欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第八章 ロンシャン撤退戦ー後編ー

三四四話 作戦開始

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 俺がブラック達強化兵の部隊名について頭を悩ませていた所、アーマライト王とラプターを連れたヘカテーがやって来た。
 周囲がザワザワと色めき立つ中、アーマライト王は手を上げてそれを沈め、静かに語り出した。

「もはや長々とした説明は不要。諸君、作戦の概要は各隊長より聞いていると思う。此度の戦いはどう転ぶかが全く分からん。だがしかし、我らは勝たねばならん……行くぞ、気高き勇者達よ!」

 アーマライト王は短い言葉で演説を終わらせると同時に、腰に付けていた剣を引き抜いて天井の光にかざした。
 数秒遅れて兵士達も剣を引き抜き、天井へと翳して「おう!」とだけ応えた。
 
「各隊配置に付け!」
 
 アストラが号令を掛けると、場に集まった兵士達が駆け足で散り散りになっていく。

「僕達も行こうか」

「ああ、そうだな」

「承知」

「頑張ってね!」

「あぁ、シャルルも頑張れよ!」

 俺とリッチモンド、ブラック達強化兵は踵を返し、シャルルに声を掛けてからその場を離れた。
 クーガは影の中に入れており、いつでも戦えるように待機してもらっている。
 王城の外に出た俺はブラック達を整列させ、手始めに意思疎通の取れるブラックに筋力増強の強化魔法を掛けた。

「どうだ?」

「これは……隊長。どうやら俺達強化兵にも身体強化魔法は適応されるようだ」

「お! マジか!」

 ブラックは両手を開いたり閉じたりして、増強された力の加減を測っているようだった。
 そして近場に転がっていた大きめの瓦礫の前に立ち、握り拳を無造作に叩き込む。
 瓦礫はゴガン! という大きな音を立て、見事に砕け散った。

「おおふ……凄いな……」

「だが……自我が戻っていないブラウン達に強化魔法を掛けたとして……上手くコントロール出来るのか」

「多分大丈夫だと思うぞ。今掛けた筋力増強の魔法はお試しだ、本命は全体強化だから……そうだな、いつもより体が軽くて速く動ける程度の認識になるんじゃないか?」

 俺はそう言ってブラウンに全体強化魔法である【フルポテンシャル】を発動させた。
 ブラウンは一度仁王立ちの体を震わせるもすぐに静止し、いつもと変わりなさそうに見えた。
 素振りをするように思念を伝達させると、背中に背負っていた大きなバトルアックスを片手でブンブンと振り回し始めた。
 一振りする度に突風を巻き起こすその姿はとても雄々しく、かなり頼もしく見えた。

「大丈夫そうだぞ」

「おお……さすがは隊長だ。恩に着る」

 バトルアックスを納め、再び仁王立ちに戻ったブラウンを横目に残りのピンクとホワイトにも【フルポテンシャル】を発動させ、最後にブラックへ同じ魔法を掛けた。

「素晴らしい……全ての感覚が研ぎ澄まされている……これがフルポテンシャルの力か……」

 フルポテンシャルは身体強化魔法の上級魔法だ。
 視覚、聴覚、嗅覚、触覚の機能を大幅に上昇させ、筋力、反応速度、神経伝達を最大まで強化、皮膚すらも並大抵の刃物では傷付かないほどに硬化させるという効果を持つ。
 加えて多少ではあるけど魔法耐性も上がるので、初級程度の魔法であればダメージを大幅に軽減させられる。
 
「フルポテンシャルって、発動させる魔力が大量に消費されるから一人一回の発動がせいぜいなんだけど……俺の場合、魔力プールがほぼ無尽蔵に近いからな。何回でもいけるぞ」

「ほう、隊長はやはり規格外なのだな。頼りにさせて貰うぞ」

「まぁフルポテンシャルにはデメリットもあるんだけど……強化兵のお前達なら問題ないだろ」

「デメリット?」

「そうだ。強力な効果ゆえに魔法の効果が切れた時、力の反動で体に甚大な負荷がかかるんだけど……元々の身体能力が高ければ高いほど反動は低い。逆に一般人レベルに使用すると三日三晩は全身の激痛に苛まれる」

