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第九章「海神編」
リアナとラニ
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「………は??」
ウニが変な顔をした。
出っ歯で毛のないウニに微妙な表情をされると、めちゃくちゃ面白い。
だが話の腰を折る訳にはいかないので、俺は笑いを堪えながら答えた。
「何でもいいならイケるだろ??ただ空間を作るほどあるのかよくわからないけど……。」
「いや、あんだろ??その状況から考えて。大きさまでは確定できねぇけどな。」
「だとしたら情報問題はクリアだな?」
「うげぇ~。俺、その情報からできた空間にはあんまいたくねぇなぁ~。」
「いや、情報の質は関係ないんだろ??情報としての量があれば。」
「そうだけどよぉ~。」
ウニはブルっと身震いした。
まぁな、情報の内容を考えたら、あんまり気持ちのいい空間にはならなそうだよな。
「しっかし、まぁ……。都合よく色々揃いすぎだな。」
「俺もそう思うよ。正直、気持ち悪くて吐きそうになったし。でも、長い長い時間で考えれば、その時が来たんだって思えば、何か納得できた。」
「その時、か……。いわゆる巡りってやつだろな。俺は精神世界の事をフーから託されたからその辺の知識は頭の中にあるけどよ、現実をひっくるめた世界全体の事ってなるとよくわかんねぇよ。」
「精神世界の事もわかんない俺にとったら、もっとわかんないよ。あの時から急に巡りって言葉が俺のまわりに溢れてきたけど、それが何なのか、あまりに不思議で未だにふわっとも理解できない。」
「魔術師なのに不思議か?」
「不思議だね。魔術はある程度、法則の上に存在するから理解しやすいけど、精神世界も魔法も、ふわっとしてたり自分の常識がひっくり返されたりして、ちっとも納得できない。」
「まぁ、世の中から不思議だと思える事がなくなっちまったら、それはそれでつまんねぇだろうしな。」
「それもそうだな。謎は多い方が楽しい。」
そんな雑談を交えながら、俺はウニと話し合っていた。
現、精神系魔術師のトップである西の国のガファール・アブリヤゾフの論文は、現実世界的に見れば完成度の高い論文なのだが、とにかく精神精神側の事が書かれていない。
だからそれを補わなくては、仮想精神空間が作れないのだ。
その為、こっち側の準備を俺とウニで行う事になった。
問題だった情報については何とかなりそうと言う事で、後はどうやってその情報を仮想精神空間に入れるかと言う事になっている。
「どの道、この装置だけだと色々不安定だからな、知識のあるお前をかませてから空間を作る方向で考えた方が良いだろうな……。」
「おいおい、俺は魔力安定器か何かかよ??」
「うるせぇなぁ、殿下も助けてラニって子も守りたいんだろ?!それに一役かえるんだから構わねぇだろうがよ?!」
「うぅ、そうだけど~。道具扱いしないでくれよ~。」
「いいだろ?!小せえ事でガタガタ抜かすな!!ちっせぇラニって子は、危険を侵して精神深部に降りるんだぜ?!お前の父ちゃんは、降りて海神と対峙するんだぜ?!魔法師の面々は降りる奴らと殿下の身体を守る。魔術師のお前は何すんだよ?!他にできる事があんのかよ?!ガタガタ言わずに安定安全装置ぐらいやれっての!!」
「はい……。」
ウニの言う事は最もだ。
計画が立て終われば、魔術師の俺にできる事なんか殆どない。
場の調整や支持、不足の事態への対応は俺よりブラハムさんの方が知識も経験もあるから向いているだろうし。
皆、役割があるのだ。
だとしたら俺なんか、装置の安定・安全装置だとしても役に立てる場があるだけありがたいと言ってもいいくらいだ。
