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29 出生の秘密
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「クレア様」
「なんじゃ」
魔王城玉座の間、クロード達が空に飛び立つのを見送っていたクレアに声がかかる。
「以前、御命令をいただいた件につきましてご報告がございます」
「クロのことかえ?」
「は。さようで」
「ようやっと来たか。話せ」
「は。情報が少なく、まだ全ては判明しておりませんが……ゴリアテ様の仰っていた通り、クロードには魔族の血が流れております」
「やはりか」
クレアは秘密裏にクロードの血液を手に入れており、クロードの血と身辺調査を配下の密偵に指示していた。
その結果がもたらされた事に満足そうな笑みを浮かべる。
「そしてクロードの家名、ラストですが……もしかするとあのラースティアかもしれません」
「ラースティア? どこぞの秘境で隠れ住んでいるという魔族か?」
「はい」
「なぜそう思う」
「ラースティアはモンスターと共存する種族。警戒心が強く滅多な事では人前に姿を表しませんが、過去に一度だけ……約三百年前の記録ですが、ラースティア族とピューマリスタ族との交戦記録がありました。その際、ラースティア族は無限とも思えるモンスターの軍勢でピューマリスタ族を蹂躙したとあります」
「無限とも思える……か。なるほど、クロードの無限とも思える召喚量を鑑みると……ラースティアもモンスターの召喚を得意としているかもしれない、ということじゃな」
「おっしゃる通りで」
「だとすれば……ラースティアの一人が何かしらの理由により人界を訪れ子を成したか、どこかで人族と出会い人界に去ったか……その直系がクロか」
「おそらくは。ただなぜクロードの祖先が魔界を去ったのかまではわかっておりません」
「クロードの祖先が二百年前からテイル王国にいたことはクロード本人から聞いておる。洗えるか?」
「難しいとは思います。なにぶん相手が引きこもりのラースティアなもので……」
「そうじゃろうなぁ……難儀をかけるがよろしく頼めるか? 必要であればいくらでも人を使うが良い。我が許す」
「御意」
報告に来た魔族はその場から煙のようにかき消え、玉座の間にはクレアのみが残された。
「召喚士、そしてラースティア族……もしラースティア族がみな召喚の技を使えるのであれば……恐ろしいな。そして隠れ住む理由もわかるというものじゃ。その力が悪用されれば世界を手中に収めることも容易じゃものな。クロードよ、お主も中々茨の道をいく定めよのう」
クロードの持つ力は人間が持つには過ぎた力だ。
人は弱い。
あまりにも脆弱だ。
そして人は汚い。
卑怯で狡猾で卑しい存在だ。
だがそれは人という種族の特徴でもある。
弱いが故に卑怯な手を使い、狡猾に相手の弱みを付き、卑しく生にしがみ付く。
なんら悪いことではない。
それが人という概念であり、生きる術の一つなのだ。
決して責めるべき事ではないし、嘲る必要もない。
弱いが故に群れ、数多の子を成し、心が弱い故に騙されやすく傷付きやすい。
そして非常に直情的で流されやすい。
「ま、魔族にもそういった輩はおるがの」
魔界は広く、人界の三倍ほどの領土面積を誇る。
そして魔界には実に様々な種族が住み、多種多様な文化、生活様式、誇りがある。
強い種族は強い種族なりの、弱い種族は弱い種族なりの生き様がある。
魔族の中には人間よりも弱い種族も存在しているが、それらは巧妙に隠れ住んでいたり、強い種族の庇護を受けながら生きていたりする。
弱いとされている種族でも特定条件下では強い種族を圧倒することもある。
だから一概に弱いからと言って侮ってはならない。
ゆえに本気の戦いともなれば、クレアはたとえ人間だろうと容赦なく叩き潰す。
強者であろうとも敵対するのであれば容赦なく叩き潰す。
それが絶対的強者たる魔王としての役割だ。
だが人間は弱い。
弱いからこそ強さを求める。
数が少なければ増やそうとする。
その両方を成立させることの出来る存在がクロード・ラストという召喚士だ。
仮にクロードの情報が世に漏れれば……クロードの奪い合いが始まるだろう。
魔族なんてそっちのけで、人と人が血で血を洗う泥沼のような争いが始まってしまう。
