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ナミダの提案
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「……二人っきり、ですね」
ライリーは、エレットの一言にドキリとする。そうか、今この部屋には二人しかいないのか……。
「……あの、お話を、してもいいですか?」
エレットは顔を正面に向けたまま尋ねた。ライリーは様々な思考を解き、一度だけ頷いた。
「わたくし、まだライリーさんと出会って間もないので……厚かましいかもしれませんが……」
エレットは声を震わせながら、ライリーへと言葉を送る。
「気にかけてくれることが本当に嬉しくて、でもだからこそ申し訳なくて」
エレットは、はぁはぁと息を荒くしてから、ゆっくりと息を吸い込んで一言放った。
「愚痴を言っても、いいのでしょうか」
流れとは少し違った唐突な言葉に、ライリーはほんの少しだけ驚いた、しかし、そう言うのを分かりきっていたかのようにニコリと笑い、エレットの顔をしっかりと見ながら優しく言葉を返す。
「もちろん!」
短い一言であったが、エレットにとっては救われるような一言だった。それは、多忙な両親と執拗な使用人たちの間に挟まれ、日々与えられてきた苦痛すらも跳ね除けてしまうような、そんな一言であった。
エレットは横に座った「友人」の顔を見て、つーっと涙を流してしまう。だが、それはエレットの吐露を止める抑止力にはならず、彼女の口からは今までの感情がポロポロとこぼれ始めた。
「ずっと、嫌だったんです」
エレットはゆったりと、しかし強い声で話す。
「お父さまも、お母さまも、いつもお忙しそうで……わたくしにはお話し相手がいませんでした」
「……そっか」
「だからこそ、わたくしにご指導下さっている皆さまとなら楽しく過ごせるかな、と期待していました」
エレットは俯きながら、悲しみの感情を言葉に変換していく。ライリーは、ただひたすらに聞くことしかできなかった。
「実際には違いました。わたくしが何かをする度に、『できて当然』、だとか、『このくらいのことができない人間はいない』、だとか、彼女たちは私を褒めてはくれませんでした」
ライリーは、その言葉を聞いてルサークの姿を思い出す。優しさのある彼女もエレットを褒めることはなかったのだろうか、と疑問に思ったのだ。
しかし、ルサークはあくまで仕立て役。そもそもエレットと接触する機会すら少ないのかもしれない。ライリーはそれを考えて納得した。
「たしかに、『褒めてほしい』だなんてワガママだと思います。ですが、あそこまで見放されるだなんて、わたくしは耐えられません」
ライリーは、ベッドへ落ちていく二粒の雫を見ながら、どんどんと胸が締め付けられていく。なぜあの人たちはこの子をここまで苦しめるのだろうか。そんなことを考えながら。
「……また、ワガママを言うことになりますが……これ以上求めないと誓うので……!」
エレットはライリーの両肩を掴みながら、青い瞳が湖に見えるほどの涙を流して声を絞り出した。
「たすけてっ……ください……!」
その声を聞いたライリーは、今まで自分の何かをつなぎ止めていた糸がプツリと切れ、エレットに向けて大きく頷いてから、「待ってて!」と声を上げた。そして、部屋を一気に飛び出し、一度自らの部屋へと戻る。
部屋に戻るなり、ライリーはエイドに大声で質問する。
「エイド!ハイオット・ルサークって人を知らないかしら?」
突然訊かれたエイドは困惑し、皿を洗う手を止めた。
「えっ、あぁ、ルサークさんですね。一つ上の先輩なので存じてますよ。たしか、四階の階段正面のお部屋――」
「ありがとう!!」
そう言ってライリーは部屋を飛び出し、急いで階段を駆け上がった。そして、階段正面の部屋をコンコンと叩き、中にいる人物が誰なのかを確かめる。
「失礼します。ハイオット・ルサークさまのお部屋であっておりますでしょうか!」
その声を轟かせると、内側から扉が開き、予想通りルサークが顔をのぞかせる。
「はい、そうですが……あれ?」