「……それに、テメェをかませる事によって、俺も手伝ってやれんだからよ?!」
「ウニ……。」
ちょっとシュンとした俺に、ウニがボソッと呟いた。
照れているのかそっぽを向いている。
何か無性にウニを抱きしめたい気分だった。
「ありがとう。ウニ。フーボーさんとお前が力になってくれるなんて、とても心強いよ。」
「フンッ。フーがここまでしてお前に知識を貸そうとした事だしな?!最後まで付き合ってやらぁ。」
憎まれ口を叩くウニだが、そのフーボーさん譲りの優しさが嬉しい。
何より、精神世界の専門家がこの件にかんでくれるというのはとても大きな事だ。
「で、話しに戻るけどよ?お前をかませる事によって、多少は俺が作り出す精神空間の方の調整をしてやれるようになる訳で……。」
「ふんふん?」
俺はそこから、装置を使った仮想精神空間のこちら側での話を詰めていった。
一難去ってまた一難。
俺はおっかない顔をしたリアナに詰め寄られていた。
怖い……下手するとコイツは平気で魔術すら使ってくるから怖い……。
「いや……だから~。」
「駄目に決まってるでしょ?!サークだって許さないわ!!」
大変ご立腹である。
怒り狂うリアナの後ろでラニがアワアワしている。
「お、お姉ちゃん、僕がやるって言ったんだってば~!!」
「それとこれとは話が違うの!!何でラニにだけ話したの?!私がいたら反対するってわかってたからでしょ?!」
「そ、それは……。」
仰る通りかもしれない。
リアナがいたら話が進まなかったと思うし……。
俺はタジタジになって苦笑した。
「卑怯よ!サーク!!」
「ごめんなさい……。」
「精神魔術がどれだけ危険な事かわかってるの?!しかもちょっとした事じゃなく!人の精神深部に降りるのよ?!しかも何?!そこに海様がいらっしゃるですって?!それがどれだけ危険な事かわかる?!還ってこれなくなる事だってあるのよ?!そんな危ない事!許されると思ってるの?!」
「わかってるよ……だから俺もラニに頼らない方法を色々探して……。」
「見つけるまで探せば良いでしょ?!だいたい!精神系魔術が使える人ってとても珍しいの!拐われる危険があるからって!村でさえ一定の人間しか知らなかった話なのよ?!なのに何?!こんな人攫いが大勢いるような外界でこの子にそれをさせるって!!精神魔術自体危険な事なのに!!それが無事に済んだっとしたって!!今後、ラニが危険な目にあったらどうする気よ!!」
「………ごめん。」
リアナが怒るのも最もだ。
精神系魔術が使える魔術師は少ない。
しかもこんなに小さくて才能ある魔術師だったら、狙われる可能性は非常に高い。
リアナ達は一度、人攫いに捕まっている。
不幸中の幸い、乱暴な目に合わせるタイプの人攫いではなかったが、常にそういう商品を大事に扱う人攫いとは限らない。
だからリアナが敏感になるのは無理のない話なのだ。
あの時、リアナがバンバン魔術を使っていたのも、彼らの目を自分に向けさせて精神系魔術の使えるラニを守ろうとしていたのかもしれない。
「ラニの事は極秘扱いにするつもりだ。」
「そんなのは当たり前でしょ?!でも!人攫いが来なくても!王族がラニの存在を知って黙っているとでも?!考えが甘いのよ!サーク!!」
確かにそういう方面でも心配がない訳ではない。
権力者が才能ある子供を見つけたら、利用しようとするのは世の常だ。
ジョシュア国王に関して言えばそんな事はしないだろうと言えるが、周りがそうとは限らない。
極秘にしたところで、一定数の権力者はラニを知る事になる。
その人が大丈夫でもその家族は?その家族の親しい者は?全員が全員、安全とは言えない。
一度表に出てしまえば、どこからどう、どんな人間に情報が漏れるともわからないのだ。
