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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー
二三九話 影武者
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「思い当たる節がある。ちょっと待っててくれ」
「フィガロ?」
シャルルの返事に応じることもなく、窓のヘリに足をかけ空中に飛び出す。
フライを発動させ、つい先程出会ったばかりの人物に力を借りるべく飛翔する。
「すいません影さん!」
「ひぎゃあ! どこから現れたのですか! 驚かすのはやめて頂けませんか!?」
ロンシャン連邦国王女の影武者が隠れている塔へ辿り着き、窓から入るなり声を掛けたのだが、やはり影さんは部屋の隅で縮こまっていた。
俺が来た事に驚いたらしく、勢いよく飛び上がって捲し立てられた。
「申し訳ございません、急ぎお力をお借りしたく参りました」
「私に……? 構わないけど……その前にあの方を退かして頂けませんか? 配下の兵が来ても入口から動かずにいる次第で……お力を貸すとしてもいちど階下にいる兵にその旨を伝えねばなりません」
影さんはそう言って入口に座り込んでいる強化兵を顎でしゃくった。
なるほど、確かに誰もいれるなとは伝えたが、ロンシャン兵までお断りするとは思わなかった。
「ブラック、もういいぞ」
俺の指示により強化兵がのそりと立ち上がり、鎧の音を響かせながら横に退いた。
影さんの目ががあるため、思念でのやりとりと言葉を併用しての指示を飛ばした。
ブラックというのは今咄嗟に考えた便宜上の名前であり、由来は勿論彼の黒髪からだ。
相変わらずセンスが壊滅的だな。
考えてみれば強化兵達の正式な名前を俺は知らない、トムはどうやら数字で呼んでいたようだが、どうにもモノ扱いしている感じがして抵抗があるのだ。
「ありがとうございます、では行きましょう」
「え、私もですか?」
「当たり前です。今は戦火の中、他国の御仁にひょいひょいついて行っては配下の者に迷惑をかけてしまいます」
「あぁ確かに。では」
さっさか部屋を出て塔を下り出す影さんの後を追い、ブラックと共に階段を降りていった。
「あなたは……!」
「あ、どうも、先程は」
階段を下り終えると一階で槍を携えていた兵に声をかけられ、軽い会釈をして通り過ぎる。
俺がこの塔に飛び込んだ際、上階にいる存在の事を伝えようとしてくれた兵だった。
塔から出るとアストラがおり、その後ろに三人の強化兵が不動の姿勢で立っていた。
「王女殿下! ご無事でしたか! それにフィガロ様も!」
「皆のおかげです。本当にありがとう、アストラも無事でよかったわ。フィガロ様とは顔見知りのようね? 話が早いわ。どうやらフィガロ様は我らの力を借りたいようなのだけど……構わないかしら」
「は! フィガロ様にはご助力の恩もあります。出来る事ならなんなりと」
塔の下にはおそよ二、三〇人ほどのロンシャン連邦兵がいたが、その誰もが協力的な眼差しを向けてくれた。
他のロンシャン連邦兵は、周囲の警戒や死体の処理などで忙しそうだ。
「あちらの塔にランチア魔導王朝第一王女、シャルルヴィル殿下がいらっしゃいます。ご同行願えますでしょうか」
「分かりました、参りましょう」
「我らもお供します」
影さんはスカートを翻して俺の横に並び、その後ろにアストラ達兵士が続く形となった。
ブラック以下強化兵達は、俺の後ろで次の命令を待っている状態だ。
地面が吸いきれずに溜まった血溜まりを避けつつ、シャルルの元へと急ぎ走る。
「フィガロ様、私が影武者という事はどうかご内密に。どこに間諜が潜んでいるか分かりませんから」
「分かりました」
影さんは念を押すように俺へ耳打ちをし、意味深な笑顔を浮かべた。
歳の頃は恐らく二〇歳から二五歳の間だろう。
背は高くもなく低くもないが、少なくとも俺よりは高い。
背の順で言えばシャルル<俺<影さんといったところか。
「失礼ですが、本物の王女殿下はどこに?」
「国家機密です」
「なるほど、了解」
「了解、だなんて風来坊の冒険者みたいな返事をするのね」
「ええ、何しろ風来坊の冒険者ですからね」
「やだ……私ったらごめんなさい。悪口のつもりじゃないの、許して?」
首に下げている等級タグをチラ見せしながら答えると、俺の返答が意外だったのか、影さんは目を白黒させながら口に手を当てて笑った。
「かまいませんよ。その日暮らしの風来坊は事実ですから」
「それで、その風来坊さんがどうしてランチア魔導王朝の王家の印を所持しているのかしら? 私はとっても興味があります」
「あはは……痛い所を突いてきますね。おいおいお話致しますよ、王女殿下」
「今は教えてくれないのね」
「国家機密ですから」
「ふふ、お上手ね」
血の匂いで満たされた群塔広場を走り抜けながら、情報戦のやり取りを終えると丁度シャルル達の待つ塔下へと辿り着いた。
「あなたは……! 貴方はまさか! 英雄フィガロ殿ではありませんか!」
