17 / 21
第一章
疲れ
しおりを挟む
タルトの隊に蹂躙され、敵指揮官の鹵獲を以て戦闘が終結。
敵指揮官には猫耳が生えていた。流石異世界、そんなデタラメ種族も平然と闊歩しているらしい。
猫耳をモフモフしたかったが、流石に敵だったので自重した。敵じゃなければ……
俺の知らないうちにタルトが敵指揮官に集合場所を尋問したらしく、次の方針があらかた決まったところで、既に空は紅く、日が既に落ちかけている。
夜営を考えないといけないので、俺は一度バラバラになった隊を一纏めにした。
「……被害は……まぁ、流石に無傷とはいかなかったか」
「あぁ。でも人数自体は少ないからまだましだな。唯一痛いのが、脱落者が俺達の隊からだったってことくらいだが」
「二人なら全然許容範囲だ。夜営を頼む。望遠鏡で辺りの見張りも忘れずにな」
「アイアイ、大将……しかし、意外だったぜ」
「何がだよ?」
薄い笑いを浮かべるルディアンヌに、俺は頭の上にクエスチョンマークを浮かべる。
「大将、撃ちたくないからルーは指揮下に入れたって言ってたじゃねえか。なのに今回はあっさりしたもんだと思ってな」
「それは、まあ戦略的に見てな。食料があらかじめ十日分、支給されてるのなら考えたけど」
支給品にある程度の食料は入っている。だが、十日もつほどではない。
持ち物は必要に応じて現地調達可、というルールはほとんど食料の為だけに在ると言って過言ではない。
そして、隊の規模が大きくなればなるほどその関係上、動きづらくなるのだ。
三個小隊が限度。俺はそう判断した。
「あぁ……そりゃ、しょうがねえなぁ」
「情で目的を見失うほど馬鹿じゃねえよ……」
「知ってるよ。じゃああっちを指揮してくる。アンタはもっと重要な話をタルトあたりとして来いよ。次の方針が決まったなら次の次の方針に頭を悩ますのが仕事だろ? 勿論疲れてんなら休んだ方がいいが……」
「……うぃ。いや、大丈夫だ。行ってくる……」
渋々俺はルーとタルトが待つ天幕へと足を向ける。
いい加減少しくらい休みたいんだが、扱いがブラックすぎやしないだろうか。いや、軍だとこんなものか。みんな疲れてるもんな……
「お邪魔しますっと……」
天幕に入ると、二人が簡易な机に地図を広げた周りを囲んでいた。
「ん……ようこそ? っていうのも、おかしい?」
「まあ、おかしいですが……ええと、いらっしゃいませ……ですかね?」
「どれでもいいよ……座っていいか?」
見たところ、椅子はもう二人が座っているものを合わせても三つある。
三つ目がルディアンヌ用でお前は立ってろとか言われたら泣くところだったが、普通にどうぞと言われたので内心胸をなでおろした。
……どうも自分が疲れすぎている気がするのは決して気のせいではないだろう。
「えーーーーっと………………次何するんだっけ」
「…………大丈夫?」
「顔にも疲れが出ていますね……一度休んだ方がいいのでは? 取り敢えず次に何をするかは決まっていますし」
心配そうな二人の様子に物凄くお言葉に甘えたくなるが、少しだけ残った理性でその誘惑を押さえつける。
休むなら試験が終わってからでもできるし、別にずっと寝ないというわけでもない。
「いや、大丈夫だ。そうそう、敵の合流地点に行ってもう片方を叩くんだった」
「ええ。今日、一つの小隊を潰せたことで彼女と合流するはずだった相手が独立しているはずです。其処を叩きたい」
「……でも、ちょっと動き過ぎな気がする。この試験、いつもは一日目はそこまで動かないのに……」
「そこは望遠鏡の効果が大きいな……確実に敵の先手を取れる。となると、敵が準備を整える前に叩いた方がよくなるから」
「でも、動けば動くほど、疲れるのは避けられないでしょ? あんまり欲をかくのも良くない、と思う……」
「しかし、早く動かないとチャンスを逃します!」
「どれだけ敵を倒しても、試験に落ちたら意味ない……!」
俺を置いてけぼりにして白熱する会議。物の見事に予想通り、好戦派と保守派で意見が割れた。
俺は、というと正直どっちでもいい。
どっちに転ぶにせよ、勝つために尽力するし負けるつもりはサラサラないのだから。
約束、したのだから。
ただ、少し身体が怠い事だけが気がかりで。
声が遠い。視界が狭い。
意識も────
敵指揮官には猫耳が生えていた。流石異世界、そんなデタラメ種族も平然と闊歩しているらしい。
猫耳をモフモフしたかったが、流石に敵だったので自重した。敵じゃなければ……
俺の知らないうちにタルトが敵指揮官に集合場所を尋問したらしく、次の方針があらかた決まったところで、既に空は紅く、日が既に落ちかけている。
夜営を考えないといけないので、俺は一度バラバラになった隊を一纏めにした。