「……ごめん。」
リアナとラニは親がどこにいるのかわからない。
二人ともそれはよく覚えていないらしいし、竜の谷に来た時点で、自分たちは少し早い巣立ちをしたのだから二人だけで生きていくのだと当たり前のように受け入れていた。
竜の谷はやはり独特な考えが根付いていて、家族というものをとても大事にはするが、一度巣立ちすれば、それはもう本人たちの問題だと双方が考えるようになる。
見捨てているとかそういう訳ではない。
ちゃんとお互いに愛情もある。
けれど巣立ちしたらそれはもう、その後どう生きるかは本人達の力次第だし、何を選択してもとやかく言う事ではないと考えている。
ウィルからその話を聞いた時はとても驚いた。
ただ早めの巣立ちをしたリアナとラニは、二人だけで生きてきたのだ。
親元を離れたが、二人だけで助け合って生きてきたのだ。
お互いがお互いから巣立ちをするまでの間、二人だけが家族として生きてきた。
だからリアナにとってラニは、弟であり唯一の家族なのだ。
その感情は姉であり、母親に近い。
そんなリアナが今回の件を簡単に認めてくれるはずがない。
「リアナ……話を聞いて欲しい。」
「嫌!!絶対に認めないから!!」
「リアナ……。」
話を聞いてもらおうとしゃがんで視線を合わそうとしたが、リアナは顔を背けた。
伸ばした手も払われ、俺は悔恨の思いに囚われた。
自分の考えが甘かった事、リアナの気持ちを考えなかった事、二人の絆について考えなかった事を深く反省した。
何と言っていいのかわからない。
リアナからしてみれば、心から信頼していた人間に欺かれた様なものだ。
俺が今更何を言っても、言い訳にしかならないだろう。
「……お姉ちゃん……。」
そんな俺達の間に入ったのは、他でもないラニだった。
ラニはリアナの手を引いて、自分の方に向くよう導いた。
「……何よ?!あんたが何を言ってもさせないわよ?!許さないわ!!」
「お姉ちゃん、僕を見て。」
「見てるでしょ?!」
「ちゃんと僕の目を見て!!」
睨むように横目で見ていたリアナに、ラニが強めに言った。
ラニのそんなところは初めて見たので俺は驚いた。
リアナもびっくりしたように、唖然とラニを見つめた。
「僕をちゃんと見て?お姉ちゃん……。」
ラニはそう言ってリアナの頬を両手で包み、少し傾けさせておでこを引っ付けた。
リアナの方が背が高いからだ。
じっとお互いの目を見つめ合った後、二人は目を閉じた。
「お姉ちゃん。これまでずっと弱い僕を守ってくれてありがとう……。」
「馬鹿ね、アンタは私の弟なんだから当たり前じゃない。」
「でも、僕、強くなりたい。お姉ちゃんが守ってくれたように、僕もお姉ちゃんを守れるようになりたい。」
「知ってるわよ、そんな事。」
「僕、やりたいんだ。僕の力を使って精一杯の事がしたい。」
「だからって、これは危険な事よ?!それに精神魔術だけじゃない。私達、今、村にいる訳じゃない。人攫いが普通にいる外界にいるのよ?それがどういう事かわかる?!」
「わかってる。でも、お兄ちゃんが呼んでるってわかった時、村を出るって決めた時、僕達、わかっていたはずだよ?」
「……行かなきゃならない。私達は行かなきゃ……。サークの所に……。」
「うん。たくさん怖かったけど、僕達、決めたじゃないか。お兄ちゃんの所に行くって。」
「そうね、ちゃんと覚悟したわ。」
「それにお姉ちゃんも知ってたはずだよ。お兄ちゃんがずっと僕達にこの件を黙っていた事を。僕達を呼んだのに、お兄ちゃんは僕達に言わなかった。その理由をお姉ちゃんも知ってたじゃないか……。」
「……知ってたわ。だって、私、サークが好きだもの。知ってたわよ、そんな事……。」
俺は目の前で交わされる二人の会話をただ黙って聞いていた。
