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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー
三一三話 クトゥグア
しおりを挟む兵に連れられてウルベルトは展望台へと辿り着く。
ウルベルトやシュミットを含む革命軍は現在、王城から五キロの地点にある迷宮の上に建てられた管理塔を本拠地としていた。
管理塔は広く、二本の尖塔の下には八階建ての建物がある。
その中には自由冒険組合のロンシャン支部や武具店、雑貨店、日用品店、八百屋に肉屋など様々な店が入っていて大きな商業施設さながらの規模になっている。
しかし今、建物には革命軍の主力が集結しており、黒龍騎士団や赤龍騎士団が詰めている。
また迷宮を攻略していた高等級の冒険者達も、なかば軟禁状態で管理塔内部の宿泊施設に滞在していた。
そんな管理塔から伸びる尖塔の展望台に出たウルベルトは、身に打ち付ける風を鬱陶しく思いながら単眼鏡を覗き込んでいた。
「影は東西南北を不規則に動き回り、静止と旋回を繰り返しております」
「あいつは……!」
横で報告をする兵士の言葉を聞きながら、ウルベルトは単眼鏡に映る影の正体を見て下唇を噛んでいた。
目の周りに跡が付くのではと思わせるほどに単眼鏡を押し当て、食い入るように見るウルベルト。
「また会ったな……ハイエルフ! おい! アレを持ってこい! 【超長距離用火線射出砲クトゥグア】をな!」
「お言葉ですが中将殿、あれはまだ調整段階であります!」
「構わん! 細かい調整などこちらでやる! さっさと持ってこい!」
「は! 直ちに!」
敬礼もそこそこに、踵を返して走り去る兵の足音を聞きつつウルベルトは歯ぎしりをしてクトゥグアの到着を待つ。
その間もハイエルフと呼ばれた影、フィガロの姿を追い続けていると、動きに一定のリズムがある事に気付いた。
人は不規則に動こうとしても、必ずどこかでパターン化されてしまう。
そのパターンを把握しかけているウルベルトは口角を上げ、心中は静かに燃えていた。
「流石はハイエルフ……空まで飛ぶか……! となるとやはりガバメント様を落下させたのは貴様なのか。何が倒しただ、どうせ不意打ちか何かで空へ吹き飛ばしたのだろう? この卑怯者めが……!」
「お待たせ致しました! クトゥグアです!」
「貸せ!」
息を切らした兵からひったくるようにソレを受け取ったウルベルトは冷徹な笑みを浮かべた。
ロンシャン連邦国軍部が極秘裏に開発を進めていた歩兵携帯用戦術魔導技巧の一つ【超長距離火線射出砲クトゥグア】。
銀とミスリルの合金で鋳造された小型の砲筒は約一メートル、設計上では使用者の魔力を射出砲のメイン出力である魔力圧縮技巧により圧縮後、火属性魔法に変換し通常では届かないような距離まで打ち出すことを可能とする武器である。
しかしこの武器は未だ調整中であり、コントロールも難しく並の魔力量では起動もしないという欠陥付きの試作品でもあった。
試作品の段階で起動させ、数発の射出を行ったのはウルベルトただ一人だけだった。
計算では三キロまでの距離であれば、射出された魔法は威力や速度を落とすこと無く直進するという恐るべき兵器である。
「知覚外からの超長距離攻撃、果たしてこれが防げるか? ハイエルフよ!」
ウルベルトはクトゥグアの砲筒の上に単眼鏡を取り付け、空を我が物顔で飛び回るフィガロへ狙いを定める。
砲筒の下部から伸びる太い取手を握り、クトゥグアのスイッチを入れる。
羽虫が飛ぶような音を立ててクトゥグアが起動し、砲筒はウルベルトの魔力を吸収して青白い光を発し始めた。
「チョロチョロと動き回りよって……」
射出されるのを待つクトゥグアは生き物のようにウォンウォンという鳴き声のような音を上げ、射出口の前に拳大の紅蓮が形成されていく。
この紅蓮こそがクトゥグアから生成される魔弾の源であり、魔導技巧により圧縮された高密度の火属性魔法である。
射出される時はこの紅蓮から、さらに小さな玉状の紅蓮が打ち出されて目標を貫き爆破する。
単眼鏡に映るフィガロは狙われている事などつゆ知らず、東西南北を自由に飛び回っている。
「大空がお前だけの物とは思わん事だ……!」
クトゥグアの射出口が、飛び回るフィガロを追い右往左往を繰り返す。
ウルベルトは単眼鏡を覗き込み、じっくりと狙いを定めている。
数秒か、数分か、それとも数十分か。
フィガロが停止するその瞬間を狙い、ただひたすらに狙いを定め続ける。
生唾を飲み込むゴクリという音が聞こえたが、それがウルベルトの出した音なのか、周囲で見守る兵が出した音なのかは分からない。
「今だ!」
ウルベルトが一言吠え、砲筒に繋がる射出用の小さなトリガーが引かれ、射出口に灯った紅蓮の光が一際輝きを増し、滞空するフィガロを落とすべく紅の魔弾が即座に発射された。
クトゥグアの最長射程である三キロ地点に目標が居たとしても魔弾が届く速度は僅か数秒、攻撃を察知して避ける事など不可能に近いだろう。
そして……回避不可能な魔弾に狙われたフィガロは煙を上げ、地上へと墜落、その後家屋の中に落ちたのか大量の粉塵を舞いあげたのだった。
「やったぞ! ハイエルフを吾輩がやった!」
歓喜の声を上げながらもウルベルトは単眼鏡から目を離さず、フィガロが市街地の中へ落ちきるのをしっかりと見届けていた。
クトゥグアは見事に命中したようで、着弾から市街地の街並みに呑まれるまで身動き一つしなかった。
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