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「なぁおい、何だあれ」
「ん? あぁ本当だ。モンスターか?」
「それ以外に無いだろ」
テイル王国正規軍の兵士達は現在作戦行動中であり、目的である領主の屋敷周辺に展開して待機中であった。
その中の兵士の一人が上空に滞空するソレを見つけ、隣であくびを噛み殺していた同僚に声をかけた。
よく見れば少し離れた所にも、ソレと同じ体をした存在が等間隔で滞空していた。
かなり高い所で留まっているためにその細部までは分からない。
だがかなり小型のモンスターなのだという事はわかる。
「あれ、うちのか?」
テイル王国がモンスターを使役しているのは公然の事実であり、それは一兵卒の彼らとてきちんと認識している。
だが今回は首都からかなり離れた町での作戦だ。
遠征にモンスター部隊が同行するという話は聞いていないが、もしかすると上空に漂う小さなモンスターくらいは出せる状況になったのかもしれない。
「そうじゃないか? 俺は何も聞いてないけど俺らみたいな下っ端にはそんな情報は回って来ないだろ」
「まぁ確かにな。しかしモンスター達が暴れ出した時はどうなるかと思ったぜ」
「だなぁ。原因は管理部門の不手際による事故だったって聞いたが……本当かねぇ」
兵は眉と肩を同時に上げ、軍内に通達された事実を疑う素振りを見せる。
クロードが国を見限った結果引き起こされたモンスターの暴走事故。
国内ではテイルハザードと呼ばれており、革命戦争が起きるきっかけとなった大事故である。
王の思慮は下っ端に分り得るものではないけれど、もう少しやりようがあったのではないか?
というのが皆の心の内に秘めた思いであったのは間違いない。
「そろそろ作戦開始だな。さてさて、上のちびっ子は何をどう援護してくれるのやら」
「見た事も無いモンスターだが健闘に期待させてもらおうぜ」
だがここで王への燻りを吐露した所で状況が変わるわけでもなし。
二人の兵はメットをしっかりと被り直し、腰に帯びた量産の剣を握りしめ、目の前にある屋敷を睨みつけた。
屋敷はいたって静かであり、窓からは使用人の姿すら見受けられない。
平時は門を守護しているはずの門番の姿も見当たらない。
相手側に正規軍の動きがばれているのは疑いようのない事実だろう。
だとすれば相手は屋敷の中で身構えているはずであり、不用意に突撃するのは得策ではない。
「いけぇーーー!」
正規兵達を指揮する将軍からの号令が飛んだ。
それに合わせて大型の破城槌が轟音を立てながら門へと突っ込んで行った。
盛大な破壊音と共に門がひしゃげて吹き飛んだ。
「進めぇ!」
突っ込んだ破城槌が引かれると、大型の盾を構えた重装歩兵が列を組んでゆっくりと進行していく。
その途端に屋敷の窓という窓から矢の一斉射撃が始まり、盾に、歩兵の鎧に、地面に矢の雨が次々と降り注いでいった。
「次ぃ!」
指示が飛び、後方に控えていた弓兵部隊がお返しとばかりにボウガンでの一斉射撃を開始した。
ボウガンの矢は一直線に屋敷の壁や窓に降り注ぎ、さらにそこで小規模の爆発が矢の分だけ巻き起こる。
テイル王国軍特製の破矢である。
矢の先端が対象に触れると、それを感知した炸薬が爆発を起こすという火矢の進化版とも言える装備である。
爆破された窓は綺麗に吹き飛び、屋敷の壁には無数の穴が空いていた。
「始まりましたね」
破城槌の轟音の後に響く無数の爆発音を聞きながらアスターが言った。
「ま、今回は楽勝だろう。次は俺達の番だ、楽勝だとは思うが、油断すんなよ」
その隣にはダラスの姿もある。
彼らは現在表門とは真逆、屋敷の裏手を位置取っていた。
彼が担当する作戦は屋敷裏手から突入し、挟撃するというもの。
ダラスの付近にはダラス率いる分隊が展開しており、この場の指揮権は彼のものだった。
ダラスの今の階級は中将。
モンスター統括司令官から降格したとは言っても、軍内部でのダラスの権力はやはり大きい。
部隊編成でも自分が認める者を自分の部隊に集める事も容易い。
それゆえにダラスは自らの補佐として、右腕としてアスターを自分の部隊に置いていた。
「行くぞお前ら! ケツ締めてけよ!」
「「「はっ!」」」
ダラスは号令を飛ばし剣を抜き放つと、先陣を切って屋敷へと突入していった。
そして裏手の扉を蹴り破った途端、大きな爆発が起きてダラス達は閃光に包まれた。