「……被害は……まぁ、流石に無傷とはいかなかったか」
「あぁ。でも人数自体は少ないからまだましだな。唯一痛いのが、脱落者が俺達の隊からだったってことくらいだが」
「二人なら全然許容範囲だ。夜営を頼む。望遠鏡で辺りの見張りも忘れずにな」
「アイアイ、大将……しかし、意外だったぜ」
「何がだよ?」
薄い笑いを浮かべるルディアンヌに、俺は頭の上にクエスチョンマークを浮かべる。
「大将、撃ちたくないからルーは指揮下に入れたって言ってたじゃねえか。なのに今回はあっさりしたもんだと思ってな」
「それは、まあ戦略的に見てな。食料があらかじめ十日分、支給されてるのなら考えたけど」
支給品にある程度の食料は入っている。だが、十日もつほどではない。
持ち物は必要に応じて現地調達可、というルールはほとんど食料の為だけに在ると言って過言ではない。
そして、隊の規模が大きくなればなるほどその関係上、動きづらくなるのだ。
三個小隊が限度。俺はそう判断した。
「あぁ……そりゃ、しょうがねえなぁ」
「情で目的を見失うほど馬鹿じゃねえよ……」
「知ってるよ。じゃああっちを指揮してくる。アンタはもっと重要な話をタルトあたりとして来いよ。次の方針が決まったなら次の次の方針に頭を悩ますのが仕事だろ? 勿論疲れてんなら休んだ方がいいが……」
「……うぃ。いや、大丈夫だ。行ってくる……」
渋々俺はルーとタルトが待つ天幕へと足を向ける。
いい加減少しくらい休みたいんだが、扱いがブラックすぎやしないだろうか。いや、軍だとこんなものか。みんな疲れてるもんな……
「お邪魔しますっと……」
天幕に入ると、二人が簡易な机に地図を広げた周りを囲んでいた。
「ん……ようこそ? っていうのも、おかしい?」
「まあ、おかしいですが……ええと、いらっしゃいませ……ですかね?」
「どれでもいいよ……座っていいか?」
見たところ、椅子はもう二人が座っているものを合わせても三つある。
三つ目がルディアンヌ用でお前は立ってろとか言われたら泣くところだったが、普通にどうぞと言われたので内心胸をなでおろした。
……どうも自分が疲れすぎている気がするのは決して気のせいではないだろう。
「えーーーーっと………………次何するんだっけ」
「…………大丈夫?」
「顔にも疲れが出ていますね……一度休んだ方がいいのでは? 取り敢えず次に何をするかは決まっていますし」
心配そうな二人の様子に物凄くお言葉に甘えたくなるが、少しだけ残った理性でその誘惑を押さえつける。
休むなら試験が終わってからでもできるし、別にずっと寝ないというわけでもない。
「いや、大丈夫だ。そうそう、敵の合流地点に行ってもう片方を叩くんだった」
「ええ。今日、一つの小隊を潰せたことで彼女と合流するはずだった相手が独立しているはずです。其処を叩きたい」
「……でも、ちょっと動き過ぎな気がする。この試験、いつもは一日目はそこまで動かないのに……」
「そこは望遠鏡の効果が大きいな……確実に敵の先手を取れる。となると、敵が準備を整える前に叩いた方がよくなるから」
「でも、動けば動くほど、疲れるのは避けられないでしょ? あんまり欲をかくのも良くない、と思う……」
「しかし、早く動かないとチャンスを逃します!」
「どれだけ敵を倒しても、試験に落ちたら意味ない……!」
俺を置いてけぼりにして白熱する会議。物の見事に予想通り、好戦派と保守派で意見が割れた。
俺は、というと正直どっちでもいい。
どっちに転ぶにせよ、勝つために尽力するし負けるつもりはサラサラないのだから。
約束、したのだから。
ただ、少し身体が怠い事だけが気がかりで。
声が遠い。視界が狭い。
意識も────
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
足手まといだと言われて冒険者パーティから追放されたのに、なぜか元メンバーが追いかけてきました
ちくわ食べます
ファンタジー
「ユウト。正直にいうけど、最近のあなたは足手まといになっている。もう、ここらへんが限界だと思う」
優秀なアタッカー、メイジ、タンクの3人に囲まれていたヒーラーのユウトは、実力不足を理由に冒険者パーティを追放されてしまう。
――僕には才能がなかった。
打ちひしがれ、故郷の実家へと帰省を決意したユウトを待ち受けていたのは、彼の知らない真実だった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
ブックマーク・評価、宜しくお願いします。
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる