72 / 73
72 自己満足
しおりを挟む
俺の静かな葛藤は誰にも知られる事なく、このままの足で王城へと直行することが決まってしまった。
一人あわあわしている俺を見ていたダラスがふと急に真面目な表情を作った。
そしてしばし目線を泳がせた後、ややぁと口を開いた。
「その、クロードよ」
「なんでしょうか」
「ほら、アレだよ。何て言えばいいか……」
「なんですか?」
「お前が国を出ていったのは軍の責任だと聞いている。そしてお前に対して何も気付かなかった俺自身も、悪いと思っている。すまなかった」
「え……でもさっき……」
「言いたい事はあるが謝らないとは、言っていないぞ」
「……屁理屈って言うんですよそういうの」
「そうだな。年を取るとどうもいけねぇ。で、よう。とりあえず一発、俺を殴れ。一発で気が済まないなら気が済むまで殴れ」
「……無理に決まってるじゃないですか。てか何をいきなり言い出すんですか。……今更」
「いいからなぐ」
そう言いかけたダラスの横っ面に、俺は思い切り固めた拳を全力で振り抜いた。
ドゴォッ! という鈍い音が鳴り、俺の拳に頬骨が当たる鈍い感触が伝わってきた。
不意打ちをモロに受けたダラスだったが、ぎりっと歯を食いしばり目を伏せていた。
横で見ていたカレンが「ひぇーいったそうー」と口をへの字に曲げて呟いていた。
「これで満足ですか。殴ってくれだなんて、アンタの自己満でしかないんだろ。アンタに責任があるなんて俺は思っちゃいないんです。何か一つ相談していれば変わっていたのかも知れない、けど、それが出来なかったのは俺のせいです。そうなるまで追い詰めた軍がとか、気にかけてくれなかったアンタがとか、不器用で人付き合いが下手なアスター将軍がとか、そうゆうのじゃないんです。全部です、全部悪かったんです。タイミングとか、感情とか、仕事とか、根本的に全部悪かったんですよ。だからアンタを殴ろうが殴るまいが、何も変わらないんです。それ以上でもそれ以下でも、ないんです」
「……そうか。だが、すまなかった」
「もういいです」
初めてこんなに全力で人を殴った。
握り締めた拳は震え、拳骨がずきずきと痛んだ。
誰のせいだとか、そういうのじゃあないのだ。
何が悪かったのかと言えば、今言った通り色々と全体的に悪かったのだ。
だから、
「もう、この話はやめましょう。今までの事じゃなくて、俺はこれからの話がしたいんです」
「……わかった」
ダラスはそう言うと、膝の上で手を組んで下を向いた。
「そろそろ着くぜ!」
そして外を見ていたダレクが機内に向けて声を上げ、つられて窓の外を見れば王城の威容が目に入った。
テイル王国から離れて数か月も経っていないのに、なぜか酷く長い間離れていたような気になり、とても懐かしく感じられた。
人気のない所を探し、そのまま着陸のアプローチを始めた。
「ねぇクロード」
「何ですか?」
さぁ外に出るぞといったタイミングでサリアが話しかけてきた。
「そのまま出て大丈夫なの? あなた、国からよく思われてないんじゃないの? 素顔むき出しで行ったら王に辿り着くまでに兵達に囲まれちゃうとかない?」
「あー……どうでしょう……分かりません」
「つまり何も考えてなかったって事ね。分かったわ。【チェンジ】」
サリアは呆れたように小さくため息を吐いたと思ったら、俺のおでこを軽く指で弾いた。
たったそれだけで俺の体がもやに包まれていく。
「どぅわっ! 何を!」
「何って、変化よ。変装しといたに越した事は無いわ」
「あ、ありがとうございます。これで変わってるん、ですか?」
「ばっちりよ。不安ならほら」
言われるがまま、サリアの懐から取り出された手鏡に自分の顔を映してみた。
するとその鏡に映っていたのは今までの俺ではなく、口元に大量のひげを生やしたいかつい顔をした中年のオッサンの顔が映し出されていた。
頬には大きな傷まであり、人を複数殺していると言われても納得出来そうな凶悪犯みたいな顔立ちだった。
「くくく……こりゃいいな。いかにも悪者って感じだ」
つい先ほど俺に殴られたばかりだというのにも関わらず、ダラスは俺の顔を見て愉快そうに含み笑いをしていた。
相変わらず切り替えが早いな。
アスターはずっと無言を貫き通していて、その表情は一言では言い表せられないほどに複雑な色を宿していた。
機内から外に出てリトルバードをリリースし、俺達はダラスに連れられるまま王城の中へと入って行った。
一人あわあわしている俺を見ていたダラスがふと急に真面目な表情を作った。
そしてしばし目線を泳がせた後、ややぁと口を開いた。
「その、クロードよ」
「なんでしょうか」
「ほら、アレだよ。何て言えばいいか……」
「なんですか?」
「お前が国を出ていったのは軍の責任だと聞いている。そしてお前に対して何も気付かなかった俺自身も、悪いと思っている。すまなかった」
「え……でもさっき……」
「言いたい事はあるが謝らないとは、言っていないぞ」
「……屁理屈って言うんですよそういうの」
「そうだな。年を取るとどうもいけねぇ。で、よう。とりあえず一発、俺を殴れ。一発で気が済まないなら気が済むまで殴れ」