「ん? あぁ本当だ。モンスターか?」
「それ以外に無いだろ」
テイル王国正規軍の兵士達は現在作戦行動中であり、目的である領主の屋敷周辺に展開して待機中であった。
その中の兵士の一人が上空に滞空するソレを見つけ、隣であくびを噛み殺していた同僚に声をかけた。
よく見れば少し離れた所にも、ソレと同じ体をした存在が等間隔で滞空していた。
かなり高い所で留まっているためにその細部までは分からない。
だがかなり小型のモンスターなのだという事はわかる。
「あれ、うちのか?」
テイル王国がモンスターを使役しているのは公然の事実であり、それは一兵卒の彼らとてきちんと認識している。
だが今回は首都からかなり離れた町での作戦だ。
遠征にモンスター部隊が同行するという話は聞いていないが、もしかすると上空に漂う小さなモンスターくらいは出せる状況になったのかもしれない。
「そうじゃないか? 俺は何も聞いてないけど俺らみたいな下っ端にはそんな情報は回って来ないだろ」
「まぁ確かにな。しかしモンスター達が暴れ出した時はどうなるかと思ったぜ」
「だなぁ。原因は管理部門の不手際による事故だったって聞いたが……本当かねぇ」
兵は眉と肩を同時に上げ、軍内に通達された事実を疑う素振りを見せる。
クロードが国を見限った結果引き起こされたモンスターの暴走事故。
国内ではテイルハザードと呼ばれており、革命戦争が起きるきっかけとなった大事故である。
王の思慮は下っ端に分り得るものではないけれど、もう少しやりようがあったのではないか?
というのが皆の心の内に秘めた思いであったのは間違いない。
「そろそろ作戦開始だな。さてさて、上のちびっ子は何をどう援護してくれるのやら」
「見た事も無いモンスターだが健闘に期待させてもらおうぜ」
だがここで王への燻りを吐露した所で状況が変わるわけでもなし。
二人の兵はメットをしっかりと被り直し、腰に帯びた量産の剣を握りしめ、目の前にある屋敷を睨みつけた。
屋敷はいたって静かであり、窓からは使用人の姿すら見受けられない。
平時は門を守護しているはずの門番の姿も見当たらない。
相手側に正規軍の動きがばれているのは疑いようのない事実だろう。
だとすれば相手は屋敷の中で身構えているはずであり、不用意に突撃するのは得策ではない。
「いけぇーーー!」
正規兵達を指揮する将軍からの号令が飛んだ。
それに合わせて大型の破城槌が轟音を立てながら門へと突っ込んで行った。
盛大な破壊音と共に門がひしゃげて吹き飛んだ。
「進めぇ!」
突っ込んだ破城槌が引かれると、大型の盾を構えた重装歩兵が列を組んでゆっくりと進行していく。
その途端に屋敷の窓という窓から矢の一斉射撃が始まり、盾に、歩兵の鎧に、地面に矢の雨が次々と降り注いでいった。
「次ぃ!」
指示が飛び、後方に控えていた弓兵部隊がお返しとばかりにボウガンでの一斉射撃を開始した。
ボウガンの矢は一直線に屋敷の壁や窓に降り注ぎ、さらにそこで小規模の爆発が矢の分だけ巻き起こる。
テイル王国軍特製の破矢である。
矢の先端が対象に触れると、それを感知した炸薬が爆発を起こすという火矢の進化版とも言える装備である。
爆破された窓は綺麗に吹き飛び、屋敷の壁には無数の穴が空いていた。
「始まりましたね」
破城槌の轟音の後に響く無数の爆発音を聞きながらアスターが言った。
「ま、今回は楽勝だろう。次は俺達の番だ、楽勝だとは思うが、油断すんなよ」
その隣にはダラスの姿もある。
彼らは現在表門とは真逆、屋敷の裏手を位置取っていた。
彼が担当する作戦は屋敷裏手から突入し、挟撃するというもの。
ダラスの付近にはダラス率いる分隊が展開しており、この場の指揮権は彼のものだった。
ダラスの今の階級は中将。
モンスター統括司令官から降格したとは言っても、軍内部でのダラスの権力はやはり大きい。
部隊編成でも自分が認める者を自分の部隊に集める事も容易い。
それゆえにダラスは自らの補佐として、右腕としてアスターを自分の部隊に置いていた。
「行くぞお前ら! ケツ締めてけよ!」
「「「はっ!」」」
ダラスは号令を飛ばし剣を抜き放つと、先陣を切って屋敷へと突入していった。
そして裏手の扉を蹴り破った途端、大きな爆発が起きてダラス達は閃光に包まれた。
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