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互いに覚える不安感
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ライリーは全く寝付けなかった。逃げなくちゃ、という気持ちだけがとにかく先行し、どうにか救われる手段だけを考えていた。そもそも彼女は、なぜ自分が追われる身になっているかを理解しきっていなかった。
エレットを連れ出したことがマズかった、というのはわかる。ただ、具体的にどのような犯罪で、どのような刑罰になるかが全く想像できず、ただ怯える時間が続いていた。
逃げなくては捕まるだろう。だが、エレットを見捨てる訳にはいかない。
――どうしようどうしようどうしよう!!
荷物をひたすらカバンに詰め込みながら、どうするのかを考え続ける。
明日になったらどこへ逃げよう。海からだったら逃げれるか?でもお金はないし……そうだ、こっそり乗ればバレないんじゃないか?
そんな、悪事だけが頭の中に浮かんでくる。ライリーはもう、彼女自身から見ても絶対悪の存在であり、決して逃げ出せない悪循環へと陥ってしまいかけていた。
隣で眠るエレットから、すぅ、すぅという寝息が聞こえると、ライリーは不安で頭が割れそうになる。布団を被りながら様々なことを考え、唱え、逃げ道を探す。
そして、パチッという音が聞こえそうなほど突然に、外の世界には日が昇った。
彼女は荷物を引き寄せ、部屋の隅へと固まった。エレットが起きたら、その瞬間にでもここを出よう。もう代金は払ってるし、なんの文句も言われないはず――
荷物の持ち手をギュッと握り、すぐにでも立ち上がれるように準備する。それにまさか、そんな簡単に見つけられるはずもないよね。
――彼女のなかには、一種の正常性バイアスが働いていた。きっと大丈夫、大丈夫。でも逃げなきゃ、どうしよう。頭の中には、それらの単語だけが光っていた。
ライリーがひたすらに待っていると、目の前で眠っていたエレットの瞳が、パチリと開く。エレットはほんの少しだけ寝ぼけを見せたが、すぐに思考回路を取り戻す。
「――?ライリーさん、今日はお早いんですね」
よ、良かった。起きてくれた。これで逃げられる。ライリーは無理やり笑顔を作りながら、エレットに話しかけた。
「え、エレットさん、もう行こうよ。なんでもなるべく早い方がいいから、さ」
「?どうしてそんなに急いでいるのですか?いい作戦でも思いついた――」
ドン。とんでもなく大きな音が部屋に轟き、かしこまった衣装を着た男たちが入ってきた。
「やっぱりいたか」
先頭の男がそう言って、ライリーの両手を無理やり掴む。
「抵抗すんなよ」
男はそう言って、ライリーの手に縄をかけていく。ライリーの瞳からは、恐怖による涙がこぼれ落ち、顔全体がぐしゃぐしゃになる。
男はライリーの両腕を後ろで組ませ、無理やり縄をかける。
「ライリー・ブレイバーさんで間違いないね。国王から逮捕令出てるからさ」
乱暴に捕まえられたライリーに対して、エレットは紳士的に優しく連れていかれる。正確には、連れ戻されていった。
ライリーは、その様子を見送ってから途方もないように感じられるほどの時間を使って留置され、恐怖で心が折れかけた時、ようやく男が彼女を連れ出した。
「これに乗れ」
運河に停められた小舟に乗せられ、ライリーは街を後にした。
王家の捜査網はとてつもないものだった。街ゆく人全員に聞く勢いで聞きこみ調査を行い、しらみ潰しに目的地を絞ってから、これまたとんでもない量の聞き込みを行い、ライリーの居場所を割り出した。ここまではわずか一日。ハッキリ言って異常な速度での逮捕となった。
ここまでの早い逮捕には当然理由がある。ライリーの刑罰が、この国で最も重い『国家反逆罪』になる見通しが立ったのだった。それはつまり、逃走などは許されず、一刻も早く捕まえなくてはならないという国王からの勅令が出た、ということである。
王女を攫うということは、それほどまでに重い刑罰なのであった。
さらに、この国には少年法が整備されていない。すなわち、例え罪人が少年少女であろうとも、平等に裁かなくてはならないということ。
国家反逆罪の刑事罰はただ一つ。「死刑」である。
ライリーは小舟で移送され、いつ間にか王城へと帰ってきていた。
そして、城の地下に作られた暗い牢獄に閉じ込められ、そこでしばらくの間は待機するように言われたのだった。
◆ ◆ ◆
