異世界にてドヤ顔で現代知識TUEEEEしてたらいつの間にか最高位軍師にされてました!?

一☆一

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第一章

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 一通り話を聞いて、ルーは肩をすくめた。
 成程、勝てないわけだ。少なくとも、局面を順当に推測して誰でも出せるような『優等生』な回答を重ねるだけでは、カエデという……男には、勝てない。
 戦術で勝つ条件とは、一つでも多く敵の裏をかくこと。
 ルーは優秀で、状況をよく認識してその時の最善を選択する能力はあったかもしれない。
 だが、その最善が敵に与えられた、偽物だとはとうとう見抜けなかったのだ。

「……わかった。協力する」
「ぁ、えっと! 協力に感謝する!」

 ルーの言葉に、カエデは男が惚れるような笑顔と敬礼で応えた。
 慣れてないのだろう。そのぎこちない敬礼は、他の兵士達と比べても綺麗とは言えない。
 だが、そこに含まれた敬意は確かに感じ取れて。

「今後ともよろしく……」

 天才と呼ばれ、何でも出来て当然だと。やれなければならないのだと言われ続け。頑張って出来るようになれば周囲から疎まれ、両親からすら賢い子供というステータスとしか見られない日々。そんなルーに、その純粋な敬意は新鮮で、頼りにされるという感覚は少しだけ、嬉しいものだった。


 ◇◆◇◆◇◆


 少女の言葉を聞いて、俺はふぅ、と息を吐く。
 流石に今回はちょっと綱渡りが酷すぎた。
 結果的になんとかなったものの、今の段階ではどこまで行っても自分は素人だ。出来れば現代知識を使って、俺の世界の史実の何処ぞの戦争で使われた戦術やらを流用したいのに、一個小隊単位の闘争なんぞが史実に残っているわけもなく(いや俺が知らないだけで、あるのかも知らないけども)どうにも今回は自分で考えざるを得ずリスクが無駄に大きくなってしまった。さっきの作戦が立案できたのは望遠鏡のお陰だ。あと、『狩ろうと思っている時が動物、一番無防備である』という事を教えてくれた数々の漫画達のお陰もあるか。某めっちゃ休載多い漫画とか。
 で、だからこそ、此処で新たに人員を導入出来たのは大きい。当然だが、人が多い方が作戦の幅は広がる。勿論、協力を仰ぐからには最悪自分が負けてもタルトやこの少女は試験を潜り抜けられるくらいの覚悟がいるが。

「取り敢えず、自己紹介だな。俺は東……じゃなくて。カエデ・シノノメだ。もう一度言っておくと、一応男。で、あれは副官のルディアンヌ。いい加減な奴だけど、頭と足は確かだよ。俺の代わりに隊を纏めてくれてるしな」
「……私はルー。ルー・カタリモ。あっちで休んでる優しそうな男が副官のカーブル伍長。取り柄は慎重さと、工作の知識。あと統制射撃の指揮が出来た筈」

 お互いの事は交戦である程度わかり合っているからか名前を端的に言えば、副官の紹介などに移る。どうにもルーは工作の腕に特化した、慎重な部隊を選んだらしい。多分試験が終わるまで逃げ隠れするつもりだったのだろう。

「おっ、上手く行ったのか。大将?」
「ああ、お陰様でな。ルディアンヌもよく頑張ってくれたよ」
「そりゃな! やー、こんなに俺好みの指揮官ってのも珍しいからな。負けたらまた別の指揮官に飛ばされて前線だろ? この機会を逃してたまるかっつの」
「お、おう……隊の体力はもう回復したか?」
「嬢ちゃんの隊は全然問題ないんだが、いかんせんうちの隊がな。広場に突入するのが本気に見せる為に随分な距離を走らせたし、右翼に突撃してからも奮戦したし、なんなら別働隊で本隊に突っ込んだ奴らは気取られないように少し遠回りしてたからな。行軍はいいが、旅次行軍(可能な限り休憩を多くするなどして、兵や物資の損耗を防ぎながら進む行軍。当然速さは無い)だな。大将は疲れてないか?」
「俺は兵士に担がれてたからな……走ってないし、体力には問題ねぇよ」
「あぁ、そいつ言ってたぜ。隊長殿は女子よりも遥かに軽かったって。やっぱり胸とかが無い分軽いのかねぇ」
「やめろぉ! 俺は女と比較される時が一番傷つくんだよ!!」

 ニヤニヤしながら俺をからかうルディアンヌ。
 こいつ本当いつかどうにかしてやるからな……と決意を固めていると、急にルディアンヌが少し真剣な顔になる。

「ま、冗談はさておきとして、だな。指揮官は頭も働かせてにゃならんし、何より平常時とは緊張感が段違いだ。俺とかはまぁ、何度か戦争にも行ってるから慣れてるし、そっちの嬢ちゃんも何かしらで慣れてるか適応してるってのわかる。だがアンタはそうでもなかったみたいなんでな。気づかないうちに疲労でも溜め込んでんじゃねーかと」

 ……急に真面目なこと言うからこいつ卑怯だわ。
 確かに、少し頭が重いような気はする。自分の判断が間違ってないか。何か穴があって、今にも敵が攻めてくるんじゃないか。そういう心配はある。
 何より俺は普通のオタクであって、ルーやルディアンヌらと違ってその方面の専門家ではない。非日常に流されるままに此処まで来ているが、こんな状況は生まれて初めての経験だ。そうそう慣れる訳もない。
 だが。

「……まぁ、多分大丈夫だ。少なくとも、この試験が終わるまではボロは出さない。協力してくれたみんなの為にもな」

 聞けば、此処で勝ち残れるかどうかは選ばれた兵士達側の後の処遇や立場にも影響するという。なら僕が勝たなければ、ルディアンヌにも迷惑をかけてしまうということ。重圧は責任感で押しつぶす。疲労は、終わってからゆっくり考えればいい。

「そうか。それならわかった。全隊整列! 予め観測していた合流地点へと行軍するぞ!」

 ルディアンヌが隊を纏め始め、ルーが首を傾げた。

「? 合流地点って……協力者がいるの?」
「あぁ、ごめん言ってなかったな。二位のタルト・スタッカートと手を組んでる。流石にまだやられてないとは思うが……」
「…………そう」

 あれ?
 なんかルーが少ししゅんとした気がしたが……気のせいだろうか。

「よし、準備はいいな! 行軍開始!!」

 そして、ゆっくりと隊は動き出す。
 ルディアンヌに示唆された、一抹の不安。
 考えないようにはしていても、どうしてもそれが頭から離れてくれなかった。
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