欠片の軌跡⑥〜背徳の旅路

ねぎ(塩ダレ)

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第九章「海神編」

パンプアップは程々に

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片付けは僕達でやるね、と言ってラニとリアナが皿洗いなどをしてくれる。
俺はその音を聞きながら、ダイニングで部屋割りの事を考えていた。

今空いている部屋は、二人部屋が一つと一人部屋が一つ。

「………困ったな、リアナとラニにニ階の部屋を使わせるとなると、部屋がすでに足らない……。」

宿屋じゃないんだからこれ以上客室は要らないだろうとか言っていたのに、足らなくなるなんて想定外だ。

「何が困ったの??お兄ちゃん??」

テーブルを拭きに来たラニにそう言われる。
俺は鉛筆で頭を掻きながら答えた。

「殿下がこちらに来るって事は、対応メンバーとメイドさんとかも来るって事なんだよ。で、部屋が足らないなぁって思って。」

「……海様が中にいられるのって王子様だったんだね。お兄ちゃんが言いにくそうにしてたから何か事情のある方なんだと思ってたけど、王子様だとは思わなくてびっくりした。」

「うん、すぐに教えなくてごめんな?王族だから簡単には明かせなかったんだよ。変な話、ラニが受けてくれてから教えていいか許可を貰わないと教えられなかったって言うか……。」

「しょうがないよ、王子様だもん。それで部屋が足りないの??」

「うん。知らない人がたくさん来るから、ラニ達がニ階の部屋を使えるようにしてあげたかったんだけど、そもそも部屋が足りないんだよね~。」

「え?僕達、あの部屋にいたら駄目なの??」

「駄目じゃないけど、一階にはライオネル殿下がいるから常に知らない人がうろうろしてるし、夜も必ず誰かしら起きてるから寝にくいだろ??」

「ん~、僕は構わないけどなぁ~。むしろ他の部屋の方が気を張っちゃいそう。」

「そっか……。」

「何の話??」

そこに流しの片付けが終わったリアナが戻ってきた。
ありがとうとお礼を言って、二人にミルクを入れてやる。
定期購入のお陰で青いリボンのついたミルク瓶が空になることはない。

「あのねお姉ちゃん。王子様が来るといろんな人がうちに泊まるんだって。」

「そりゃそうよね??」

「で、お兄ちゃんが僕達が安心して過ごせないといけないからニ階の部屋を使うかって言うんだけど、僕、今の部屋の方がいいんだけど、お姉ちゃんはニ階の方がいい??」

「部屋はいつも通りでいいんだけど、トイレとかがちょっと……あちこち使われたら嫌かな……。」

なるほど。
トイレは盲点だった。

でも、なるほどな。
うちにはそれなりに数もあるから、トイレとシャワー室は使える場所を固定しよう。
口頭で伝えて、後は張り紙しとけばいいだろうし。

「なら、部屋はそのままで大丈夫??」

「うん。大丈夫。」

「何なら出入りも洗濯室の扉を使うし、気にしなくていいわよ??」

「そうだね、表玄関が使いにくい時は、悪いけど洗濯室の扉で出入りしてくれるか??」

「いいよ。」

「いいわよ?」

「途中でやっぱり音が気になるからとかあったら言えよ?どうにかするから。」

「それも平気。気になったら部屋に音消しすればいいんだし。他の事も大概は大丈夫よ。」

「だね。」

「ありがとな。」

そういえばこの子達は小さくとも魔術師だった。
少しぐらいの不都合は上手く対応してくれそうだ。

そうするとどうしようかなぁ……。

パスカルさんに聞いている感じだとメイド長は来られるみたいだから、一人部屋はこれで埋まった。
ファーガスさんとブラハムさんは何か昔からの知り合いみたいだったし、同じ部屋で良いかな??
駄目って言われたらまた考えよう。

後は……パスカルさんとアレックか……。
ギルに頼んで、部隊の一人部屋用のテントを借りて裏庭に立てるしかないなぁ。
アレックは冒険者だし、たとえダンジョンの床でも寝れるだろうからテントで大丈夫だとして、パスカルさんはなぁ……。
テントだけだと落ち着かないかもしれないから、寝る部屋は用意できないけど俺の仕事部屋を事務作業に使ってもらおう。

「ん~、そんな感じかなぁ~。」

「ね~、サーク??どんな人達が来るの??」

「ん~??」

「僕も知りたい!まだ会ってないけど、一緒に頑張るんだし!」

そう言えばリアナの許可が出てなかったから皆にもラニの名前すら教えてないし、計画が計画だからラニにも対応チームの話をしてなかった。

「そうそう!殆どはおじさんだけど、一人だけリアナとラニより一つか二つ年上の男の子が混じってるよ。」

「は?!子供が?!」

「本当?!お兄ちゃん?!」

「子供って言っても、大魔法師ビショップの一人、寡黙なるエアーデの愛弟子で、凄く優れた魔法師だよ。……ちょっと生意気だけど。」

「そんな子がいるんだ!!よかった~!僕、知らない大人の人達に混じって頑張らないといけないのかと思って緊張してた~。」

「生意気ってのが気になるわね……。」

真剣な顔で呟かれたリアナのツッコミに、俺は飲んでいたコーヒーを吹きそうになる。
あのアレックでも、リアナには言われたくないだろうなぁ……。
吹きそうになったのを誤魔化すように俺は笑った。

「ははは、基本的には冒険者をしている子だからね。しかも迷い人なんだ。」

「え?!人間じゃないの?!」

「うん、半獣人の子。猫耳としっぽがあるよ。でもそれ以外は二人と変わらない普通の子だよ。」

リアナはムムッとした顔で考えてる。
頭の中でちょっと生意気な猫耳の男の子を想像しているんだろう。
何となく想像がついて面白い。
ラニの方はのほほんと笑っている。

「わぁ~。よかった~。僕、こっちに来てまだ友達がいないから、凄く嬉しいなぁ~。」

ほのぼのしているラニを見て俺も少し嬉しくなる。
だが、最初の友達がアレックでいいのだろうか……。
アイツ、ピアを虐めるしなぁ~。
悪いやつじゃないんだけど、本能がなぁ……。
小さいからってラニを虐めたりしないよなぁ……。
ラニ、何となく小動物っぽいし……。
少しだけ不安になる。
そんな中、リアナが妙に真剣な顔で言った。

「……よくわかんないけど、大人だろうと子供だろうと、ラニを虐めるヤツがいたらやっつけるから!そのつもりでいてよ?!サーク?!」

「いや、その場でリアナがやっつけないで俺や周りの大人を呼んでくれ……。」

「嫌よ。ラニがどうしてもやるって言うから仕方なく許すけど、私、ラニの側にいるから。酷い事させないか、ちゃんと見張ってるからね!!」

「ええぇぇぇ?!そうなの?!」

確かに心配なのはわかるが、少し過保護じゃないか??
だがリアナは熱く俺に言ってくる。

「そうよ!!ラニにやらせたいなら、それが条件!!駄目って言うなら、私、認めないわよ!!」

う~ん、まぁリアナの気持ちもわからなくもない。
精神ダイブはしてもらわないと困るけど、それ以外は危険な作業はないしさせるつもりもない。
変な事をするような輩もいないはず……。
心配な奴はいるが、絶対させないようにしよう。
とにかくダメダメ言っていたリアナも譲歩してくれたんだし、こちらもそれぐらいは譲歩しよう。

「ならこれを持ってろ、リアナ。」

「え??何これ??杖?!」

「杖っていうか杖に見せかけたただの棒だよ。こっちの世界じゃ杖なんかの補助具なしで魔術を使う人はほぼいないから。面倒かもしれないけど、魔術を使う時は必ずその棒を手に持ってろ。」

「面倒くさい~。」

「リアナ。杖無しで魔術を使ったらここでは目立つ。目立てば当然、噂になる。……それがどういう事かわかるよな??」

リアナはそう言われ、複雑な表情で俺の渡した棒を見つめた。

目立てば噂になる。
そうなれば谷の追跡者に見つかる。
そういう事だ。

二人がここにいたいのはわかっている。
俺も二人を守るつもりでいる。
だからこそ、本人達にも見つからないよう心がけて貰わなければならない。

「わかった……。ちゃんとこの棒、使う。」

「うん。」

俺はリアナの頭をなでた。
ちょっと照れ臭そうにだが、今日は文句も言わず撫でられてる。

んん~……。
何か俺の方がくすぐったい……。

「さて!片付けも終わったなら、今日はもう寝るんだな!!明日は午後から皆がここの状況を見に来るからバタバタするぞ?!」

俺はそう言って二人を抱き上げた。
リリとムクに比べたら重いから、ちょっと腕と腰がキツイ。
でもキャッキャと笑う二人を見ていると、頑張らないとなぁと思う。
流石にこの二人だとくるくる回ってはやれないけど、ベッドまで運んであげるくらい、たまには頑張らないとなぁ。

俺はそれから二人を部屋まで運び、眠くなるまでの間、部屋で明日からくる対応メンバーの事を話して聞かせたのだった。













朝、俺は気配で目を覚ました。
少し早い時間、窓の外で鳩がクルクル鳴いている。

俺はすぐに窓を開け、鳩を中に入れた。
足に結びついた手紙を取ると、ウィルの綺麗な字が並んでいた。
何か文字だけでも愛おしくて仕方がない。

『サークへ
事情はわかった。本当、次から次へと仕方のない奴だな、お前は。帰ったらデコピンするから覚悟しておくように。家の事は事情が事情なので許します。でも寝室だけは絶対、何人たりとも入れない事。入れたら浮気って事で婚約破棄するぞ!

俺も会いたい。たまに我慢がきかなくなりそうになる。愛してるよサーク。抱きしめて欲しい。でも今は俺も踏ん張るから。あまり無茶しないでくれ。俺を泣かせたら地獄の果まで追いかけて絞め殺すからな。
ーウィルより愛を込めて』

思わず笑う。
ウィルって俺に対してはちょっと口が悪くなるところが可愛い。
何も言わずに手紙に口付ける。

俺も愛してるよ、ウィル。

前の俺なら半日くらい全部ほっぽりだして会いに行っていたと思う。
でも、ウィルが頑張っているのにその心意気を折るような事はできない。

大丈夫。
ウィルの帰ってくる場所はここなのだから。

いつも振り回してばかりなのだから、今回は俺がおとなしくここで帰りを待っているしかない。
帰ってきた時、何事もなかったように笑って抱きしめたいから、とにかく今はやるべき事を片付けよう。

俺はそう自分に言い聞かせて、着替えはじめた。












午前中は家の中の片付けと掃除に追われた。
義父さんには王宮に行ってもらって、午後に見に来たい人は来ていい等の伝言を伝えてもらった。

とは言っても、家の中はほぼカレンがいつも掃除してくれてるから綺麗なんだけれども。
何となく置いてある荷物とかを片したり、触られたくないものを部屋にしまったり、そんな感じだ。

後は張り紙。

元使用人室で現子供部屋の隣のトイレとシャワー室は、家族以外使用禁止としてリアナとラニが安心して過ごせるようにする。
それからその隣の洗濯室の外に出るドアも使用禁止。
ここを出入りされると子供たちも落ち着かないから、使うのは家の者だけ。

それから一階のダイニングも基本禁止にした。
子供部屋とウィルの書斎、俺とウィルの寝室にも一応貼っておいた。
まぁどの部屋も鍵がかかるから、かけておけばどのみち入れないんだけどさ。

で、サロン横と風呂場横、及びニ階のトイレを開放。
ニ階のシャワー室と風呂は基本、いつでも誰でも利用可能。
風呂は更衣室前のドアにボードを吊して、使用中(入らない事)、使用中(入室許可)、空いてますの三パターンを表示できる様にした。
うちの風呂は三人ぐらいまでなら入れるから、一人で入りたい時以外は入室許可と言う形で使ってもらう事にした。

「あ、そうだ。二人とも。」

「何??」

「どうしたの??」

「使用禁止にしたシャワー室なんだけどさ、メイド長さんだけは使いたいって言ったら使わせてあげても良いかな??」

二人は顔を見合わせる。

「いいわよ、トイレも使ってもらってよ。」

「うん、メイド長さんだと他のトイレとかシャワー室とか使いにくいもんね?」

「ありがとう。」

俺の伝えたい所をあっさりわかってくれ、リアナとラニはそう言った。
何しろ王宮の専属メイド長なのだ。
女性である事もあるが、何より立場的に同じものを使うのは気が引けるだろう。
それで辛い思いをさせたら申し訳ない。

そんな事をやっていると、玄関のウインドチャイムがなった。

誰か来たみたいだ。
他の皆には午後からって言ってあったのに、誰だろう??
玄関フロアに行くと、ランプからシュルっとカレンが出てきた。
カレンはあの後からずっとこんな調子で殆どをランプの中で過ごしている。

「旦那様、シロクマさんです。」

「シロクマ?!」

何を言っているのかと思ったが、思い当たる人物は一人いた。
玄関チャイムが鳴って出てみれば、案の定の人物が立っている。

「こんにちは、サークさん!隊長から頼まれて、一人部屋用のテントを届けにきました!!」

「……テントはわかった、テントは。重いのに悪かったな、ありがとう。……だが聞く、もう一つのモンは何だ??イヴァン?!」

「シロクマです!!」

「見りゃわかるわ!!何で持ってきた~!!」

ガスパーから以前、勝手に飾ろうとして持って帰らせた話を聞いていた。
だがまさか、リベンジとばかりに持ってくるとは思わないだろうが!!

「ちなみにこうすると、きぐるみっぽくなります。」

「やらんでいい!!」

イヴァンは背負っていたテントを下ろすと、何故かシロクマの頭の部分を帽子の様に被り、マントのように毛皮を肩にかけた。
ガタイのデカさもあって本当にシロクマっぽい。
悔しいが笑いそうになる。

「うわ~!凄~い!!」

「シロクマ……思ったより、大きいのね……。」

俺の横からリアナとラニが顔を出し、意気揚々とシロクマの毛皮を被るイヴァンに話しかけた。
イヴァンはにっこりと笑うと、シロクマを脱ぎ、跪いて二人に挨拶した。

「こんにちは。僕はサークさんと同じライオネル殿下の警護部隊に所属しているイヴァンです。よろしくお願いします。」

「こんにちは、私はリアナよ。こっちは弟のラニ。」

「こんにちは、イヴァンさん。シロクマ、どうしたの??」

「ん?前にサークさんにあげようと思ったんだけど、本人に聞いてからにしろって友達に言われたから、今日はついでに見せに来たんだよ。」

「ついでに持ってくんな、シロクマを!!」

俺は頭を抱えた。
イヴァン、たまに変な事をしだすと思っていたが、このところそれがたまにではなくなってきた気がする……。
どうしちゃったんだ?!お前?!

しかしラニとリアナはシロクマで盛り上がってしまい、毛皮を中に引っ張って行って被って遊んでいる。
あ~、これ……持って帰れって言えなくなるパターンだ……。
二人を見守りながら、イヴァンはにこにこ笑っている。

「……てめぇ、これが狙いか……?!」

「ええ。アレック君くらいの姉弟がいるってガスパーから聞いたんで、これはチャンスだと思いましてね?」

何なんだ、その意味不明な策士っぷりは?!
と言うかなぜそこまでして、俺の家にシロクマの毛皮を置きたがる?!

「あ~もう、何しに来た訳?お前?!」

「ですからテントを届けに来たんですって。後、僕のソファーを動かすみたいだったから、手伝いに。……それと、きっと片付けなんかでバタバタしてるだろうからと思って、これをね??」

そう言って、イヴァンが袋を差し出してきた。
どうやら人数分の昼飯を買ってきてくれたらしい。
確かにちょっとバタバタしていたから助かるって言えば助かるんだけど……。

「ありがとう………。お前って、凄く気の利くいい奴だとは思うんだけど……。馬も使わずどんだけ持ってきた訳!?」

一人部屋用のテントをニ組とシロクマと昼飯。
ふうっとばかりにキラキラと汗を拭う。

「トレーニングですよ、サークさん。」

そして決めるマッスルポーズ。
爽やかなイヴァンがだんだん変な方向に向かい始めていて、俺は少しだけ怖くなった。

早く止めないとエライ事になる。
そんな事を思ったのだった。
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