ルサークは少し困惑したが、下を向いてからようやく理解する。
「ああ、あなたでしたか。どうされました?」
「あの、急に押しかけてきて申し訳ないのですが、エレット王女のお衣装をいくつか貸していただけませんか?」
「王女様の……?どうお使いになられるんですか?」
「――っ、理由はなんでも良いでしょう?」
ルサークは、なにかを隠そうとするライリーを見て、ひとつの考えを持つ。ははーん、この子、お着替え会でもするつもりですね。この歳の女の子らしくて良いじゃないですか、と。
そうと分かれば準備は早い。ルサークはライリーを二階の倉庫へと連れていき、仕立てたばかりの服の数々を見せる。
「ここからここまでは、まだ王女様も着用なさっていない新品です。せっかくですし、こちらからお選びください」
そこにあった多くの服は、まさに「王女」の名に相応しい美しいものばかりであった。本物かどうかは分からないながらも、色とりどりの宝石がちりばめられた服や、シルクで作られた手触りの良いものまで様々。ライリーはそれらを吟味しながら選んでいく。
最終的にライリーは六着もの服を選び、「持って行って大丈夫ですか?」と問う。ルサークは選定された服たちを意外だと思いつつも、「ええ、大丈夫ですよ」と答えた。
ルサークは、両腕いっぱいに服を抱えたライリーを見て、「部屋までお持ちしましょうか?」と尋ねたが、ライリーは「持てます!」と自信満々に宣言し、倉庫から外へと出ていった。
ルサークはその様子を眺めてから、残った服たちの様子を確認する。すると、管理が甘く虫に食われた服を見つけてしまった。その事実に悔しさを覚えながらも、直してから帰らなければ気が済まない、と裁縫道具を取り出した。
◇ ◇ ◇
ライリーは、服を抱えながら階段を上る。しかし、服とはいえ六着も持つとそれなりに重い。ライリーは落とさないように気を払っていたが、踊り場に到着するはずみで服を一着落としてしまう。
すると、前から中年の使用人が降りてきて、服を落としたライリーの近くで「何をやってるんだか」と囁いた。
「そんなに服を持って。なにを企んでいるんですか?」
「――企みなんてありませんよ」
ライリーはこれ以上絡まれたくない、と服を急いで拾い、三階で待つ王女へ服を届けに上がっていく。使用人は、追いかける気力もなくただライリーを見送った。
三階に到着したライリーは、ノックもせずエレットの部屋へと入った。
「戻りました」
その言葉を聞いたエレットは、その場に立ち上がってから驚愕する。ライリーは、上下セットの服、六着をその場に置いた。
エレットは置かれた服へ近づいていき、どのような服があるかを確認する。色は青と桃色と白しかないが、そのどれもが豪華というよりはむしろ質素で、ドレスと称するにはあまりにも目立った要素がないものばかりだ。
「エレットさん、これが全部入るくらいのバッグはない?」
「あ、ありますけど……どうして……ですか?」
「あるんだ。ならそれを持ってきてもらってもいいかな?」
エレットは服の観察をやめ、少し急ぐようにバッグのある場所へと向かった。そして、あの服たちと合うような質素なバッグを選んで持っていく。
「は、はい、持ってきました」
「ありがとう」
ライリーはエレットからバッグを受け取るなり、どんどんと服をバッグに詰める。そして、全て入れ終わってからエレットに確認をとる。
「ねぇ、これがなかったら生きていけないとか、何も食べられないとか眠れないとか、そういうものはない?」
「え、えっと……どうですかね」
「あるなら用意しておいて」
そう言い残して、ライリーはまた部屋の外へと出ていってしまった。エレットは困惑したが、言われた通り「これがなかったら眠れないもの」、である小さなクマのぬいぐるみを用意した。
エレットがソワソワと落ち着かない様子でしばらく待つと、ライリーが中型のバッグを持って帰ってきた。エレットは、何か心に決めたような顔つきのライリーに、改めて質問を投げかける。
「あの、こんなに荷物をもって、どうするのでしょうか……?」
その質問を聞いたライリーは、数刻だけ考える素振りを見せてから、これまでとは全く違う大真面目な顔で口を開いた。
