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第九章「海神編」
王国の毒蛇
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王様と個人的に少し話し、俺の方からは主にラニについてのお願いをした。
流石に竜の谷から来たとは明かさなかったが、まだ年端も行かない子供であり、その能力故に狙われた事があるという設定で話をした。
実際一度は人攫いに捕まった事もあるから、ラニとリアナの方にもこういう感じで話してあると伝えれば、完全な作り話ではない分ボロが出る事もないだろう。
話している間、グレイさんが側で控えて聞いていたので、この件については気にかけてくれると思う。
王様との個人的な面談が済むと、全体的な話し合いに移った。
こじんまりとした機密用の会議室に必要メンバーが集められる。
直接対応チームの他、王様とルードビッヒ宰相・コーディ書記長の内政メンバー、技術者としてノル、警護の事もあるからギルとイヴァンもいる。
イヴァン、何かちょっと日に焼けてる。
基礎が色白だから少し違和感を感じてガン見したら目があって、嬉しそうに小さくガッツポーズをしてきた。
休みにフライハイトのギルドに行ってたみたいだから、クエストか何かでいい事あったんだろう。
ライオネル殿下には、ヘーゼル医務官長の腹心と呼べる副官長の一人がついてくれている。
それって機密的に大丈夫なのかなと思ったのが顔に出ていたのか、王様の後ろに控えていたグレイさんがさり気なくウインクしてきた。
どうやら問題ないらしい。
握手しただけで人の心の裏の裏まで覗いてくるこの人が大丈夫って言うんだからね。
本当、ラニの件もグレイさんが信じろって言うなら心配ないだろう。
この王宮にこれ以上のセキュリティーはきっと存在しないだろうからね。
「さて。まずは我が愛息の為に皆が集まり力になってくれている事に礼を申す。本当にありがとう。」
はじめに王様が立ち上がって、そう言った。
ジョシュア国王の場合、こう言う挨拶が形式的な言葉じゃなくて本当にそう思っているから言ったというのが滲み出る。
一国を治める国王がそんな純真で大丈夫なのかと思うが、それこそがジョシュア国王の持つカリスマ性の一角なのだ。
誰もがこの人の嘘のない言葉に引きつけられ、力になりたいと思わされる。
まぁそこに漬け込む輩というのも当然、世の中には存在するのだが、そこは後ろに控える、誰にもその正体を気づかせない大悪魔が人知れず排除してしまうのだから問題ない。
さんざん悪口を言う割に、何だかんだ王様のお花畑を守っている最強の守護神はあの人なんだよなぁ。
「この度、長きに渡り秘密裏に王族の中に受け継がれてきた精霊王の一つを、東の国の神仕えの協力により、あるべき場所に還す事が決まった。その為には今、それを宿しているリオの精神回復並びに体力の回復、そして海神の説得が必要になってくる。皆の力を結集し、この計画を成功させたいと思っている。宜しく頼む。」
王様の挨拶が終わり席につくと、進行役なのかルードビッヒ宰相が口を開いた。
「では、その計画と進捗状況について説明してもらおう。アズマ男爵。」
「えっ?!俺?!」
そう言われ、思わず声が出た。
ルードビッヒ宰相がギロリと睨んできたが、ファーガスさんとギル以外の皆は、俺の動揺っぷりにぷっと吹き出していた。
いや、そりゃ王様もいる場で俺とか素っ頓狂な声を出したのはまずかったけどさ?!
え?!何でこの件の取りまとめ役が俺になってる訳?!
「あの……その、私がでしょうか??」
俺はおずおずと言い直した。
だって立場的に言ったらビショップの称号があり子爵のファーガスさんを立てるべきだし、もしくは魔術本部に席を置き医療魔術のトップで最年長のブラハムさんを代表とするべきだし、そうじゃなかったら王宮内の医療担当であるヘーゼル医務官を代表にすべきだ。
なのになんで俺?!
「そうだ、アズマ男爵。同じ事を言わせるな。」
「あ、いやでも……。」
ブラハムさんはニコニコしてるしヘーゼル医務官は上の言う事に従いますって感じだけど、ファーガスさんは不機嫌そうなんですけどね??
て言うか、なんで俺が代表?!
