまで表面を見てのこと。
自分が本当は何を求めているのか――それを知るためには、自分自身と向き合わなければならない。
「行くか」
腰を上げ軽く伸びをした後に昼下がりの陽の元、干し肉を齧りつつ歩き始める。
近くを流れる小川の水の流れる音に耳を傾けながら、のんびりと道を行くのだ。
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