「――遠くへ逃げちゃおうよ、二人でさ」
少し前まであんなに青かった空が、急にオレンジ色に変わった。
ライリーは、エレットの一言にドキリとする。そうか、今この部屋には二人しかいないのか……。
「……あの、お話を、してもいいですか?」
エレットは顔を正面に向けたまま尋ねた。ライリーは様々な思考を解き、一度だけ頷いた。
「わたくし、まだライリーさんと出会って間もないので……厚かましいかもしれませんが……」
エレットは声を震わせながら、ライリーへと言葉を送る。
「気にかけてくれることが本当に嬉しくて、でもだからこそ申し訳なくて」
エレットは、はぁはぁと息を荒くしてから、ゆっくりと息を吸い込んで一言放った。
「愚痴を言っても、いいのでしょうか」
流れとは少し違った唐突な言葉に、ライリーはほんの少しだけ驚いた、しかし、そう言うのを分かりきっていたかのようにニコリと笑い、エレットの顔をしっかりと見ながら優しく言葉を返す。
「もちろん!」
短い一言であったが、エレットにとっては救われるような一言だった。それは、多忙な両親と執拗な使用人たちの間に挟まれ、日々与えられてきた苦痛すらも跳ね除けてしまうような、そんな一言であった。
エレットは横に座った「友人」の顔を見て、つーっと涙を流してしまう。だが、それはエレットの吐露を止める抑止力にはならず、彼女の口からは今までの感情がポロポロとこぼれ始めた。
「ずっと、嫌だったんです」
エレットはゆったりと、しかし強い声で話す。
「お父さまも、お母さまも、いつもお忙しそうで……わたくしにはお話し相手がいませんでした」
「……そっか」
「だからこそ、わたくしにご指導下さっている皆さまとなら楽しく過ごせるかな、と期待していました」
エレットは俯きながら、悲しみの感情を言葉に変換していく。ライリーは、ただひたすらに聞くことしかできなかった。
「実際には違いました。わたくしが何かをする度に、『できて当然』、だとか、『このくらいのことができない人間はいない』、だとか、彼女たちは私を褒めてはくれませんでした」
ライリーは、その言葉を聞いてルサークの姿を思い出す。優しさのある彼女もエレットを褒めることはなかったのだろうか、と疑問に思ったのだ。
しかし、ルサークはあくまで仕立て役。そもそもエレットと接触する機会すら少ないのかもしれない。ライリーはそれを考えて納得した。
「たしかに、『褒めてほしい』だなんてワガママだと思います。ですが、あそこまで見放されるだなんて、わたくしは耐えられません」
ライリーは、ベッドへ落ちていく二粒の雫を見ながら、どんどんと胸が締め付けられていく。なぜあの人たちはこの子をここまで苦しめるのだろうか。そんなことを考えながら。
「……また、ワガママを言うことになりますが……これ以上求めないと誓うので……!」
エレットはライリーの両肩を掴みながら、青い瞳が湖に見えるほどの涙を流して声を絞り出した。
「たすけてっ……ください……!」
その声を聞いたライリーは、今まで自分の何かをつなぎ止めていた糸がプツリと切れ、エレットに向けて大きく頷いてから、「待ってて!」と声を上げた。そして、部屋を一気に飛び出し、一度自らの部屋へと戻る。
部屋に戻るなり、ライリーはエイドに大声で質問する。
「エイド!ハイオット・ルサークって人を知らないかしら?」
突然訊かれたエイドは困惑し、皿を洗う手を止めた。
「えっ、あぁ、ルサークさんですね。一つ上の先輩なので存じてますよ。たしか、四階の階段正面のお部屋――」
「ありがとう!!」
そう言ってライリーは部屋を飛び出し、急いで階段を駆け上がった。そして、階段正面の部屋をコンコンと叩き、中にいる人物が誰なのかを確かめる。
「失礼します。ハイオット・ルサークさまのお部屋であっておりますでしょうか!」
その声を轟かせると、内側から扉が開き、予想通りルサークが顔をのぞかせる。
「はい、そうですが……あれ?」
ルサークは少し困惑したが、下を向いてからようやく理解する。
「ああ、あなたでしたか。どうされました?」
