異世界にてドヤ顔で現代知識TUEEEEしてたらいつの間にか最高位軍師にされてました!?

一☆一

文字の大きさ
7 / 21
第一章

開戦

しおりを挟む
 ザザルザザンザ森林を一望できる高い崖に、一人の初老の男性が佇んでいた。
 その後姿はすっと芯の入った意思を感じられる堂々としたもの。
 その背中に、ふと声がかけられる。

「今年も此処にいられたのですか、先生」
「おお、ヨーディッヒ君か。うん、ここは単純に見晴らしもいい。加えて、この国を担う若者たちが切磋琢磨しているのが見えるとなればね」
「私もかつては彼処で走り回っていたかと思うと、感慨深いものがあります。それにしても、先生はお忙しい身ではありませんか。今日の職務はどうなされたのです?」
「何。いかに国家主席・・・・といえど、民主主義国家という器の中にあってはお飾りのようなものだよ。私一人抜けても何ということはないさ」

 そう言ってカラカラと笑う男性。
 相変わらずだな、とヨ―ディッヒは思う。
 この、人を和やかにさせる精神性。この人についていこうと思える、真性のカリスマ。
 国を起こすという偉業をして、ヨーディッヒは役不足だと感じていた。

「さて、君との会話も楽しくかけがえのないものだが、今は若き芽の奮闘を見よう。今日はそのために来たのだからね」
「ええ。これを」
「うん、ありがとう」

 ヨ―ディッヒは、男に小さな石のような物を渡す。
 魔晶石と呼ばれるもので、強力な魔法などを行使する際に割る事で、消費する魔法力を抑えてくれるものだ。
 男は魔法使いである。使える魔法は《千里眼》。
 この魔法を用いて、男は手に取るように森林全体を覗き見る。
 常に監視をつけている訳でもない為に反則を取るのが厳しいこのサバイバルの中、審判の役割もしてくれるので、その点は本当に有難いとヨーディッヒは思っていた。

「ふむ、まだ大きな動きはないようだが……む、なんだ? あれは……」
「? どうかなさいましたか」
「いや、木の上になにか……兵か? あんなところに登らせてどういう……?」
「何か、気になる事でも?」
「いや、新しい芽が面白い事をしているみたいでね……一体何を見せてくれるのだろう? 今から楽しみが尽きないよ」

 子供のように声を弾ませて目を輝かせる男に、ヨーディッヒは小さく笑った。


 ◇◆◇◆◇◆


望遠鏡・・・だとぉ!?」
「ああ。ま、俺の秘密兵器だな。壊すなよ、それ作らせるのに結構かかってるんだから!」

 驚いた様子のルディアンヌに釘を刺す。
 無一文のハズの俺がどうやってそんな費用を捻出したか?
 答えは簡単。食費と称してタルトから貰った銀貨を流用しているのである。お陰でしばらく水だけで生きる羽目になった。
 加えて、倍率調整などの理屈は僕には理解できない機構だった為に残念ながら備えられていない。自分が生きていた時代に比べれば随分なポンコツだが、ないよりは一億倍マシだ。
 望遠鏡が出来たのは僕が生きていた時代の約四百年前──まさに戦争を進化させるオーバーテクノロジーと言うに相応しいものだ。

「この筒を通して見るだけで遠くのものがよく見えるなんてな……実際に手に取って見てみても信じられねえ。何処でこんなもんの作り方を知ったんだ?」
「……あれだ。自分で考えたんだよ」
「んな……!」

 絶句するルディアンヌ。うん、まあ無理も無いかもしれない。
 俺だって望遠鏡ゼロから考えたやつはすげーなと思うし。レンズ二枚合わせたら遠くが見えるのが偶然わかったにせよ、そこからこの筒を創り出す発想が途轍もない。
 勿論実際は現代にいた時に得た知識の流用でしかないが。

「あ、あんた思ったよりすごいやつ……なのか?」
「いや、まあ……そうってことでいいよもう。とりあえず周りに斥候! それから兵士を何人か木に登らせて望遠鏡で見張らせろ!」
「木の上に兵を置いたら位置がばれないか?」
「ああ。だから一応迷彩ってことで葉っぱやらで身体は偽装しておいてくれ。目を凝らさなきゃわかんない程度にしてもらえれば、何もない木に目を凝らすやつなんかいない筈だ。多分」
「確かにそうかもな。了解だ、大将。望遠鏡は……三本か。じゃあ三人を木の上と……斥候に四人ほど出させよう。木が生い茂ってるせいで望遠鏡じゃ見えにくいところを優先させる」