「なるほど。全身を強化してある俺達なら大丈夫だろうな」

「じゃあ……頼んだぞ」

「承知」

「あ!」

 ブラック達を送り出そうとした時、脳内に天啓のようなものが降りてきた。

「名前! キメラルクリーガーなんてどうだ? キメラとクリーガーを合わせた造語なんだけど……あんまカッコよくは無いかな?」

「キメラルクリーガー……異質同体の戦士……単純だが中々に強そうだな。それでいい」

「よし! なら今日からブラック達は俺直属の戦士隊【キメラルクリーガー】だ!」

「承知、ならばキメラルクリーガーとなった初仕事、殺らせてもらおう」

「定点に着いたら連絡をくれ」

「心得た」

 ブラックは自らの胸を強く叩いた後に踵を返し、ブラウン達と共に廃墟となった家屋の中へ消えて行った。
 フルポテンシャルを掛けた状態の強化兵ならぱ、五キロ程度の距離ならさほど掛からずに到着するだろう。
 キメラルクリーガー隊が消えて行った家屋を見つめながらフライを発動させ、そのまま上昇する。
 少し遅れて、物陰からリッチ形態に戻ったリッチモンドがローブをはためかせながら俺の隣に滞空した。

「さ、やろうか」

「おう、パーっといこうぜ!」

 王城から迷宮管理塔までは直線距離にして約五キロメートル。
 さすがに五キロ丸々を吹き飛ばすのは難しいので、一キロずつブロック分けをして破壊工作をする予定だ。
 作戦開始にはもう少し時間があるので、キメラルクリーガー隊を巻き込む事は無いだろう。

「フィガロ様、聞こえますかな?」

「聞こえてます陛下」

 王城正門へ続く大階段の上空に留まり、作戦開始の報を待っているとウィスパーリングによりアーマライト王の声が脳内に届いた。

「シャルルヴィル王女殿下の使い魔が迷宮管理塔に到着した模様です。砲撃部隊による魔導砲及び戦術兵器の配置もあと僅か、塔への進行部隊も着々と歩みを進めております。リッチモンド殿より借り受けたスケルトンホースは機動部隊として小型の魔導兵器を装備させて散開しております」

「了解しました。作戦開始まであと僅かですね」

「うむ。それまではしばしお待ち下され」

 アーマライト王からの思念が切れると、その直後にブラックからの思念が伝わってきた。

「隊長、現在三キロ地点を通過した。あと五分程度で迷宮管理塔付近へ到達する、以上だ」

「分かった。定点に着いたらそのまま待機、俺達の破壊工作が終わり次第突入しろ。細かいタイミングはそっちに任せる」

「承知」

 キメラルクリーガー隊が出立してから十分と経っておらず、フルポテンシャルを掛けた彼等の高機動ぶりが伺える。
 ブラックとの思念伝達を終えると、それを見計らったリッチモンドが声を掛けてきた。

「フィガロ、使用する魔法なんだけどさ、君、【カラミティフレア】って使えるかい?」

「カラミティフレアって……確か広域殲滅用集団魔法だろ? 聞いた事はあるけど見た事も無いし、イメージし辛いよ」

「ふむ、という事は見た事があれば使えるって事だね?」

「まぁ……イメージするのは得意だからな」

「分かった。はい」

「あがっ……!」

 リッチモンドは俺が言い終えるやいなや、骨の人差し指で俺の額を小突いた。
 途端に脳内に強烈なショックが走り、徐々に何かのイメージが浮かび上がってくる。
 これはリッチモンドと出会った当初に、フライを教えて貰った時と同じだ。
 魔法のイメージと共に詠唱や術の構成、効果範囲などの情報が脳内に目まぐるしく走り回る。
 魔法を行使した時のイメージが鮮明に脳裏に焼き付いた頃には、脳が全ての情報を処理し終えたらしくアタマが段々とクリアになっていった。
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