「……無理に決まってるじゃないですか。てか何をいきなり言い出すんですか。……今更」
「いいからなぐ」
そう言いかけたダラスの横っ面に、俺は思い切り固めた拳を全力で振り抜いた。
ドゴォッ! という鈍い音が鳴り、俺の拳に頬骨が当たる鈍い感触が伝わってきた。
不意打ちをモロに受けたダラスだったが、ぎりっと歯を食いしばり目を伏せていた。
横で見ていたカレンが「ひぇーいったそうー」と口をへの字に曲げて呟いていた。
「これで満足ですか。殴ってくれだなんて、アンタの自己満でしかないんだろ。アンタに責任があるなんて俺は思っちゃいないんです。何か一つ相談していれば変わっていたのかも知れない、けど、それが出来なかったのは俺のせいです。そうなるまで追い詰めた軍がとか、気にかけてくれなかったアンタがとか、不器用で人付き合いが下手なアスター将軍がとか、そうゆうのじゃないんです。全部です、全部悪かったんです。タイミングとか、感情とか、仕事とか、根本的に全部悪かったんですよ。だからアンタを殴ろうが殴るまいが、何も変わらないんです。それ以上でもそれ以下でも、ないんです」
「……そうか。だが、すまなかった」
「もういいです」
初めてこんなに全力で人を殴った。
握り締めた拳は震え、拳骨がずきずきと痛んだ。
誰のせいだとか、そういうのじゃあないのだ。
何が悪かったのかと言えば、今言った通り色々と全体的に悪かったのだ。
だから、
「もう、この話はやめましょう。今までの事じゃなくて、俺はこれからの話がしたいんです」
「……わかった」
ダラスはそう言うと、膝の上で手を組んで下を向いた。
「そろそろ着くぜ!」
そして外を見ていたダレクが機内に向けて声を上げ、つられて窓の外を見れば王城の威容が目に入った。
テイル王国から離れて数か月も経っていないのに、なぜか酷く長い間離れていたような気になり、とても懐かしく感じられた。
人気のない所を探し、そのまま着陸のアプローチを始めた。
「ねぇクロード」
「何ですか?」
さぁ外に出るぞといったタイミングでサリアが話しかけてきた。
「そのまま出て大丈夫なの? あなた、国からよく思われてないんじゃないの? 素顔むき出しで行ったら王に辿り着くまでに兵達に囲まれちゃうとかない?」
「あー……どうでしょう……分かりません」
「つまり何も考えてなかったって事ね。分かったわ。【チェンジ】」
サリアは呆れたように小さくため息を吐いたと思ったら、俺のおでこを軽く指で弾いた。
たったそれだけで俺の体がもやに包まれていく。
「どぅわっ! 何を!」
「何って、変化よ。変装しといたに越した事は無いわ」
「あ、ありがとうございます。これで変わってるん、ですか?」
「ばっちりよ。不安ならほら」
言われるがまま、サリアの懐から取り出された手鏡に自分の顔を映してみた。
するとその鏡に映っていたのは今までの俺ではなく、口元に大量のひげを生やしたいかつい顔をした中年のオッサンの顔が映し出されていた。
頬には大きな傷まであり、人を複数殺していると言われても納得出来そうな凶悪犯みたいな顔立ちだった。
「くくく……こりゃいいな。いかにも悪者って感じだ」
つい先ほど俺に殴られたばかりだというのにも関わらず、ダラスは俺の顔を見て愉快そうに含み笑いをしていた。
相変わらず切り替えが早いな。
アスターはずっと無言を貫き通していて、その表情は一言では言い表せられないほどに複雑な色を宿していた。
機内から外に出てリトルバードをリリースし、俺達はダラスに連れられるまま王城の中へと入って行った。
12
あなたにおすすめの小説
スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜
東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚
熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。
しかし職業は最強!?
自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!?
ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。
桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。
だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。
そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。
異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。
チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!?
“真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる