世界を救え?うるせぇバーカ!! 〜転生して勇者になれと言われたが命が惜しかったので断った結果〜

一☆一

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異世界と、魔法

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 何処からか、高速で引っ張られるような感覚がして。
 続いて喧騒が濁流のように耳に流れ込んで、俺は目を覚ました。
 俺は、何処ともわからない街中で、一人佇んでいた。

 コンクリート製の灰色の建物など一つもない。背の低い煉瓦や木製の建物が軒を連ねる、そこはまさに西洋風で。
 店頭に並ぶ野菜や果物は見たことのないものばかりだ。ついでに文字も見たことがないし、話し声も何を言ってるのか判然としない。
 街行く人々は普通の人間もいるが、耳が尖るなりケモ耳が生えるなり、なんらかの人外的要素を孕んだやつも普通に闊歩していて。

「……異世界か。ここが」

 天使が言っていたから受け入れも比較的早く、俺は手を開閉したり、少し歩いたりして身体の調子を確かめた。
 どうやら何の異常もない。
 可も不可もなく自分の体だ。
 しかし、話によれば俺の身体には、強力な力が与えられた筈なのだが……こんなに異常がなくていいのか、逆に。

「ま、気にしててもしょうがないけど……このまま街にいるってのも何だな……」

 何せ、格好的にまず間違いなく不審がられる。今俺が着ているのはジャージだ。
 その上相手と言葉が通じないのだから、弁明すら許されない訳で。服を買うにも金もないし、やっぱり言葉も通じないし。

 となると、俺はこういう体制が確立した場所よりも、無秩序な場所の方が当面は過ごしやすい筈だ。森かなんかに入って、木のみでもつまみながら静かに暮らすのがいい。

 人と関わるのは、そうした生活に余裕ができてからでいいと思う。力が与えられているらしいから、自活くらい多分できるだろう。死んだらその時だ。どうせ一回死んでいる俺だし。

 好きなだけ時間はあり、やらなければならない事など何もないのだ。のんびり行こう。
 魔王……とやらがいるらしいが、生活圏になりそうなこの街は活気に溢れているし、俺には関係ない話だ。

「取り敢えずこの街からは出たいとこだが……どっちに行けばいいんだ? 結構広いけど……」

 正規の手段で入ってきた訳じゃないからさっぱりわからない。人に聞こうにも……まぁ、そういう事だ。

 遠くに外壁は見えるのだが、目指していくと出るときに見た目の怪しさで身分証明とか要求されるかもしれない。すると詰んでしまう。大体、人が沢山いるだろうからあまり近寄りたくはない。目立ってしまう。

 困った。
 ……が、俺はぽんと手を打った。
 俺に与えられたらしい力で何とかならないか?
 不思議なのが、俺の身体に何の異常もない事だ。身体的に何もないということは、多分俺に与えられた力というのは《技術》か、《経験》とかか、さもなければ……

「……《魔法》、か?」

 何となく思い至り、ものは試しと城門の向こう側に瞬間移動、と念じてみる。
 半信半疑どころか一割も出来るとは思わないが、心の中で想像する分には自由だ。
 瞬き。一瞬自分の視界が遮断される。

 ──刹那。
 俺は爽やかな風が吹く草原にいた。
 緑色の草花が膝下に伸びているのを認識すると、俺はその場で何も出来ず、ただしばらく唖然とその場に立ち尽くした。


 ◇◆◇◆◇◆


 心の整理をつけた後、俺は街に繋がる道の脇に森が繁っていたのでそこに入って、色々な実験をしてみた。
 結論から言うならこの魔法(本当にそうなのかどうかは定かではないが……)は、どうやら俺のイメージ通りに現実を改変するもののようだ。

 例えば、目の前の木が燃えているという想像をする。すると瞬く間に木が炎を放ち始める。掌から水が出ると想像すれば、勢いよく放出された大量の水がその炎をかき消した。

 さまざまな実験により大量に現実を改変すると、目眩のような感覚が起きる。恐らくMPのように、上限があるのだろう。

 しかし、一度にどれくらいの威力の魔法が発動可能なのかは定かではない。下手に『隕石が落ちてくる』とか想像して、出来てしまったら困るからだ。しかし、自分の能力の限界は是非とも把握しておきたい。いざという時に出来るかどうかわからない事に身を委ねるのは嫌だ。

