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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー
二六五話 つかの間の休息
しおりを挟む「ま、そんなわけだからさ。よろしく頼むよ」
強化兵達の話を終えた所で、大部屋の方で誰かが起きた気配がした。
ホワイトとピンクはボロボロの使用人服をまとったまま、小部屋の外に待機させている。
本当は着替えさせてやりたいのだが、元の服は着替えをした部屋に置いてきてしまったので変えようが無い。
「自我を封じられているなら、脳に埋め込まれている術式を破壊してやれば……いやでも、どんな術式かがわからない事には……」
などと俺の背後でリッチモンドがブツブツと呟いているのが聞こえた。
どうやらリッチモンドの探究心に火をつけてしまったようだ。
もしかしたら強化兵達の記憶を取り戻す手立てを教えてくれるかも、と若干期待したが、どうやらリッチモンドにもわかりかねるシロモノだったらしい。
「ふわ……おはようフィガロ、リッチモンド……はれ? フィガロ……? フィガロ!?」
「おはようシャルル。よく眠れた?」
大部屋に戻ると、半分だけ目を開けたシャルルと鉢合わせた。
目覚めの挨拶をしたと同時に、俺のほっぺたがシャルルの手に思い切り挟み込まれた。
「フィガロ! おかえりおかえり! 心配させて! もう!」
「ぐぶえっ! ちょま、ごめんて! 痛い痛い!」
むにむにから始まり、グリグリ、ゴリゴリと俺の顔を弄る力がどんどん増して、最後の方は痛みしか感じなかった。
かと思えば、シャルルの小さな体が俺の胸にぶつかり、そこで初めて俺が抱きしめられていることに気付いた。
「心配したのよ! でも生きててくれて本当によかった!」
「ごめんごめん……でもほら、言ったろ? 君をお嫁さんにしてないから死ねないって」
「ああ言うのは不吉なのよ! 今度から絶対に言い方を改める事! いいわね!」
「はい! すみません!」
「よろしい!」
シャルルから香るのはいつものあの甘い香りでは無く、埃や土や煙の匂いだったが、抱きしめられている事には変わりなく、張り詰めていた心がゆるゆると解けていくのを感じた。
「朝っぱらから随分甘々してるじゃないの。目に毒よ? 私だってそんな甘々した事ないのに」
「へっヘカテーさん! 起きてたの? おはようございます」
「おはよシャルちゃん。リッチモンドさんも起こしてくれれば良かったのに……それとフィガロ様もおかえり」
いつの間に起きたのか、不満そうに口を尖らせたヘカテーが目を擦りながらやって来た。
腕に付けた時刻盤を見れば、そろそろ朝の七時になるところだった。
「そういえばリッチモンド、俺が渡した時刻盤はどうしたんだ?」
「あぁ、あれね。すっかり忘れていたよ、ちゃんと持ってるさ。ほら」
一瞬何のことだというような顔をしたリッチモンドだったが、数秒目を泳がせた後、ローブの内側をまさぐって細い鎖に繋がれた時刻盤を取り出して見せた。
「ほら、僕が腕に付けててもね。変異を解くと腕のサイズ変わっちゃうから、その度にしまうのが面倒で少し改造させてもらったのさ。そのおかげで時刻盤の存在をすっかり忘れていたけどね」
「本末転倒じゃないか」
「わるいね。でも昔はこういった装飾をする事も多かったんだよ? 懐中盤というのだけど……知らないよね」
「何よその時刻盤! 可愛いわねー! そんな小型の時刻盤なんて見た事無いわよ? ランチアには腕のいい職人が居るのかしら? あやかりたいわぁ」
リッチモンドが懐中盤を空中でプラプラと揺らしていると、ヘカテーが物珍しそうに上から下に表と裏と、しげしげと眺めて感嘆の声をあげた。
「そう言えばロンシャンには大きな時刻塔がいくつも立っていたね」
「ええ。ロンシャンにはそれがあるから、時刻盤の小型化はあまり進んでいないのよ。街のどこにいても時刻盤が見えるようになっているから必要無いと思っていたけど……これはこれで可愛いわねぇーアクセサリーにもピッタリよ」
確かにリッチモンドの言う通り、市街地からここに来るまで何本もの時刻塔を見かけた。
気にしている余裕なんて無かったから、言われるまで忘れていた。
「なら、この戦いが終わって無事に帰れた時、お一つお譲りしますよ」
「え!? いいの!? 太っ腹ね! ありがとう! そうと分かればこんな戦いさっさと終わらせるべきよ! アイツら全員ブッコロよブッコロ!」
「私まだ貰ってないのに……先にヘカテーさんにあげるんだーへぇーそうなんだー」
ガッツポーズをするヘカテーの横で、シャルルが思い切り不機嫌そうな顔と口調で俺を睨みつけた。
そういえばシャルルに時刻盤を渡すの忘れてた。
でもここで忘れてました、なんて言ったらどうなるか分かったもんじゃない。
「もっ! 勿論シャルルにもあげるよ! 当たり前じゃないか!」
「うふ、そうよね? 良かったわ、てっきり忘れられていたのかと思ったわ」
「まっさかぁ! あは、あははは!」
「うふふふ」
だが俺の思惑は完全に読まれていたらしく、おしとやかに笑いながらもシャルルの気配は完全に怒りのものだった。
笑いながら凄む、という母様と同じような技を繰り出してきたシャルルに何か言う事も出来ず、ただ笑いで誤魔化すしか出来ない俺であった。
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