「この際、代表などどうでも良いのだ。アズマ男爵が一番この状況を全体的に把握し、取りまとめているとみた。いちいち代表が誰か挟んでいても結局はアズマ男爵が説明する事になろう。だったらそんなつまらぬ事は時間の無駄だ。自分の仕事を果たせ。」
とりあえず代表とかそういう事じゃなく、俺が一番、全体像を掴んでいるだろうからって事らしい。
そんなにこの件に噛んできている訳じゃなさそうなのに、ルードビッヒ宰相の状況把握の心眼には舌を巻く。
それでこそラティーマー家の真骨頂、宰相を務める者の力なのだろう。
まぁ俺も変な代表に担ぎ上げられるのは勘弁だけど状況の説明はしたい。
こうしている間にも、時間は刻一刻と過ぎていくのだ。
少しでも早い方がいい。
「わかりました。では僭越ながら私が現状況と今後の計画についてお話させて頂きます。」
俺も頭を切り替え、説明に徹する事にした。
「ライオネル殿下は現在、海神の影響を抑える為に、自らの精神と共に海神を精神深部に落としています。当初、殿下は肉体と精神を切り離そうとされていましたが、アレック魔法師の咄嗟の判断とアイビス医師、ブラハム魔術師の御尽力によりそれは阻止する事が出来ました。ただその為に殿下と肉体の結びつきはとても弱まっています。海神の説得が進まない以上、殿下と側からその結びつきを強めてもらう事は困難です。現段階では東の国の神仕えである父により、双方の精神は休眠状態を維持しております。ですがライオネル殿下の心身の疲弊具合から考えて、なるべく早く肉体と精神の結びつきを正常化させ、養生して頂くべきと考えています。」
俺はざっとここまでの状況と現状を説明した。
アレックは飽きているのか、猫のキーホルダーの人工精霊をつつき回して遊んでいる。
時よりぴぃぴぃ鳴いているので気になって仕方ない。
俺はむんずと黒猫キーホルダーを掴むと、自分のガウンの胸ポケットに押し込んだ。
物凄く不機嫌そうにアレックが睨んできたが、無視して話を進める。
「大まかな計画としましては、海神を説得し、殿下への影響力を弱めてもらい、殿下の精神と肉体の結束を正常化させ心身を回復して頂き、殿下の回復をみて海神を元の場所に御戻しするというものです。しかしまず何をどう進めるとしても、海神の説得が進まなければ殿下の回復も元の場所に還す事もできません。しかし、海神は殿下と共に精神深部に降りています。その為、父が通常の神仕えの技によって対話をする事ができない事により、その説得ができない状況にあります。」
「それで精神深部に降りれる方法、並びに精神系の魔術師もしくは魔法師が必要なのだな?」
「その通りで御座います。国王陛下。」
「して?その方法や精神魔術師は見つかっているのか?!」
「はい。今回の精神深部に降りる行いは、とても危険が伴います。人の精神深部に降りるだけでも精神魔術師や魔法師にとってはとても危険な事です。そしてそれができる者もごく稀にしか存在しません。その上、今回に至っては、その精神深部に精霊の王の一柱、海神がいると言う状況です。精神深部に潜れる魔術師も稀だというのに、その様な世界に影響を与える精神体がいては、それに耐えられる精神系魔術師など存在しません。その為、我々はそれを補助する方法や補佐する方法、精神深部に潜るのに可能な限りの安全対策を探しました。」
まぁ少し話は違うが、まとめとしてはこんな感じでいいだろう。
「その一つが西の精神魔術師、ガファール・アブリヤゾフの論文にある仮想精神空間と言う事か?」
「はい。ライオネル殿下の負担は、元々、大きすぎるものを小さな器に無理矢理押し込んでいた事による部分がとても大きいのです。そんな中、さらに他者がその精神深部に入り込み、その大きすぎる精神体を刺激する事になります。殿下の精神負担並びに潜る精神魔術師には危険が大きすぎます。その為、少しでもその空間を広め、双方の負担の軽減と安全を高める必要があります。」
「この装置で作られた空間で、安全が確保できるのかね?!」
「確保はできないと思います。人が人工的に作るこの程度の空間でどうにかできるようなら、海神をそこに移して元の場所にお還り頂く方法が取れますが、精霊の王は大きすぎるのです。しかし、この方法で負担は減らせます。その分、殿下と精神魔術師の安全は高まります。」
「うむ……。」
