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第一章
連戦連勝
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タルトと僕は夜も深かったので一度解散して睡眠し、翌朝改めてルディアンヌやルーも交えて暫く話し合い、今後の方針を決めた。
それは、まずは今日、昨日小隊を倒したことで孤立したであろう小隊を打ち倒し、その後は動かずに様子を見ることにする、ということになった。
もともとこの試験は序盤は動きがないのが普通だ。少数対少数の戦いは正面からぶつかり合えば勝敗は見えないし、試験会場がザザルザザンザ森林であるがゆえに視界が狭く、そもそも敵の情報が手に入れづらい。動こうにも動く指針がないのだ。であれば、先ず味方と合流しようというのは道理だろう。
それを覆したのは僕が持ち込んだ望遠鏡なわけだが、タルト曰く。此処まで初日で敵を打ち倒した小隊は、まだ浅い歴史とはいえ試験史上初だろうとのことだった。来年からこの試験には望遠鏡が一定数支給されるだろうなあ、ということが安易に想像された。バランスブレイカーすぎる。
つまり試験期間は十日もあるんだから暫くは動かないでも問題はない。そこまで勝負を急ぐ必要もないらしく、俺もつかれているし兵もつかれているしということで、明日だけ頑張って三日ほど休もうという話になったわけだ。
ちなみに全隊に情報を伝達したらあり得ないくらい場が沸いた。なんか凄く申し訳なくなった。
◇◆◇◆◇◆
昨日尋問して吐かせた合流予定地点に近づいた後、みんな大好き望遠鏡でばれないようにそこを覗いてみれば、やはり想定通り一つの小隊がそこで陣取っていた。隊長らしき人物は、猫というよりは犬に近い獣人族の少女だそうだった。
「犬寄りの獣人族か……やっぱり鼻が利いたりするのか?」
「ん、ああ。そうだな。犬人族は嗅覚が特に優れているし、あとは勘が鋭いな」
ルディアンヌに情報を求めつつ、俺は思考を巡らせる。
今回はどのようにして敵を倒したものか……
「作戦っていうけどよ、昨日と同じじゃダメなのか?」
「…………いや、流石にそれは…………アレ?」
………………それでもよくね?
寧ろ敵は昨日と違って動いていない……いや、動ける体勢ではないわけで。となると逃げられる可能性も低いわけで。あっちから攻勢に出られる可能性も、こっちからの奇襲という形になる関係上少ないわけで。つまり敵は迎撃に回りやすいということで。何なら敵は味方を待っているんだから見えたこちら側をすぐに攻撃というわけにもいかないわけだし。遮二無二逃げるならそれはそれで追い落とせばいいだけの話で──。
「…………いける、か……?」
◇◆◇◆◇◆
鬨の声が木霊する。
敵陣地は昨日と同じく、阿鼻叫喚の様相を呈している。
まあ、昨日と細部の展開は違って、嗅覚がさえわたったのか指揮官の指揮を受けて敵小隊がこちらの包囲の薄いところから逃げようとする動きもあったが……悲しいかな、換装や陣地の撤収が滞ったことで撤退が間に合わずあっさりと追いつかれてしまい、抵抗らしい抵抗もできないまま敵は降伏に至っていた。
「昨日に続き、こっちの損害は軽微だ。運よく早めに敵の指揮官に弾が当たったのも手伝ってな」
「あ、ああ……ご苦労様」
俺は苦笑して、報告に来たルディアンヌをねぎらった。
望遠鏡と、恐らくは抱えられる最大人数である三小隊。
これ、負ける方が難しいんじゃないか……?
その時の俺は、本気でそんなことを考えていたのだった。
それは、まずは今日、昨日小隊を倒したことで孤立したであろう小隊を打ち倒し、その後は動かずに様子を見ることにする、ということになった。
もともとこの試験は序盤は動きがないのが普通だ。少数対少数の戦いは正面からぶつかり合えば勝敗は見えないし、試験会場がザザルザザンザ森林であるがゆえに視界が狭く、そもそも敵の情報が手に入れづらい。動こうにも動く指針がないのだ。であれば、先ず味方と合流しようというのは道理だろう。
それを覆したのは僕が持ち込んだ望遠鏡なわけだが、タルト曰く。此処まで初日で敵を打ち倒した小隊は、まだ浅い歴史とはいえ試験史上初だろうとのことだった。来年からこの試験には望遠鏡が一定数支給されるだろうなあ、ということが安易に想像された。バランスブレイカーすぎる。
つまり試験期間は十日もあるんだから暫くは動かないでも問題はない。そこまで勝負を急ぐ必要もないらしく、俺もつかれているし兵もつかれているしということで、明日だけ頑張って三日ほど休もうという話になったわけだ。
ちなみに全隊に情報を伝達したらあり得ないくらい場が沸いた。なんか凄く申し訳なくなった。
◇◆◇◆◇◆
昨日尋問して吐かせた合流予定地点に近づいた後、みんな大好き望遠鏡でばれないようにそこを覗いてみれば、やはり想定通り一つの小隊がそこで陣取っていた。隊長らしき人物は、猫というよりは犬に近い獣人族の少女だそうだった。
「犬寄りの獣人族か……やっぱり鼻が利いたりするのか?」
「ん、ああ。そうだな。犬人族は嗅覚が特に優れているし、あとは勘が鋭いな」
ルディアンヌに情報を求めつつ、俺は思考を巡らせる。
今回はどのようにして敵を倒したものか……
「作戦っていうけどよ、昨日と同じじゃダメなのか?」
「…………いや、流石にそれは…………アレ?」
………………それでもよくね?
寧ろ敵は昨日と違って動いていない……いや、動ける体勢ではないわけで。となると逃げられる可能性も低いわけで。あっちから攻勢に出られる可能性も、こっちからの奇襲という形になる関係上少ないわけで。つまり敵は迎撃に回りやすいということで。何なら敵は味方を待っているんだから見えたこちら側をすぐに攻撃というわけにもいかないわけだし。遮二無二逃げるならそれはそれで追い落とせばいいだけの話で──。
「…………いける、か……?」
◇◆◇◆◇◆
鬨の声が木霊する。
敵陣地は昨日と同じく、阿鼻叫喚の様相を呈している。
まあ、昨日と細部の展開は違って、嗅覚がさえわたったのか指揮官の指揮を受けて敵小隊がこちらの包囲の薄いところから逃げようとする動きもあったが……悲しいかな、換装や陣地の撤収が滞ったことで撤退が間に合わずあっさりと追いつかれてしまい、抵抗らしい抵抗もできないまま敵は降伏に至っていた。
「昨日に続き、こっちの損害は軽微だ。運よく早めに敵の指揮官に弾が当たったのも手伝ってな」
「あ、ああ……ご苦労様」
俺は苦笑して、報告に来たルディアンヌをねぎらった。
望遠鏡と、恐らくは抱えられる最大人数である三小隊。
これ、負ける方が難しいんじゃないか……?
その時の俺は、本気でそんなことを考えていたのだった。
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