とても不思議な感覚だった。
リリとムクが話しているような、言葉がわかるのに意味がどことなく捉えきれない何か。
双子の特有の感覚なのかもしれないそれに、俺は黙って耳を傾けた。
「お姉ちゃん、僕はやるよ。その為にここに来たんだ。」
ラニは目を開いてそう言った。
同じように目を開いたリアナの目を見つめ、はっきりと言い切った。
それをリアナの目が真っ直ぐに見返す。
「……まだやらせるなんて言ってないわよ?!ラニ?!」
「えぇっ?!何で?!今、わかったって言ったじゃないか?!」
だが突然、不思議な感覚は消え失せた。
目を開いて顔を離した二人が、ごく普通に兄弟喧嘩を始めたのだ。
俺は呆気にとられてぽかんとそれを見守る。
「駄目!わかったとは言ったけど!まだいいって言ってないわよ!!」
「何で?!僕はやるよ?!」
「何よ!ラニの癖に!!」
「お姉ちゃんこそ!!」
「え??ええっ?!ちょっと二人とも落ち着いて??」
それまでの表現しようのない不思議な会話から一転、いきなり始まった兄弟喧嘩に俺は狼狽える。
軽く掴み合いになりそうだったので、二人を両脇に抱え込んだ。
「え?!何?!いきなり?!」
「いきなりじゃないわよ!!だいたいサークが悪いんじゃない!!」
「ええと~、それはごめんなさい??」
「とにかくお兄ちゃんの話を聞いてよ!お姉ちゃん!!後!お姉ちゃんが何を言っても!僕はやるからね!!」
「ラニ~!!ふざけないでよ?!」
「あ~!わかったわかった!!とにかく落ち着け!!ちゃんと話をするから~!!」
この二人ってこういう喧嘩もするんだ??
何か新鮮でびっくりしたが、それが妙に嬉しくて俺は笑ってしまった。
「何、笑ってんのよ~!!馬鹿~っ!!」
ジタバタ暴れるリアナと、むくれてリアナに舌を出すラニを俺は抱えたまま立ち上がった。
なんだかよくわからないが嬉しかった。
そしてそのまま二人を抱えて、ひとまず朝食を取るためにダイニングに向かったのだった。
ウニが変な顔をした。
出っ歯で毛のないウニに微妙な表情をされると、めちゃくちゃ面白い。
だが話の腰を折る訳にはいかないので、俺は笑いを堪えながら答えた。
「何でもいいならイケるだろ??ただ空間を作るほどあるのかよくわからないけど……。」
「いや、あんだろ??その状況から考えて。大きさまでは確定できねぇけどな。」
「だとしたら情報問題はクリアだな?」
「うげぇ~。俺、その情報からできた空間にはあんまいたくねぇなぁ~。」
「いや、情報の質は関係ないんだろ??情報としての量があれば。」
「そうだけどよぉ~。」
ウニはブルっと身震いした。
まぁな、情報の内容を考えたら、あんまり気持ちのいい空間にはならなそうだよな。
「しっかし、まぁ……。都合よく色々揃いすぎだな。」
「俺もそう思うよ。正直、気持ち悪くて吐きそうになったし。でも、長い長い時間で考えれば、その時が来たんだって思えば、何か納得できた。」
「その時、か……。いわゆる巡りってやつだろな。俺は精神世界の事をフーから託されたからその辺の知識は頭の中にあるけどよ、現実をひっくるめた世界全体の事ってなるとよくわかんねぇよ。」
「精神世界の事もわかんない俺にとったら、もっとわかんないよ。あの時から急に巡りって言葉が俺のまわりに溢れてきたけど、それが何なのか、あまりに不思議で未だにふわっとも理解できない。」
「魔術師なのに不思議か?」
「不思議だね。魔術はある程度、法則の上に存在するから理解しやすいけど、精神世界も魔法も、ふわっとしてたり自分の常識がひっくり返されたりして、ちっとも納得できない。」
「まぁ、世の中から不思議だと思える事がなくなっちまったら、それはそれでつまんねぇだろうしな。」
「それもそうだな。謎は多い方が楽しい。」
