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第八章 ロンシャン撤退戦ー後編ー
三四一話 朝の運動
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「フィガロ様、起きて下さい。こんな所で寝ていらしたのですか?」
「んんむ……にゃお?」
「はぐ……可愛い……」
ゆさゆさと肩を揺らされ、ゆっくりと瞼を開けるが視界が霞む。
体を起こそうとするが、節々がガチガチ固まっており心なしか頬と首が痛い。
ぼやける目を擦りながら無理やり体を起こして声の主を探した。
「シェフが困ってましたよ? 全然起きないって」
「んあ……プル、か?」
「はいそうです。おはようございます」
「んん……いてて……おはよう。寝ちゃってたのか……」
どうやら俺は食堂のテーブルに突っ伏したまま、そのまま寝落ちしてしまっていたらしい。
固まった関節をゆっくりと伸ばしながら立ち上がるが、途端にバランスを崩して吸っ転んだ。
椅子と一緒に転んだために食堂内にガタン! と派手な音が響いてしまった。
「ほらほら、しっかりしてください。大丈夫ですか?」
プルに手を引かれ、テーブルにもう片方の手をついて体を支えながら立ち上がる。
どうやら右足が完全に痺れており、感覚がほとんど無い。
俺の手を引くプルを見ると、アハトのようなメイド服ではなく冒険者が好んで着るような動きやすい服装をしていた。
布製のホットパンツから伸びる華奢な生足は、寝起きの目には眩しすぎる。
黒無地の半袖の貫頭衣の裾はホットパンツから出されていて、両サイドの肩付近には兵士が付けるツールベルトが装着されていた。
ツールベルトは腰にも巻かれており、腰の後ろには二本のダガーナイフが交差して収められていた。
「大丈夫大丈夫。しかしプルは随分早いんだな、まだ朝日も顔を出したばかりじゃないか」
外を見ればうっすらと白んでいるものの、空の大半はまだ濃い群青色に染まっていた。
「早寝早起きは何とかの得ってやつですよ! これからランニングをしに行くところなんです」
「無理して体を壊すなよ? まだ本調子じゃないんだろうからさ」
「お気遣いありがとうございます。ですが今は少しでも早く体力を戻しておきたくて」
「そっか。だけど適度にな」
「はい、ありがとうございます! フィガロ様はどうされますか?」
「俺か? んー……寝るには時間が微妙だし、俺も起きるよ」
「そうですか! なら……もし宜しければ朝の運動にご一緒してはいただけませんか?」
「構わないよ」
「やった! ありがとうございます!」
手を叩いて嬉しそうに微笑むプルを横目に、背伸びをしてもう一度体を伸ばし、つられて出た欠伸を我慢すること無く大口を開けた。
「くぁ……ふ……よし、行くか」
「はい!」
満面の笑みのプルと、止まらない欠伸を連れて食堂を出る。
何人かの兵士とすれ違い、敬礼と共に見送られて王城敷地内の運動所へ辿り着いた。
「凄いですね、兵士が皆フィガロ様に敬礼していました」
「そ、そう? なんか恥ずかしいな」
「恥じる事など! むしろ誇ってもいいと思いますよ? 聞けばフィガロ様は獅子奮迅のご活躍とか。敬礼を受けて当然の御方です!」
「あはは……ありがとう」
ふんす、と鼻息荒く意気込むプルの瞳にはお世辞などの色は見られないので、きっと本音で言っているのだろう。
一般兵に比べれば、確かに俺の強さは群を抜いているのかも知れない。
けれどそれはゴリゴリの力押しをしていただけで、真の強さとは言えないだろう。
「シャルルヴィル王女様から詳しくお聞きしましたが……フィガロ様は本当に私達の身元引受人になっていただけるそうですね。あの……なぜですか?」
準備運動を終えて運動場にあるランニングコースに立った時、プルがそんな事を言い出した。
