異世界にてドヤ顔で現代知識TUEEEEしてたらいつの間にか最高位軍師にされてました!?

一☆一

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第一章

出会いと、協調

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「軍……ですか?」
「はい、軍です! 一緒に……」

 ふむ。これはさてどうしたものか。
 思案する。が、どうにも情報が少な過ぎて判断に困る。やはりまず話を聞くところから始めた方がいいだろう。

「……すいません。少し話が急すぎまして、いまいち掴めないというか」
「そ、そうですね! えっと……な、何から話したらいいでしょうか……」
「落ち着いて。まず……どうして俺を軍に?」
「え……と。その。私、軍の高等士官試験を受けたいんです。でも、二次試験の実技が、みんな協力しあうので一人だと不利で……試験前に協力者を揃えておくのがセオリーなんですけど、私平民の出で、私の村では文字を読めるのも私くらいしかいないって有様で……一緒に受けられるような友達がいないんです!」

 平民の出、という割には周りに歩いている人間と比べても着ている軍服の拵えは立派なものだが……こんなところで嘘をつく理由は彼女には無いはずだ。信じてもいいだろう。

「成る程……つまり、俺にその高等士官試験に一緒に受験してもらって、二次試験で有利に立てるようにしたい訳ですか。でも、どうして俺に?」
「以前から私なりに一緒に試験を受けて貰える人は捜していたんです。でも一向に見つからなくて……」

 焔のように紅い髪の軍服の少女は、しょんぼりと身を小さく縮めた。でも、当然だろうと思う。試験というからには受けたい奴はもう受けているだろうし、もう受けている奴となれば今彼女がしているような根回しはとっくに終わらせている筈で、つまり彼女のような身元もわからないあぶれ者を仲間にするなんて愚を犯すわけがない。その辺りは彼女もよく理解しているらしく、当然の事と割り切っているように見えた。

「で、どうしたらいいかわからなくなって……街で有名な占い師さんに見てもらったところ、凄く変な格好をされている方を誘うといい、と言われて!」
「あー……確かに俺の格好は変ですね」

 自嘲するように笑うが、中世ファンタジー世界観でジャージだし、変でないわけがない。しかしここに来て占い師とは……急に胡散臭くなったものだ。

「あ、ご、ごめんなさい! そんなつもりじゃ……」
「いえ、自分の格好が変なのくらいは自覚していますから。でも、高等士官試験ってお金とか要らないんでしたっけ。そもそも、俺あまり高等士官試験とやらに詳しくなくて。よければ教えて貰えると助かるんですけど」
「国が有能な人材を見つけたいってやっている試験ですから、お金は要らないようになっていた筈です。試験に関しては……一次試験の筆記試験と二次試験の実技試験の二つがあります。筆記試験では戦術、戦略についての自分なりの考察や解釈を。実技試験では貸し与えられた小隊規模の部隊の運営によるサバイバルを、合格者規定数になるまで続けます。実技試験で仲間がいるのは、此処で小隊をチームで合流させて人手を増やして有利に運ぶというのが半ば伝統化しているからです」

 すらすらと書かれた文章を読み上げるように説明する軍服の少女。頭の中にある情報をつっかえることもなく言葉に出来るのは、彼女が頭がいい証拠だろう。

「そして、合格すれば軍の高等士官候補生として訓練を受けられます。私はお金とか、あんまり無いですけど……受かってしまえば寮生活で、お金の心配は何もいらなくなります。勿論、私が軍に入りたいのはそんな理由じゃないんですけど……」

 意味ありげに顔を暗くさせる軍服の少女。
 彼女の背景も、何も俺は知らないが──そこには、確かな信念と、何処か焦燥にもにた使命感のようなものが見て取れた。
 それにしても、お金の心配がいらないというのは俺的に凄く心惹かれることではあるのだが──と、頭の中で損得の算盤を打っていると、目の前の少女が深々と頭を下げた。

「お願いします、手伝って下さい! 自分が怪しいのもわかってます! 私が貴方に何かしてあげられるわけでもない事も! でも私、どうしても軍人になりたくて!!」
「……………」

 どうするか。迷う。此処で二つ返事で答えるべきなのか、どうか。試験に受かれば生活費が浮く。その点だけでも俺がその試験を受ける理由は十分だが、そもそも自分が彼女の役に立てるかどうかもわからないのに?
 確かに、文字は読める・・・・・・。音声言語が一致していたから。どれがどの様に用いられているか。看板の文字と実際の店の中身を照らし合わせ、頭の中で整理する事には既に成功していた。日本語の様に多種多様な文字が使われているわけでもないのでそれは簡単な作業だったが、一次試験を抜けられる程かどうかとは話は別だ。
 戦術、戦略。どちらも、少し嘴を突っ込んだ程度の知識しかない。それに、この世界の戦争の発展の度合いもわからない。
 実技試験にしても、運動不足で膝がパキッとなる程であり、知識も全くない俺に何が出来るのか。
 期待させるだけさせておいて、失敗した時のその責任は負えないというのは、あまりにも考えなしだ。
 でも──。

「──わかった。手伝うよ」
「え…………」
「どうなるかわからないけど。力になれるかも、まだわからないけど──頼られて、応えないっていうのは目覚めが悪いから、さ」
「…………あ、ありがとう! ありがとうございます!!」

 俺の手を取って、嬉しそうにぴょんぴょんとその場で跳ねる軍服の少女。顔に浮かべられた笑顔は年相応に、太陽のように煌めいてとても可愛らしい。

 そう、損得なんかではなく。可愛い女の子に頼られて、縋られて──断るなんて男じゃない。
 せっかくの異世界だ。自分のしたいように生きてみたい。自分の成したいようにしてみたい、と──そう思えたから。

「じゃあ、私が試験に受かれるように勉強を見てあげますね。大丈夫です! あ、文字は読めますか? それと、この世界の事はどの程度まで知っていますか……?」
「あ、えっと。文字は読めて、歴史とかは全然──」
「そうですか! ところで家はどちらに?」
「あ、いや……上京したばかりで。何処にもアテもないしお金も全然……」
「えっ……そうなんですか? じゃあ当面は私が生活費くらい、出します──というか、出させてくれますか? ただ手伝って貰うだけというのもなんですし」
「あ、そういう事なら、お願いします……じゃあ改めて。俺は楓。これから宜しく」
「カエデさん……ステキなお名前ですね。私はタルトです。宜しくお願いします!」

 手を出し合って握手をする。
 この世界について、まだ何もわからない。軍とは何か。戦争はどんなもので、敵は何者なのか。さっぱりわからない。
 今の選択が、後々僕の運命を大きく歪めることになるのかもしれない。けれど──彼女と握手を交わしてその笑顔を目にすれば、後悔することだけはないと思えた。
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