そんな雑談を交えながら、俺はウニと話し合っていた。
現、精神系魔術師のトップである西の国のガファール・アブリヤゾフの論文は、現実世界的に見れば完成度の高い論文なのだが、とにかく精神精神側の事が書かれていない。
だからそれを補わなくては、仮想精神空間が作れないのだ。
その為、こっち側の準備を俺とウニで行う事になった。
問題だった情報については何とかなりそうと言う事で、後はどうやってその情報を仮想精神空間に入れるかと言う事になっている。
「どの道、この装置だけだと色々不安定だからな、知識のあるお前をかませてから空間を作る方向で考えた方が良いだろうな……。」
「おいおい、俺は魔力安定器か何かかよ??」
「うるせぇなぁ、殿下も助けてラニって子も守りたいんだろ?!それに一役かえるんだから構わねぇだろうがよ?!」
「うぅ、そうだけど~。道具扱いしないでくれよ~。」
「いいだろ?!小せえ事でガタガタ抜かすな!!ちっせぇラニって子は、危険を侵して精神深部に降りるんだぜ?!お前の父ちゃんは、降りて海神と対峙するんだぜ?!魔法師の面々は降りる奴らと殿下の身体を守る。魔術師のお前は何すんだよ?!他にできる事があんのかよ?!ガタガタ言わずに安定安全装置ぐらいやれっての!!」
「はい……。」
ウニの言う事は最もだ。
計画が立て終われば、魔術師の俺にできる事なんか殆どない。
場の調整や支持、不足の事態への対応は俺よりブラハムさんの方が知識も経験もあるから向いているだろうし。
皆、役割があるのだ。
だとしたら俺なんか、装置の安定・安全装置だとしても役に立てる場があるだけありがたいと言ってもいいくらいだ。
「……それに、テメェをかませる事によって、俺も手伝ってやれんだからよ?!」
「ウニ……。」
ちょっとシュンとした俺に、ウニがボソッと呟いた。
照れているのかそっぽを向いている。
何か無性にウニを抱きしめたい気分だった。
「ありがとう。ウニ。フーボーさんとお前が力になってくれるなんて、とても心強いよ。」
「フンッ。フーがここまでしてお前に知識を貸そうとした事だしな?!最後まで付き合ってやらぁ。」
憎まれ口を叩くウニだが、そのフーボーさん譲りの優しさが嬉しい。
何より、精神世界の専門家がこの件にかんでくれるというのはとても大きな事だ。
「で、話しに戻るけどよ?お前をかませる事によって、多少は俺が作り出す精神空間の方の調整をしてやれるようになる訳で……。」
「ふんふん?」
俺はそこから、装置を使った仮想精神空間のこちら側での話を詰めていった。
一難去ってまた一難。
俺はおっかない顔をしたリアナに詰め寄られていた。
怖い……下手するとコイツは平気で魔術すら使ってくるから怖い……。
「いや……だから~。」
「駄目に決まってるでしょ?!サークだって許さないわ!!」
大変ご立腹である。
怒り狂うリアナの後ろでラニがアワアワしている。
「お、お姉ちゃん、僕がやるって言ったんだってば~!!」
「それとこれとは話が違うの!!何でラニにだけ話したの?!私がいたら反対するってわかってたからでしょ?!」
「そ、それは……。」
仰る通りかもしれない。
リアナがいたら話が進まなかったと思うし……。
俺はタジタジになって苦笑した。
「卑怯よ!サーク!!」
「ごめんなさい……。」
「精神魔術がどれだけ危険な事かわかってるの?!しかもちょっとした事じゃなく!人の精神深部に降りるのよ?!しかも何?!そこに海様がいらっしゃるですって?!それがどれだけ危険な事かわかる?!還ってこれなくなる事だってあるのよ?!そんな危ない事!許されると思ってるの?!」
「わかってるよ……だから俺もラニに頼らない方法を色々探して……。」