「何故って……そのほうが都合が良いし、助けたかったっていうのもある」
「都合……ですか」
「そ。俺は領民が欲しい。プル達がランチアで暮らすには身元引受人がいる。お互いの利点を考えた上での事だし、助けたいって気持ちに深い意味は無いさ」
「そうですか……」
俺がそう言うとプルは黙りこみ、地面をじっと見つめて何かを考えているようだった。
「ほら、走るぞ」
「あ! はい! 申し訳ございません!」
「シスターズの様子はどうだ?」
ランニングコースの土を軽く蹴りながら素朴な質問を口にした。
「はい、シロン、ハンヴィー、アハトの三人は王城内で仮の仕事についております」
「それはアハトから聞いてる。仕事云々じゃあなくて君達の体や気持ちの話だ」
「あ……えと、はい。皆体はここに来た当初よりかなり回復しております。お食事や暖かい寝床、皆様のお心遣いにより精神的にも安定しているようです」
「そっか」
「はい。本当に感謝してもし足りないぐらいです、ありがとうございます」
「どういたしましてだよ」
「あの、一つお願いがあるのですが」
「何だ?」
「フィガロ様の全力疾走を見せてはいただけませんか?」
「別にいいけど……何の意味があるんだ?」
「ハンヴィーが言っていたんです。フィガロ様はきっと物凄いポテンシャルを秘めた人間だと。あの子がそんな事を言うのは珍しいので気になってしまって……是非お願いします」
ランニングコースを丁度一周回った所でプルは足を止め、ぺこりとお辞儀をした。
「じゃあ……一周でいいか?」
「え? そんなに走らないでも……いえ、一周でお願いします」
「分かった」
プルの視線を背後に浴びながら、俺はその場で数回軽くジャンプをし、ダッシュの姿勢を取った。
全力って事はブーステッドマナアクセラレーションを使用した方がいいのか?
いやでも、それだときっとやり過ぎる。間違いない。
普通に走ろう、そうしよう。
逡巡の後に結論を出した俺は、脚部に力を込め、思い切り地を蹴った。
「んんむ……にゃお?」
「はぐ……可愛い……」
ゆさゆさと肩を揺らされ、ゆっくりと瞼を開けるが視界が霞む。
体を起こそうとするが、節々がガチガチ固まっており心なしか頬と首が痛い。
ぼやける目を擦りながら無理やり体を起こして声の主を探した。
「シェフが困ってましたよ? 全然起きないって」
「んあ……プル、か?」
「はいそうです。おはようございます」
「んん……いてて……おはよう。寝ちゃってたのか……」
どうやら俺は食堂のテーブルに突っ伏したまま、そのまま寝落ちしてしまっていたらしい。
固まった関節をゆっくりと伸ばしながら立ち上がるが、途端にバランスを崩して吸っ転んだ。
椅子と一緒に転んだために食堂内にガタン! と派手な音が響いてしまった。
「ほらほら、しっかりしてください。大丈夫ですか?」
プルに手を引かれ、テーブルにもう片方の手をついて体を支えながら立ち上がる。
どうやら右足が完全に痺れており、感覚がほとんど無い。
俺の手を引くプルを見ると、アハトのようなメイド服ではなく冒険者が好んで着るような動きやすい服装をしていた。
布製のホットパンツから伸びる華奢な生足は、寝起きの目には眩しすぎる。
黒無地の半袖の貫頭衣の裾はホットパンツから出されていて、両サイドの肩付近には兵士が付けるツールベルトが装着されていた。
ツールベルトは腰にも巻かれており、腰の後ろには二本のダガーナイフが交差して収められていた。
「大丈夫大丈夫。しかしプルは随分早いんだな、まだ朝日も顔を出したばかりじゃないか」
外を見ればうっすらと白んでいるものの、空の大半はまだ濃い群青色に染まっていた。
「早寝早起きは何とかの得ってやつですよ! これからランニングをしに行くところなんです」
「無理して体を壊すなよ? まだ本調子じゃないんだろうからさ」
