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逃げ消える者
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「――遠くへ逃げちゃおうよ、二人でさ」
エレットは耳を疑った。驚きで言葉すらも失った。
「ほらさ、どうせここにいてもいじめられるだけでしょう?だったら、一気に全部変えちゃうってのも、ひとつの手かもよ?」
ライリーは真剣な表情のまま、話を続けている。エレットはその様子から少しだけ目を逸らす。
「友達と馬鹿やって、それで思いっきり叱られる……そんなのも、思い出のひとつになるんじゃない?」
『友達』、エレットはその言葉に心が少し揺れる。
「で、でも……そんなことをしたらライリーさんが――」
「やってみるだけやってみよ?ね?」
エレットは勢いに押され、思わず小さく頷いてしまった。それを見たライリーは、エレットにカバンを渡し、自分もカバンを持った。そして、王女の手を引いてエスコートするように一階へ向かった。
城におけるこの時間は、料理人の始業と使用人たちの終業が重なる時間であり、人々の多くは一階か四階に固まる。しかも、一階にいる者は大抵料理室にいるため、その階の廊下にはほとんど人が居ない。すなわち、階段で誰かに会うことさえなければ、誰かに見られる可能性も低いのだ。
二人は音を立てないように階段を降り、一階へと向かう。細心の注意を払い、誰かいるかを確認するが、どうやら運良く誰もいないらしかった。
一階に着いてからはゆっくり歩かず、むしろ全力疾走で裏口と向かった。勢いに身を任せ、裏口から外へ出ると、数名の一般客が見えた。そうか、この時間はまだ解放されているのか。
その事実を理解したライリーは、暗闇に紛れながら出口へと向かった。一般客がいる、ということは出入口に門番がいる可能性が高い。しかし、どんどんと暗くなるこの状況では、まともな明かりもない門番は簡単には気づけない……かもしれない。
そのような少しの望みにかけ、門から出てみると、なぜか門番はそこにいなかった。
この城はそこまで警備が甘いのか、と呆れそうになったが、実は駄々をこねてなかなか帰らない客が居たようで、それの対応で不在なようであった。
二人は関係者口からそそくさと外に出て、運河の方へと走っていった。日が沈み、なかなか前が見えない中で、運河のそばの街灯がキラキラと輝いている。ライリーはそれを頼りに進んでいった。
船着場に到着すると、十数名の大人が船を待っていた。二人はそれに追随するように並び、船を待った。仕事で疲れ果てた大人の後ろに子供が並ぶ。ライリーが前の人に次がいつ来るのかと尋ねると、少し待てば来ると返ってきた。どうやら次の船が最終便であるようだった。
最終便は、真夜中になるほんの少し前に出発する。あまり暗くなりすぎると、安全運行に支障が出てしまうからだ。
しばらく待っていると、上流の方から笛の音が聞こえてきた。中型の船が船着場に入ってくると、誘導員がランタンを持ちながら器用に船を止めていく。エレットはその様子に感心し、目を丸くした。
船が完全に停止すると、錨が降りると同時に乗組員が出てくる。そして、運賃を徴収し、乗客を中へと入れていく。例に漏れず、ライリーとエレットも徴収される。ライリーは、二人分の現金を支払って船に乗り込む。
余ったお金を数えてみるが、何度数えても、帰りの分にはどうも足りない。少なくとも、二人で帰るのには全く足りないのである。しかしこれは、ライリーにとっての覚悟の表れでもあった。ライリーは財布をカバンに突っ込み、船内の椅子へ向かっていった。
ちょうど端の席が空いていたので、二人はその席の前にカバンを下ろしてから座った。その瞬間に眠気が来たのか、ライリーはふわぁと欠伸をした。対するエレットは街中に出ること自体が珍しいゆえに緊張が止まらない。
「こ、こんなことをしたら、許されないのではないでしょうか……」
「んぅ~?」
リラックスするライリーに対し、エレットは全く落ち着きがなかった。
「――エレットさん、悪いことは言いません。今からでも帰った方がいいですよ……そもそもわたくしは逃げたくなか――」
「……それは本心?」
「――え?」
「やろうと思えば、城から出る時にもう少し抵抗することだってできたと思うの。でも、エレットさんはそれをしなかった。それってつまり、心のどこかでは『逃げたい』って気持ちがあったんじゃないかな」