ライリーと別れさせられたエレットは、王家直属の大型船に乗せられ、運河をゆったりと航海していた。というよりは、航海させられていた。
そして、彼女の周りでは、大した面識もない男たちが、「大丈夫ですか」「お怪我はなさいませんか」などと話しかけてくる。エレットは、その様子に言いようのない嫌悪感を覚えた。
いつもはあんなにも貶されているのに、攫われてからは急に優しくなる。罵倒してきた人間と、今心配の声をかけている人間は同一ではない。しかし、誰もかれも共通して『使用人』という立場は変わらないわけである。その事実が嫌なのだ。
そして、嫌悪が加速すると同時に、思わず気になっていたことを質問してしまう。
「あの人は――ライリーさんはどうなるのでしょうか」
目の前にいた男は少し考えてから、残酷な結論を話した。
「恐らく、王家は国家反逆罪を宣告するでしょう。そうなれば――」
「もういいです」
エレットは男の言葉を遮り、その場で目をつぶった。
エレットは、このままでは一人の人間を殺してしまうかもしれないという不安感に駆られた。なんとかそれを防ぎたいが、果たしてそれができるかどうかはわからない。恐怖心が彼女を襲い、目の前の男すら敵に思えてきてしまう。
「――間もなく王城に到着します」
エレットは随分と早い到着だと思った。それは、船着場にいちいち止まらないという理由もあったが、様々なことを考える時間があまりにも一瞬に感じられた、ということもあっただろう。
城の正門の前で船が止まると、完全にVIP待遇といった様相で赤い絨毯が引かれ、その上を歩かされた。
すると、あまりにも多くの人々がこちらを見つめてくる。そこには、歓喜に沸く者、拍手を送るもの、さらには泣く者までいた。しかし、その誰もが本心からは祝福していないように感じた。むしろ、城から離れたところでただぼーっと立ち尽くしている男の方が正直で良いとすら思った。
城に入るなり、いきなり王である父の前に座らされた。いつもは大した話もしないくせに、この日は日頃から世話されているかのように抱きつかれ、「よく帰ってきたな」なんて言葉も投げかけられる。
エレットはこの状況がさらに嫌になった。たとえ何を言ったとしても、結局は上辺だけではないか。本心から心配し、祝福している人間は、この中にはいないかのように思えた。
女王である母も涙を流している。兄たちはどういう感情なのか、ニヤニヤとしながら拍手している。
彼らからすれば、本気で祝福しているのかもしれないが、エレットにはそう見えなかった。
極めつけは、普段から叱責ばかりしている使用人たちが、「すばらしい!」とでも言わんばかりに涙を流し。ウンウンと頷きながら拍手しているのだ。あまりにもおかしな光景。
エレットはその様子に悲しみを覚えながら、使用人たちに見送られ部屋に戻った。
部屋に戻り、ベッドに腰をかけると、先程まで船で一緒だった男が入ってくる。
「いやぁ、素晴らしい!」
一体何が素晴らしんだ。エレットはそう思いながら俯く。
「王女様、ご安心下さい。あなたを誘拐したあの憎き女は、明日、すぐ裁判にかけられることになりました!」
普段は大した仕事もやっていないのに、こういう行事はすぐにでも執り行う。この体制の悪い所がダダ漏れだ。
「王女様。どうされますか?判決はあなたが宣言されるのもアリだと思うのですが!」
この男はさっきの会話を覚えていないのだろうか。わざわざ「死刑になる」という単語を言わせないようにしたというのに。
「まあ、それは明日決めましょうか。でも楽しみですよね、公開処刑!さぞかし痛快でしょうね~」
そう言って男は出ていった。ここの使用人はこんなのばかりなのだろうか。自らが住む王城ながら、この事実にだんだんと腹が立っていった。
わざわざ自分の口から言うだなんて、到底できるはずがない。人の命とは、そんなに簡単に扱っていいものでは無いはずなのだ。
短い間ではあったが、自分に寄り添い、考え、行動してくれた友達係を見世物にするなど、到底できるはずもない。ましてや、自らの口で死刑を宣告するだなんて言語道断だ。
エレットは、今自分が持つ感情を理解できなかった。酷く悲しいはずなのに、全く涙がこぼれない。むしろ乾ききっている。彼女は、その蒼眼を曇らせながら、部屋の外へと歩き出した。
エレットを連れ出したことがマズかった、というのはわかる。ただ、具体的にどのような犯罪で、どのような刑罰になるかが全く想像できず、ただ怯える時間が続いていた。
逃げなくては捕まるだろう。だが、エレットを見捨てる訳にはいかない。
――どうしようどうしようどうしよう!!
荷物をひたすらカバンに詰め込みながら、どうするのかを考え続ける。
明日になったらどこへ逃げよう。海からだったら逃げれるか?でもお金はないし……そうだ、こっそり乗ればバレないんじゃないか?
そんな、悪事だけが頭の中に浮かんでくる。ライリーはもう、彼女自身から見ても絶対悪の存在であり、決して逃げ出せない悪循環へと陥ってしまいかけていた。
隣で眠るエレットから、すぅ、すぅという寝息が聞こえると、ライリーは不安で頭が割れそうになる。布団を被りながら様々なことを考え、唱え、逃げ道を探す。
そして、パチッという音が聞こえそうなほど突然に、外の世界には日が昇った。
彼女は荷物を引き寄せ、部屋の隅へと固まった。エレットが起きたら、その瞬間にでもここを出よう。もう代金は払ってるし、なんの文句も言われないはず――
荷物の持ち手をギュッと握り、すぐにでも立ち上がれるように準備する。それにまさか、そんな簡単に見つけられるはずもないよね。
――彼女のなかには、一種の正常性バイアスが働いていた。きっと大丈夫、大丈夫。でも逃げなきゃ、どうしよう。頭の中には、それらの単語だけが光っていた。
ライリーがひたすらに待っていると、目の前で眠っていたエレットの瞳が、パチリと開く。エレットはほんの少しだけ寝ぼけを見せたが、すぐに思考回路を取り戻す。
「――?ライリーさん、今日はお早いんですね」
よ、良かった。起きてくれた。これで逃げられる。ライリーは無理やり笑顔を作りながら、エレットに話しかけた。
「え、エレットさん、もう行こうよ。なんでもなるべく早い方がいいから、さ」
「?どうしてそんなに急いでいるのですか?いい作戦でも思いついた――」
ドン。とんでもなく大きな音が部屋に轟き、かしこまった衣装を着た男たちが入ってきた。
「やっぱりいたか」
先頭の男がそう言って、ライリーの両手を無理やり掴む。
「抵抗すんなよ」
男はそう言って、ライリーの手に縄をかけていく。ライリーの瞳からは、恐怖による涙がこぼれ落ち、顔全体がぐしゃぐしゃになる。
男はライリーの両腕を後ろで組ませ、無理やり縄をかける。
「ライリー・ブレイバーさんで間違いないね。国王から逮捕令出てるからさ」
乱暴に捕まえられたライリーに対して、エレットは紳士的に優しく連れていかれる。正確には、連れ戻されていった。
ライリーは、その様子を見送ってから途方もないように感じられるほどの時間を使って留置され、恐怖で心が折れかけた時、ようやく男が彼女を連れ出した。
「これに乗れ」
運河に停められた小舟に乗せられ、ライリーは街を後にした。
王家の捜査網はとてつもないものだった。街ゆく人全員に聞く勢いで聞きこみ調査を行い、しらみ潰しに目的地を絞ってから、これまたとんでもない量の聞き込みを行い、ライリーの居場所を割り出した。ここまではわずか一日。ハッキリ言って異常な速度での逮捕となった。
ここまでの早い逮捕には当然理由がある。ライリーの刑罰が、この国で最も重い『国家反逆罪』になる見通しが立ったのだった。それはつまり、逃走などは許されず、一刻も早く捕まえなくてはならないという国王からの勅令が出た、ということである。
王女を攫うということは、それほどまでに重い刑罰なのであった。
さらに、この国には少年法が整備されていない。すなわち、例え罪人が少年少女であろうとも、平等に裁かなくてはならないということ。
国家反逆罪の刑事罰はただ一つ。「死刑」である。
ライリーは小舟で移送され、いつ間にか王城へと帰ってきていた。
そして、城の地下に作られた暗い牢獄に閉じ込められ、そこでしばらくの間は待機するように言われたのだった。
◆ ◆ ◆
ライリーと別れさせられたエレットは、王家直属の大型船に乗せられ、運河をゆったりと航海していた。というよりは、航海させられていた。
そして、彼女の周りでは、大した面識もない男たちが、「大丈夫ですか」「お怪我はなさいませんか」などと話しかけてくる。エレットは、その様子に言いようのない嫌悪感を覚えた。
