欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第九章 穏やかな日々

四二六話 手伝い

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「ボス……! どうしました?」

「大変そうだなって思ってさ。少し手伝うよ」

「いえ! 大丈夫ですよ! ボスはお忙しいですし!」

「いいからいいから、やらせてくれよ。どこからどこまで刈り取るんだ?」

 戸惑い気味な構成員の横に立ち、周囲をぐるりと見回してみる。
 周囲は膝丈くらいまでの雑草がびっしりと生えており、下生えもかなりの厚さのようだ。
 んー、これは焼いてしまった方が早いかもしれない。
 園芸などにはあまり詳しくないのだけど、焼くことによって地表に落ちている種なども処理出来るとか。

「えと……じゃあここから……あそこまでをお願いします」

「よし、任せろ。軽く焼くから離れててくれ」

「はい! おぉーいお前ら! ボスがここら一体を焼くってよ! どいたどいた!」

「何だって!? ボスが直々に!」

「ボス! やっちゃって下さい!」

「木っ端共なんてメラメラにしちまって下さい!」

「お、おう」

 構成員達は何だかやたらと喧嘩腰な言い方をしながら、何故か俺の背後に集まり始めた。
 これから処理するのはただの草なんだけどな……。
 妙な期待を乗せた大勢の視線を浴びながら、俺は文殊を発動させた。
 淡く光る文殊は当然【魔】と【火】だ。
 
「じゃいくぞ! 【ブレイジングブレス】!」

 右手をやや下前方に向け、イメージしていた魔法を解き放った。
 ゴォォオオ! という景気の良い音と共に掌から三メートル程の真っ赤な炎が勢いよく放射された。
 これはドラゴンの吐き出すブレスをモチーフにした初級魔法なのだが、使い勝手があまり良くないので人気が低い。
 けど広範囲を焼き払う場合には勝手が良いので、野焼きや焼畑などをする為に低等級の冒険者や魔法使いが呼ばれる事もあったりする。

「「「うぉおおぉおぉおー!」」」

「うっわ! びっくりした!」
 
 俺が魔法を使った瞬間、背後にいた構成員達が突然大声を上げて騒ぎ出した。
 肩がビクンと跳ね上がり、魔力コントロールが微妙に乱れて炎の色がオレンジ色に変化してしまったが、問題はなさそうだ。
 雑草が燃えていくにつれて、白色の煙がもうもうと立ち上っていく。
 目の前の雑草を焼き尽くし、一歩進んで焼き尽くし、二歩進んでで焼き尽くす。
 そんな光景を構成員達は目を輝かせて見入っている。

「楽しいか?」

「へぇ! 自慢じゃありませんが、俺達は教養がねぇんで魔法を使える奴がいないんでさ! でなもんでとっても楽しいです!」

「そうなのか」

「へい! 練習を積めば使えるようにはなるんでしょうけど……なにぶん教えてくれる人がいなかったモンで」

 構成員は恥ずかしそうに後頭部を掻きながら笑いを浮かべる。

「それは初耳だな。よし、なら今度魔法の勉強会をセッティングするよ」

「おお! ありがとうごさいます! ボス!」

「ボス直々に教えてくれるんですか!?」

「俺でも炎ぶわーって出せんのか! くうううー! 今から楽しみ過ぎるぜ!」

 とは言っても俺が魔法を行使出来るのは文殊のおかげなわけで、勉強会を開くとしても俺は同席するだけで、正式な魔法の使い方の先生役はクライシスかヘカテーにお願いする事になるだろう。

「焼き終わった箇所はどうするんで? 俺達やる事ありますか?」

「んー……そしたら今まで刈り取った草を纏めておいてくれるか? 場所は……あそこらへんで」

「分かりました! 行くぞお前ら!」

「「「おう!」」」

 構成員達に適当な箇所を指し示すと、みな散り散りになって自分達が刈り取った草を集め始めた。
 ブレイジングブレスの火力はそれなりに高いので、一分ほど炎を当ててやれば雑草は灰すら残さず跡形もなく燃え尽きる。
 散歩をするようにゆっくり、亀のように鈍重に足を動かし、行進のように規則正しく真っ直ぐに焼いていく。
 どれくらい時間が経ったのか、ふと腕に付けた時刻盤に目を向けるとこの場所に来てからはや三時間が経過していた。
 クーガには木を切り倒す作業を手伝わせており、時折丸太を乗せた簡易的なソリを引く姿が見られた。
 あっちはあっちで何本もの丸太を乗せたソリを力強く引くクーガが大層もてはやされており、仲良くやってくれているようで俺も嬉しい。
 
「ボス! 狩りに行ってまいります!」

「分かった。気を付けろよ」

「はい!」

 どうやら食料は現地調達する物もあるようで、武器を携えた数人の構成員達が俺に報告をして森の中に消えて行った。
 残りの構成員達には地ならしを命じ、焼いた箇所に転がっている大小の石や岩を取り除いてもらっている。
 結構な範囲の焼き作業を終えた頃、頭の中に聞きなれた声が届いた。

『フィガロ! 聞こえる? やっとランチア近郊に着いたわよ!』

「シャルルか。長旅ご苦労さま」

『ありがとう! 明日には到着するからね!』

「はいよ!」

 ロンシャンを出る際にウィスパーリングはアーマライト王からシャルルへと返還されている。
 シャルルとドライゼン王が帰り次第、この廃集落の家屋の今後を訊ねてみるとするか。
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