ルードビッヒ宰相は少し難しい顔をした。
おそらくノルの求める物を用意する為に国に掛かる負担と、どの程度のものかわからない安全を比較できない為に決断ができないのだろう。
だが俺はこれがなければラニを出す気はない。
「確かにどこまで安全性が高まるのか、相手が精霊王であるだけにわかりません。しかも可能だろうという論文はあれども、実際にそれが行われた事はない初の試みです。判断が難しいとは思います。ですがこの方法を用いないと言うのであれば、私は精神魔術師を連れてきません。他を探して下さい。」
俺の言葉に、イラッとしたようにルードビッヒ宰相は俺を睨む。
今にも音もなく噛み付いてきそうな毒蛇の眼光に背筋がギクリと伸びた。
おっかない……。
これがジョシュア国王を影で支えるもう一つの要、現宰相の気迫と言うヤツだ。
確かにこんなのに睨まれたら、間違った事を言ってなくても、余程の覚悟がない限りはごめんなさいと言ってしまいそうだ。
だが、今回に限っては俺にも覚悟がある。
青ざめながらもやると言ってくれた小さなラニを不必要に危険な目に合わせる訳にはいかない。
しかもこれができないとか言ったら、俺はブチ切れたリアナに家に入れてもらえないだろう……。
おかしいな??あの家、俺の家なのに……。
しばらくの間、俺は毒蛇と睨み合う。
やがて、俺の視線から何を読み解いたのかはわからないが、ふと、ルードビッヒ宰相は目を閉じ、難しい顔で腕を組んだ。
「……バンクロフト博士からは、この装置を作り稼働させる事が可能だが、それによって仮想精神空間ができるのかは専門外の為、わからないと言われた。そこをどう思う。」
「正直な事をお話しますと、この装置では仮想精神空間は作れません。」
俺がそういった瞬間、場がざわめいた。
しかし流石はこの国の宰相、俺とにらみあった時に何かを読み取っていたようだ。
動揺せず、ルードビッヒ宰相は俺を見据えた。
「だが、お前はこれを作れと言う。もう一度聞く、仮想精神空間は作れるのか?そしてそれは必要なのか?」
「必要です。それがなければ俺は精神魔術師を連れてくるつもりはありません。そしてその装置だけで仮想精神空間が作れるか否かと言えば作れません。ですが、今回、仮想精神空間は使います。」
ざわついた場。
皆が困惑気味に顔を見合わせている。
その中で一人、ルードビッヒ宰相は冷静だった。
「相分かった。この装置だけでは仮想精神空間は作れない。だが、今回、それを用いるとお前は言う。作れる確信はあるのか?」
「はい。」
「そうか……。コーディ、予算の方は?」
「何とか組めますよ。先月のデータから行くと農産物の収穫は順調です。南や西からの物流が制限された事により輸入が減る分国内での食料需要も高まり、輸出分の国内サイクルが活発になります。アズマ男爵の領土をはじめ、各地からからも多めの申請が出ていますし……。」
「?!」
ペラペラと資料を捲りながら、コーディ書記長が話している。
イグナス、何をしようとしてるんだ??
こっちがバタついていて任せっきりになっていてあまり話せていないから、何の事だかわからない。
俺は寝耳に水でびっくりしたが、領主なのに何も知らないではまずいので、さも知っていますと行った顔で取り繕う。
チラッとルードビッヒ宰相が俺の顔色を見たが、気にしないでおこう……。
「南と西の両国との貿易の制限による落ち込みはありますが、今年はイニス家より北の部族集から多めの取引を持ちかけられていると聞いています。それと……北西部での鉱山で鉱脈が見つかったとの報告もあります。この件に関しましては東の国の金属加工団体が関心を寄せていますし……。そう言った点から考えて、ここである程度の財源を使用しても国営の危機に繋がるような大きな損害はないと思います。」
「わかった。ここでアズマ男爵に仮想精神空間についての説明を求めても魔術師でもない我々には理解しきれぬであろう。むしろ仮想精神空間ができるか否かより、精神魔術師を連れてくるか来ないかの方が問題だ。仮想精神空間装置の予算は出す。……その意味がわかるな?」
う~ん、流石はこの国の毒蛇。
仮想精神空間が作れるかどうかではなく、ライオネル殿下を助ける、ひいては海神の問題を解決しこの国を守るという観点から結論を出したようだ。
俺は苦笑いを浮かべて頷いた。
