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第九章 穏やかな日々
四四六話 それはズルい
しおりを挟む一気に距離を詰めてきたプルが、腰元に構えた木剣を勢いよく突き出してくる。
が、やはりスピードが乗っていない。
「遅い!」
「まだまだ!」
柄で突きの切っ先をいなすが、かわされると分かっていたのか、プルはいなされた角度のまま逆袈裟に剣を振り上げた。
だがこれも俺に届く事は無く、一歩後方に引いて斬撃を躱した。
「せいやっ!」
「なっ!?」
プルは俺が引いた分の間合いにさらに踏み込み、柄で俺の顔面を狙って来た。
思いがけない攻撃だったが、無理やり首を曲げて打撃を交わし——脇腹に鈍痛が走った。
「ぐっ……蹴り、か!」
鈍痛の走った左脇腹に目をやると、プルの膝が綺麗にめり込んでいた。
打撃の方に注意を向けさせておいて、本命はこの蹴り。
騎士だというから、てっきり綺麗な騎士剣なのだと思いこんでいたが……実際はあらゆる手を使う本格的な戦闘術のようだ。
「かはっ! やりますね!」
「ありがとうございます!」
身を捩って突き刺さる膝を抜き、木剣を横に振って距離を取ろうとするのだが、プルはそれを許さずさらに斬撃を放ってくる。
横一文字から袈裟斬り、足払い、二段蹴りと息つく間もなく繰り出される技に悔しいかな、押されっぱなしの俺だった。
斬撃を食らうことは無いけれど、一撃を捌けば更に追撃を放ってくる。
しかも驚いた事に徐々にだが剣速が上がってきているのだ。
おかしい。
何かがおかしい気がする。
打ち込みの力も、プルの痩せた体からは考えられないほどに力強く、重い。
「どうしたフィガロ。やられっぱなしかぁ?」
俺が困惑していると、クライシスの嘲るような声が聞こえた。
プルの猛攻の間を縫ってクライシスを見ると、やけにニヤニヤと笑っている。
ふとクライシスの指先を見ると、一瞬だが小さく光ったような気がした。
その瞬間プルの打ち込みの力が強まったのを感じた。
間違いない。
クライシスがプルに肉体強化の魔法をかけているんだ。
しかも最弱の強化魔法から徐々に術の効果を上げている。
だからプルの剣速が少しずつ上がり、打ち込みの力があんなにも強くなったんだ。
「クライシス! それはズルいです!」
「なぁんの事かなぁ」
「お許しくださいフィガロ様! これは私から頼んだ事です!」
「プルが?」
叫ぶようにカミングアウトをしたプルが一度大きく下がり、頭を下げた。
「申し訳ございません。私の今の力ではフィガロ様の足元にも及ばない事は分かっておりました。なので少しでも貴方に近付けるようクライシス様に頼み込んだのです。お許しください」
「そうなのか」
「別にかまやしないだろ? ハンデだよハンデ。女に華を持たせるのが男ってもんだ」
「分かった。そういう事であれば了承せざるをえないな」
「フィガロ様!」
「よしプル! ばっちこい! 強化魔法を使ってるからって俺に勝てると思うなよ!」
「は! よろしくお願い致します!」
そこからはプルの斬撃をかわすことはせず、全てを木剣で受止め、流し、絡め、体術をも交えた攻防戦が始まった。
「てえぇい!」
「はあああ!」
カンカンカンと小気味良い音が中庭に響き渡り、ギャラリーから熱い視線をひしひしと感じる。
「頑張れープル姉ー!」
「いけぇフィガロ様!」
「ちょっとアハト! あなたどっち応援してるのよ!」
シロンとアハトの黄色い声援が飛び、ハンヴィーの声が追いかける。
「プル姉もちゃんと応援してるもん! どっちも頑張れー!」
「「「プルミエールさん頑張れ! ボスに負けるなー!」」」
「隊長! 子供達に隊長の力を見せつけて下さい!」
ギャラリーの方も白熱しているようで、やんややんやと声援が飛び交う。
プルと俺はお互いに決めの一手を出す事は無く、俺はプルの冴え渡る剣技に舌をまいていた。
今でこそクライシスの補助があるが、これが全盛期であったならどれだけの技のキレなのだろう。
知らず知らずに喉が鳴り、笑いが込み上げる。
お互いに拮抗するこんな稽古は初めてだった。
俺はまだブーステッドマナアクセラレーターという手を出してはいない。
本気では無いけれど、かと言って手を抜いているわけじゃない。
楽しい。
それが正直な感想だった。
クライシスがどれだけプルを強化していたとしても、体は覚えていたのだ。
十年という長いブランクがあったとしても、騎士プルミエール・リベラ・サンダースという体と骨には鍛え上げた技がしっかりと染み付いていたのだ。
騎士として生きていた時、どれほど研鑽に励み、どれだけ剣を振り続けて来たのか。
それを考えると尊敬の念を抱かざるをえない。
「せえええい!」
「だがまだ!」
強烈な踏み込みと共に大上段からの唐竹割りが放たれ、俺はそれを真正面から切り結んでプルの木剣をはね上げた。
コォォオーン! という音がなり、プルの木剣はクルクルと宙を舞って地面に突き刺さった。
俺は木剣をプルの首に当て。
「そこまで!」
俺とプルの稽古という名の試合が終わりを告げたのだった。
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