「お気遣いありがとうございます。ですが今は少しでも早く体力を戻しておきたくて」
「そっか。だけど適度にな」
「はい、ありがとうございます! フィガロ様はどうされますか?」
「俺か? んー……寝るには時間が微妙だし、俺も起きるよ」
「そうですか! なら……もし宜しければ朝の運動にご一緒してはいただけませんか?」
「構わないよ」
「やった! ありがとうございます!」
手を叩いて嬉しそうに微笑むプルを横目に、背伸びをしてもう一度体を伸ばし、つられて出た欠伸を我慢すること無く大口を開けた。
「くぁ……ふ……よし、行くか」
「はい!」
満面の笑みのプルと、止まらない欠伸を連れて食堂を出る。
何人かの兵士とすれ違い、敬礼と共に見送られて王城敷地内の運動所へ辿り着いた。
「凄いですね、兵士が皆フィガロ様に敬礼していました」
「そ、そう? なんか恥ずかしいな」
「恥じる事など! むしろ誇ってもいいと思いますよ? 聞けばフィガロ様は獅子奮迅のご活躍とか。敬礼を受けて当然の御方です!」
「あはは……ありがとう」
ふんす、と鼻息荒く意気込むプルの瞳にはお世辞などの色は見られないので、きっと本音で言っているのだろう。
一般兵に比べれば、確かに俺の強さは群を抜いているのかも知れない。
けれどそれはゴリゴリの力押しをしていただけで、真の強さとは言えないだろう。
「シャルルヴィル王女様から詳しくお聞きしましたが……フィガロ様は本当に私達の身元引受人になっていただけるそうですね。あの……なぜですか?」
準備運動を終えて運動場にあるランニングコースに立った時、プルがそんな事を言い出した。
「何故って……そのほうが都合が良いし、助けたかったっていうのもある」
「都合……ですか」
「そ。俺は領民が欲しい。プル達がランチアで暮らすには身元引受人がいる。お互いの利点を考えた上での事だし、助けたいって気持ちに深い意味は無いさ」
「そうですか……」
俺がそう言うとプルは黙りこみ、地面をじっと見つめて何かを考えているようだった。
「ほら、走るぞ」
「あ! はい! 申し訳ございません!」
「シスターズの様子はどうだ?」
ランニングコースの土を軽く蹴りながら素朴な質問を口にした。
「はい、シロン、ハンヴィー、アハトの三人は王城内で仮の仕事についております」
「それはアハトから聞いてる。仕事云々じゃあなくて君達の体や気持ちの話だ」
「あ……えと、はい。皆体はここに来た当初よりかなり回復しております。お食事や暖かい寝床、皆様のお心遣いにより精神的にも安定しているようです」
「そっか」
「はい。本当に感謝してもし足りないぐらいです、ありがとうございます」
「どういたしましてだよ」
「あの、一つお願いがあるのですが」
「何だ?」
「フィガロ様の全力疾走を見せてはいただけませんか?」
「別にいいけど……何の意味があるんだ?」
「ハンヴィーが言っていたんです。フィガロ様はきっと物凄いポテンシャルを秘めた人間だと。あの子がそんな事を言うのは珍しいので気になってしまって……是非お願いします」
ランニングコースを丁度一周回った所でプルは足を止め、ぺこりとお辞儀をした。
「じゃあ……一周でいいか?」
「え? そんなに走らないでも……いえ、一周でお願いします」
「分かった」
プルの視線を背後に浴びながら、俺はその場で数回軽くジャンプをし、ダッシュの姿勢を取った。
全力って事はブーステッドマナアクセラレーションを使用した方がいいのか?
いやでも、それだときっとやり過ぎる。間違いない。
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逡巡の後に結論を出した俺は、脚部に力を込め、思い切り地を蹴った。
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