「えっと……? 名前は合ってますけど……貴方は? ランチアの兵士さん、ですよね?」
塔の入口の前には数十人の兵士達が座り込んでおり、みながランチア魔導王朝の紋章が刻まれた甲冑を着装していた。
「フィガロ?」
シャルルの返事に応じることもなく、窓のヘリに足をかけ空中に飛び出す。
フライを発動させ、つい先程出会ったばかりの人物に力を借りるべく飛翔する。
「すいません影さん!」
「ひぎゃあ! どこから現れたのですか! 驚かすのはやめて頂けませんか!?」
ロンシャン連邦国王女の影武者が隠れている塔へ辿り着き、窓から入るなり声を掛けたのだが、やはり影さんは部屋の隅で縮こまっていた。
俺が来た事に驚いたらしく、勢いよく飛び上がって捲し立てられた。
「申し訳ございません、急ぎお力をお借りしたく参りました」
「私に……? 構わないけど……その前にあの方を退かして頂けませんか? 配下の兵が来ても入口から動かずにいる次第で……お力を貸すとしてもいちど階下にいる兵にその旨を伝えねばなりません」
影さんはそう言って入口に座り込んでいる強化兵を顎でしゃくった。
なるほど、確かに誰もいれるなとは伝えたが、ロンシャン兵までお断りするとは思わなかった。
「ブラック、もういいぞ」
俺の指示により強化兵がのそりと立ち上がり、鎧の音を響かせながら横に退いた。
影さんの目ががあるため、思念でのやりとりと言葉を併用しての指示を飛ばした。
ブラックというのは今咄嗟に考えた便宜上の名前であり、由来は勿論彼の黒髪からだ。
相変わらずセンスが壊滅的だな。
考えてみれば強化兵達の正式な名前を俺は知らない、トムはどうやら数字で呼んでいたようだが、どうにもモノ扱いしている感じがして抵抗があるのだ。
「ありがとうございます、では行きましょう」
「え、私もですか?」
「当たり前です。今は戦火の中、他国の御仁にひょいひょいついて行っては配下の者に迷惑をかけてしまいます」
「あぁ確かに。では」
さっさか部屋を出て塔を下り出す影さんの後を追い、ブラックと共に階段を降りていった。
「あなたは……!」
「あ、どうも、先程は」
階段を下り終えると一階で槍を携えていた兵に声をかけられ、軽い会釈をして通り過ぎる。
俺がこの塔に飛び込んだ際、上階にいる存在の事を伝えようとしてくれた兵だった。
塔から出るとアストラがおり、その後ろに三人の強化兵が不動の姿勢で立っていた。
「王女殿下! ご無事でしたか! それにフィガロ様も!」
「皆のおかげです。本当にありがとう、アストラも無事でよかったわ。フィガロ様とは顔見知りのようね? 話が早いわ。どうやらフィガロ様は我らの力を借りたいようなのだけど……構わないかしら」
「は! フィガロ様にはご助力の恩もあります。出来る事ならなんなりと」
塔の下にはおそよ二、三〇人ほどのロンシャン連邦兵がいたが、その誰もが協力的な眼差しを向けてくれた。
他のロンシャン連邦兵は、周囲の警戒や死体の処理などで忙しそうだ。
「あちらの塔にランチア魔導王朝第一王女、シャルルヴィル殿下がいらっしゃいます。ご同行願えますでしょうか」
「分かりました、参りましょう」
「我らもお供します」
影さんはスカートを翻して俺の横に並び、その後ろにアストラ達兵士が続く形となった。
ブラック以下強化兵達は、俺の後ろで次の命令を待っている状態だ。
地面が吸いきれずに溜まった血溜まりを避けつつ、シャルルの元へと急ぎ走る。
「フィガロ様、私が影武者という事はどうかご内密に。どこに間諜が潜んでいるか分かりませんから」
「分かりました」
影さんは念を押すように俺へ耳打ちをし、意味深な笑顔を浮かべた。
歳の頃は恐らく二〇歳から二五歳の間だろう。
背は高くもなく低くもないが、少なくとも俺よりは高い。
背の順で言えばシャルル<俺<影さんといったところか。
「失礼ですが、本物の王女殿下はどこに?」
「国家機密です」
「なるほど、了解」
「了解、だなんて風来坊の冒険者みたいな返事をするのね」
「ええ、何しろ風来坊の冒険者ですからね」
「やだ……私ったらごめんなさい。悪口のつもりじゃないの、許して?」
首に下げている等級タグをチラ見せしながら答えると、俺の返答が意外だったのか、影さんは目を白黒させながら口に手を当てて笑った。
「かまいませんよ。その日暮らしの風来坊は事実ですから」
「それで、その風来坊さんがどうしてランチア魔導王朝の王家の印を所持しているのかしら? 私はとっても興味があります」
「あはは……痛い所を突いてきますね。おいおいお話致しますよ、王女殿下」
「今は教えてくれないのね」
「国家機密ですから」
「ふふ、お上手ね」
血の匂いで満たされた群塔広場を走り抜けながら、情報戦のやり取りを終えると丁度シャルル達の待つ塔下へと辿り着いた。
「あなたは……! 貴方はまさか! 英雄フィガロ殿ではありませんか!」
「えっと……? 名前は合ってますけど……貴方は? ランチアの兵士さん、ですよね?」
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