エレットは、ライリーに言われた話を全て飲み込むことはできなかった。無理やり連れてこられたようにも、自らの意思でついて行ったようにも感じられたからだ。
「それにさ」
錨が上がる音がして、船はゆっくりと前進しはじめた。
「もうこの船着場では降りれない。つまり、払い戻しも効かない。じゃあ、どこまで行っても料金は変わらないわけだし、終点まで行っちゃおうよ」
エレットは迷いを抱えながらも、流れのままにライリーの言葉に頷いた。ライリーは、そんなエレットを見てから、しばらくの眠りについた。
◆ ◆ ◆
同刻、王城にはピリついた空気が流れていた。なんせ、エレット王女の所在がわからないのだ。普段なら食事に出てくるはずの時間に全く出てこない。これは由々しき事態だ。
医務室やトイレなど、ある程度長居しそうな場所はほとんど捜索されていたが、そのいずれにも王女はいない。
この事実を認識した国王は、すぐに捜索令を王城中に出した。これにより、エレット直属の使用人だけでなく、上から下まで様々な使用人たちが捜索に駆り出された。
そんな中、エイドはただ一人、ライリーの行方を心配していた。彼女もまた、いつまで経っても姿を見せないのである。
エイドが部屋の中でオロオロとしていると、ドンと大きな音で扉が開いた。
「ライリー・ブレイバーさんはいますか?――あ、エイドくん……ライリーさんを知りませんか?」
現れたのはルサークだった。エイドは彼女の姿を見るなり、すぐに不安を話す。
「ルサークさん……それを知りたいのはこっちですよ!いつまでも帰ってこないんですから」
「なんですって……!?」
ルサークはそれを聞いた途端、急いで王女の部屋へと向かった。エイドもそれについて行った。
到着した王女の部屋には、既に捜索がなされた跡があった。
しかし、そこにあるはずの六着の服が全てないことを見て、やはりここからどこかへ行ってしまったという事実を受け入れた。
「二人とも、いなくなってしまった――」
ルサークは自分の無力さを嘆いた。自分があのとき観察役に回れば、二人がいなくなることはなかったかもしれないのに。
「『二人とも』、なんですね……」
エイドはルサークの言葉を繰り返し、耐え難い現実をまざまざと見せつけられる。
「二人は、どこに行ってしまったんでしょうか」
「恐らく、誰かに攫われたか、二人で逃げたかのどちらかでしょう。後者は信じたくないですが」
もしもライリーが連れ出したのであれば、何かしらの処分が下ることは間違いないだろう。二人としてもそれはなるべく避けたい。
思うに、エイドとルサークでは二人を見つけることは出来ないだろう。ならば、使用人の二人ががやるべきことは犯人がライリーではないという証拠集め。誘拐犯が別にいる、ということを証明出来れば、あとは二人が生きて帰ることを願うのみだ。
二人は一度自らの部屋に戻り、なにか証拠が無いかを探す。無くなったものはなにか、おかしな靴跡はないか。とにかくなんでも良いから証拠を見つけたい、その一心で探した。
そして、二人はある程度の証拠を集め、ライリーの部屋へ集まった。
「なにか、証拠は見つかりましたか?」
ルサークがエイドに質問すると、エイドは少しの自信を見せて答えた。
「中型のカバンがひとつ、無くなっていました」
その言葉を聞いた瞬間、ルサークは全てを察した。そして、ためらいを含みながら、ゆっくりと口を開いた。
「王女様の部屋からも、中型のカバンが――」
二人は、肩を落とし、現実を何とか受け入れようとする。
もちろん、カバンが無くなった程度で犯人がライリーであるとは確定しない。ただ、問題は『二人のカバンがひとつずつ無くなっている』という点。
仮にライリー以外の犯人がいたとして、そいつがカバンを現地調達するという場合、わざわざ中型カバンを二つ持っていくだろうか。普通は、大型のカバンを一つ持っていくだろう。
すなわち、犯人は二つのカバンを持つ必要があった。というよりも、ひとりずつ意志を持ってカバンを持って行っている、ということではなかろうか。
使用人の二人は当惑した。ものが増えているなら隠すまでなのだが、今回は減っているのだ。減っているものを増やすことなど、到底できるはずがない。
王城に住む者の持ち物は、細かいものまでは検閲されずとも大まかなものはしっかりと確認される。すなわち、もう既にカバンがいくつあるかはバレてしまっている。二人の若い使用人は、カバンが無い事実が誰にも伝わらないことを切に願った。
