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第一章
撫でて?
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昨日の猫耳女の子に続き、犬耳女の子もなんとか撃破した俺たちは、予定通り彼女らが集合地点として使っていたその場所を待機場所とし、三日ほど休息をとることに。勿論常に望遠鏡先輩で周りの動向を探りながらだが、兵たちは各々、制限された範囲で羽を伸ばした。ちょっとした娯楽ならこの世界にもあるらしく、何処からどうやって持ち込んだのかは知らないがカードゲームやボードゲームに興じるものもいたくらいだ。少し覗いてみたが、俺にはルールがさっぱりわからずすぐにその場を離れた。参加しても良かったが、ルールを覚えるのも億劫だった。
さて、三日も時間が出来てしまったが。
俺は陣地内をうろうろと徘徊する。これと言ってやることがなかったのである。
流石に三連続で勝利を収めるとそれなりに兵たちの信頼も得られたようで、通りがかったときは良く手を振られたりした。なんとなくむずがゆかったが、嬉しい気持ちもあったので小さく手を振り返した。
一回りして、本格的にすることも無くなったので適当な場所で座ってぼーっとしていると、ルーがとてとてと小走りで陣地内をあわただしく移動しているのが見えた。
何かあったのかと思ってみていると、どうやら自分の小隊を集合させているらしい。
よく見ると、手には殺傷力に劣る試験用武器ではなく、別に支給されている殺傷用武器だ。そこで思い立つ。そういえば、食料調達を忘れていた。これといって相談された覚えはなかったが、思い立って気を聞かせてくれたのだろう。視線に気づいたのか、ルーがこちらに近づいてくる。
「……おはよ」
「ああ、おはよう。食料調達か?」
「うん、まあ……思い出して、言おうとしたけど、いなかったから先に編成した……タルトには、言ったけど」
それは申し訳ないことをした。もうやることがないならじっとしていた方がいいかもしれない。
「えーっと、そうだな……ルーの隊主体で行くのか? ちょっと人数減ってるだろ? なんなら俺の隊からも数人出すけど」
「……人数問題は看過できない。補充はお願いしたいけど、それならカエデよりもタルトの班の方がいいと思う。疲労の問題で」
ああ、確かに昨日と今日、合わせて一番動いてもらったのは俺の班の人たちだ。ルーとの戦いは言わずもがな、その後の連戦でも回り込むという一番運動量が高い役目をやってもらっている。
「そうだな……じゃあタルトの班から二十人くらい貰っていってくれるか? あと敵と遭遇するかもしれないから戦闘用の換装も必要だな。もちろんあらかじめ望遠鏡で安全を確認した方に進んでもらう予定だけど」
「……うん」
ルーがこくりと小さく頷く。
ルーの頭がいいのは知っているし本当は特に心配していないが、相手が小さな女の子なのでどうしても過保護気味になってしまう。
妹がいたらこんな感じだろうか、とか。
…………今俺暇だよな……
「そうだな……俺も行っていいか?」
「!」
伏し目がちだったルーがばっと顔を上げる。その瞳はきらきらと輝いていた。
「……休まなくて、いいの?」
「んー……確かにちょっと体は重いけど、ここにいたって退屈なだけだからな。指揮権は一時的にタルトに任せるよ。了承してくれないとは思えないし」
実際、戦闘は望遠鏡という新たな概念にタルトが追い付けていないのがあって、まだ俺の方がマシかもしれないが、陣地運営とかはちゃんと昔から勉強しているタルトの方がいいに決まっている。そういった知識を求められる筆記試験は俺の方が良かったかもしれないが、俺のは所詮知識を詰め込んだだけの付け焼刃だ。そもそもタルトが間違えたのは戦闘関係で、陣地運営関係は二人とも満点で一位タイである。
「そういうことなら……一緒に、行こ?」
「そうだな。一緒に行こう」
ルーが恥ずかし気にはにかむ。可愛い。
俺に妹がいないことが激しく悔やまれる。まあこれが実妹となると此処まで素直でかわいくはないんだろうが──。
ついルーの頭に手を伸ばしかけて静止する。
歳下の女の子の頭に許可なく触るのは幾らなんでも不味いだろう、と。