ルードビッヒ宰相にとったら、仮想精神空間なんかどうでもいいし、できない事によってラニに危険が及ぶことなんかどうでも良いのだ。
問題はキーとなる精神魔術師を確保できるかどうかそれだけだ。
ある意味冷酷な判断だが、国を司る立場から言えばそう選択するのが正しいだろう。
嫌味なほど冷静で、仕事の為には非情さを隠さない毒蛇だ。
俺はルードビッヒ・ラティーマーを見つめながら、そんな事を考えていた。
流石に竜の谷から来たとは明かさなかったが、まだ年端も行かない子供であり、その能力故に狙われた事があるという設定で話をした。
実際一度は人攫いに捕まった事もあるから、ラニとリアナの方にもこういう感じで話してあると伝えれば、完全な作り話ではない分ボロが出る事もないだろう。
話している間、グレイさんが側で控えて聞いていたので、この件については気にかけてくれると思う。
王様との個人的な面談が済むと、全体的な話し合いに移った。
こじんまりとした機密用の会議室に必要メンバーが集められる。
直接対応チームの他、王様とルードビッヒ宰相・コーディ書記長の内政メンバー、技術者としてノル、警護の事もあるからギルとイヴァンもいる。
イヴァン、何かちょっと日に焼けてる。
基礎が色白だから少し違和感を感じてガン見したら目があって、嬉しそうに小さくガッツポーズをしてきた。
休みにフライハイトのギルドに行ってたみたいだから、クエストか何かでいい事あったんだろう。
ライオネル殿下には、ヘーゼル医務官長の腹心と呼べる副官長の一人がついてくれている。
それって機密的に大丈夫なのかなと思ったのが顔に出ていたのか、王様の後ろに控えていたグレイさんがさり気なくウインクしてきた。
どうやら問題ないらしい。
握手しただけで人の心の裏の裏まで覗いてくるこの人が大丈夫って言うんだからね。
本当、ラニの件もグレイさんが信じろって言うなら心配ないだろう。
この王宮にこれ以上のセキュリティーはきっと存在しないだろうからね。
「さて。まずは我が愛息の為に皆が集まり力になってくれている事に礼を申す。本当にありがとう。」
はじめに王様が立ち上がって、そう言った。
ジョシュア国王の場合、こう言う挨拶が形式的な言葉じゃなくて本当にそう思っているから言ったというのが滲み出る。
一国を治める国王がそんな純真で大丈夫なのかと思うが、それこそがジョシュア国王の持つカリスマ性の一角なのだ。
誰もがこの人の嘘のない言葉に引きつけられ、力になりたいと思わされる。
まぁそこに漬け込む輩というのも当然、世の中には存在するのだが、そこは後ろに控える、誰にもその正体を気づかせない大悪魔が人知れず排除してしまうのだから問題ない。
さんざん悪口を言う割に、何だかんだ王様のお花畑を守っている最強の守護神はあの人なんだよなぁ。
「この度、長きに渡り秘密裏に王族の中に受け継がれてきた精霊王の一つを、東の国の神仕えの協力により、あるべき場所に還す事が決まった。その為には今、それを宿しているリオの精神回復並びに体力の回復、そして海神の説得が必要になってくる。皆の力を結集し、この計画を成功させたいと思っている。宜しく頼む。」
王様の挨拶が終わり席につくと、進行役なのかルードビッヒ宰相が口を開いた。
「では、その計画と進捗状況について説明してもらおう。アズマ男爵。」
「えっ?!俺?!」
そう言われ、思わず声が出た。
ルードビッヒ宰相がギロリと睨んできたが、ファーガスさんとギル以外の皆は、俺の動揺っぷりにぷっと吹き出していた。
いや、そりゃ王様もいる場で俺とか素っ頓狂な声を出したのはまずかったけどさ?!
え?!何でこの件の取りまとめ役が俺になってる訳?!
「あの……その、私がでしょうか??」
俺はおずおずと言い直した。
だって立場的に言ったらビショップの称号があり子爵のファーガスさんを立てるべきだし、もしくは魔術本部に席を置き医療魔術のトップで最年長のブラハムさんを代表とするべきだし、そうじゃなかったら王宮内の医療担当であるヘーゼル医務官を代表にすべきだ。
なのになんで俺?!
「そうだ、アズマ男爵。同じ事を言わせるな。」
「あ、いやでも……。」
ブラハムさんはニコニコしてるしヘーゼル医務官は上の言う事に従いますって感じだけど、ファーガスさんは不機嫌そうなんですけどね??
て言うか、なんで俺が代表?!