 大体、合計で魔法がどれくらい使えるのかの上限も未だ基準が俺の感覚くらいしかないので判然としない。使える量は幾ら何でも回復はするだろうが、どれくらいの時間で回復するかもわからない。

 魔法を実用化するにも、もう少し過程を踏まなければならなそうだが……どうやら、そんな事も言ってはいられなさそうだった。

 ガサリ。ガサリ、
 一通りの実験を終えた俺を囲む草むらが、幾つも音を立てた。
 俺は眼を鋭く光らせて警戒を露わにする。
 当然、森でこんなことやってたら、ナニカを呼び寄せるかもしれないことくらいは想定の内に入れている。
 その音の主も警戒しているのか、なかなかその姿を草むらに隠し頑なに見せない。
 だから俺は、それを好機チャンスと先手を打つことにした。

「はっ……住処を荒らしたのは悪かったが、襲って来たのはお前らだぜ。手加減はするが、死んでも文句、言うんじゃぁねぇぞ!!」

 バチィ!!
 向かい合わせた掌の間に火花が散る。
 火花は次第に大きくなり、不規則に揺らぎ光を放つ、極太の放電と化していく。
 その光はやがて右手の内で一個に固まり、凄まじいエネルギーを秘めた雷の球と化す。

「オラァぁぁぁぁ!!!」

 俺は、雄叫びと共に腕を振り上げ、それを上空へと投げ飛ばした。
 それと時を同じくして、相手を威嚇する唸りを上げて四方から合計六体の獣が飛びかかる。
 見たことのない、此方の世界の四足獣だ。フォルムは狼に近く、鋭い牙と爪を持っている。

 その凶器が俺に届くより早く、速く。
 俺の凶器かみなりが落雷となって正確に降り注ぎ、獣の身体を貫いた。

「グォォァァ!!?!」

 悲鳴をあげ、獣の身体がビクンと跳ねる。
 宙空に躍らせた身体が墜落し、獣はその場に倒れ伏した。

「…………死んだか?」

 だとすれば目覚めが悪いが──俺が内心思っていると、獣がヨロヨロと身体を起こして、足を引きずりながら一歩一歩森の中へと消えていく。

 どうやら生きていたらしい。尤も、この後と生きてられるかどうかはアイツら次第だが……何かしてやれる訳でもなく、全面的にこっちが加害者だ。慮る事もおかしく思えて、俺は頭を振って意識を断ち切ることにした。

「取り敢えず、今日はもう魔法は使えなさそうだな……つーか使いたくねぇ。あー……気持ち悪い」

 実験の結果、真っ二つになったり燃え尽きて灰になったり内側から爆裂したりした大量の木の残骸の上で、俺はゴロリと横になった。環境破壊だが、うん、まぁ、他に実験台になりそうなものが何もなかったのだ。許せ。主にさっきの獣どもに言っているが。

 寝心地は最悪だが泥の上でねっ転がるよか随分ましだ。
 夢のような力に童心に返って子供のように夢中になって色々試行錯誤しているうちに、街にいた時は頭上に輝いていた太陽はすっかり沈んでしまっている。
 代わりに、俺が住んでいた東京では見たこともないような、満天の星空がそこにはあった。

「……まさか死んだ後に、こんな良い経験が出来るなんてなぁ。日頃の行いが、よっぽど良かったのかね……」

 まるで夢のようだ。
 このまま眠ったら、泡のように消えやしないかと不安になる。
 けれど、きっと明日もあるという確信も同時に何処からか湧いてくる。
 この、生活には不自由してもどこまでも自由な世界が、失われる筈がないと。

 きゅるると腹の虫が鳴るが、そんな空腹感なんて気にならないくらいの多幸感に包まれ、俺は眠った。
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