クロードの祖先、ラースティアの一人は何を考えて人界に住みつき、その力をテイル王国に貸し与えたのだろうか。
今となってはその意図すら時間の波に呑まれて計り知る事は出来ない。
「なんじゃ」
魔王城玉座の間、クロード達が空に飛び立つのを見送っていたクレアに声がかかる。
「以前、御命令をいただいた件につきましてご報告がございます」
「クロのことかえ?」
「は。さようで」
「ようやっと来たか。話せ」
「は。情報が少なく、まだ全ては判明しておりませんが……ゴリアテ様の仰っていた通り、クロードには魔族の血が流れております」
「やはりか」
クレアは秘密裏にクロードの血液を手に入れており、クロードの血と身辺調査を配下の密偵に指示していた。
その結果がもたらされた事に満足そうな笑みを浮かべる。
「そしてクロードの家名、ラストですが……もしかするとあのラースティアかもしれません」
「ラースティア? どこぞの秘境で隠れ住んでいるという魔族か?」
「はい」
「なぜそう思う」
「ラースティアはモンスターと共存する種族。警戒心が強く滅多な事では人前に姿を表しませんが、過去に一度だけ……約三百年前の記録ですが、ラースティア族とピューマリスタ族との交戦記録がありました。その際、ラースティア族は無限とも思えるモンスターの軍勢でピューマリスタ族を蹂躙したとあります」
「無限とも思える……か。なるほど、クロードの無限とも思える召喚量を鑑みると……ラースティアもモンスターの召喚を得意としているかもしれない、ということじゃな」
「おっしゃる通りで」
「だとすれば……ラースティアの一人が何かしらの理由により人界を訪れ子を成したか、どこかで人族と出会い人界に去ったか……その直系がクロか」
「おそらくは。ただなぜクロードの祖先が魔界を去ったのかまではわかっておりません」
「クロードの祖先が二百年前からテイル王国にいたことはクロード本人から聞いておる。洗えるか?」
「難しいとは思います。なにぶん相手が引きこもりのラースティアなもので……」
「そうじゃろうなぁ……難儀をかけるがよろしく頼めるか? 必要であればいくらでも人を使うが良い。我が許す」
「御意」
報告に来た魔族はその場から煙のようにかき消え、玉座の間にはクレアのみが残された。
「召喚士、そしてラースティア族……もしラースティア族がみな召喚の技を使えるのであれば……恐ろしいな。そして隠れ住む理由もわかるというものじゃ。その力が悪用されれば世界を手中に収めることも容易じゃものな。クロードよ、お主も中々茨の道をいく定めよのう」
クロードの持つ力は人間が持つには過ぎた力だ。
人は弱い。
あまりにも脆弱だ。
そして人は汚い。
卑怯で狡猾で卑しい存在だ。
だがそれは人という種族の特徴でもある。
弱いが故に卑怯な手を使い、狡猾に相手の弱みを付き、卑しく生にしがみ付く。
なんら悪いことではない。
それが人という概念であり、生きる術の一つなのだ。
決して責めるべき事ではないし、嘲る必要もない。
弱いが故に群れ、数多の子を成し、心が弱い故に騙されやすく傷付きやすい。
そして非常に直情的で流されやすい。
「ま、魔族にもそういった輩はおるがの」
魔界は広く、人界の三倍ほどの領土面積を誇る。
そして魔界には実に様々な種族が住み、多種多様な文化、生活様式、誇りがある。
強い種族は強い種族なりの、弱い種族は弱い種族なりの生き様がある。
魔族の中には人間よりも弱い種族も存在しているが、それらは巧妙に隠れ住んでいたり、強い種族の庇護を受けながら生きていたりする。
弱いとされている種族でも特定条件下では強い種族を圧倒することもある。
だから一概に弱いからと言って侮ってはならない。
ゆえに本気の戦いともなれば、クレアはたとえ人間だろうと容赦なく叩き潰す。
強者であろうとも敵対するのであれば容赦なく叩き潰す。
それが絶対的強者たる魔王としての役割だ。
だが人間は弱い。
弱いからこそ強さを求める。
数が少なければ増やそうとする。
その両方を成立させることの出来る存在がクロード・ラストという召喚士だ。
仮にクロードの情報が世に漏れれば……クロードの奪い合いが始まるだろう。
魔族なんてそっちのけで、人と人が血で血を洗う泥沼のような争いが始まってしまう。
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