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第3章 「初依頼。そして──」

第一話 「冒険者ギルド」

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 『冒険者ギルド』。

 昨今のファンタジー小説とか、昔ながらのTRPGなんかによく出てくるアレだ。
 当然俺はそういうものをよく嗜んでいたし、『僕』になった後、あると聞いて気持ちが高鳴ったのは忘れられない。

 腕に自信のあるものが『冒険者組合』に登録し、冒険者ギルドにて依頼を受ける。
 どの程度の難易度の依頼を受けられるかはそのパーティーのメンバーのうち、最も高いランクに委ねられる。
 例えば僕は『銀』であり、下から二番目ではあるが、依頼の内容は、『メロウ・ウルフ討伐』『遺跡探索』『薬草採取』などなど、まぁ多岐にわたる。
 少なくとも、『銅』の『大ネズミ退治』『街の掃除』『ペット捜索』、みたいな地味なものより遥かに良いといえる。
 報酬もそうだが、僕は困っている人を助けたくてこの道を選んだのだから。

 ともあれ、先日の大会で力を見せたことで晴れて冒険者となった僕は、街の中心部にある冒険者ギルドに足を運んだ。

 名前は、『在りし日の夢亭』。
 中々詩的だ。

 西部劇の酒場によくありそうな両開き扉を押し開けると、酒場になっているそこは狂騒で満ちていた。

「おい!! テメェ銀貨1枚ガメやがったな!」

 怒号が聞こえ。

「よぉ、ネーちゃん良い身体してるじゃねぇか……一杯どうだぃ?」
「奢りならつき合ってやるさね。でも乳触ってんじゃないよ!!」

 目の前で大男が華麗に宙を舞い。

「さぁもう一杯いけるかいけるかいけるかぁ!!?」
「おおおおおぉぉぉ……」

 実況のついた飲み比べが昼間から人を集める。

 秩序などない。
 全てが混沌カオス
 個性豊かな実力派が軒を連ねる修羅の巷。
 ここが、まさしく冒険者ギルドだ。

 それらの喧騒を横切って、カウンターに取り付く。
 受付は女の人で、誰が見ても好意的に感じるような笑みをしていた。
 服装はギルドの制服。
 緑基調のそれは、清潔感を感じさせた。

「いらっしゃいませ! 依頼の申し込みでしょうか? それとも冒険者登録?」
「冒険者登録です。これを」

 先日の大会で手に入れた書類を差し出す。
 内容は、この者の冒険者登録時、ランクを『銀』として認めるとかそんな感じだ。

「あ、成る程。先日のコロシアムで勧誘された人ですね? ごめんなさい、私休暇が出なかったもので……よよよ」

 わざとらしく目を押さえて泣くフリをする受付嬢。
 イタズラ好きなのだろうか、整った顔のお陰もあって可愛らしい。

「い、いえいえ。それで、登録の方は……」
「はい! 名前等の情報もこちらに頂いていますし、これにて登録完了! 晴れて冒険者になります! 設備のご案内ですが、まず一階は酒場。こちら冒険者の方なら無料で飲食頂けます! 赤字じゃないかって? 依頼の達成報酬から幾らかピンハネしていますので黒字も黒字! ですからお好きなだけ食べて飲んで下さい! 二階は冒険者の宿になっております。此方も冒険者の方なら無料でお泊まり頂けます。まぁ、部屋数の都合大部屋にぎゅうぎゅう詰なのですが! 性別で分けたりもしないのでポロリもあるよ! 嫌ならキチンと家から通って下さいねー♪」

 受付嬢は機関銃の如くペラペラと噛まずに紹介を言い終えると、ふぅと一息ついた。

「で、今日はどうなされますか? 依頼受注? ご飲食? それとも、わ・た・し?」

 冗談めかして言う彼女に、僕は

「では、依頼をお願いします」

 少し照れつつ、そう答えた。
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