欠片の軌跡⑥〜背徳の旅路

ねぎ(塩ダレ)

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第九章「海神編」

プロフェッショナル

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「うむ。僕は簡易ゲートの話をしたくて来たんだけど……。うむ……。」

取り急ぎ家に帰ると、ノルが待ってましたとばかりに俺を捕まえた。
30分ほど興奮したノルの話を聞いた後、俺は申し訳なさそうに今回の件を話した。

もちろん、殿下の事は濁した。
話していいかの許可をもらうのを忘れていたからだ。

まぁ話したところで、ノルにとっての興味は仮想精神空間作成装置をどう実現するかと言う方にしか向かないので大丈夫なのだけれども。
コーディ書記長の取り寄せた論文の写しを渡すと、ノルはそれを読みながら考え込んでいる。

「……どうかな?かなりの緊急性のある話なんだけど、協力してもらえないかな??」

そう言った俺の言葉など耳に入らないのか、ノルはカレンに大きな紙と書くものがあるか聞いて、カレンダーの裏紙と鉛筆をもらうと、論文への書き込みとメモを取り始めた。

「……ねぇ、お兄ちゃん。博士、どうしたの??」

ダイニングテーブルを陣取り、周りの事など全く目に入らないように作業をするノルを見て、それまでせっせとノルの世話を焼いてくれていたラニが不思議そうに聞いてきた。

「あ~、ゾーンに入ったんだよ。」

「ゾーン??」

「ノルは博士って言われる程の本物の天才だからさ。普段はちょっと世間ズレした部分があるけど、その分野の事になると人の何倍もの集中力と発想力が出せるんだよ。そこに集中を始めちゃうと、他の所には意識が向かなくなるんだ。」

「そっか……なんかわかるな、それ。」

ふふふっとラニは笑った。
ラニもまた一定の分野で他の追随を許さない天才の一人だから、そう言った感覚がわかるのだろう。

「……サーク……資料が欲しい。それから僕の荷物をガスパー君の家から持ってきてくれ。自分のノートが見たい。」

「わかった、すぐ手配する。後、悪いけどここは食事用のダイニングだから、ニ階のサブダイニングに移ってもらっても良いかな?そこを好きに使ってくれて良いから。寝室も用意する。」

「わかった。……今の所の感覚だけど、必要なものは色々ありそうだけど、この装置を作る事自体はおそらく不可能じゃない。細かい所までの調整を含むとはっきりした事は答えられないけどね。ただ作る事が可能であっても、それが本当に仮想精神空間を生み出すのかは僕にはわからない。けど、ここに書いてあるエネルギーを出力する装置を作る事はできると思う。」

流石、古代科学技術研究の第一人者、ノックス・リー・バンクロフト博士。
まだ誰も見た事がない装置を作れると言える事もさる事ながら、自分の分野の範囲内で可能である部分と不確かな部分をはっきり返答するところがかえって信頼できる。

これでまた一歩、ライオネル殿下救出及び海神開放計画の駒が進んだ。
俺は移動するノルを手伝っているラニを見つめた。

はじめはやらせないつもりだった。

だがやはり、どんなに環境を整えても、保護方法を見つけても、精神内部に降りるという部分に関しては変えが効かない。
少なくとも現時点ではそれを見つける事ができなかった。

「……ラニ。」

「ん??どうしたの?お兄ちゃん??」

「後でちょっと話したい事があるんだ。良いかな??」

俺の様子、そして俺がノルに頼んでいるものから、ラニは俺が何を話したいのかすでに悟っていた。
じっと一度だけ俺の顔を見つめ、そして笑った。

「うん。わかった。」

「……ありがとう。」

「いいんだよ。言ったでしょ?きっと僕はその為にここに来たんだもん。」

「ラニ……。」

俺はやはりラニを目の前にして迷っていた。
この子に、こんな小さな子に、いくら可能な限りの安全を用意したからと言って、危険には変わりない事を頼むべきなのかと。
そんな俺の手をラニが握った。

「お兄ちゃん、僕はお兄ちゃんを信じるよ。お兄ちゃんがすぐに言わなかった理由もわかってる。僕に言わなくていいなら言わずにおこうとしてた事も知ってる。だから大丈夫。」

「うん……。」

ラニの手を握り返す。
俺を見上げるラニの目は、初めて会った時とは比べ物にならない程しっかりと俺を見据えていた。
そこに宿る強い意志を俺も信じようと思う。

「ちょっと?!何、バタバタしてんの?!博士は?!て言うか!博士の分のご飯も作って良いのよね?!」

そこにお玉を持ったリアナが飛び込んできた。
どうやら今日は、ラニがノルの相手をしてリアナがカレンと夕食の準備をしてくれていたようだ。
気づけばいい匂いが漂っている。

「あ、頼む。と言うかノル、しばらくうちにいるから。」

「やっぱりね~!絶対、そうなると思ったのよ!!私!!」

何でだか偉そうにリアナは言った。
たぶんアイツんちよりうちの方がいいに決まってる、とか思ってるんだろうなぁ~。
妙に張り合うガスパーとリアナを思い出して、俺は苦笑した。
あんまりこの二人は顔を合わせさせないように気をつけよう。

「お姉ちゃん、今日のご飯は何??」

「トマトソースのスパゲッティよ!!街の帰りにトマトが安かったから買ったじゃない?!……ねぇ、サーク!!もうパスタ茹で始めて良いの?!まだ博士と仕事の話するの?!」

