欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第八章 ロンシャン撤退戦ー後編ー

三六四話 歴史の闇

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「すいませんクライシス。私にもこの人を倒す理由が出来ました」

「そ、そうか。だが怒りに身を任せても死ぬだけだ。その怒りをコントロールしろ」

「はい。分かりました」

 アウトサイド・ノーザンクロス、この男こそトムやブラック達を強化兵に仕立てあげた元凶であり、原因そのもの。
 帝国の秘密兵器であるショゴスを創り、解き放ったのもノーザンクロスで間違いないだろう。
 ギチリ、と奥歯を噛み締める音が口腔に響く。

「ふぉっふぉっ、話の腰を折るのは良くないぞい。続きを聞きたいかの、ボルトよ」

「結構だ。お前の与太話に付き合う程暇じゃねーもんでな」

「残念じゃのう。ボルトよ、お主は良き検体になるじゃろうて……十三英雄の中で最強の一角の大魔導師、実に弄りがいがありそうじゃ……ふぉっふぉっふぉっふぉっ!」

 高らかに笑い、悪辣な表情を浮かべるノーザンクロスの腕は煙を上げ、見る間に修復されていった。
 治癒魔法を発動した形跡は無い。
 だとすれば、ノーザンクロスには強力な再生能力が備わっていると見ていいだろう。

「アイツの事が文献に書かれなかった理由が分かるか?」

「……いえ、分かりません」

「アイツぁな。超が付くほどのマッドサイエンティストで……究極の性格破綻者なんだよ。降魔戦争の時、アイツは魔導的研究と称して捕縛した何人もの魔人や悪魔、亜人や獣人、あらゆる捕虜を切り刻み、調べ、人に流用出来るパーツや魔法技術を集めてはあらゆる人体実験を行ってきた。そのお陰で戦争は楽になったが……な」

「だから……詳しくは載せられない、歴史の闇というべき方なのですね」

「そういうこった。だが実力は確かだ。それに……アイツの言う事が本当なら自分自身を創り変えてる。俺の知らないどんな隠し球を持ってるかわからん。突っ込み過ぎるなよ」

「分かりました。ノーザンクロスさん、少しお聞きしてもいいですか?」

 クライシスからの忠告を心に留め、俺はノーザンクロスに話を振った。

「む? なんじゃあ童」

「ショゴスを解き放ったのは貴方ですか?」

「うむ! いかにも! どうじゃった? 中々に強かったろう?」

「なぜ、ですか?」

「何故とはおかしなことを聞きよるのぅ……簡単な話じゃよ、研究の為のデータ収集とお主らの戦力を測るためのちょっとした余興じゃよ。それ以外あるかいの」

「革命軍を犠牲にしてもですか」

「犠牲などでは無い!きゃつらは進化したのじゃ! 驚異的な力を持つ生態兵器へと生まれ変わったのじゃ! きゃつらもきっと喜んでいるだろうて」

「貴方と言う人は!」

 殴りたくなる衝動を押さえ、それでも押さえきれない感情が言葉に乗せて吐き出される。

「よせ、あの馬鹿に正論をぶつけても意味がねぇ。まともに話し合うだけ無駄だ」

「そのようですね」

 許せない、その一言が頭の中でグルグルと駆け回る。
 多大な犠牲を払って撃退したショゴス、それを余興だという言葉に神経を逆撫でされる。
 しかしクライシスの言う通り、怒りに震え、見境なく突っ込んでも負けるのは目に見えている。
 深呼吸を繰り返し、気持ちを落ち着かせる。
 意識を集中して出来る限りの敵意を視線に込め、ノーザンクロスを睨みつける。

「ほぉ……? 童の、中々に良い目をしているな」

 ノーザンクロスは鋭い視線を俺に向け、体の上から下までを舐めるように観察している。

「そんな事はありませんよ、お二人に比べたらね」

「俺がメインでアイツを叩く、お前はサポートに回れ」

「はい!」

「まぁまぁまぁ、待つんじゃ、まぁだ話は終わっとらん。見せたい物があるんじゃよ。せっかちは嫌われるぞい?」

 クライシスの斜め後ろに位置取ってブーステッドマナアクセラレーションを発動し、さぁこれからという時にノーザンクロスが手を軽く振る。
 それだけで地面が爆ぜ、俺達とノーザンクロスを遮るように無数の石柱がせり上がる。

「舐めんなよ!」

 しかしクライシスも同じように手を振ると、一瞬で全ての石柱が粉砕され、砂と化して地面に還る。

「ほれ、見てみい」

 だがノーザンクロスにとってはその一瞬があれば事足りたらしく、迷宮管理塔の方向を向いて顎をしゃくりあげた。
 途端に轟く爆発の音に思わずそちらを向くと、迷宮管理塔の中心部から紫色の光線が天に向けて伸びており、ただでさえ半壊していた管理塔は盛大な音を上げて完全な崩落を始めていた。

「テメェ、何しやがった」

「ふぉっふぉっふぉっ! 準備が整った、と言えばいいかの」

「紫の……光……?」

 光線は太く、建物の中心を丸々覆ってしまうほどのものだ。
 天高く伸びる紫光は美しく、妖しく、強烈な危機感を抱かせる。
 そして完全に崩れ落ちた迷宮管理塔の底部が轟音と共に弾け、立ち込める粉塵の中に赤い光が灯ったのが見えた。

『AGYAOOOOO!』

「がっ!」

「うわっ! うるさ!」

「ふぉーふぉっふぉっふぉっ! 今こそ目覚めの時じゃあ! 猛よ! 【アザトース】!」

『GYOAAAAAA!』

 耳を劈くような不協和音の咆哮が辺りに響き渡り、粉塵の中から地響きと共にアザトースと呼ばれた異形が姿を現したのだった。
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