欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第九章 穏やかな日々

四〇二話 ミロク再び

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 ピンクに一言掛け、俺とリッチモンドは地下室へと訪れていた。
 リッチモンドは手に布袋を持っているのだけど、ロンシャンに着いた時は手ぶらだった。
 向こうで何かお土産でも貰ったのだろうか?

「金庫室で話そう」

「別にいいけど……」

 リッチモンドの提案を聞き、俺は壁に手を添えて金庫室の扉に魔力を通す。
 ゴリゴリという音を立て、複雑な動きを見せながら金庫室は開き、俺とリッチモンドを迎え入れた後に再び扉は閉まった。
 天井の明かりがパッパッパッとリズミカルに灯っていくのを見ながら、俺は床に置いてある木箱の上に腰を下ろした。
 リッチモンドは床に座り込み、俺との間に布袋を置いた。

「なぁ、この袋、なんだ?」

「いやぁー……彼をここまで連れてくるのが面倒くさくてね。ちょっと加工させて貰ったんだ」

「加工って……待て待て待て、嫌な予感しかないぞ」

「大丈夫大丈夫。首だけ切り取ってきただけだから」

「どこが大丈夫なんだよ……」

 リッチモンドは人の心を残しているとは言え、やはりアンデッドなのだ、と実感した瞬間だった。
 一般の倫理観とは少しズレてしまっているのは、リッチになってしまったがゆえなのだろう。

「開けるよ?」

「ん、いいよ」

 固く閉じられた布袋の口が、衣擦れの音と共にゆるゆると解け、中からはあのミロクの生首が姿を現した。
 
「げ……なんだこれ……」

 ミロクの瞳には生気が感じられず、虚空の一点をじっと見つめていた。
 そして首の切断面からは無数の小さな触手が生えており、うぞうぞと蠢いていた。
 正直な感想を言うと、とてもとても気持ち悪い絵面だった。

「これでミロクは死ぬことも無く、コンパクトな情報源になったというわけさ」

「というわけさ、じゃないよ。こんなんどうやってドライゼン王に離せばいいんだよ……」

「そこはほら、上手くやってくれよ?」

「他人事だなぁ!」

 こんなアンデッドそのものみたいな存在を、一国の王にどう紹介しろと言うのか。
 いっその事ハインケルに渡して……いやだめだ、彼に渡した所で意味が無い。

「で、これってこのままほっといても生きてるのか?」

「うん。定期的に魔力を与えてあげれば半永久的に生き続けるよ」

「凄いな……気持ち悪いけど。そしたら……クライシスと相談してみるよ。コレをドライゼン王に渡すのはいい案が浮かんでからにする」

「そうかい? じゃあコレは君に預けるよ。話はこれで終わりだ」

「また面倒くさい事になったよ……」

 ケロッとした顔で俺を見るリッチモンドを横目に、俺は深い溜息を吐いたのだった。








 子供の世話はピンクに任せ、屋敷には何かあれば声を掛けろと言ってある。
 リッチモンドは久しぶりの街中をぶらついて来ると言って出掛けて行った。
 ドライゼン王やシャルル達が帰ってくるまでには、後数日はかかるだろう。
 浴室で軽く汗を流し、サッパリした体で自室に戻った俺は椅子に腰掛けて机にペンと紙束を置いた。

「さて、と。とりあえずこれからの事を整理するか……」

 これからはやる事が山積みだ。
 トロイに引き渡す家具は二百年前の物だけ、そして不要そうな道具を倉庫から見繕い、査定をしてもらう。
 シルバームーン領地の端から端までを上空から調査し、家を建てられそうな場所と、廃集落の場所の確認。
 クロム邸へ出向き、今後行う予定の事業内容の確認。
 シスターズをシルバームーン領民として登録する為の、判子や書類の作成。
 StG傭兵団をトロイ、キメラルクリーガー隊と顔合わせさせる事。
 シルバームーン領地にいると言われている守護精霊への挨拶。

「あとは……あ、そうだ」

 ペンを走らせながらこめかみを押さえ、脳内の引き出しからやるべき事を引っ張り出していく。

 俺が拉致された場所にあった、機密文書らしきもののコピーを作成する事。
 首だけになったミロクをどうドライゼン王に渡すか、という事。
 下にいる戦争孤児の処遇を決める事。
 ……軽く紙に書き出してみただけで、こんなにもやる事があるとは……頭が痛い。

「いや、一人じゃ無理だよこんなの……やっぱり使用人としてシスターズをウチに招くしかない」

 幸いにも屋敷は広く、シスターズをここに住まわせたとしても問題はない。
 子供達には一回にある大部屋を当てがって、ピンクには三階の空き部屋を、シスターズには二階階の空き部屋を使ってもらおう。
 思い付いた事を全て紙に書き込み終え、ぐっと背筋を伸ばした。
 こんなに文字を書いたのは久しぶりだった。
 実家で姉様に出された課題をこなしている時以来、かな?
 あとはコブラとドンスコイと話をして、今日は終わりにしよう。
 気付けば外は日が沈みかけており、お腹も空いてきた。
 シスターズには早めに連絡をしないと、廃教会で腰を落ち着けたのに、すぐ移動することになってしまう。
 
「クーガー! 聞こえるかー!」

『ここに!』

「うっわ! びっくりした! いつからそこにいたんだよ!?」

 階下にいると思って大声を上げたのだが、クーガはいつの間にか俺の後ろで寛いでいたらしく、いきなり顔の横からクーガの太い口が生えた。

『十分ほど前です。何やらマスターが真剣な顔をしていらしたので静かにしておりました』

「そ、そうか。頼みがある。さっきの廃教会に行ってシスターズを連れて来て欲しい」

『それは構いませんが……私一匹で出歩いてもいいのですか?』

「あー……そうか……ダメか。ならリッチモンド!」

「はいはい、なんだい?」

「ぶらついてる所悪いんだけど、シスターズをウチの屋敷まで連れてきてくれ」

「わかった。少し待っててくれ」

 リッチモンドからの思念が途切れたのを確認し、横に座るクーガの頭を撫で、コブラとドンスコイと話をするべく俺は席を立ったのだった。
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