「いや、大丈夫。茹で始めて?ノルが仕事に集中し始める前に食べさせないとヤバイから。何か手伝う事は??」

「いいわよ、大丈夫。あ、でもここを食べれる様に綺麗にしといてよ!!」

「わかった、やっとく。」

「カレン~!!パスタ茹で始めていいって~!!」

リアナはそう言いながらキッチンの方に行ってしまった。
なんかこの家も、すっかり生活感のある感じになってきたな。
俺は思わず笑ってしまった。

「さて。じゃ、俺はノルの様子を見てきて荷物をこっちに運んでもらえるよう連絡したりするから、ここの片付け、頼んでも良いかな?ラニ?」

「うん、わかった。いいよ。」

そう答えたラニの頭をぽんぽんとなでる。
それを少し照れくさそうに嬉しそうに、ラニは笑った。
なんか家族って感じがした。
東の国の義父さんの教会ともハクマの家とも違う、俺の家。

そんな不思議な感覚を感じながら、俺はニ階に上がってノルの様子を見て寝室を一部屋用意し、ガスパーに連絡を入れる為に血の魔術で小鳥を作って手紙を持たせた。













食事を終えると、俺はノルに風呂に入るように言った。
ノルはすぐにでも仕事に取り掛かろうとしていたが、まだ荷物も届いてないし~とか色々理由をつけて入ってもらった。
ノルの性格から考えて、集中し始めたら風呂も食事も疎かになるのは目に見えていたからだ。
ただ風呂の中で考え込んでしまう恐れがあったので、ラニに一緒に入ってもらった。

その間に俺は使えそうな資料をまとめる。
俺の持っている資料なんてたぶんノルにとったら頭に入っている様なものばかりだろうけれど、どの程度まで持っていけば良いのかな??
いっその事、俺の仕事部屋には資料を取りに自由に出入りしてもらった方が早いかもしれない。
そう考えた俺は、魔術本部から持ってきた本でノルに見せるべきではない物を寝室の方に移動させた。

そんな事をしているうちに、ガスパーの家からノルの荷物が届いたので中に運んでもらう。
旅行鞄一つか二つくらいだと思っていたのに、どうもノルは簡易ゲートの話をある程度本格的に詰めるつもりだった様で、資料やら機材やらがどんどん家の中に運び込まれていく。
馬車からそれらの荷物が運び込まれるのを、俺とリアナとカレンは唖然として見ていた。

「……うわ……結構、たくさんあるなぁ……。」

「ねぇ、サーク……。アイツんちって金持ちなの?!」

「アイツ??あぁ、ガスパー??金持ちっつうか~、アイツんちはこの国を代表する貴族の一つだよ。」

何故かイライラした表情のリアナ。
どうやらこれだけの荷物をホイホイ違う街から運んできてしまう財力が気に食わなかったらしい。
んなもんで怒ったって仕方ないだろうが……。
だが俺が理解できようができまいが、リアナの負けず嫌いは止まらない。

「サーク!!」

「何だよ?!」

「さっさと出世して!あいつより偉くなって!!」

「はぁ?!無理に決まってんだろ?!だいたい俺が出世したからってリアナに何の関係があるんだよ?!」

「いいから早くアイツより偉くなりなさいよ~っ!!」

「無理だって!!代々宰相を出してる様な家なんだぞ?!しかもその家で神童とか言われてたんだぞ?!アイツ?!どうやって平民出の俺がそれより立場を上げられんだよ?!」

「なら王様にでもなりなさいよ~!!」

「なれるか~っ!!」

もうメチャクチャである。
何でそんなに張り合いたいのかなぁ?!
同族嫌悪って、思ったより根が深いのかもしれない。

「おお!素晴らしいタイミングだ!!」

そんな声が聞こえて振り返ると、ノルとラニがちょうど風呂から上がってきた。
ラニは喉が渇いたと言ってキッチンに向かったのだが、搬入作業を見守るノルに俺達は釘付けになった。
風呂の蒸気のせいかノルの天パーがエライ膨らんでいて、俺とリアナは吹きそうになるのをグッと堪える。
俺は何と言って教えればいいのかわからず、ちょっとどぎまぎしてしまったのだが、そこはリアナですら上手く制御してしまうカレン。
俺にウインクをすると、スッと前に出た。

「お疲れ様です。バンクロフト博士。湯加減はいかがでしたか??」

カレンがにっこり笑って声をかける。
ノルもニコニコ笑ってそれに答えた。

「うん、いいお湯だったよ。広いお風呂っていいね!!」

「それは良かったです。お伺いした所、これから博士はお仕事をされるとの事。よろしければ頭をすっきりさせるオイルマッサージを致しますよ?」

「オイルマッサージ??」

「はい。血行が良くなっている所で頭皮の凝りをほぐす事により、リラックス効果及び、思考をクリアにすると言われております。」

「なるほど……。これから新しい装置の構造を考えたいしね……柔軟な発想ができる状態であるにこした事はない。頼んでも良いかな?カレン君?」

「はい。おまかせ下さい。ではご用意をいたしますので、寝室の方でお待ちください。」

にっこりと微笑むカレン。
凄い。
俺とリアナは無言のまま目を見開いてカレンを凝視した。

相手に恥をかかす事なく、整える方向に導くなんて……!!

プロだ、この子はプロだ……。
いったいいつの間にそんな技を取得したというのか?!

意気揚々とニ階に上がっていくノルを見届け、カレンは俺達を振り返ると小さくガッツポーズをして笑った。

「……カレンて……凄い……。」

「ああ……まだ家守りとして覚醒してそんなに日がたってないはずなのに………。」

そんなカレンに自分も結構、上手く扱われている事に気づいていないのかリアナは言った。

それにしても、本当に驚くばかりだ。
うちの家守りの精霊は、そのうち国王付メイド長なみのプロフェッショナルに化けそうだと思ってしまった。
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