「この際、代表などどうでも良いのだ。アズマ男爵が一番この状況を全体的に把握し、取りまとめているとみた。いちいち代表が誰か挟んでいても結局はアズマ男爵が説明する事になろう。だったらそんなつまらぬ事は時間の無駄だ。自分の仕事を果たせ。」
とりあえず代表とかそういう事じゃなく、俺が一番、全体像を掴んでいるだろうからって事らしい。
そんなにこの件に噛んできている訳じゃなさそうなのに、ルードビッヒ宰相の状況把握の心眼には舌を巻く。
それでこそラティーマー家の真骨頂、宰相を務める者の力なのだろう。
まぁ俺も変な代表に担ぎ上げられるのは勘弁だけど状況の説明はしたい。
こうしている間にも、時間は刻一刻と過ぎていくのだ。
少しでも早い方がいい。
「わかりました。では僭越ながら私が現状況と今後の計画についてお話させて頂きます。」
俺も頭を切り替え、説明に徹する事にした。
「ライオネル殿下は現在、海神の影響を抑える為に、自らの精神と共に海神を精神深部に落としています。当初、殿下は肉体と精神を切り離そうとされていましたが、アレック魔法師の咄嗟の判断とアイビス医師、ブラハム魔術師の御尽力によりそれは阻止する事が出来ました。ただその為に殿下と肉体の結びつきはとても弱まっています。海神の説得が進まない以上、殿下と側からその結びつきを強めてもらう事は困難です。現段階では東の国の神仕えである父により、双方の精神は休眠状態を維持しております。ですがライオネル殿下の心身の疲弊具合から考えて、なるべく早く肉体と精神の結びつきを正常化させ、養生して頂くべきと考えています。」
俺はざっとここまでの状況と現状を説明した。
アレックは飽きているのか、猫のキーホルダーの人工精霊をつつき回して遊んでいる。
時よりぴぃぴぃ鳴いているので気になって仕方ない。
俺はむんずと黒猫キーホルダーを掴むと、自分のガウンの胸ポケットに押し込んだ。
物凄く不機嫌そうにアレックが睨んできたが、無視して話を進める。
「大まかな計画としましては、海神を説得し、殿下への影響力を弱めてもらい、殿下の精神と肉体の結束を正常化させ心身を回復して頂き、殿下の回復をみて海神を元の場所に御戻しするというものです。しかしまず何をどう進めるとしても、海神の説得が進まなければ殿下の回復も元の場所に還す事もできません。しかし、海神は殿下と共に精神深部に降りています。その為、父が通常の神仕えの技によって対話をする事ができない事により、その説得ができない状況にあります。」
「それで精神深部に降りれる方法、並びに精神系の魔術師もしくは魔法師が必要なのだな?」
「その通りで御座います。国王陛下。」
「して?その方法や精神魔術師は見つかっているのか?!」
「はい。今回の精神深部に降りる行いは、とても危険が伴います。人の精神深部に降りるだけでも精神魔術師や魔法師にとってはとても危険な事です。そしてそれができる者もごく稀にしか存在しません。その上、今回に至っては、その精神深部に精霊の王の一柱、海神がいると言う状況です。精神深部に潜れる魔術師も稀だというのに、その様な世界に影響を与える精神体がいては、それに耐えられる精神系魔術師など存在しません。その為、我々はそれを補助する方法や補佐する方法、精神深部に潜るのに可能な限りの安全対策を探しました。」
まぁ少し話は違うが、まとめとしてはこんな感じでいいだろう。
「その一つが西の精神魔術師、ガファール・アブリヤゾフの論文にある仮想精神空間と言う事か?」
「はい。ライオネル殿下の負担は、元々、大きすぎるものを小さな器に無理矢理押し込んでいた事による部分がとても大きいのです。そんな中、さらに他者がその精神深部に入り込み、その大きすぎる精神体を刺激する事になります。殿下の精神負担並びに潜る精神魔術師には危険が大きすぎます。その為、少しでもその空間を広め、双方の負担の軽減と安全を高める必要があります。」
「この装置で作られた空間で、安全が確保できるのかね?!」
「確保はできないと思います。人が人工的に作るこの程度の空間でどうにかできるようなら、海神をそこに移して元の場所にお還り頂く方法が取れますが、精霊の王は大きすぎるのです。しかし、この方法で負担は減らせます。その分、殿下と精神魔術師の安全は高まります。」
「うむ……。」
ルードビッヒ宰相は少し難しい顔をした。
おそらくノルの求める物を用意する為に国に掛かる負担と、どの程度のものかわからない安全を比較できない為に決断ができないのだろう。
だが俺はこれがなければラニを出す気はない。