「あの、急に押しかけてきて申し訳ないのですが、エレット王女のお衣装をいくつか貸していただけませんか?」
「王女様の……?どうお使いになられるんですか?」
「――っ、理由はなんでも良いでしょう?」
ルサークは、なにかを隠そうとするライリーを見て、ひとつの考えを持つ。ははーん、この子、お着替え会でもするつもりですね。この歳の女の子らしくて良いじゃないですか、と。
そうと分かれば準備は早い。ルサークはライリーを二階の倉庫へと連れていき、仕立てたばかりの服の数々を見せる。
「ここからここまでは、まだ王女様も着用なさっていない新品です。せっかくですし、こちらからお選びください」
そこにあった多くの服は、まさに「王女」の名に相応しい美しいものばかりであった。本物かどうかは分からないながらも、色とりどりの宝石がちりばめられた服や、シルクで作られた手触りの良いものまで様々。ライリーはそれらを吟味しながら選んでいく。
最終的にライリーは六着もの服を選び、「持って行って大丈夫ですか?」と問う。ルサークは選定された服たちを意外だと思いつつも、「ええ、大丈夫ですよ」と答えた。
ルサークは、両腕いっぱいに服を抱えたライリーを見て、「部屋までお持ちしましょうか?」と尋ねたが、ライリーは「持てます!」と自信満々に宣言し、倉庫から外へと出ていった。
ルサークはその様子を眺めてから、残った服たちの様子を確認する。すると、管理が甘く虫に食われた服を見つけてしまった。その事実に悔しさを覚えながらも、直してから帰らなければ気が済まない、と裁縫道具を取り出した。
◇ ◇ ◇
ライリーは、服を抱えながら階段を上る。しかし、服とはいえ六着も持つとそれなりに重い。ライリーは落とさないように気を払っていたが、踊り場に到着するはずみで服を一着落としてしまう。
すると、前から中年の使用人が降りてきて、服を落としたライリーの近くで「何をやってるんだか」と囁いた。
「そんなに服を持って。なにを企んでいるんですか?」
「――企みなんてありませんよ」
ライリーはこれ以上絡まれたくない、と服を急いで拾い、三階で待つ王女へ服を届けに上がっていく。使用人は、追いかける気力もなくただライリーを見送った。
三階に到着したライリーは、ノックもせずエレットの部屋へと入った。
「戻りました」
その言葉を聞いたエレットは、その場に立ち上がってから驚愕する。ライリーは、上下セットの服、六着をその場に置いた。
エレットは置かれた服へ近づいていき、どのような服があるかを確認する。色は青と桃色と白しかないが、そのどれもが豪華というよりはむしろ質素で、ドレスと称するにはあまりにも目立った要素がないものばかりだ。
「エレットさん、これが全部入るくらいのバッグはない?」
「あ、ありますけど……どうして……ですか?」
「あるんだ。ならそれを持ってきてもらってもいいかな?」
エレットは服の観察をやめ、少し急ぐようにバッグのある場所へと向かった。そして、あの服たちと合うような質素なバッグを選んで持っていく。
「は、はい、持ってきました」
「ありがとう」
ライリーはエレットからバッグを受け取るなり、どんどんと服をバッグに詰める。そして、全て入れ終わってからエレットに確認をとる。
「ねぇ、これがなかったら生きていけないとか、何も食べられないとか眠れないとか、そういうものはない?」
「え、えっと……どうですかね」
「あるなら用意しておいて」
そう言い残して、ライリーはまた部屋の外へと出ていってしまった。エレットは困惑したが、言われた通り「これがなかったら眠れないもの」、である小さなクマのぬいぐるみを用意した。
エレットがソワソワと落ち着かない様子でしばらく待つと、ライリーが中型のバッグを持って帰ってきた。エレットは、何か心に決めたような顔つきのライリーに、改めて質問を投げかける。
「あの、こんなに荷物をもって、どうするのでしょうか……?」
その質問を聞いたライリーは、数刻だけ考える素振りを見せてから、これまでとは全く違う大真面目な顔で口を開いた。
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