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-第一章 出会う三人
12- 罪悪
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「──とにかくユウガと合流しよう!」
そう。なんとか敵を退けたと言っても、ユウガが自分たちに追随しているとは限らない。二人はダッシュでユウガの方向へ向かった。いくら「簡単には死なない」と理解していても、当然それが完全な安否確認になるわけではない。
しかし、そのユウガの「特徴」が二人に多少の余裕を与えているのも事実であり、その走りにとてつもない焦りのようなものはそこまでなかった。
「──あれはあのままで良いのですか?」
イムクは女吸血鬼を見つつ、走りながらリーゼに聞いた。
「ま、生き死にも分からないような世界だしなぁ……。気にしてる場合じゃないかもねっ!」
「──そうですか。なら、その言葉を信じてみましょう」
少しだけ息を上げるリーゼに対し、イムクは飄々とした声で対応する。リーゼはこれがスピーカー発声の特徴か、と感心するとともに、どこか人間的でない彼女に少しだけもったいなさを覚える。
溶鉱炉近くの踊り場のような所に出ると、そこにはユウガがいた。
「オーナー……!」
ユウガはイムクの声掛けに耳を傾ける。しかし、彼は力なく座っており、どこか虚ろな目をしている。
「何があったんですか!?」
「──取り逃した」
「……え?」
「捕まえられたら良かったのに……俺はアイツをみすみす逃がしてしまった」
「そ、そんな──気にすることではないんじゃ」
「いや、アイツが何をするかは分からないじゃねぇか。またバレットが倒されるかもしれない。あのバレットがなにをしたのかは知らないけど、罪がないんだとしたら倒したくない。とにかく無駄な争いをなくしたい」
ユウガはうつむき加減で言葉を続ける。
「だからこそ、俺は俺自身の言葉にも驚いたんだよ。『トドメだ』って、いつの間にか言ってた。あの男は、同じように俺を殺しに来た家電のバレットとは本質的に違う。なんせ、俺たちと無関係の存在を倒そうとしていたわけじゃないからな」
その言葉を聞いて、リーゼは後ろめたさを覚える。イムクの方向に顔を向けると、彼女の方も「やってしまった」的な表情を浮かべている。
「なあ、あの女はどうなったんだ?」
ユウガの質問に、二人は黙り込んでしまう。その様子から、ユウガはふたつの可能性を考えた。
「……俺と一緒か?」
二人は目を合わせ、アイコンタクトだけで口裏を合わせようと試みる。
「そ、そうなんだよね、逃がしちゃって──」
「嘘だな」
リーゼの一言をユウガは遮る。
「倒したんだな。アイツのこと」
「……」
二人は相変わらず気まずそうな表情を続けている。ユウガは悩むような顔をしてから、言葉を発した。
「やっちまったことはしょうがない。そういうことが起こる可能性があるのも分かる。拳を交えているんだからな。ただ、必要のないときはやめようぜ。今回に関して、俺は二人を信じたい。『必要』だったんだろ?」
その言葉に、二人は打ち合わせたように同時に頷いた。
「そうだよな、それが分かって良かった」
ユウガはそう言って立ち上がり、身体に着いた煤のようなものを払った。
「帰ろう。なんか、土産でも持ってさ」
三人は廃工場からいくつかのバレット用部品を持って外に出た。その後はまっすぐ家へと帰っていき、工具や倉庫にそれらをしまった。
◇ ◇ ◇
「……リーゼさん、先程の『レイドレイン』というのはなんなんですか?」
「……そうか、話さなきゃだよね」
「──なんだそれ」
聞きなれない言葉に、ユウガも興味を示す。リーゼは、その正体をゆっくりと話しはじめた。
「あいつらは、かつて『都市高速線吸血鬼事件』を起こした吸血鬼を中心とした組織なんだ」
「──全ての元凶がいる組織ってことか」
「まあ、語弊を恐れずに言えばそうだね。その組織はさっきも言った通り『レイドレイン』という名前で、構成員は吸血鬼だけ。さらに、彼らはその高い身体能力を活かした特殊な技術、『吸技』を使ってる。バレットへの対抗策だと思うけど」
「つまり、簡単に言えば『やべー技を使う吸血鬼だけで作られた組織』ってことか」
「……まあそうかも」
「んで、なんでリーゼはそんなことを知ってるんだ?」
「──私が、事件を起こした吸血鬼──高巻ノノカの妹だから」
「──!?」
衝撃の事実に、二人は焦燥する。突発的な出会いは、とてつもないところで繋がっているようだ。
「ノノカ──いや、お姉ちゃんは、勝手に中心人物にさせられてる。あの日、暴走してしまったお姉ちゃんは、唐突に脱獄紛いのことをさせられ、そのまま組織の象徴にさせられた」
「つまり、リーゼはあいつらを多少なりとも恨んでるのか」
「恨んでるのかは分からない。ただ、ただならない気持ちを持ってるのは事実。だから、私はアイツらからお姉ちゃんを救い出したいと思ってるし、組織ごと倒してやりたいとも思ってる」
「──なら、さっき女を倒したのは100%間違ってないだろ。そんだけのことをしてるなら、気持ちが乗るのも分かる。ただ、俺の目の前で倒そうとした時は止めさせてくれ」
「──結構お人好しなんだね」
「人当たりがいいってのはいいことだろ」
「……まあ、私には分からないけど」
「ただ、これで目標ができたな。ノノカさんを救うってこと。まあ正直、彼女は事件を起こした張本人だから、助けた後にどうなるのかは分からない。ただ、リーゼとしては助けてやりたいんだろ?」
「──うん、お姉ちゃんに自由をあげたい」
