欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

文字の大きさ
152 / 298
第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー

三一三話 クトゥグア

しおりを挟む
 
 兵に連れられてウルベルトは展望台へと辿り着く。
 ウルベルトやシュミットを含む革命軍は現在、王城から五キロの地点にある迷宮の上に建てられた管理塔を本拠地としていた。
 管理塔は広く、二本の尖塔の下には八階建ての建物がある。
 その中には自由冒険組合のロンシャン支部や武具店、雑貨店、日用品店、八百屋に肉屋など様々な店が入っていて大きな商業施設さながらの規模になっている。
 しかし今、建物には革命軍の主力が集結しており、黒龍騎士団や赤龍騎士団が詰めている。
 また迷宮を攻略していた高等級の冒険者達も、なかば軟禁状態で管理塔内部の宿泊施設に滞在していた。
 そんな管理塔から伸びる尖塔の展望台に出たウルベルトは、身に打ち付ける風を鬱陶しく思いながら単眼鏡を覗き込んでいた。

「影は東西南北を不規則に動き回り、静止と旋回を繰り返しております」

「あいつは……!」

 横で報告をする兵士の言葉を聞きながら、ウルベルトは単眼鏡に映る影の正体を見て下唇を噛んでいた。
 目の周りに跡が付くのではと思わせるほどに単眼鏡を押し当て、食い入るように見るウルベルト。

「また会ったな……ハイエルフ! おい! アレを持ってこい! 【超長距離用火線射出砲クトゥグア】をな!」

「お言葉ですが中将殿、あれはまだ調整段階であります!」

「構わん! 細かい調整などこちらでやる! さっさと持ってこい!」

「は! 直ちに!」

 敬礼もそこそこに、踵を返して走り去る兵の足音を聞きつつウルベルトは歯ぎしりをしてクトゥグアの到着を待つ。
 その間もハイエルフと呼ばれた影、フィガロの姿を追い続けていると、動きに一定のリズムがある事に気付いた。
 人は不規則に動こうとしても、必ずどこかでパターン化されてしまう。
 そのパターンを把握しかけているウルベルトは口角を上げ、心中は静かに燃えていた。

「流石はハイエルフ……空まで飛ぶか……! となるとやはりガバメント様を落下させたのは貴様なのか。何が倒しただ、どうせ不意打ちか何かで空へ吹き飛ばしたのだろう? この卑怯者めが……!」

「お待たせ致しました! クトゥグアです!」

「貸せ!」

 息を切らした兵からひったくるようにソレを受け取ったウルベルトは冷徹な笑みを浮かべた。
 ロンシャン連邦国軍部が極秘裏に開発を進めていた歩兵携帯用戦術魔導技巧の一つ【超長距離火線射出砲クトゥグア】。
 銀とミスリルの合金で鋳造された小型の砲筒は約一メートル、設計上では使用者の魔力を射出砲のメイン出力である魔力圧縮技巧により圧縮後、火属性魔法に変換し通常では届かないような距離まで打ち出すことを可能とする武器である。
 しかしこの武器は未だ調整中であり、コントロールも難しく並の魔力量では起動もしないという欠陥付きの試作品でもあった。
 試作品の段階で起動させ、数発の射出を行ったのはウルベルトただ一人だけだった。
 計算では三キロまでの距離であれば、射出された魔法は威力や速度を落とすこと無く直進するという恐るべき兵器である。

「知覚外からの超長距離攻撃、果たしてこれが防げるか? ハイエルフよ!」

 ウルベルトはクトゥグアの砲筒の上に単眼鏡を取り付け、空を我が物顔で飛び回るフィガロへ狙いを定める。
 砲筒の下部から伸びる太い取手を握り、クトゥグアのスイッチを入れる。
 羽虫が飛ぶような音を立ててクトゥグアが起動し、砲筒はウルベルトの魔力を吸収して青白い光を発し始めた。
 
「チョロチョロと動き回りよって……」

 射出されるのを待つクトゥグアは生き物のようにウォンウォンという鳴き声のような音を上げ、射出口の前に拳大の紅蓮が形成されていく。
 この紅蓮こそがクトゥグアから生成される魔弾の源であり、魔導技巧により圧縮された高密度の火属性魔法である。
 射出される時はこの紅蓮から、さらに小さな玉状の紅蓮が打ち出されて目標を貫き爆破する。
 単眼鏡に映るフィガロは狙われている事などつゆ知らず、東西南北を自由に飛び回っている。
 
「大空がお前だけの物とは思わん事だ……!」

 クトゥグアの射出口が、飛び回るフィガロを追い右往左往を繰り返す。
 ウルベルトは単眼鏡を覗き込み、じっくりと狙いを定めている。
 数秒か、数分か、それとも数十分か。
 フィガロが停止するその瞬間を狙い、ただひたすらに狙いを定め続ける。
 生唾を飲み込むゴクリという音が聞こえたが、それがウルベルトの出した音なのか、周囲で見守る兵が出した音なのかは分からない。
 
「今だ!」

 ウルベルトが一言吠え、砲筒に繋がる射出用の小さなトリガーが引かれ、射出口に灯った紅蓮の光が一際輝きを増し、滞空するフィガロを落とすべく紅の魔弾が即座に発射された。
 クトゥグアの最長射程である三キロ地点に目標が居たとしても魔弾が届く速度は僅か数秒、攻撃を察知して避ける事など不可能に近いだろう。
 そして……回避不可能な魔弾に狙われたフィガロは煙を上げ、地上へと墜落、その後家屋の中に落ちたのか大量の粉塵を舞いあげたのだった。

「やったぞ! ハイエルフを吾輩がやった!」

 歓喜の声を上げながらもウルベルトは単眼鏡から目を離さず、フィガロが市街地の中へ落ちきるのをしっかりと見届けていた。
 クトゥグアは見事に命中したようで、着弾から市街地の街並みに呑まれるまで身動き一つしなかった。
 
しおりを挟む
感想 116

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。