エレットは耳を疑った。驚きで言葉すらも失った。
「ほらさ、どうせここにいてもいじめられるだけでしょう?だったら、一気に全部変えちゃうってのも、ひとつの手かもよ?」
ライリーは真剣な表情のまま、話を続けている。エレットはその様子から少しだけ目を逸らす。
「友達と馬鹿やって、それで思いっきり叱られる……そんなのも、思い出のひとつになるんじゃない?」
『友達』、エレットはその言葉に心が少し揺れる。
「で、でも……そんなことをしたらライリーさんが――」
「やってみるだけやってみよ?ね?」
エレットは勢いに押され、思わず小さく頷いてしまった。それを見たライリーは、エレットにカバンを渡し、自分もカバンを持った。そして、王女の手を引いてエスコートするように一階へ向かった。
城におけるこの時間は、料理人の始業と使用人たちの終業が重なる時間であり、人々の多くは一階か四階に固まる。しかも、一階にいる者は大抵料理室にいるため、その階の廊下にはほとんど人が居ない。すなわち、階段で誰かに会うことさえなければ、誰かに見られる可能性も低いのだ。
二人は音を立てないように階段を降り、一階へと向かう。細心の注意を払い、誰かいるかを確認するが、どうやら運良く誰もいないらしかった。
一階に着いてからはゆっくり歩かず、むしろ全力疾走で裏口と向かった。勢いに身を任せ、裏口から外へ出ると、数名の一般客が見えた。そうか、この時間はまだ解放されているのか。
その事実を理解したライリーは、暗闇に紛れながら出口へと向かった。一般客がいる、ということは出入口に門番がいる可能性が高い。しかし、どんどんと暗くなるこの状況では、まともな明かりもない門番は簡単には気づけない……かもしれない。
そのような少しの望みにかけ、門から出てみると、なぜか門番はそこにいなかった。
この城はそこまで警備が甘いのか、と呆れそうになったが、実は駄々をこねてなかなか帰らない客が居たようで、それの対応で不在なようであった。
二人は関係者口からそそくさと外に出て、運河の方へと走っていった。日が沈み、なかなか前が見えない中で、運河のそばの街灯がキラキラと輝いている。ライリーはそれを頼りに進んでいった。
船着場に到着すると、十数名の大人が船を待っていた。二人はそれに追随するように並び、船を待った。仕事で疲れ果てた大人の後ろに子供が並ぶ。ライリーが前の人に次がいつ来るのかと尋ねると、少し待てば来ると返ってきた。どうやら次の船が最終便であるようだった。
最終便は、真夜中になるほんの少し前に出発する。あまり暗くなりすぎると、安全運行に支障が出てしまうからだ。
しばらく待っていると、上流の方から笛の音が聞こえてきた。中型の船が船着場に入ってくると、誘導員がランタンを持ちながら器用に船を止めていく。エレットはその様子に感心し、目を丸くした。
船が完全に停止すると、錨が降りると同時に乗組員が出てくる。そして、運賃を徴収し、乗客を中へと入れていく。例に漏れず、ライリーとエレットも徴収される。ライリーは、二人分の現金を支払って船に乗り込む。
余ったお金を数えてみるが、何度数えても、帰りの分にはどうも足りない。少なくとも、二人で帰るのには全く足りないのである。しかしこれは、ライリーにとっての覚悟の表れでもあった。ライリーは財布をカバンに突っ込み、船内の椅子へ向かっていった。
ちょうど端の席が空いていたので、二人はその席の前にカバンを下ろしてから座った。その瞬間に眠気が来たのか、ライリーはふわぁと欠伸をした。対するエレットは街中に出ること自体が珍しいゆえに緊張が止まらない。
「こ、こんなことをしたら、許されないのではないでしょうか……」
「んぅ~?」
リラックスするライリーに対し、エレットは全く落ち着きがなかった。
「――エレットさん、悪いことは言いません。今からでも帰った方がいいですよ……そもそもわたくしは逃げたくなか――」
「……それは本心?」
「――え?」
「やろうと思えば、城から出る時にもう少し抵抗することだってできたと思うの。でも、エレットさんはそれをしなかった。それってつまり、心のどこかでは『逃げたい』って気持ちがあったんじゃないかな」
エレットは、ライリーに言われた話を全て飲み込むことはできなかった。無理やり連れてこられたようにも、自らの意思でついて行ったようにも感じられたからだ。
