カスタム少女と死ねないオーナー 〜人間と吸血鬼とアンドロイドが争う世界で、『死なない』能力で戦い抜く〜

青野ハマナツ

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-第一章 出会う三人

4- エンジニア

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 そこにいたのはピンクのツインテールの中に緑の差し色が入った身長の低い少女であった。

「──どちらさま?」

 ユウガは確認するようにイムクをちらっと見てから尋ねた。イムクと出会ったのもついさっきなのだが。

「おっと、ごめんねぇ。ワタシはリーゼ。バレットの部品を作ってるエンジニアだよ」

「リーゼ、な。俺はユウガ。で、こっちがイムク」

 ユウガは少々の警戒を残しながら、リーゼに自己紹介を返す。

「──んで、そんなエンジニアがなんの用?」

「こんなボロボロの避難地域にいる人間って、大抵の場合は家なき子だからさ、ウチに来ないかなーって思って」

「……いや待て、なんで俺が人間だってわかる?あんまよく分かってねぇけど、ここは避難地域だ。まずはバレットを疑うだろ」

 そう。バレットというものはだいぶ精巧に出来ていて、パッと見で人間と区別できないほどだ。もちろん、先程の炊飯器のような例外も存在するにはするが、基本的にはイムクのように人間にしか見えない見た目をしている。

「わかるヤツが見ればわかるのさ。ワタシはわかるガワってだけ」

「そうか……」

 確かに、バレットのエンジニアであれば人間との外見上の違いを認識することは可能なのかもしれない。

「じゃあ、イムクの身体を目的にしてるっつー事か」

「言い方が悪いなぁ。まあでもそんなとこ。見たところキミは最新モデルっぽいしねぇ。バレットが着いてきてるってことは、一応オーナーなんでしょ?オトコのコも。だから二人とも求めてる」

「なんか腹立つな。てか、イムクはどうなんだ?」

「──ユウガが良いと言うのなら」

「……そーか」

 ユウガは少し考える。果たしてこの小さな女に着いていっていいものか。なんか少し怪しいなと思いながら、行く宛てがないのは事実だから仕方ないと言わんばかりに承諾する。

「わーったよ。ここが危険なエリアだってことは身を持って痛感した。とりあえず着いていくわ」

「そうかそうか! さあさあ行こう! ワタシのアジトに!」

◇ ◇ ◇

 リーゼの家は、避難地域からほんの少しだけ離れた場所に位置していた。それも、『アジト』などと大層な言い方をした割にはこじんまりした場所だった。プレハブどころか、コンテナを数個繋げただけの部屋だった。

「なんだこれ」

 部屋の中に入ると、油のような匂いがフワッと広がる。ユウガがふと机の上を見ると、人間の右腕にしか見えないパーツが置かれていた。辛うじて金属が見えるために作り物だと分かるが、そこを隠せば完全に人の手だ。

「はい、じゃあ二人とも隣のコンテナまるまる使っていいからねー」

 リーゼはそう言いながら、簡易的な通路で繋げられたコンテナを指さした。一応外気に触れる事無く移動できそうではあるが、暑い日や寒い日は大変そうだなと思えるくらいには通路の壁が薄い。その点では、機械は暑さや寒さを感じる事はないのかな、と羨ましくなる。

「じゃあ……イムクちゃん? だっけ? 調整してみよっか?」

「──あの、純正パーツ以外を取り付けて大丈夫なんでしょうか?」

「あー大丈夫大丈夫。メーカー修理が受けられなくなるだけだから。そもそも……君の内部アタマはラベル社製じゃないでしょ?」

 イムクは黙り込んだ。リーゼはイムクの体を触り、色々なパーツを外す。

「──てか、電源切らなくていいのか?」

「めんどいからいいよ」

「大雑把すぎんだろ……」

 ユウガの質問も適当にかわす。マッドサイエンティスト、とまでは行かないが、色々問題を抱えてそうな人だ。

 そんなことを考えていると、イムクの衣服にリーゼが手をかけたので、ユウガは少しだけ目をそらす。しかし、なんやかんやユウガも男なので、少しだけ視線を向ける。すると、とても柔らかそうには見えない胸が少しだけ見えた。

「見てもキミが期待しているようなものはないよー。装甲でしかないからさ」

「うるっせ。てか、よくわかんねぇから任せてるけど、イムクになんか変なプログラムでも入れるつもりじゃないだろうな」

「それはないねー。メインのソフトウェア周辺をまるまる書き換えるなんてこと出来ないし、一部変えるだけでも動かなくなるかもだし。私は外部パーツ系統専門なのさ」

「──ならいいんだけど」

 リーゼはイムクの体をカチャカチャといじる。こう言ったらなんだが、よくも今日初めて会った人々に信頼を置いておけるものだ。それでいて、イムクに多少なりとも情が湧いていることに違和感を覚える。ただ同時に、今日出会ったばかりだから多少雑に扱われてもいいんじゃないか、とも思う。

「よーし、おっけー次は足だねー」

「何つけたんだ?」

「剣」

「はぁそうですか……てか、イムクもなんか言いなよ。あんまつけて欲しくないとかあるだろ」

「──私はオーナーが止める意思が無ければ止めません」

「……結構自由ないんだな、バレットって」

 なるほど、こういう時は『ヤメロ』と指示を出してやらなきゃならないんだな……。ユウガは理解した。

「ありゃ、なんか左脚のパーツが上手くつかないな。最新モデルなのに」

「初期不良、ですかね?」

「そうかもねー」

 リーゼはイムクの質問に対し、またも雑に回答する。

「ま、しょうがない。直すのも時間かかりそうだし。もうメーカー修理は受けられないし」

 大した確認もせず突っ走った結果、確実に直す手段を失ってるじゃねーか、とユウガは思う。

「ま、とりあえずイムクちゃんにはたくさん拡張機能を付けたから、おっけー」

「そんな短時間に付けられるものなのか?」

「うん。だってオールマイティモデルは高額な分、日常用から戦闘用まで、とにかく沢山のパーツをカンタンに付けられるもん」

「すげーんだな、イムクって」

「ま、欠点があるなら体重かな。150キロくらいある──」

 イムクは少しだけ笑顔になったのにに少しだけ怒ったような表情になり、リーゼを平手で小突いた。

「ごめんごめん。じゃ、次はユーガくんの強化かな」

「はぁ?」

 ユウガの脳内に嫌な予感がよぎる。まさか、人体実験&改造のコンボ……とかないよな、と。

「ま、大層なことはしないよ。このグローブを両手に付けな」

 リーゼが差し出したのは、配線らしき線が内部から浮き出ている黒い手袋だった。リーゼはそれをユウガに渡すと、彼女の何もつけていない手をユウガの前に持って行った。

「それを付けたら、親指と薬指をピッタリとくっつけて、二回手首を振る。そうすると強化プログラムが発動して全身の能力が向上する」

「──あんた何者だよ……」

「人間を強くする方法も考えられなくちゃ、この時代は生きられないよ~?」

 リーゼはおどけたような表情でそう言った。とんだバカエンジニアだとユウガは思った。

「じゃ、グローブの出力は抑えてるから、二人で実践戦闘特訓いってみよー」

「はぁ!?」

 ──とんだ大バカエンジニアだ、とユウガは驚嘆した。
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