ブラック王国軍から脱退した召喚士、前世の記憶が蘇り現代兵器も召喚出来るようになりました

登龍乃月

文字の大きさ
50 / 73

50 過去

しおりを挟む
『お前の親父さんには世話になった。だからこれからは俺を親父だと思って……何でも相談してくれよ』
「……ダラスさん」

 ざぁざぁと雨が降っていた。
 大雨だった。
 嵐の夜だった。
 父が急死し、その葬式会場での事だった。
 ざぁざぁと雨が降っていて、凄くうるさかったのを覚えている。
 父の死因は急性心不全、という判定だった。
 当時父はまだ四十歳、俺は十五歳だった。
 葬式は国を挙げての盛大なもので、たくさんの人が訪れて献花をし、お悔やみを言われた。
 当時の俺は思春期で、いつでも父に反抗して、喧嘩ばかりしていた。
 当時の俺の父への認識は軍の偉い人、というふんわりとしたものだった。
 祖父の逸話や家系の話は一切聞いた事が無かった。
 いや、もしかすると聞いていなかった、記憶に留めていなかっただけなのかもしれない。
 母は俺が五歳の時に流行病で死んでしまった。
 悲しくて寂しくて侘しかった。
 幼い俺はどうしようもない不安と喪失感に包まれていたが、父は毅然と涙など流さずに俺を慰めてくれた。
 
『これからは父さんと二人だ。けど母さんはいつでもそばにいる。母さんに胸を張れるような生き方をしよう』

 そう言われたのを覚えている。
 父の葬式の時、その言葉が頭に浮かび、俺はどうしようもないほどに泣いた。
 ごめんなさい、ごめんなさい、と絶え間なく泣いた、泣き崩れた。
 
『父さんなんて大嫌いだ!』

 父がこの世を去る日の前の夜に、俺が勢いで言ってしまった言葉だ。
 実際に大嫌いだったわけじゃない。
 実際は大好きだった。
 母を亡くして辛いのはきっと、俺よりも父の方だった。
 最愛の母を亡くしたにも関わらず悲観にくれず、俺を全力で愛し、育て、叱ってくれた。
 父は強い、とても強い男だった。
 尊敬していた。
 心の底から尊敬していた。
 そんな父に、大嫌いだと言った、言ってしまった。
 そしてそれを撤回する機会は永遠に訪れなくなった。
 父が大好きだ。
 父を尊敬している。
 父を愛している。
 俺を愛してくれて、育ててくれて、いつでもそばにいてくれてありがとう。
 その言葉を、その思いを伝える機会は、永遠に失われてしまったのだ。
 ざぁざぁと、うるさいほどに降る大雨の嵐の夜のことだった。
 父の死後、俺は父の残した屋敷で使用人に囲まれながら生活をしていた。
 目的もなく、だらだらと死んだように生きていた、そんな俺を叱りつける使用人などいなかった。
 外に出るのも億劫になり、少なからずいた友達とも疎遠になっていった。
 ダラスは葬式の後に言った言葉通り、俺の所に度々足を運んでくれた。
 
『散歩に行こう』

 憔悴し、引きこもりかけていた俺に、ダラスはそう言ってほぼ無理矢理に俺を外に連れ出した。
 何を喋るわけでもなく、ただダラダラと、目的もなく街を歩き、川辺まで歩いた。
 俺は何も喋らないダラスの大きな背中を、ただただじっと見つめながら歩いていた。
 川辺に腰を下ろしたダラスはタバコを取り出し、火をつけて煙を吐き出した。
 
『吸うか?』
『吸わないよ。俺まだ未成年』
『そうだなぁ、まだ子供だもんな』
『……』

 ダラスはそう言ってからからと愉快そうに笑った。
 この人は一体何を考えているんだ? と思った。
しおりを挟む
感想 123

あなたにおすすめの小説

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。

桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。 だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。 そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。 異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。 チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!? “真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

処理中です...