「それにさ」
錨が上がる音がして、船はゆっくりと前進しはじめた。
「もうこの船着場では降りれない。つまり、払い戻しも効かない。じゃあ、どこまで行っても料金は変わらないわけだし、終点まで行っちゃおうよ」
エレットは迷いを抱えながらも、流れのままにライリーの言葉に頷いた。ライリーは、そんなエレットを見てから、しばらくの眠りについた。
◆ ◆ ◆
同刻、王城にはピリついた空気が流れていた。なんせ、エレット王女の所在がわからないのだ。普段なら食事に出てくるはずの時間に全く出てこない。これは由々しき事態だ。
医務室やトイレなど、ある程度長居しそうな場所はほとんど捜索されていたが、そのいずれにも王女はいない。
この事実を認識した国王は、すぐに捜索令を王城中に出した。これにより、エレット直属の使用人だけでなく、上から下まで様々な使用人たちが捜索に駆り出された。
そんな中、エイドはただ一人、ライリーの行方を心配していた。彼女もまた、いつまで経っても姿を見せないのである。
エイドが部屋の中でオロオロとしていると、ドンと大きな音で扉が開いた。
「ライリー・ブレイバーさんはいますか?――あ、エイドくん……ライリーさんを知りませんか?」
現れたのはルサークだった。エイドは彼女の姿を見るなり、すぐに不安を話す。
「ルサークさん……それを知りたいのはこっちですよ!いつまでも帰ってこないんですから」
「なんですって……!?」
ルサークはそれを聞いた途端、急いで王女の部屋へと向かった。エイドもそれについて行った。
到着した王女の部屋には、既に捜索がなされた跡があった。
しかし、そこにあるはずの六着の服が全てないことを見て、やはりここからどこかへ行ってしまったという事実を受け入れた。
「二人とも、いなくなってしまった――」
ルサークは自分の無力さを嘆いた。自分があのとき観察役に回れば、二人がいなくなることはなかったかもしれないのに。
「『二人とも』、なんですね……」
エイドはルサークの言葉を繰り返し、耐え難い現実をまざまざと見せつけられる。
「二人は、どこに行ってしまったんでしょうか」
「恐らく、誰かに攫われたか、二人で逃げたかのどちらかでしょう。後者は信じたくないですが」
もしもライリーが連れ出したのであれば、何かしらの処分が下ることは間違いないだろう。二人としてもそれはなるべく避けたい。
思うに、エイドとルサークでは二人を見つけることは出来ないだろう。ならば、使用人の二人ががやるべきことは犯人がライリーではないという証拠集め。誘拐犯が別にいる、ということを証明出来れば、あとは二人が生きて帰ることを願うのみだ。
二人は一度自らの部屋に戻り、なにか証拠が無いかを探す。無くなったものはなにか、おかしな靴跡はないか。とにかくなんでも良いから証拠を見つけたい、その一心で探した。
そして、二人はある程度の証拠を集め、ライリーの部屋へ集まった。
「なにか、証拠は見つかりましたか?」
ルサークがエイドに質問すると、エイドは少しの自信を見せて答えた。
「中型のカバンがひとつ、無くなっていました」
その言葉を聞いた瞬間、ルサークは全てを察した。そして、ためらいを含みながら、ゆっくりと口を開いた。
「王女様の部屋からも、中型のカバンが――」
二人は、肩を落とし、現実を何とか受け入れようとする。
もちろん、カバンが無くなった程度で犯人がライリーであるとは確定しない。ただ、問題は『二人のカバンがひとつずつ無くなっている』という点。
仮にライリー以外の犯人がいたとして、そいつがカバンを現地調達するという場合、わざわざ中型カバンを二つ持っていくだろうか。普通は、大型のカバンを一つ持っていくだろう。
すなわち、犯人は二つのカバンを持つ必要があった。というよりも、ひとりずつ意志を持ってカバンを持って行っている、ということではなかろうか。
使用人の二人は当惑した。ものが増えているなら隠すまでなのだが、今回は減っているのだ。減っているものを増やすことなど、到底できるはずがない。
王城に住む者の持ち物は、細かいものまでは検閲されずとも大まかなものはしっかりと確認される。すなわち、もう既にカバンがいくつあるかはバレてしまっている。二人の若い使用人は、カバンが無い事実が誰にも伝わらないことを切に願った。
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