 僕はルディアンヌの適応の早さに舌を巻いた。
 まさしく僕の出そうとした指示を、ルディアンヌは正確に予測していたのだ。

「取り敢えず、小隊が見えたら何にせよ動かなくちゃな……」
「戦うのか?」
「場合による。が、一対一ならやった方が良いだろうな。どの道仮想敵だろう。後で徒党を組まれるくらいなら叩けるうちに叩く」
「ふぅん。戦術に自信があるのか?」
「ある、とは言わないが。どの道やらなきゃだろ?」
「よくわかってるじゃねぇか。惚れ直すぜ、全く!」
「はぁっ!?」

 そんな爆弾発言に翻弄されながら、戦闘の時は刻一刻と近づいていく──。


 ◇◆◇◆◇◆


 日差しがウザったい、と。少女は眉を寄せた。
 ザザルザザンザ森林のある地点。木々の群れが少しだけまばらになり、最初に受験生全員が集められた所ほどではないにせよ小さな広場らしくなっているところに、一つの小隊が腰を落ち着けていた。
 素朴な軍服を着た大柄な男が右へ左へと動いているなか、一人切り株の椅子に腰をかけている年端もいかない少女。
 今回の試験において、最年少十二歳で一次試験を突破した神童。ルー・カタリモである。一次試験での成績は五位と、軍部からも将来を期待される有望株だ。

「…………眩しい」

 ルーは思う。日差しは嫌いだ、と。無闇矢鱈に明るく、煩わしい。
 本当ならもっと日の当たらない場所に居たかったのだが、木が密集しているところでは攻められた時、組織だっての反攻が困難だ。攻めるに易く、守るに困難であると言わざるを得ない。腰を据えるという目的に関しても効率が良いとは言えない。
 一般方向(敗走して隊が散り散りになった際の再集合場所)は勿論制定しているが、これは使われないに越したことはないのだ。
 森林の中にポツリとある木々のない空間。確かにわかりやすく位置がばれやすそうに思うかもしれないが、実際は上からでも見なければわからない。特に高い木々に登って見ようにも、距離が遠ければそれこそ点にしか見えず、見渡した時に違和感を感じさせる程ではない。『其処に木がないよ』と言われればわかるかも知れないが、そんな事を親切にも教えてくれる人間はいない。そして、近くに敵が居ないのは勿論確認済み。今も斥候を出して警戒させている。敵が来たら適当に追い払って退散するに限る。何もこのルール、敵を必ずしも倒さないといけないわけではない。そして、ルーには事前に作れた協力者がいないのだ。それは他の陣営に大きなアドバンテージを許していることにほかならず、要するにルーは逃げ回って漁夫の利的に二次試験を突破するつもりだった。真っ向から戦って勝つのが出来るかどうかはさておいて、そんなリスクを無理に犯す必要はないと考えたのである。
 ここを暫定的に拠点として篭り、敵が来たら今設置させている罠で足止めさせてそのうちに逃げる。それがルーの今回の戦略だ。
 考えうる限りの穴を潰した上での合理的思考。なるほど、神童と謳われるのも無理はない。

「……はぁ…………でも、退屈」

 ルーはそこまで血の気の多い方ではないと自己を認識していたが、しかし退屈を忌み嫌う性格でもあった。そんな不満が口から溢れた頃、見計らったように斥候の一人がルーの元へ駆けてきた。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

足手まといだと言われて冒険者パーティから追放されたのに、なぜか元メンバーが追いかけてきました

ちくわ食べます
ファンタジー
「ユウト。正直にいうけど、最近のあなたは足手まといになっている。もう、ここらへんが限界だと思う」 優秀なアタッカー、メイジ、タンクの3人に囲まれていたヒーラーのユウトは、実力不足を理由に冒険者パーティを追放されてしまう。 ――僕には才能がなかった。 打ちひしがれ、故郷の実家へと帰省を決意したユウトを待ち受けていたのは、彼の知らない真実だった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...