「なら、一緒に頑張るしかないんじゃねーの?」
「──そうだよね」
リーゼの一言に、ユウガはニコリと笑った。
そう。なんとか敵を退けたと言っても、ユウガが自分たちに追随しているとは限らない。二人はダッシュでユウガの方向へ向かった。いくら「簡単には死なない」と理解していても、当然それが完全な安否確認になるわけではない。
しかし、そのユウガの「特徴」が二人に多少の余裕を与えているのも事実であり、その走りにとてつもない焦りのようなものはそこまでなかった。
「──あれはあのままで良いのですか?」
イムクは女吸血鬼を見つつ、走りながらリーゼに聞いた。
「ま、生き死にも分からないような世界だしなぁ……。気にしてる場合じゃないかもねっ!」
「──そうですか。なら、その言葉を信じてみましょう」
少しだけ息を上げるリーゼに対し、イムクは飄々とした声で対応する。リーゼはこれがスピーカー発声の特徴か、と感心するとともに、どこか人間的でない彼女に少しだけもったいなさを覚える。
溶鉱炉近くの踊り場のような所に出ると、そこにはユウガがいた。
「オーナー……!」
ユウガはイムクの声掛けに耳を傾ける。しかし、彼は力なく座っており、どこか虚ろな目をしている。
「何があったんですか!?」
「──取り逃した」
「……え?」
「捕まえられたら良かったのに……俺はアイツをみすみす逃がしてしまった」
「そ、そんな──気にすることではないんじゃ」
「いや、アイツが何をするかは分からないじゃねぇか。またバレットが倒されるかもしれない。あのバレットがなにをしたのかは知らないけど、罪がないんだとしたら倒したくない。とにかく無駄な争いをなくしたい」
ユウガはうつむき加減で言葉を続ける。
「だからこそ、俺は俺自身の言葉にも驚いたんだよ。『トドメだ』って、いつの間にか言ってた。あの男は、同じように俺を殺しに来た家電のバレットとは本質的に違う。なんせ、俺たちと無関係の存在を倒そうとしていたわけじゃないからな」
その言葉を聞いて、リーゼは後ろめたさを覚える。イムクの方向に顔を向けると、彼女の方も「やってしまった」的な表情を浮かべている。
「なあ、あの女はどうなったんだ?」
ユウガの質問に、二人は黙り込んでしまう。その様子から、ユウガはふたつの可能性を考えた。
「……俺と一緒か?」
二人は目を合わせ、アイコンタクトだけで口裏を合わせようと試みる。
「そ、そうなんだよね、逃がしちゃって──」
「嘘だな」
リーゼの一言をユウガは遮る。
「倒したんだな。アイツのこと」
「……」
二人は相変わらず気まずそうな表情を続けている。ユウガは悩むような顔をしてから、言葉を発した。
「やっちまったことはしょうがない。そういうことが起こる可能性があるのも分かる。拳を交えているんだからな。ただ、必要のないときはやめようぜ。今回に関して、俺は二人を信じたい。『必要』だったんだろ?」
その言葉に、二人は打ち合わせたように同時に頷いた。
「そうだよな、それが分かって良かった」
ユウガはそう言って立ち上がり、身体に着いた煤のようなものを払った。
「帰ろう。なんか、土産でも持ってさ」
三人は廃工場からいくつかのバレット用部品を持って外に出た。その後はまっすぐ家へと帰っていき、工具や倉庫にそれらをしまった。
◇ ◇ ◇
「……リーゼさん、先程の『レイドレイン』というのはなんなんですか?」
「……そうか、話さなきゃだよね」
「──なんだそれ」
聞きなれない言葉に、ユウガも興味を示す。リーゼは、その正体をゆっくりと話しはじめた。
「あいつらは、かつて『都市高速線吸血鬼事件』を起こした吸血鬼を中心とした組織なんだ」
「──全ての元凶がいる組織ってことか」
「まあ、語弊を恐れずに言えばそうだね。その組織はさっきも言った通り『レイドレイン』という名前で、構成員は吸血鬼だけ。さらに、彼らはその高い身体能力を活かした特殊な技術、『吸技』を使ってる。バレットへの対抗策だと思うけど」
「つまり、簡単に言えば『やべー技を使う吸血鬼だけで作られた組織』ってことか」
「……まあそうかも」
「んで、なんでリーゼはそんなことを知ってるんだ?」
「──私が、事件を起こした吸血鬼──高巻ノノカの妹だから」
「──!?」
衝撃の事実に、二人は焦燥する。突発的な出会いは、とてつもないところで繋がっているようだ。
「ノノカ──いや、お姉ちゃんは、勝手に中心人物にさせられてる。あの日、暴走してしまったお姉ちゃんは、唐突に脱獄紛いのことをさせられ、そのまま組織の象徴にさせられた」
「つまり、リーゼはあいつらを多少なりとも恨んでるのか」
「恨んでるのかは分からない。ただ、ただならない気持ちを持ってるのは事実。だから、私はアイツらからお姉ちゃんを救い出したいと思ってるし、組織ごと倒してやりたいとも思ってる」
「──なら、さっき女を倒したのは100%間違ってないだろ。そんだけのことをしてるなら、気持ちが乗るのも分かる。ただ、俺の目の前で倒そうとした時は止めさせてくれ」
「──結構お人好しなんだね」
「人当たりがいいってのはいいことだろ」
「……まあ、私には分からないけど」
「ただ、これで目標ができたな。ノノカさんを救うってこと。まあ正直、彼女は事件を起こした張本人だから、助けた後にどうなるのかは分からない。ただ、リーゼとしては助けてやりたいんだろ?」
「──うん、お姉ちゃんに自由をあげたい」
「なら、一緒に頑張るしかないんじゃねーの?」
「──そうだよね」
リーゼの一言に、ユウガはニコリと笑った。
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