いつもはあんなにも貶されているのに、攫われてからは急に優しくなる。罵倒してきた人間と、今心配の声をかけている人間は同一ではない。しかし、誰もかれも共通して『使用人』という立場は変わらないわけである。その事実が嫌なのだ。
そして、嫌悪が加速すると同時に、思わず気になっていたことを質問してしまう。
「あの人は――ライリーさんはどうなるのでしょうか」
目の前にいた男は少し考えてから、残酷な結論を話した。
「恐らく、王家は国家反逆罪を宣告するでしょう。そうなれば――」
「もういいです」
エレットは男の言葉を遮り、その場で目をつぶった。
エレットは、このままでは一人の人間を殺してしまうかもしれないという不安感に駆られた。なんとかそれを防ぎたいが、果たしてそれができるかどうかはわからない。恐怖心が彼女を襲い、目の前の男すら敵に思えてきてしまう。
「――間もなく王城に到着します」
エレットは随分と早い到着だと思った。それは、船着場にいちいち止まらないという理由もあったが、様々なことを考える時間があまりにも一瞬に感じられた、ということもあっただろう。
城の正門の前で船が止まると、完全にVIP待遇といった様相で赤い絨毯が引かれ、その上を歩かされた。
すると、あまりにも多くの人々がこちらを見つめてくる。そこには、歓喜に沸く者、拍手を送るもの、さらには泣く者までいた。しかし、その誰もが本心からは祝福していないように感じた。むしろ、城から離れたところでただぼーっと立ち尽くしている男の方が正直で良いとすら思った。
城に入るなり、いきなり王である父の前に座らされた。いつもは大した話もしないくせに、この日は日頃から世話されているかのように抱きつかれ、「よく帰ってきたな」なんて言葉も投げかけられる。
エレットはこの状況がさらに嫌になった。たとえ何を言ったとしても、結局は上辺だけではないか。本心から心配し、祝福している人間は、この中にはいないかのように思えた。
女王である母も涙を流している。兄たちはどういう感情なのか、ニヤニヤとしながら拍手している。
彼らからすれば、本気で祝福しているのかもしれないが、エレットにはそう見えなかった。
極めつけは、普段から叱責ばかりしている使用人たちが、「すばらしい!」とでも言わんばかりに涙を流し。ウンウンと頷きながら拍手しているのだ。あまりにもおかしな光景。
エレットはその様子に悲しみを覚えながら、使用人たちに見送られ部屋に戻った。
部屋に戻り、ベッドに腰をかけると、先程まで船で一緒だった男が入ってくる。
「いやぁ、素晴らしい!」
一体何が素晴らしんだ。エレットはそう思いながら俯く。
「王女様、ご安心下さい。あなたを誘拐したあの憎き女は、明日、すぐ裁判にかけられることになりました!」
普段は大した仕事もやっていないのに、こういう行事はすぐにでも執り行う。この体制の悪い所がダダ漏れだ。
「王女様。どうされますか?判決はあなたが宣言されるのもアリだと思うのですが!」
この男はさっきの会話を覚えていないのだろうか。わざわざ「死刑になる」という単語を言わせないようにしたというのに。
「まあ、それは明日決めましょうか。でも楽しみですよね、公開処刑!さぞかし痛快でしょうね~」
そう言って男は出ていった。ここの使用人はこんなのばかりなのだろうか。自らが住む王城ながら、この事実にだんだんと腹が立っていった。
わざわざ自分の口から言うだなんて、到底できるはずがない。人の命とは、そんなに簡単に扱っていいものでは無いはずなのだ。
短い間ではあったが、自分に寄り添い、考え、行動してくれた友達係を見世物にするなど、到底できるはずもない。ましてや、自らの口で死刑を宣告するだなんて言語道断だ。
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