欠片の軌跡⑥〜背徳の旅路

ねぎ(塩ダレ)

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第九章「海神編」

無差別砲火を禁ずる!!

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そんな感じで、家の受け入れ体制の話は進んだ。
義父さんはファーガスさんとヘーゼル医務官長と殿下の側で、移動の際のシュミレーションについて話している。

「お体はできるだけ動かさない方がいいです。いくら深層深部にいらっしゃるとはいえ、身体の動きが刺激になって伝わりますから。」

「となると緊急医療用の移動担架と馬車を用意した方が良いですな。最新の物は、身体に負担をできる限りかけぬように作られていますので。」

「しかしそれですと、秘密裏にお運びするのは難しいかと……。」

どうやらどうやってライオネル殿下を家まで運ぶかって事らしい。

確かにいくら眠っているからと言って、動かせばその刺激が伝わる。
それによってライオネル殿下と海神の眠りは妨げられ、バランスを崩す可能性が高い。

もしも眠りが妨げられた事によって海神が目覚め、表に出てきて力を使ったりしたらそれこそ一大事だ。
俺の家の中までくればカレンの力がおよぶが、運んでる途中となれば何の防御もない状態になる。
その危険がわかっているだけに、皆、頭を悩ませている。

「義父さん?それって体を起こしたり皮膚に触れたり擦れたりする刺激が駄目って事??」

俺が話しかけると、三人は顔を上げた。
困ったように顔を見合わせている。

「そうだね。身体に直接響く刺激が一番気になるね。私も側で見守りお二人のどちらかに常に眠りの術をかけていて貰おうとは思うけど、いらっしゃるのが海神様だからね。前代未聞すぎてね。」

さすがの義父さんも、ここまで大きな神様が中にいる人を安定させたまま運ぶ方法は不確かなようだ。
俺はう~んと考える。

「運ぶ時、揺れたりするのは大丈夫なの??」

「それも結局は身体に刺激がいくだろう??」

「刺激がそんなになければ、多少揺れても大丈夫??」

「サーク君、それはどういう事だね?」

俺がそんな事を言うと、ファーガスさんは怪訝そうに眉を顰めヘーゼル医務官長は困惑気味だ。

何でそんなに変な顔するんだろう??
これってこういう時の定石かと思ってたんだけど??

俺は頭を掻きながら言った。

「いや、凍結か石化させて運んだら駄目なのかなぁ~って??」

「!!」

俺がそう言った瞬間、ファーガスさんとヘーゼル医務官長は石化した。

え??小説とかでよく出てくる話だろ??
これって??

リアナも俺が呪われた時、速攻で石化させたし。
確かに石化はある主の攻撃魔術なんだけどさ?
身体の変化を止める事ができるから、色々応用できるいい魔術なんだよな~。
ただ魔術師でないとわかりにくい話なのかと思って、俺はどういう事なのか説明する。

「とりあえず眠らせて凍結してあれば、身体に刺激は伝わりにくいですし、石化してあれば体はカチカチだから動かしても形は一切変わらないしお体に触っても刺激は感じにくいんです。ただそれでも運ぶとなると揺れますけどね。」

「……ライオネル殿下を……凍結……石化………。」

けれど詳しく説明すればするだけ、ファーガスさんたちは固まった。

むしろ石化からさらに悪化して風化し始めてる。
俺は首を傾げるしかない。

何でそんなにショックを受けるんだろう??
よくわからない。

「しかも石化状態なら運び込む場合もカモフラージュしやすいじゃないですか?物凄い貴重な骨董品か何かを搬送している風に装えば良いんだから。」

一石二鳥ばりに有益な事しかないんだけどな??
運搬時の揺れだって、貴重な美術品なんかの運搬方法を使えばかなり抑えられるし。

「いや!お待ち下さい……!!」

ここに来てヘーゼル医務官長がはたと我にかえり、悲鳴のような声を出した。
ファーガスさんの方はまだ風化中だ。
いったい、どうしちゃったんだろうか??
そんな中、あ~!!と嬉しそうに義父さんが声を上げた。

「あはは!!そうだね!サク!!そういう手があったねぇ!!」

「神仕え殿?!」

「いやはや!!まさかその手を自分が使う日が来るなんて思わなかったよ、サク!!」

「義父さんの読んでる小説とかによくあったよね、お姫様を秘密裏に脱出させるとか、悪者の親玉を連れ去ったりするのにさぁ。」

「そうそう!!うわぁ~!中央王国は本当にそういう事が起こるんだねぇ~!!義父さん、今からドキドキだよ~!!」

「いや!!お待ちください!!まだその方法を取るとは……!!」

妙に興奮して盛り上がる義父さんを、ヘーゼル医務官長が必死に止めている。
ファーガスさんはまだこっちの世界に帰ってきてないので、一人でアワアワしている。

何でそんなに慌ててるんだろう??
俺と義父さんは不思議に思いながら顔を見合わせる。

「ですがヘーゼル医師、これ以上、何かいい方法がありますか?」

「そうではなくて……!!」

「凍結に加え石化を行えば!!間違いなく王子様への刺激は抑えられます!!遠くまでとなると私も不安ですが!ここからサクの家まででしたら、王子様と海神様は殆ど刺激を感じずにご移動して頂けるかと思います!!」

興奮気味に義父さんがそう言うと、何か言いたげだったヘーゼル医務官長は少しの間フリーズし、そしてがっくりと肩を落とした。

「……わかりました……その旨、国王陛下にご報告してきます……。」

そしてトボトボと部屋を出ていく。
俺と義父さんは不思議そうにそれを見送った。

「……なんか、まずい事言っちゃったのかな??俺??」

「いや?凄くいい案だと思うんだけど、どうされたんだろうね??」

不思議がる俺達親子の脇で、風化しているファーガスさんが「石化……ライオネル殿下を……石化……」とブツブツ呟きながら放心していた。













午後から警護に戻っていたイヴァンに軽くその話をしてやると、腹を抱えて大爆笑された。
おいおい。
筋肉話といい、だんだん爽やか好青年キャラじゃなくなって来たぞ?!お前?!

「グフッ……さすがはサークさんです……。凄すぎるし面白すぎる……っ!!」

「そんなに変な事なのか??」

「一応、攻撃魔術ですから……ブフ…ッ!!」

あ~、そうか……。
俺、王族に攻撃魔術かけますよって宣言したのか。
しかも凍結して石化しますってニ重掛けだよ。
完全に動きを封じている訳だからさらにヤバイのか……。

でも状況が状況なんだし、しかたなくないか??
なんか納得いかないなぁ~。
何故かメチャクチャ俺がトリッキーな奴みたいに扱われてちょっと心外だ。

「サク、そっちは終わったかい??」

「あ、うん。大丈夫。ノルは??」

「ガスパー君と話しているよ?」

そう言われ、俺は殿下の部屋の中に戻った。
俺と義父さんはカレン及び双子の説得の為、早めに家に戻る事になり、ノルももうする事がないので帰る事になったのだ。

「ノル、まだ掛かりそう??」

「いや?ガスパー君には世話になったから、お礼を言っていたんだよ。」

「別にそんな改まって礼を言われる様な事じゃないですよ、博士。むしろ今後共よろしくお願いします。」

「あぁ、研究所の件だよね。ちょうど西の国の発掘も無期限延期だし、僕、しばらくこの街にいようかなぁ。向こうにいるとサークも全然捕まらないし。」

「それは……ごめん。て言うか、次の発掘調査って西の国だったのか??」

「そう。砂漠の中でちょっと変わった遺跡が出たみたいで。西政府の探索が終わって安全が確保できたら研究調査をする依頼を受けてたんだよ。でも国境が閉鎖されただろ?西の国とは南の国とほど厳戒態勢じゃないから、一応向こうとはまだ連絡を取ってるんだけど行く手立てもないし、両国から許可も降りないし。だからサークの研究所の立ち上げを手伝うのも悪くないかなって。簡易ゲートの開発もあるし。」

「そうか……。」

確かに新しい遺跡からなら、新たな技術の痕跡が出るかもしれない。
わざわざ西の国がノルに依頼してきたからには、かなり古代科学技術との関連性が強い遺跡なんだろう。

国同士のいざこざで、そう言った技術の進歩に影響が出るというのは複雑だよな。
でも西の国がガファール・アブリヤゾフを学会に出席させなかったのと同じように、中央王国もノルを西の国に派遣する事はできないのだ。
嫌な話、そのまま捕まってしまって帰さないという事になれば、技術や知識が奪われることになるからだ。

「なんか嫌だな、そういうの。」

「そうだね。だがそれを嘆いていても仕方ないさ!他にもやる事も出来る事もたくさんある!遺跡は逃げないしね?気長に待つよ、僕は。」

ノルはそう言って笑った。
国境の閉鎖を引き起こした手前、何だか申し訳なく思う。
早く問題に片が付き、以前のように国境を超えた交流が戻るよう願うばかりだった。













「ドンとお任せ下さい!!旦那様!!」

家に帰り、怒られるかなぁと思って計画を話してみたところ、カレンはあっさり受け入れてくれた。

むしろ何故か乗り気で、来るなら来いといった感じだ。
え??何で??
こっちの方が萎縮してしまう。

「でも世界を司る精霊の王の一柱、海の王が来るんだよ??怖かったらそう言っていいんだよ??」

「私も怖いです旦那様。でもその計画、旦那様やラニお坊ちゃまが参加なさるのでしょう?」

カレンはじっと俺の目を見てきた。
こうやってよく見ると、カレンの目は人のものとは少しだけ違っていた。
あぁ、やっぱりこの子は精霊なんだなぁと思う。

「そうだね。」

「だからこそです!旦那様!!」

「え??」

「旦那様やラニお坊ちゃまがその様な危険な事をされるのに!この家から出る事も出来ず、何も出来ずに無事にお帰りになるのをただじっと待っているなんて私は辛いです!!それならどんなに怖くても!ここでやって下さった方が何百倍も良いです!!確かに私とママにできる事は少ないと思います。でも!いざという時!お守りする事ができます!!少しでもお力になる事ができます!!」

「カレン……。」

「今回のお話、とても嬉しく思います。旦那様が私達を頼ってくださった事、普段は何もできない家守りの私達の力を信じてくださった事、本当に嬉しいです。」

「何もできないって……。そんなこと無いよ。カレンはよくやってくれてる。むしろ、頼り過ぎだなって反省してる。すでにカレンがいないと、この家が回らないから。」

「ふふふっ、そう言って頂けて嬉しいです。」

カレンは嬉しそうに笑った。
俺の横で義父さんは何も言わずにお茶を飲んでいる。

義父さんの目から見て、この件はどう見えているんだろうか?
精霊の世界から言えば、俺がカレンにさせようとしている事は王の一人に歯向かわせる事だ。
それが全体に取ってどんな意味を持つのか、俺にはわからない。

「カレン。」

「はい、何でしょう?大旦那様。」

「君は若い精霊だ。もしもの時は、気負わず海神様の胸を借りなさい。」

「……はい!」

義父さんの言葉にカレンは決意を新たに頷いた。

胸を借りる??
どういう事だろう??

俺には訳がわからなかった。

「では旦那様!!私はこれより、ママたちと作戦会議に入ります!!早いですが本日はお暇を頂いてもよろしいでしょうか?!」

「え??あ、うん。大丈夫だよ。よろしくお願いします。」

よくわからない俺を置いて、カレンは気合い十分といった感じでそう言った。
と言うか、ママたち??
他に何がいるんだ?!この家には?!
完全に置いて行かれた俺をよそに、カレンはペコリと頭を下げるとダイニングを出て行った。
多分ランプに戻ったんだと思う。

「……どういう事??義父さん??」

俺はちょっとよくわからなくて、義父さんに訪ねた。
義父さんは相変わらずのほほんとお茶を飲んでいて、何でもない事のように答えた。

「お相撲だよ。」

「……はい??」

「胸を借りるって、お相撲の稽古をつけてもらう事だよ、サク。」

「いやいやいや、それはわかっているよ!!え?!何?!どういう事?!」

「ふふふっ。サクはカレンを海神様に歯向かわせる事になるんじゃないかって心配してるだろう?」

お茶を飲みながら義父さんは笑った。
なんかお見通しだったみたいだ。
そこまでわかっているなら、聞いてみていいのかもしれない。

「そう思ってる。だからこの事が精霊の世界ではどういう事になるのか、ちょっと気になってる。」

「そんな大した事じゃないさ。」

「でも!!」

「神様の世界はね、サク。人間の世界ほど複雑じゃないんだよ。誰が偉くて、誰に仕えて、誰を支持してなんて、そんなものはあまりないんだよ。」

「そうなの?!」

「だからむしろ純粋すぎる所がこちらの世にとっては危険なんだ。でも人間の世界の様に派閥があって、そこで摩擦があるとかそういう事はあまりないんだ。神様は皆、お一人お一人、ただあるがままに存在しているんだよ。そして純粋な気持ちのみで生きていらっしゃる。」

俺には義父さんの言っている事がわかるようでわからなかった。
でもわかろうと思って真剣に聞いた。

「今回の件で、もしもカレンが海神様に魔力の否定を行ったとしても、別にそれによってカレンが他の精霊達から迫害されたりはしないよ。だって神様はお相撲が大好きだからね。むしろ若いカレンが海神様に挑んだって事で面白がられると思うよ。」

「面白がられる?!」

「うん。お相撲だからね。」

にこにこ話す義父さんを、俺はぽかんと眺める事しかできなかった。

義父さんはこの件を相撲だと言って笑っている。
なんか、どう返していいのか俺にはわからなかった。

でもカレンが海神に力を使ったとしても、精霊の世界では王に歯向かったとして吊るし上げられたりはしないみたいだ。

「……なんか……精霊の世界って不思議だね?」

「そうでもないけどなぁ。サクは理解できると思うよ??」

「……半分精霊だから??」

「ん~、それとはちょっと違うんだけどね。きっとだんだんわかってくるさ。……だってサクは、義父さんの息子なんだから。」

「!!」

にっこりとそう言われ、俺は赤面した。

ふ、不意打ちだ!!
不意打ちすぎる!!

何なの!この、無自覚天然リーサルウェポンは!!
狡いだろ!そういうの!!
て言うか!息子の俺にまでブチかまさないでくれ!!

「??どうしたんだい??サク??」

「……何でもないです、義父さん……。」

うわぁ~、この人……。
何でこんななのに今だに独身なんだろう?!

神仕えって別に結婚を禁じられてたりしないのに!!
こんな無差別天然砲火してたら、間違いなく100人には言い寄られてるよな?!
天然すぎてそれもスルーしてきたのか?!

「……義父さん、モテるよね??」

「いや?モテるのはサクだよね??」

なんか会話が噛み合わない。
でもここで下手にツッコむと、昼間の事を蒸し返されそうだったので、俺は黙るしかなかった。
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