「確かにどこまで安全性が高まるのか、相手が精霊王であるだけにわかりません。しかも可能だろうという論文はあれども、実際にそれが行われた事はない初の試みです。判断が難しいとは思います。ですがこの方法を用いないと言うのであれば、私は精神魔術師を連れてきません。他を探して下さい。」
俺の言葉に、イラッとしたようにルードビッヒ宰相は俺を睨む。
今にも音もなく噛み付いてきそうな毒蛇の眼光に背筋がギクリと伸びた。
おっかない……。
これがジョシュア国王を影で支えるもう一つの要、現宰相の気迫と言うヤツだ。
確かにこんなのに睨まれたら、間違った事を言ってなくても、余程の覚悟がない限りはごめんなさいと言ってしまいそうだ。
だが、今回に限っては俺にも覚悟がある。
青ざめながらもやると言ってくれた小さなラニを不必要に危険な目に合わせる訳にはいかない。
しかもこれができないとか言ったら、俺はブチ切れたリアナに家に入れてもらえないだろう……。
おかしいな??あの家、俺の家なのに……。
しばらくの間、俺は毒蛇と睨み合う。
やがて、俺の視線から何を読み解いたのかはわからないが、ふと、ルードビッヒ宰相は目を閉じ、難しい顔で腕を組んだ。
「……バンクロフト博士からは、この装置を作り稼働させる事が可能だが、それによって仮想精神空間ができるのかは専門外の為、わからないと言われた。そこをどう思う。」
「正直な事をお話しますと、この装置では仮想精神空間は作れません。」
俺がそういった瞬間、場がざわめいた。
しかし流石はこの国の宰相、俺とにらみあった時に何かを読み取っていたようだ。
動揺せず、ルードビッヒ宰相は俺を見据えた。
「だが、お前はこれを作れと言う。もう一度聞く、仮想精神空間は作れるのか?そしてそれは必要なのか?」
「必要です。それがなければ俺は精神魔術師を連れてくるつもりはありません。そしてその装置だけで仮想精神空間が作れるか否かと言えば作れません。ですが、今回、仮想精神空間は使います。」
ざわついた場。
皆が困惑気味に顔を見合わせている。
その中で一人、ルードビッヒ宰相は冷静だった。
「相分かった。この装置だけでは仮想精神空間は作れない。だが、今回、それを用いるとお前は言う。作れる確信はあるのか?」
「はい。」
「そうか……。コーディ、予算の方は?」
「何とか組めますよ。先月のデータから行くと農産物の収穫は順調です。南や西からの物流が制限された事により輸入が減る分国内での食料需要も高まり、輸出分の国内サイクルが活発になります。アズマ男爵の領土をはじめ、各地からからも多めの申請が出ていますし……。」
「?!」
ペラペラと資料を捲りながら、コーディ書記長が話している。
イグナス、何をしようとしてるんだ??
こっちがバタついていて任せっきりになっていてあまり話せていないから、何の事だかわからない。
俺は寝耳に水でびっくりしたが、領主なのに何も知らないではまずいので、さも知っていますと行った顔で取り繕う。
チラッとルードビッヒ宰相が俺の顔色を見たが、気にしないでおこう……。
「南と西の両国との貿易の制限による落ち込みはありますが、今年はイニス家より北の部族集から多めの取引を持ちかけられていると聞いています。それと……北西部での鉱山で鉱脈が見つかったとの報告もあります。この件に関しましては東の国の金属加工団体が関心を寄せていますし……。そう言った点から考えて、ここである程度の財源を使用しても国営の危機に繋がるような大きな損害はないと思います。」
「わかった。ここでアズマ男爵に仮想精神空間についての説明を求めても魔術師でもない我々には理解しきれぬであろう。むしろ仮想精神空間ができるか否かより、精神魔術師を連れてくるか来ないかの方が問題だ。仮想精神空間装置の予算は出す。……その意味がわかるな?」
う~ん、流石はこの国の毒蛇。
仮想精神空間が作れるかどうかではなく、ライオネル殿下を助ける、ひいては海神の問題を解決しこの国を守るという観点から結論を出したようだ。
俺は苦笑いを浮かべて頷いた。
ルードビッヒ宰相にとったら、仮想精神空間なんかどうでもいいし、できない事によってラニに危険が及ぶことなんかどうでも良いのだ。
問題はキーとなる精神魔術師を確保できるかどうかそれだけだ。
ある意味冷酷な判断だが、国を司る立場から言えばそう選択するのが正しいだろう。
嫌味なほど冷静で、仕事の為には非情さを隠さない毒蛇だ。
俺はルードビッヒ・ラティーマーを見つめながら、そんな事を考えていた。
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