途中で止めたせいで行き場をなくし、虚空を漂っていた手に、ルーがひょいと背伸びをして頭を押し付けに来た。
「…………えーっと?」
俺が困惑していると、ルーはこてんと首を傾げた。
こうするつもりだったんじゃないの? という風に。
「あぁ、まあその……そうだけどさぁ」
俺は観念したように苦笑し、ルーの頭を撫でた。
猫のように目を細め、ルーがそれを受け入れた。
さて、三日も時間が出来てしまったが。
俺は陣地内をうろうろと徘徊する。これと言ってやることがなかったのである。
流石に三連続で勝利を収めるとそれなりに兵たちの信頼も得られたようで、通りがかったときは良く手を振られたりした。なんとなくむずがゆかったが、嬉しい気持ちもあったので小さく手を振り返した。
一回りして、本格的にすることも無くなったので適当な場所で座ってぼーっとしていると、ルーがとてとてと小走りで陣地内をあわただしく移動しているのが見えた。
何かあったのかと思ってみていると、どうやら自分の小隊を集合させているらしい。
よく見ると、手には殺傷力に劣る試験用武器ではなく、別に支給されている殺傷用武器だ。そこで思い立つ。そういえば、食料調達を忘れていた。これといって相談された覚えはなかったが、思い立って気を聞かせてくれたのだろう。視線に気づいたのか、ルーがこちらに近づいてくる。
「……おはよ」
「ああ、おはよう。食料調達か?」
「うん、まあ……思い出して、言おうとしたけど、いなかったから先に編成した……タルトには、言ったけど」
それは申し訳ないことをした。もうやることがないならじっとしていた方がいいかもしれない。
「えーっと、そうだな……ルーの隊主体で行くのか? ちょっと人数減ってるだろ? なんなら俺の隊からも数人出すけど」
「……人数問題は看過できない。補充はお願いしたいけど、それならカエデよりもタルトの班の方がいいと思う。疲労の問題で」
ああ、確かに昨日と今日、合わせて一番動いてもらったのは俺の班の人たちだ。ルーとの戦いは言わずもがな、その後の連戦でも回り込むという一番運動量が高い役目をやってもらっている。
「そうだな……じゃあタルトの班から二十人くらい貰っていってくれるか? あと敵と遭遇するかもしれないから戦闘用の換装も必要だな。もちろんあらかじめ望遠鏡で安全を確認した方に進んでもらう予定だけど」
「……うん」
ルーがこくりと小さく頷く。
ルーの頭がいいのは知っているし本当は特に心配していないが、相手が小さな女の子なのでどうしても過保護気味になってしまう。
妹がいたらこんな感じだろうか、とか。
…………今俺暇だよな……
「そうだな……俺も行っていいか?」
「!」
伏し目がちだったルーがばっと顔を上げる。その瞳はきらきらと輝いていた。
「……休まなくて、いいの?」
「んー……確かにちょっと体は重いけど、ここにいたって退屈なだけだからな。指揮権は一時的にタルトに任せるよ。了承してくれないとは思えないし」
実際、戦闘は望遠鏡という新たな概念にタルトが追い付けていないのがあって、まだ俺の方がマシかもしれないが、陣地運営とかはちゃんと昔から勉強しているタルトの方がいいに決まっている。そういった知識を求められる筆記試験は俺の方が良かったかもしれないが、俺のは所詮知識を詰め込んだだけの付け焼刃だ。そもそもタルトが間違えたのは戦闘関係で、陣地運営関係は二人とも満点で一位タイである。
「そういうことなら……一緒に、行こ?」
「そうだな。一緒に行こう」
ルーが恥ずかし気にはにかむ。可愛い。
俺に妹がいないことが激しく悔やまれる。まあこれが実妹となると此処まで素直でかわいくはないんだろうが──。
ついルーの頭に手を伸ばしかけて静止する。
歳下の女の子の頭に許可なく触るのは幾らなんでも不味いだろう、と。
途中で止めたせいで行き場をなくし、虚空を漂っていた手に、ルーがひょいと背伸びをして頭を押し付けに来た。
「…………えーっと?」
俺が困惑していると、ルーはこてんと首を傾げた。
こうするつもりだったんじゃないの? という風に。
「あぁ、まあその……そうだけどさぁ」
俺は観念したように苦笑し、ルーの頭を撫でた。
猫のように目を細め、ルーがそれを受け入れた。
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