異世界にてドヤ顔で現代知識TUEEEEしてたらいつの間にか最高位軍師にされてました!?

一☆一

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第一章

異才

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「し、失礼します!!」

 息を切らし、慌てた様子の斥候を任せた一等兵が陣地に転がり込んでくる。
 天幕などは目立つ為に張っていないし、人手が惜しい為に周りに兵も置いていないので御目通り云々といった面倒な礼は省略される。
 ルーは不機嫌そうな声で一言言葉を返した。

「…………要件」
「はっ! 先程、北東の方角から敵部隊の斥候と思しき二人組の接近を確認いたしました!」
「ふぅん……命令通り、ちゃんと追い払った?」
「い、いえ。それがその……弓を構えている間に広間に隊を置いている事が確認されたのか、さっさと退却してしまい……申し訳ございません」
「…………へぇ」

 その報告を受けて、ルーは唸る。
 慎重を旨とする作戦を理性的に考える傍で、一部の思考が冒険に傾きかける。

「って事は……相手はこっちが気づいてる事に気付いてない訳か……成る程ね。責めたりはしないから、副官を呼んできて。あっちで罠仕掛けの監督をしてるから」
「は、はい!」

 バタバタと慌ただしく走っていく斥候。
 ルーは副官が来るまでの僅かな間に、今後の展開を予想。そして、次に打つ一手を思案する。

「カーブル伍長、着任いたしました!」
「ご苦労様。早速だけど、今此処にいる兵を展開してこの広間を両翼包囲するとなるとどの程度時間がかかりそう?」
「りょ、両翼包囲でありますか!?」

 両翼包囲とは、半包囲(完全には包囲出来ていない、開いている部分がある包囲のこと)の一種であり、自分の部隊を左右に展開し、一部を敵両側面に周りこませたものの事を言う。今回の場合広間が円形であることから、それを囲む包囲の概形はランドルト環(視力検査の時に用いられる一方が開いた円形)に近いか。

「そうですね……作業を一時中断してよろしいのでしたら、指示伝達及び換装にかかる時間を含めまして、十分程度で完了するかと」
「……まぁ、御の字かな」
「敵が来られたのですか? 失礼を承知で申し上げさせて頂きますと、交戦が想定される場合、脱兎の如く逃走するという話であったと記憶していますが」
「……その記憶に間違いは無いよ。でも、流石に明らかな優位を捨ててまで拘る事でもないでしょ」
「明らかな優位、とは?」
「敵の斥候が、こっちが敵の存在に気づいた事に気付いていない事。……うちの斥候には木の上に登らせた上で身を隠す事を徹底させているし、こっちが攻撃を仕掛ける前に相手の斥候は逃げたから、まず間違いなく相手はこっちが相手の存在に気づいた事に気付いてない。となると、相手は奇襲を仕掛けたつもりで、こっちは万全の態勢で待ち伏せが出来るってこと。幸い撤退時の足止め用に罠を沢山仕掛けさせているし、敵が広間に踏み込んだところを森に展開させておいた兵で弓を斉射、突撃して包囲。両翼包囲に蓋ができるかどうかが心配だけど、同程度かそれ以下の人数なら問題なく間に合うんじゃない。蓋が出来なかったら反転されてそれまでだけど、それでもこっちには被害出ないし」
「……成る程。確かにそれは理にかなっているかと思います。ですが、小隊を森に潜ませれば広間はもぬけの殻。それでは怪しんで敵が踏み込んで来ないかと思われますが」
「……確かにね。じゃあ、十名程を広間の中に置いて誤魔化す」
「広間にいる兵が少ないと勘付かれた時点で反転される可能性は? 恐らくは先頭集団が広間に押し入った時点で気付かれると思われますが」
「……ん、無いとは言わない。でもその確率は低いと見てる」
「何故ですか?」
「相手はこの襲撃を奇襲だと思ってる筈だから。勢いに任せて広間に雪崩れ込んでくる筈。となると、先頭集団が広間に入ってから後続が続くまでのタイムラグは小さい」
「ふむ……しかし、敵の斥候の目的が森林内の進軍を安全に進行させる為のものであり、そもそも此方を避けてくるという可能性もありますが」
「その可能性は結構高い。だから、森林内に潜むのは二十分まで。それ以上来なかったら兵を纏めて逃走する」
「逃走、ですか? この広間は捨てるのでしょうか」
「位置がバレてるのは確かなんだから、撤退はやっぱりしないとダメでしょ……倒したらまたここで陣取るけど」
「そ、そうでした。失礼しました」
「……別にいい。他に懸念は?」
「そ、そうですね……この試験は他のチームと手を組む事が定石。となれば、敵の数が此方の倍になっている可能性があります。数の差を利用して勢いのままに中央突破を図られると実に厄介かと」
「奇襲だと思ってたところが実は罠で、広間には足止めの為の罠がふんだんに設置されてる。それに完全包囲とはいかなくても包囲されるって感覚は確かな恐怖だし、相手の指揮官が有能で即座に反撃するよう指示しても兵の心はついて来ないんじゃない……ふわぁ……」

 わかっている事を長々と説明していたら退屈のあまり眠くなってきたのか、ルーは大きく欠伸をし、半眼になって船を漕ぎ始める。
 緊張感が感じられないのも当然。ルーはこの勝負、自分が負けるなどとはさらさら思っていない。自他共に認めるエリートであるが故に。自分が負けをおっ被るとは考えてもいないのだ。であれば緊張で固くなれと言う方が無理な話だ。

「もういい? 多分大丈夫だと思うし……」
「…………わかりました。兵を展開させますので、お休みください。隊長は部下の一人が背負い、森の中へとお連れ致しますので展開が終わりましたらご報告致します」

 散々悩んだ挙句、副官は首を縦に振った。
 ルーは今回、消極的な戦法に出ると決めていたが故に副官をとても用心深い人物に定めていた。何度も反復して考えた結果、目の前の少女の作戦で問題ないだろうと結論を出したのだ。

「よろ……しくぅ……」

 コテンと横になり、すぅすぅと寝息を立てる姿は年相応に愛らしいものであるが、カーブルはその姿にすら戦慄を覚えていた。
 凡そ年相応とは言えない戦術眼。加えて、カーブルがルーに最初にかけられた、あの言葉。

『歳下だと思って、舐めるのはいいよ。私がまだ幼いのは事実だから。でも舐めた態度は・・・・・・許さない。殺されたくなかったら犬より忠実に私に仕えなさい』

 本気だった。本気の目だった。
 あれを聞いて、脅しだと思った奴は一人も居なかった。まだ自分の半分ほどしか歳を経ていない少女に、カーブルは本気で戦慄させられたのだ。

「……総員、傾注!! 死にたくなければ耳を澄ませ!!」
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