「見つけるまで探せば良いでしょ?!だいたい!精神系魔術が使える人ってとても珍しいの!拐われる危険があるからって!村でさえ一定の人間しか知らなかった話なのよ?!なのに何?!こんな人攫いが大勢いるような外界でこの子にそれをさせるって!!精神魔術自体危険な事なのに!!それが無事に済んだっとしたって!!今後、ラニが危険な目にあったらどうする気よ!!」
「………ごめん。」
リアナが怒るのも最もだ。
精神系魔術が使える魔術師は少ない。
しかもこんなに小さくて才能ある魔術師だったら、狙われる可能性は非常に高い。
リアナ達は一度、人攫いに捕まっている。
不幸中の幸い、乱暴な目に合わせるタイプの人攫いではなかったが、常にそういう商品を大事に扱う人攫いとは限らない。
だからリアナが敏感になるのは無理のない話なのだ。
あの時、リアナがバンバン魔術を使っていたのも、彼らの目を自分に向けさせて精神系魔術の使えるラニを守ろうとしていたのかもしれない。
「ラニの事は極秘扱いにするつもりだ。」
「そんなのは当たり前でしょ?!でも!人攫いが来なくても!王族がラニの存在を知って黙っているとでも?!考えが甘いのよ!サーク!!」
確かにそういう方面でも心配がない訳ではない。
権力者が才能ある子供を見つけたら、利用しようとするのは世の常だ。
ジョシュア国王に関して言えばそんな事はしないだろうと言えるが、周りがそうとは限らない。
極秘にしたところで、一定数の権力者はラニを知る事になる。
その人が大丈夫でもその家族は?その家族の親しい者は?全員が全員、安全とは言えない。
一度表に出てしまえば、どこからどう、どんな人間に情報が漏れるともわからないのだ。
「……ごめん。」
リアナとラニは親がどこにいるのかわからない。
二人ともそれはよく覚えていないらしいし、竜の谷に来た時点で、自分たちは少し早い巣立ちをしたのだから二人だけで生きていくのだと当たり前のように受け入れていた。
竜の谷はやはり独特な考えが根付いていて、家族というものをとても大事にはするが、一度巣立ちすれば、それはもう本人たちの問題だと双方が考えるようになる。
見捨てているとかそういう訳ではない。
ちゃんとお互いに愛情もある。
けれど巣立ちしたらそれはもう、その後どう生きるかは本人達の力次第だし、何を選択してもとやかく言う事ではないと考えている。
ウィルからその話を聞いた時はとても驚いた。
ただ早めの巣立ちをしたリアナとラニは、二人だけで生きてきたのだ。
親元を離れたが、二人だけで助け合って生きてきたのだ。
お互いがお互いから巣立ちをするまでの間、二人だけが家族として生きてきた。
だからリアナにとってラニは、弟であり唯一の家族なのだ。
その感情は姉であり、母親に近い。
そんなリアナが今回の件を簡単に認めてくれるはずがない。
「リアナ……話を聞いて欲しい。」
「嫌!!絶対に認めないから!!」
「リアナ……。」
話を聞いてもらおうとしゃがんで視線を合わそうとしたが、リアナは顔を背けた。
伸ばした手も払われ、俺は悔恨の思いに囚われた。
自分の考えが甘かった事、リアナの気持ちを考えなかった事、二人の絆について考えなかった事を深く反省した。
何と言っていいのかわからない。
リアナからしてみれば、心から信頼していた人間に欺かれた様なものだ。
俺が今更何を言っても、言い訳にしかならないだろう。
「……お姉ちゃん……。」
そんな俺達の間に入ったのは、他でもないラニだった。
ラニはリアナの手を引いて、自分の方に向くよう導いた。
「……何よ?!あんたが何を言ってもさせないわよ?!許さないわ!!」
「お姉ちゃん、僕を見て。」
「見てるでしょ?!」
「ちゃんと僕の目を見て!!」
睨むように横目で見ていたリアナに、ラニが強めに言った。
ラニのそんなところは初めて見たので俺は驚いた。
リアナもびっくりしたように、唖然とラニを見つめた。
「僕をちゃんと見て?お姉ちゃん……。」
ラニはそう言ってリアナの頬を両手で包み、少し傾けさせておでこを引っ付けた。
リアナの方が背が高いからだ。
じっとお互いの目を見つめ合った後、二人は目を閉じた。
「お姉ちゃん。これまでずっと弱い僕を守ってくれてありがとう……。」
「馬鹿ね、アンタは私の弟なんだから当たり前じゃない。」
「でも、僕、強くなりたい。お姉ちゃんが守ってくれたように、僕もお姉ちゃんを守れるようになりたい。」
「知ってるわよ、そんな事。」
「僕、やりたいんだ。僕の力を使って精一杯の事がしたい。」
「だからって、これは危険な事よ?!それに精神魔術だけじゃない。私達、今、村にいる訳じゃない。人攫いが普通にいる外界にいるのよ?それがどういう事かわかる?!」
「わかってる。でも、お兄ちゃんが呼んでるってわかった時、村を出るって決めた時、僕達、わかっていたはずだよ?」
「……行かなきゃならない。私達は行かなきゃ……。サークの所に……。」
「うん。たくさん怖かったけど、僕達、決めたじゃないか。お兄ちゃんの所に行くって。」
「そうね、ちゃんと覚悟したわ。」
「それにお姉ちゃんも知ってたはずだよ。お兄ちゃんがずっと僕達にこの件を黙っていた事を。僕達を呼んだのに、お兄ちゃんは僕達に言わなかった。その理由をお姉ちゃんも知ってたじゃないか……。」
「……知ってたわ。だって、私、サークが好きだもの。知ってたわよ、そんな事……。」
俺は目の前で交わされる二人の会話をただ黙って聞いていた。
とても不思議な感覚だった。
リリとムクが話しているような、言葉がわかるのに意味がどことなく捉えきれない何か。
双子の特有の感覚なのかもしれないそれに、俺は黙って耳を傾けた。
「お姉ちゃん、僕はやるよ。その為にここに来たんだ。」
ラニは目を開いてそう言った。
同じように目を開いたリアナの目を見つめ、はっきりと言い切った。
それをリアナの目が真っ直ぐに見返す。
「……まだやらせるなんて言ってないわよ?!ラニ?!」
「えぇっ?!何で?!今、わかったって言ったじゃないか?!」
だが突然、不思議な感覚は消え失せた。
目を開いて顔を離した二人が、ごく普通に兄弟喧嘩を始めたのだ。
俺は呆気にとられてぽかんとそれを見守る。
「駄目!わかったとは言ったけど!まだいいって言ってないわよ!!」
「何で?!僕はやるよ?!」
「何よ!ラニの癖に!!」
「お姉ちゃんこそ!!」
「え??ええっ?!ちょっと二人とも落ち着いて??」
それまでの表現しようのない不思議な会話から一転、いきなり始まった兄弟喧嘩に俺は狼狽える。
軽く掴み合いになりそうだったので、二人を両脇に抱え込んだ。
「え?!何?!いきなり?!」
「いきなりじゃないわよ!!だいたいサークが悪いんじゃない!!」
「ええと~、それはごめんなさい??」
「とにかくお兄ちゃんの話を聞いてよ!お姉ちゃん!!後!お姉ちゃんが何を言っても!僕はやるからね!!」
「ラニ~!!ふざけないでよ?!」
「あ~!わかったわかった!!とにかく落ち着け!!ちゃんと話をするから~!!」
この二人ってこういう喧嘩もするんだ??
何か新鮮でびっくりしたが、それが妙に嬉しくて俺は笑ってしまった。
「何、笑ってんのよ~!!馬鹿~っ!!」
ジタバタ暴れるリアナと、むくれてリアナに舌を出すラニを俺は抱えたまま立ち上がった。
なんだかよくわからないが嬉しかった。
そしてそのまま二人を抱えて、ひとまず朝食を取るためにダイニングに向かったのだった。
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